電波少女は電波系

黒ノ時計

電波な少女があなたの心を癒すASMR

注:( )は環境音、状況説明、(※)はあなたの台詞です。


(~~ある夜のこと、仕事から疲れて帰ってきたあなたの目の前に金髪でエメラルドグリーンに輝く瞳を持った謎の美少女が目の前に現れた~~)


「ここで……。合ってるのかな? 良くない電波を受信したのだけれど……。発信源は……。お兄さん?」


(※えっと、君は?)


「私? 私は……。電波の化身……。電波少女?」


(※どこから来たの?)


「どこから……。あっち? それとも、こっち? ……強いて言うなら、どこにでもいるし、どこにでもいない人かも」


(※じゃあ、一先ず電波ちゃんって呼んでも良い?)


「電波ちゃん? 別に、いい。私は、所詮は第六宇宙世界を彷徨う塵芥のひとつにすぎないから。それよりも、私はお兄さんの心から悪い電波を受信してやってきた。こう、太陽の傍を通り過ぎたときのようなゾワゾワって感じがする。今も、ずっと、ずーっと、何か助けを求めてる。深海にいるときのような、暗くて、冷たくて、息苦しくて……。私は、お兄さんの闇を少しでも晴らすためにやってきたから。私にできることがあったら、言って欲しい。まずは、お兄さんがどうしてそんな闇を抱えているのか教えて欲しい。駄目?」


(※分かった。話すから、取り合えずソファに座ろうか)


「……うん。そうだね。立ち話はちょっと辛いよね。ソファに体を預けて、ゆっくりしながら話そうか」


(あなたと電波ちゃんはソファに腰を下ろした)


「さて、ようやく話せる態勢になったね。それで……。聞かせてくれるかな? お兄さんが太陽の光すら届かない暗黒を放浪している理由を」


(※う、う~ん……。取り合えず、僕が悩んでいる理由を聞いているのかな?)


「うん。分かりやすく言うと、お兄さんが悩んでいる理由を聞いている。さあ、話してみて?」


(※……実は)


(そのとき、あなたの視界が一瞬歪んだ)


「なるほど、そういうことなんだね」


(※僕、まだ何も言ってないけど……)


「何も言ってない? あれ、今話したよね? 最近は仕事が忙しくて休む暇がない上、新人が抜けた穴を抜けるために会社に泊りっぱなしでようやく帰って来れたけど、明日からも仕事が山積みであることを思うと憂鬱だって」


(※確かに、理由は合ってるけど……。何で分かったの?)


「何でと言われても、お兄さんが自分で喋ったから。さて、でも私はお仕事を手伝うことはできない。元素の周期を変えることは、例え電波の化身である私であってもできないから」


(※えっと……?)


「……つまり、お兄さんにしかできないことは、お兄さんにしか何とかできないってこと。でも、お兄さんの体は光なき真空の中にいる。このままでは、お兄さんは息ができなくて、心も体も宇宙の塵となって消えてしまうかもしれないの」


(※う~~ん……)


「要するに、凄く疲れているから休むべきということ。私はお兄さんが息をするのを楽にするために空気を補給しにきた酸素袋とでも思って欲しい」


(※なるほど……。具体的には何をしてくれるの?)


「具体的には何を……。全く、考えてなかった。私は、さっきも言ったけれど宇宙のどこにでもある塵芥な電波に過ぎない……。どこにでもいるし、どこにでもいない。私は生まれた瞬間にこの場にいて、そして自分のするべき使命を遠いどこかの世界から電波として受信した。具体的な方法は、これから考えなければならない。……でも、ここに来たばかりの私でもできることは一応あるにはある。冷蔵庫、見ても良い?」


(※いいけど、何するの?)


