氷鬼の桜

月瀬

第1話 エピローグ(?)

 私は明日、お家のために嫁に出される。いわゆる政略結婚というやつ。好きでも無い男の元に嫁ぐのはいささか遺憾ではあるが、本来もって生まれるはずだった、氷鬼ひょうきとしての能力を塵ほどももたぬ私には、ここまで養ってくれた親類に恩を返すすべが、これしか無かったのだ。

 ふと、鏡をみる。そこには、美しく、しかし恐ろしく病弱そうな女の姿が映っている。これもまた、気に入らない。遺憾であること他ならない。

 私は、鏡が嫌いだ。鏡に映る、弱く女々しい私は、どこか違和感と訳の分からぬ嫌悪感を駆りたてる原因であるから。

 あぁ、どうして、私はこんなにも欠落だらけなのだろう。身体が弱く、調子が良い時でも、せいぜい庭を散歩するのが関の山。力もないから狩も細工もできたものでない。

 もういっそ、もういっそ殺してはくれまいかと願うばかりで、ただそんな迷惑はかけられない。やはり、親類への恩は重い。


 そんなことをつらつらと考えていたら、いつの間にか夜が明けていたらしい。空は薄ら寒そうな色をし、燕は天高くから地のすれすれへとを、行ったり来たりしている。

「あぁ、もう…ついぞ私に奇跡は怒らなかったのか……」

 この理不尽な世への、決して振り向かぬ神への不満が、こつこつと溢れ出る。


 私は今日、お家のために嫁へ出ることとなっている……。

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氷鬼の桜 月瀬 @tukise_

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