第12話 攻略会議

俺は学生寮の自室に戻り、机の上に一冊の手帳を広げていた。


「とりあえず今分かることをまとめてみたけど……ものすごい文量になったな」


 目の前の手帳は学園支給の品。そこに、机に備え付けられていた羽ペンでゲームに関する情報を書き記したのだ。

 一時間を費やした力作が完成した。流石にゲームの内容をすべて覚えておくのは無理があるからね。忘れないうちにメモっておいて損はないだろう。


「よし、現時点で分かってることもまとめたし、今後の方針を立てるか!」


 そして、参加者たった一名の作戦会議が始まろうとしていた。第一回エレメントマギア攻略会議の開幕である。


 羽ペンをくるくると回転させながら書き終えたメモの最初のページに目を向ける。そこには、今日の具体的な出来事について綴られていた。

 

 まず、この世界がエレメントマギアのストーリー展開と同じことは確認済みだ。今日を過ごしてみて、ヒロインの存在や教会での一件はゲームと一致したし。


 手帳のページの上部には『本編と同じ』と書き記してある。ステータスや学内施設といった諸々の要素も言わずもがなだ。そして、これらを踏まえてここからが本題である。


 ページの下段には『能力値が皆無』との記載がある。俺は勢いよくその文字に下線を引いた。


(そう、ステータスが本来の初期値より圧倒的に低い!)


 ニコラの記憶、つまり剣術や魔法の経験が今の俺には一切存在しない。おそらくそれが原因で本来『100』前後ある各能力値が全て『0』となっているのだ。


 だからこそ、今後の課題はステータスの強化。いかに実技試験のイベントを乗り切るかに焦点がいく。実のところ、今日の作戦会議はその一点をどうするかが議題である。

 メモの端に『ステータスの強化』と書き加えつつ、俺は頭に手を置いた。

 例の実技試験までの期限は二週間。

 この短期間で剣術と魔法の能力値を稼がなくてはならない。全てゼロからのスタートは未知の領域だ。効率的に能力値を稼いだとしても、正直どこまでやれるのかは明確ではない。


 けれど。


(まぁ、ゲームオーバーになる気はさらさらないけどね!)

 

 実はぶっちゃけると、俺は闘志に燃えていたのだ。


 なにせ、せっかく来た大好きなゲームの世界。つまらない日常とは違い、魅力あふれるキャラクターや心踊るイベントの数々が待っている。そんな夢と希望に溢れた世界を前に諦めるなんて馬鹿なことはしない。

 

 退屈な現実世界に比べたら十倍も二十倍も頑張れる。逆境を前にしても折れる気は全くしなかった。


(それじゃあ、具体的にどうやってステータスをあげるかなんだけど……)


 再度、手帳のページをめくる。そこには、『ヒロインの攻略』の文字に丸印が付けられていた。


(……忘れちゃならないのは、ここが恋愛アドベンチャーゲームの中ってことだ)

 

 エレメントマギアにおける主人公のステータスは、ヒロイン攻略によって上昇する。強化すべき能力値は、『剣術』、『攻撃魔法』、『補助魔法』の三種類。そして、それら三つが各ヒロインの得意分野と各々一致するのだ。


 一見無関係だと思えるヒロイン攻略と能力値強化は、このゲームにとってはその限りではない。


 ――なぜなら、ヒロインとの交流は主に鍛錬を主軸にしているからだ。


 例えば桃髪のヒロイン、攻撃魔法のエリート、『ニーナ・イルズ』ならば、図書館で魔法の話題から交流がスタートする。主人公は交流の傍ら、必要知識や技術を身につけていくことができるのだ。


 ヒロインと仲良くなればなるほど、能力値も上がる。これがエレメントマギアというゲームのシステム。つまり、これから実技試験に向けてやるべきことは、彼女たちに接触することである。


 再び、『ヒロインの攻略』の文字に目を移す。


 唯一の武器であるゲーム知識を駆使して、彼女達といち早く良好な関係を築くことが目標だ。それも、なるだけ早く。

 

 ルーカスの言っていたように、本を読み、授業を受け、実践することで、己の技術を磨いていく手もあるのかもしれない。だが、自力で間に合う確証がない今もっとも確実かつ最短経路なのは、各々の分野の達人であるヒロイン達から教えてもらうこと。言い換えるならば、ゲームのシステムと同じ経路でステータスを上げることなのだ。


(そのために必要な情報はここに書き記してある)

 

 そして、またまた手帳のページをめくる。ここから先のページは共通のあることについて書かれていたのだ。


(各ヒロインのプロフィール、イベントの詳細、重要な選択肢等々……知ってることはあらかた全部書けたかな)


 それはヒロイン攻略に関する情報を網羅した『虎の巻』だ。もはや、簡易的な攻略本として売り出してもいいレベルの情報量である。


「じゃあ、明日から動き始めるぞ」


 そう呟いて気を引き締め直し、カバンのそばに置いてある自身の魔法の杖を眺めた。


 ――最初に接触するのはニーナイルズ。まず覚えるのは攻撃魔法からだ!

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三人の最強ヒロインと初期値ゼロの俺~剣と魔法の学園ゲームを攻略する件~ シロチドリ @sirotidori

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