「料理を作る。(ソファから立ち上がって、冷蔵庫の中を物色しながら)……お兄さん、食材がほとんど入ってない。ちゃんと栄養は摂取してるの? 普段は何を食べてるの?」


(※カップ麺とか、弁当とか)


「カップ麺に弁当……。コンビニというところで調達できる、お手軽価格でお手頃に食べられるやつだね。お湯を入れるにしても、レンジで温めるにしても、電波の送受信速度に敵わないとはいえ優秀だとは思う。けれど、体への普段は電子機器にかかる負荷よりもずっと大きいし、機械と違ってストレスフルにもなると考察する。だから、私が作ってあげる。ほうれん草に、ベーコン、生ハム、パン、バター、チーズ……。これだけあれば、ある程度のものは作れそうかも。ちょっと、待ってて」


(それから、電波ちゃんはさっ、ぱっと料理を作って持ってきてくれた)


「はい、どうぞ。ほうれん草とベーコンのバターソテー。食パンは油を敷いて軽く火を通して、バターとチーズを乗せて焼いてから、トッピングに生ハムを使ったブルスト風。お兄さん、私がいなかったらきっと食べずに寝てたでしょ? それは駄目。非健康的な生活は弱った体にとっては猛毒になりかねない。上から下に物は落下するけれど、地面に着いたら落下することはできないんだよ?」


(※つまり?)


「弱った体は直すことができても、壊れてしまった体を元に戻すことはできない。完全に壊れてしまう前に、どこかでメンテナンスをしないと。それは、機械と同じ。ただ、機械は体を残して中身を取り換えることができるから少し勝手は違うと思うけれどね。ともかく、これらを食べてみてほしい。きっと、元気が出ると思う。……食欲がない? それなら、なおさら食べないと危険かも。……ほら、私が食べさせてあげる。大丈夫、ゆっくり時間をかけて、食べられる量だけ食べれば問題ないから。(バターソテーに箸を通し、一口分だけ摘まんであなたの口元へ)ほら、あーん。大丈夫、毒なんて入ってない。強いて言うなら、これを食べない方が毒になる」


(※……あ~ん)


「はい、あ~ん……。どう? 味の方は保証できないのだけれど」


(※……美味しい)


「そう、美味しいの。口に合ったのなら良かった。ほら、一口が食べられたなら、もう一口いけると思う。はい、お口開けて……。……よし、ちゃんと食べられて偉いね。ほら、野菜だけじゃなくてメインも食べてみて。お箸で、先の方だけ切り分けて……。ほら、外はサクサク、中はフワフワのパン。電波の化身が作る料理だから、もしかしたら未知の惑星を漂う新体験ができるかもしれない。もう一度、口を開けて? ほら、ふぅ、ふぅって冷ましてあげるから。ふぅ、ふぅ……。はい、あ~ん」


(※あ~ん……)


「うん、よし。味はどう? 味だけじゃなくて、匂いも味わってみて。鼻を通り抜ける香ばしいトーストの焼け焦げた匂いとチーズ、バターのほんのり甘い香り……。電波である私は物体から発せられる情報を受信しないと感じられないけれど、人の子であるお兄さんなら分かるでしょ? ……私が受信しない理由? それは、きっと知ってしまったら味わいたくなってしまうから。今は外部からの情報を極力受信しないようにしてるの。ただ、そう……。今のお兄さんから溢れ出ている電波は、さっき会ったばかりのときよりは宇宙の塵一つ分に満たないくらいはマシになったと思う。ほら、まだ食べられるなら食べた方がいい」


(※今日は、もういいかな)


「……そう、もういいの。じゃあ、これらはラップをして冷蔵庫にしまっておく。明日の朝、ちゃんと食べること。それじゃあ、私はこの辺で」


(※もう行くのか?)


