第3話 だってこれ以上
一月の雪の日。
莉奈は珍しくお弁当を全て自分で作ってきた。今までは半分以上がお母さんだったのに。料理を本格的に始めたばかりなのに莉奈のお弁当はおいしい。
「飲み込みが早すぎる」
莉奈の作った豚肉の生姜焼きのクオリティが高い。
「豚肉の生姜焼きって、男の子が好きなんだって!」
やはり彼氏を作ろうとしている。
「まあ、私も好きだけどね」
一体なんのアピールだよと、自分でも突っ込みたくなる。
こんな感じで、恋人になるのは程遠い。
四月には大体二十人の男子が来ると担任が言っていた。
共学化に伴い、男子バレーボール部に力を入れるらしく、強い指導者を呼び、バレーをしたい男子にアピールしたようなのだ。
女子だけのところに理由なく行くのは行きにくいから、バレーボール部という理由を作ったんだよと担任は楽しそうに言っていた。
バレーボール部ってことは、よく知らないけどイケメンかもしれない。
そして莉奈は可愛い。
なんとかして男子たちが来る前にどうにかしないといけないのに。
♦︎
始業式。
私たちは三年生になる。
そして明日の入学式で男子二十人が入ってくる。
「イケメンいるかなー」
莉奈は楽しそうに窓から散る桜の花びらを眺めている。
結局、どれほど同じ時間を過ごしても、どれほど何かを分け合っても、恋人と思ってなければ恋人ではないんだと思う。
恋人という言葉を伝え合わないといけないんだと思う。
言えなかった。
いつチャンスがあったか分からないけど、言おうと思えば言えそうなのに、言えなかった。
翌日。入学式は何事もなく終わった。
二十人の男子たちにイケメンがいたかどうか、私には分からない。
クラスで一番のギャルが、
「声をかけにいかない?」
と言った。
皆笑うけど、莉奈が立ち上がる。
「私も行くー」
ギャルの背に莉奈が続く。
いってらっしゃーいとクラスが流す。
「駄目!」
莉奈が驚いてこっちを振りむいた。
「どうしてわざわざ声をかけに行くの。私でいいでしょ!」
莉奈が小走りで私の前に来た。
「私が男子と一緒になるのは嫌?」
「嫌だ!」
他の人と弁当を分け合わないで欲しい。他の人にアクセサリーを貰わないで欲しい。毎回違うメイクを他の人のためにしないで欲しい。
「私も!」
え?
莉奈が私に抱きついてきた。
なぜかクラスの皆が拍手している。クラスで一番のギャルがハンカチで目元を拭ってる。
私の感情が私にもよく分からなかった。
とりあえず腹が立ったので莉奈の綺麗な髪がぼさぼさになるくらい撫でた。
普段の帰り道も桜が舞っていれば明るい雰囲気になる。
「どうして今まで彼氏を作りたいとか言ってたの?」
「面白かったから」
やっぱり腹立ってきた。
「志保の反応が面白か――」
腹が立ったので莉奈の口を塞いだ。私の口で。
恋人だからいいよね。
だってこれ以上聞きたくなかったから 左原伊純 @sahara-izumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます