第10話 夕食
トマト、玉ねぎ、セロリ、ニンニクをみじん切りにして、白身の魚を一口大に切る。
オリーブオリーブにニンニクを入れて火にかけ、香りが立ってきたら、刻んだ野菜を入れて炒めて、白身魚を入れる。
魚に火が通ったら、ブイヨンを流し入れて火を弱くする。
煮ている間に、小麦粉と塩、水を混ぜて捏ねる。いい具合になったらスプーンで掬ってスープの中に入れる。
すいとんが浮いてきたら完成だ。
用意はできたが、パウルとトマスの姿はない。まだお風呂に入っているようだ。
パウルが部屋の隅にある暖炉に火をつけてくれたらしいが、それでも裸足では冷える。二階に行って鞄から毛糸の靴下を出して履いた。
下へ降りると、パウル達も風呂から上がって、暖炉の前に置いた椅子の上でトマスの体を拭いていた。
「いい匂いだね、リーザ」
「トマス様をありがとうございます。今、配膳をしますので、お待ちください」
ちぎったレタスとパセリの葉と輪切りにしたゆで卵のサラダ、魚のスープをテーブルに用意して二人を呼んだ。
「あれ、君の分は?」
ヴァイツの分は用意しなくてもいいと言われていたので、配膳はパウルとトマスだけした。
「私はトマス様のお食事の補助もありますし、使用人ですので、後でいただきます」
トマスの食事をさせながら自らも食べるのは以前も試してみたが、双方で中途半端になってしまう。
トマスは体もあまり大きくないし時間もそれ程かからないので、リーザは後で食べるようにしていた。
「もう使用人じゃないだろう。一緒に食べよう」
パウルは台所へ行って、リーザの分の食事を持ってきた。
「それに、リーザはお客さんだよ。料理してもらって何だけど、お客さんを差し置いて食べるなんてできないよ」
パウルの申し出はありがたいのだが、そう言われると、効率が悪いのでいいですとは言い出しづらくなる。
見てもらえばわかるので、今日のところはここの主人であるパウルの言うことに従うことにした。
「では、いただきます」
祈りの後、トマス専用のカトラリーを広げた。
トマスの隣の席に座り、ナイフで小さく切ったレタスをフォークに差し、トマスの顎下にタオルを当てて食べさせる。
エミリアから渡された
今度はパセリの葉をフォークに差した。
「じゃあ、今度はリーザだよ」
口元にフォークに差したレタスがあった。パウルが腕を伸ばし、リーザに食べさせようとしている。
「あ、あの、自分でいただきますので……」
「食べて。そうでなきゃ、僕も食べられない」
客よりも先に、と言いたいのだろう。
リーザとしては、食事光景を見てもらって分食を認めてほしかったのだが、まさかパウルから給仕されるようなことになるとは思ってもみなかった。
「でも、パウルさんが食べる暇が……」
「僕はトマスが食べてる時にちゃんと食べるよ」
フォークは更に近づいてきた。食べなければ引っ込まないだろう。
リーザは口を開けると、すかさずレタスが押し込まれた。
何だか子供が親に食べさせてもらっているようで、いい歳をして恥ずかしい。
顔が赤くなるのを感じながら、リーザは咀嚼を進めた。
くーんとトマスがねだってきたので、パセリの葉を口にもっていった。
「このスープ、美味しいね。魚の旨みと野菜の出汁がよく合っている」
皿洗いの傍らで調理を盗み見ていたのを真似して作ってみただけのものだが、褒められて胸の奥がくすぐったくなる。
パウルは次はスープを掬って、リーザに食べさせる。
そんなやりとりは、トマスがお腹いっぱいになるまで続いた。
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