「私は電波……。有機生命体とは違って、不確定で確率的な存在に過ぎない。世界の認識のズレが私の存在を曖昧にして、量子の海へと沈めて飲み込んでいく……。また、会おう。今度はいつになるか分からないけれど、お兄さんの幸せを私は願っているからね」


(そのとき、あなたの視界が一瞬歪んだ)


(すると、既に彼女の姿はそこにはなかったが、冷蔵庫の中を確認すると、そこには彼女が作り置きしてくれた既に冷え切ったバターソテーとブルストが置いてあった)


(~~また別の日のこと。あなたの視界が一瞬歪んだと思うと、あなたの座るソファの隣に電波ちゃんが出現した~~)


「こんばんわ、お兄さん。どうやら、また私は現れたみたい……。私の存在は常に不確定なものだけれど、お兄さんが私を求めたのなら確率的に存在するかもしれない。そして、お兄さんが私のチャンネルに上手く接続できた時、お兄さんは私を認識すると同時に私の存在も確定的なものになる。一時的だけれどね」


(※つまり、僕が君を呼んだの?)


「お兄さんが私を呼んだのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。この地球上にはまだまだ解明されていない未知の現象が多く存在している。それは宇宙規模でも同じこと。脳から引き出せる情報は無限ではないし、学習した内容は日々忘れていくもの。お兄さんの小さな頭でいくら考えたところで、この現象を正しく説明することは不可能。なら、今起きている現象を現実だと認識して受け入れた方がずっと建設的だと思うけれど。違う?」


(※そう、かもしれない)


「うん。物分かりが良くて助かる。そうしたら……。そう、今日もリラックスできる何かをしてほしいんだ。電波な私にできることは正直に言って少ないけれど、できないことがないわけじゃないと思うの。ご飯だって作れたわけだし……。お兄さんは、何かして欲しいリクエストはないの?」


(※う~ん……。急に言われても……)


「そうだよね。急に言われても答えられないよね。……なら、直接電波を拾うのが一番手っ取り早そうだね。ちょっと、待って。行くよ?」


(そのとき、あなたの視界が一瞬歪んだ)


「……ふうん? 膝枕、してほしいんだ?」


(※今、何が……)


「有機生命体はそんなことをすると喜ぶんだ。それとも、私の容姿が貴方の好みにマッチしていたとか? ……原因はよく分からないけれど、私の体が欲しいと言うのならやぶさかではない。ほら、おいで。私の膝の上に。今、スカートだから太ももをそのまま枕にできるし。気持ち良い……かもしれないよ?」


(※……いいの?)


「いいよ、問題ない。こんなものは小難しい数式を解いたり、この世の神秘を暴いていったりすることよりずっと簡単なことだから。私にとっては、壁を通り抜けるのと同じくらいイージーなことだし」


(※じゃあ、お邪魔します)


(あなたは、電波ちゃんの膝の上に自分の頭を乗せた)


「ん……。ずっしりと、重い頭……。ちょっとだけ、くすぐったい……? でも、こうしてお兄さんが傍にいることを感じられると安心するのはどうしてだろうね? 膝枕、意外と良いものなのかもしれない」


(※そ、そう?)


「うん……。あ、でもごめん。これは、お兄さんが心を休めるためのものだから。お兄さんにも、ちゃんと気持ち良くなってもらわないと……。頭を乗せるだけじゃ物足りなかったりする? 他に、してほしいことはある?」


(※今でも十分に満足)


「満足……。こんなので、満足できるものなんだ……? でも、私はもっとお兄さんにはリラックスしてほしいって思ってるけどね。(少し考えてから)……なら、こういうのはどう? 私の白い、柔らかい手の平を頭の天辺に添えて……。撫で、撫で……。どう? 人間がよくやる行動の一つ。愛しい、慈しみたいと感じた対象にする愛情表現……だったような気がする。宇宙は基本的に空虚で、感情なんてものは存在しない。私たち電波だって、そういう不安定な要素は存在しない。頭を撫でるなんて行動を取るのは、高度かつ知的生命体である人間くらいだと思う。……まあ、宇宙は広いから、もしかしたら人間に似た生命体が外宇宙のどこかには存在しているかもしれないけれど。私は、今のところはそんな遠くまで行く予定はない。今は、お兄さんの反応を見て色々なことを学習していく方が有意義な時間を過ごせると認識しているから。それにしても、お兄さんはさっきからどうして視線を逸らしているの? 私の顔を見てはくれないの? それとも、何か付いてたりする?」


