第3話「花と執事」

「クソがッ…」

俺はひらりと安全に着地する。

あまり高くはなかったからいいが、これが

3、4階だったら安全に降りれるか危うい。

俺は騒ぎになる前に早くこの場を去ろうと

ガキを再度抱え直す。と、同時に警報が響き渡る。…クッソ、防犯カメラはねぇくせに

警報システムだけはいっちょまえにあるってかぁ!

「ウヴォラァァァァァァァァ!」

そして突如背後から聞こえるこの世のものとは思えない雄叫び。

今まで感じたことのないドロドロな殺意が

したのでおれはガキを抱えながらギリギリのところで避ける。

「何者だ…貴様」

俺にドッロドロな殺意を向けていた者。それはタキシード(?)っぽいのを着た若い男

だった。おそらく俺よりは年上だ。

「は、はい…?」

俺は片手で素早くポケットからスマホを出しとぼける。この状況で顔を見られてしまった以上は偶然通りかかった者を演じる以外の

安全な逃げ道はない。この男を素早く殺してしまってもいいがそれだと色々と問題が

生じる。なによりこいつ…おそらく強い。

「何者だ、と聞いている。」

「な、何者…って…?あ、僕のファンの方ですか?」

「は…?」

何のためにスマホを持ってきたのか。まぁ色々と理由はあるが主な目的は配信者を装うためだ。この時間にこの場所にいる理由としてはこれが一番信じてもらえやすいはずだ。

「ほら、ここら辺ってちまたじゃ有名な心霊スポットでしょ?俺心霊スポット巡りの

配信者でして…」

「ほう…心霊スポット…確かにこの屋敷周りはオカルトな話が噂されているのはたまに耳にするが…なにより!お嬢様。どうされたのですか?」

「…」

そしてこの状況の一番の問題はコイツ。

コイツが俺のした本当の行動を喋ってしまった場合、即座にこの場でこの二人を殺して

遺体を隠し、俺の痕跡を消して海外に逃亡し名前と顔を変えなければならない。

まぁ80%そうなりそうなのでもう心の整理はついている…。

「…ごめんなさい…」

「…?ごめんなさい…とは…?」

「今日、月が綺麗でしょ?ちょっと窓を開けて月を眺めていたら、魔女に憧れちゃってさ、もしかしたら飛べるかもって。多分寝ぼけてたんだと思う。それで窓から飛び降りたら、この人が下にいて抱えてくれたの!」

予想外。今日は予想外がよく重なる不思議な日だ。このガキ、何を考えてるのかしらんが

俺からとったらこいつらを殺さずに済むのでありがたい。

「…そんな、たまたまこいつがいたなんて…」

…やっぱ無理があるか…ガキ!もっと上手いこと言えやクソがっ…

「いや、なんというか、これどういう状況ですか?俺はただ心霊スポット巡りの動画撮っててなんか上から女の子が降ってきて…」

何も知らないならこの受け答えが正しい。

「…ふむ…大体状況は理解した。…がしかしだな。ちょっと無理があるぞその設定…お嬢様、何があったのか知りませんがお嬢様ともあろうお方がそのようなマヌケな考えには至りますまい!本当のことをおっしゃってください!」

その瞬間ガキの顔ががらりと冷たい眼差しに変わる。

「は…?花がまぬけ…?」

「あ、いえ…そのっ、お嬢様がそのようなことをお考えになるわけがないと…」

「まぬけ…?まぬけ…?…ふーん。そうなんだ。花ってやっぱまぬけだったんだ。そうだよね。おかしいよね普通。小4にもなる女子が魔女に憧れるなんてね。」

「あ、いやその…ほ、本当にそれで今こうなっているのですか…?」

「あーもういいよ。北条。あなたなんかだいっきらい。パパに言っとく、こんな執事は嫌だ、取り替えてくれって。」

「あ、あのぉぉぉ!す、すいません。本当に申し訳ありません。それならそうと言ってくれれば…」

「さっきから言ってたじゃん!ばか北条!」

な、何が起こってるのかさっぱりわからんが…とりあえず今はギリギリセーフってとこか…?

「あ、あのぉ〜君。ごめんねさっきは。ほら、てっきり誘拐とかかなぁって思ってさ。ハハハ…」

男は、さっきのイカつい表情とは裏腹に、

コロッと優しいお兄さんの表情になる。

「あ、いえ俺は全然…」

そこに、大急ぎで中年の男?と女と複数人の若い執事らしき者たちがこちらへ走ってくる。…あの中年の二人はおそらくこのガキの親ってとこか。

「花ッッッ!!!」

一目散に俺からガキを奪い取り抱きしめる

母親(?)らしき女。

「何があったんだ、北条。」

父親らしき男は、さっきの焦った表情はいつのまにか消えており、北条という男に睨みをきかせる。

「手短にお話します。」

・・・・・・・・・・・・・

「…成程。つまりそこの方は花の命の恩人と言っても過言ではないな。」

その後、北条という男がうまく父親(?)に

状況を説明してくれて俺の表面的な無罪は

一応証明された。

「大変申し訳ありません。私がついていながら…。」

「いや、これは花が引き起こしたことだ。君に責任はない。…そこの君も、悪かったね。お礼はするからとりあえず中に入ってくれ。北条。この方を家の中に案内しなさい。」

「了解しました。さ、こちらへ。」

俺は北条に誘導され家の敷地に足を踏み入れる。途中父親の泣き声のようなものが聞こえた気がしたが…まぁ当たり前か。俺の娘だったら怒りと悲しみが混じってぶっ飛ばしてしまうかもしれないが。

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殺人依頼、ターゲットが幼女だった件 エッソン @kinkai

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