第2話 恋人になれば
二学期が始まってすぐの、ホームルームのことだった。
「みなさん、この学校は来年から共学になります」
一瞬クラスがしんとして、少しして、先生が教室から出て行くとざわざわし始めた。
「男子が来るの!?」
「えー。やだー」
「邪魔だよね」
「うるさそう」
「臭そう」
「でも待って、彼氏ができる人がいるかも!」
ギャルの言葉に波が引くみたいに皆ぽかんとしたが、すぐに波がどどーんと打ち寄せるくらいの大騒ぎになった。
女子校なので、彼氏持ちの子はレアなのだ。
「えー? 私作っちゃおうかな?」
莉奈が波に乗ってしまった!
「いい人ができたら志保に紹介する!」
莉奈が男の人を連れてくる姿をぼんやりと輪郭だけイメージした。男の人はこの前の服屋さんの人のイメージに似てる。
そしたら私、どうなるの?
紹介してくれるのは嬉しいけど、莉奈が彼氏と一緒にいる間、私はどうやって時間を過ごせばいいの?
私も彼氏を作るとか……と、考えて、気がついてしまった。
彼氏いらない。
莉奈と遊ぶほうがいい!
絶対に莉奈に彼氏ができませんように。
昼休み。
まるでホームルームの波は見えなくなって何事もなかったみたいだ。
二人でお弁当を分け合う。
莉奈のお母さんは時々デザートにフルーツをつけてくれる。今日はアメリカンチェリーだ。二人で分けてもたっぷり食べられる量だ。
「嬉しいな」
私は日本のさくらんぼよりアメリカンチェリーが好きだと莉奈に言ったことがある。
「お母さんにさくらんぼならアメリカンチェリーだって言っておいたからね」
「え? お母さんに?」
「公認だよ」
なにその言い方。
まあ私もお母さんに梅干しを入れてはいけないと言ったことはあるけど。
「これおいしい!」
「ネットで作り方を調べたよ」
「また作ってきてね」
彼氏ができたら彼氏と一緒にお弁当を食べるんだと思う。そうしたら私が作る意味がない。そんなの、全部冷凍食品でいいじゃん。
恋人みたいと前に言われたけど、本当に恋人ができたらしゃれにならない。
志保は志保だと莉奈は言ったけど。
かつて飲み込んだ恋人という言葉が、まだ私の中にあって、ひらめいた。
私が恋人になれば莉奈は他に恋人を作れない。莉奈は浮気するような人ではないから、絶対に大丈夫。
だけど、どうすればいいのだろう。
「はい、あーん」
莉奈がアメリカンチェリーを私の口にハイスピードで入れてくるので、テンポに合わせて食べつつ、どうすれば恋人になれるか考える。
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