(※……いや、色々と視界に入って)


「色々なものが視界に入る? それは当然のこと。人の視野はより多くのものを捉えられるように設計されている。外敵から身を守ったり、自身の安全の確保に……そうじゃない? じゃあ、何がいけないの?」


(※……ほら、僕だって男だし)


「お兄さんが男の子なことが関係あるの? ……ああ、もしかして、私のこの胸のことを言ってるの? 女性の胸というのは主に生殖能力の高さを判別する基準として使われるもので、胸の大きい女性は繁殖能力が高いと男性には認識されるそう。だから、男性は自然と女性の胸に視線が行くもの。これは、生物学的に起こりうる生理現象の一種であり、別に不思議な要素は一つとしてない。ただ、人間は知的生命体の中で唯一理性を獲得している動物であり、生殖行動を卑猥だと感じることができるという観点から女性が胸に視線を注がれ続けられることを忌避したり、逆に男性もまた恥ずかしい、胸を見続けては失礼だという感情を抱くという。けれど、私は有機生命体ではないから関係ない。いくら見られても平気だし、こんなもので満足してくれるのならもっと見てくれてもいい。何なら、この服も邪魔なら退けようか?」


(※いや! そこまでしなくてもいい!)


「え、そこまでしなくていい? ……有機生命体の考えることは理解不能。こちらが許可しているのだから、欲望の赴くままにすれば良いと言うのに……。それとも、なお私に遠慮している? ならば、話は簡単。お兄さんの欲望を、ほんの少しばかり解き放つ手伝いをしてあげる。少し、私の姿勢を前傾にさせて……。お兄さんの胸板の上に乗せて、そのまま私自身の体重で押し潰してみるね。どう? これは、お胸サンドと命名する。押し当てるだけじゃ不満なら、私の体を前後に動かしてみる? こうして、ずり、ずりってするとスライムのように柔軟な胸が形を変えて、お兄さんに変わった刺激を与えることができると推察するけど……。大丈夫、心配しなくても頭を撫でるのは継続する。胸を押し当てる行為は、あくまでもお兄さんに与える快感を上乗せするために必要だと感じたから。それで、その……。感想くらいは言って欲しい。私に羞恥心は存在しない。が、感想がないというのは私自身の行動に意味があるかどうかを自問自答しなければならなくなる。さあ、感想を聞かせて」


(※……気持ち良い)


「気持ち良い……。そう、ならいい。私の行動には、一定以上の意味があると判断できる。私の中に存在するユニバースの中に、新しい知識が蓄積された。胸を乗せる、という行為はお兄さんを喜ばせることができる……。リラックス効果は絶大……。これで、仕事の疲れは少しでも癒えた? まだ、続けた方がいい?」


(※えっと……。できれば、頭を撫でるだけにしてほしい)


「頭を撫でるだけにしてほしい? どうして?」


(※胸が当たってると、その……)


「胸が当たってると……? ああ、性的な興奮を覚えるということ? なるほど、例え翼があろうと鳥はいつか地に落ちる……。それなら、納得した。眠れなくなると言うのなら、胸を押し当てるのは辞めるね。それなら、代わりに……。催眠術、かけてあげる。私の体を構成する電波は、お兄さんの脳波に影響を与える。私が電波でお兄さんの脳波に影響を与えて、α波を発生させやすくする。これで、お兄さんは速やかに睡眠状態へと移行、その後はθ波、δ波へと波形を誘導しながら深い眠りへ誘う。大丈夫、起きる時間になったらα波の減少を促し、β波を活発にさせるよう調整するから」


(※つまり?)


