第2話「白馬のおーじさま」
「で、何の用?わざわざ屋上に呼び出して」
「い、いや…あの…、葵君のことが入学式の頃から好きで…バスケやってるとことかかっこよくて…もしよければ…付き合っ…」
「すまん、無理」
「え…、あ、ははは…そうだよね、私なんか嫌だよね…」
「いや、俺なんかやめといた方がいい。こんな友達もいないような陰キャだぜ?みつき
さん、君は才色兼備でモテモテだ。俺になんかもったいない。」
「いや、もったいなくなんか…!」
「ごめん、この後すぐ帰らなきゃいけない用事があってさ。」
そう言って高校生にして初めて恋をした初恋の相手である彼、一条葵はさらっと屋上を後にした。
…やっぱそうだよね、私なんて好きになってもらえるわけないよね…
「うっ、ふぅっ…っぐっ…」
みつきは今までの人生でもタイタニックを
見た時と張り合えるくらい号泣した。
今まで恋なんてしたことなかったし、振られるなんて経験もしたことがなかった。
「…やっぱ…みつきでも振られちゃうか…」
屋上の陰からひょこっと親友のありさが出てくる。
「みつきでも…って、私そんな大物じゃないし…」
「いや!みつきはかわいいよ!私が思うにこの学校でも一位二位を争うね。去年だって
ミスコン二位だったじゃん!」
「二位…また私って中途半端な女…うわぁぁぁぁぁん!!」
「ありゃりゃ、…なんでそうマイナスにしかいかないかなこいつ…」
今までみつきはなんでも二番手だった。
小学生の頃のテニスの大会でも全国で二位。
運動会のリレーも全学年で二位。
定期テストの順位まで二位…。
まるで二位の悪魔に取り憑かれているかのように人生に二位がつきまとう。やっぱこんなマイナス思考な女タイプじゃないんだろうな。葵君はもっと派手で可愛い子が…
「うっ、やっぱ私みたいなブスじゃなくてもっと可愛い子が良いんだ…」
「…いやいや、だから!みつきはこの学校でもトップクラスの美貌の持ち主なんだって!去年ミスコンで負けた一位の人は二個上の
先輩だしもう卒業しちゃったでしょ!って
ことはもう実質一位じゃん!」
「ううっ…でも振られたことには変わりないしぃ〜…」
「…うーん。まぁ、みつきも今まで色んな
男子にさんざん告られてきてたけどさ、全部振ってたでしょ?これで振られた男子の気持ちが分かったってことでレベルアップしたと思えばいいでしょー!」
「なんでありさはそんなプラス思考なの…、私振られた直後なんだからそんなすぐ立ち直れないよぉ〜…」
全くこの女は泣く姿まで可愛いんだから。
ありさは微笑みながらみつきの頭を撫でてあげたのだった。
「おい、聞いたか?あの葵ってやつさ。
みつきさんに告られて振ったらしいぜ。」
「は?意味わかんないんだが。なんでみつきさんにあんなクールにスカしてるクソ陰キャが告られた上に振るんだよ。まぁ付き合ったら付き合ったでムカつくけど。」
…クソ陰キャ、絶賛下校中。
さっきから周りの視線が痛いと思ったらそういうことだったのか。…でもしょうがないだろう。桜田みつき…成績優秀、運動神経抜群の完璧美少女。しかも性格もおっとりしていて優しく、男女共にかなりの人気を誇っているあの性格では珍しい陽キャ。彼女に告られた時点で多少のバッシングは食らうとは思っていたがまさかここまでとは…。今までは
鬱陶しくも感じない空気のような存在感で
やってきたつもりだが…今回の件で陰キャとしての俺のイメージが圧倒的に下がっちまった…。
「なぁ、あいつだってよみつきちゃんを振ったやつ。」
「は?なんだよ陰の空気発してるクソ陰キャじゃんあいつ。顔がちょっといいからって調子乗ってんじゃね?先輩としてボコボコにしたろかな」
「いや自分が振られたからってそっちに八つ当たりすんなよ…」
…まずいぞ。ひじょーにまじぃ。…なんで
よりによって今日なんだ。今日はあの社長
令嬢のガキの殺害予定日なのに…。
人を殺す前は精神を安定させておきたいものだが、しょうがあるまい。
今回の作戦はこうだ。まず犯行予定時刻は
12時。丁度この時間帯に消灯することが分かっている。ターゲットのガキはバカでかい
屋敷に住んでいて、その屋敷の窓から侵入
して速攻ガキを誘拐し20キロほど離れた山奥で殺害し埋める。あいにく警備が甘いのか
屋敷内に監視カメラは一台も無し。
それに加え屋敷の周りにもほとんど木々に囲まれており監視カメラがない。…まぁ、念のため近くの下水道の下を通って行くがな。
ふふ…完璧だ。
こうして完璧な計画に穴がないか確認しながらあっという間に家に着き、あっという間に犯行予定時刻30分前になった。
さて…俺はスマホ一台だけをポケットに入れてゆっくりとドアの外に出る。…良い風、
良い月明かりだ。こんな真夏の季節になると夜風に吹かれる気分はまるで天国だ。
この時間帯からここら辺は人通りが一気に
少なくなる。例の屋敷までは10分ほどで着くので焦らなくても大丈夫だ。
そうこう考えているうちにこれまたすぐに
目的地へ着いてしまった。
ガキの部屋までの高さは…塀から4メートルってとこか…
丁度ガキの部屋は道路側にあるので本来より簡単に侵入が可能だ。
俺は塀を飛び越える反動でそのまま窓に飛びつく。…おそらく鍵はかかっているだろうが
念のため窓を開いてみよう。…あれ?
なんとしれっと窓が開き、窓の近くに丁度
寝ているガキの顔が月明かりで照らされる。
そして俺は窓際に飛び乗る。
…ふむ、写真で見た顔と一致…
「…え…」
「え…」
予想外も予想外。寝ているように思われた
ガキだったが…、目が開いていた。驚きの
表情から一変して、キラキラした眼差しでこちらを見ている。
「チッ…、強行手段を取らせてもらうぞ。」
俺はガキを抱えようと手を伸ばす。
「ついに私にもきたんだぁ!白馬のおーじ
さまぁぁぁー!」
これも死ぬほど予想外。ガキが意味不明な事を叫びながら飛びついてくる。
「おわっ!」
窓際に立っていた俺はガキに押されガキと共にコンクリートの地面に落ちていった。
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