「つまり、ちゃんと起きられるようになるということ。私は眠る必要がないし、たぶんだけど明日の朝にお兄さんが起きると同時にいなくなってる。だから、ここでお別れになるね」


(※ちょっと寂しいね)


「寂しい? ……そんな風に思ってくれるなんて、ちょっと嬉しい? のかもしれない。この、ちょっと胸の辺りがポカポカする感じが、嬉しいって感情なんでしょ? ……きっと、また会えるから大丈夫。お兄さんが、私を求めてくれたならきっと……。さあ、そろそろ寝よう。ほら、目を閉じて……。私の声を、よく聴いて……。お兄さんは、段々と眠くなる……。眠くなる、眠くなる……。私の声を聴くと、瞼が重くなる……。海の底に沈むように、暗闇へと馴染んでいく……。お兄さんは、段々、眠くなる……。眠くなる……。ようやく、スヤスヤと眠ったみたいだね……。うん、良かった。お兄さんから出る電波が、段々と心地良いものに変わってる。お兄さんと、お別れも近いのかな。お兄さんが、私を必要としなくなるその日まで……。私は、ずっと傍にいるから……。だから、また会おう。また、会おう」


(~~また別の日のこと、あなたが仕事から帰ってきてソファで寛いでいたとき、またまた電波ちゃんが隣に現れた~~)


(※電波ちゃん、こんばんわ)


「こんばんわ、お兄さん。その電波ちゃんって呼び方、すっかり定着したね。……今日も私を呼び出したということは、お兄さんは私を必要としてるってことだね。……でも、おかしい。お兄さん、最初のときとは違って嫌な電波は出ていない……。どうして、私のことを呼んだの? 私は、この世界の調和を乱す電波を修復するためだけに生まれた存在。調和が取れた世界に、私という帳尻合わせは必要ないはず。完成された数式に手を加える必要はないはずなのに……。どうして、お兄さんは私を呼び出した? ……いや、呼び出すことができたの?」


(※会いたかった)


「私に、会いたかった? それだけで、私の存在を確定させることが……? でも、そんなことできるはず……。だって、私はただの調和を取るために生み出された調整装置であって、そんな……」


(※装置じゃない。電波ちゃんは、電波ちゃんだ)


「私は、私……? 調整装置じゃない……? では、私は何だと言うの? 私は何のために、この世界に存在しているの?」


(※僕の傍にいてほしい)


「お兄さんの、傍に……? お兄さんが、私を必要としているの? 調整装置ではなく、電波ちゃんという一個人として……? それは、許されることなの? 私は、電波ちゃんとしてこの世界に存在していても良いの?」


(※許されても良いはずだ)


「……私は、ただの電波に過ぎないのに……。私は、あまり感情に詳しくない。人間の事情にも詳しくない。端的に言うと、常識知らずで無知……。所詮は、情報の集合体に過ぎないの。それでも、いいの?」


(※いい)


「私は、電波だから子供はできない。えっちなことも、できない。それでも良いの?」


(※構わない)


「お兄さんは、こんな私のことを……。必要と、してくれるの?」


(※うん。愛しちゃってるから)


「愛、してる……。それは、恋愛感情というもの……。聞いたことが、ある。恋人とは、一人ではなれないもの……。番いには、なれない。私は、人間じゃないから。でも、人間にだけ許された関係性……。家族ではないけれど、家族のように親しく、友人よりも強い関係性……。それが、恋人。私を、恋人にしてくれるの?」


(※むしろ、こっちからお願いしたいくらい)


「……そういうことなら、私はまだ必要みたいだね。片翼の鳥は大空を目指せない……。私たちは、欠けてはいけないパートナーになった。これからも、よろしく。それで、何だけど……。恋人同士になっても、あまりやることは変わらないよね。だって、元々私たちは友人同士ではやらないようなこともしてたから。それで、今日なんだけれど……。一応は、私にやれそうなことを一つ考えてきたから、一回実践してみたい」


(※いいよ。お願いします)


「そう。なら、早速だけど始めよう。ここに取り出したるは……。(ゴソゴソとポケットを探って)これ、耳かきセット。後ろに綿が付いているから、これで仕上げができるようになってる。耳かきをした経験は、当然ない。けれど、耳の穴の中を傷つけないようにすれば問題はないはず。これくらいなら、紫外線や放射線を傍受するよりも簡単なことのはず。安心して? 私に任せて欲しい。さあ、頭を横にして、前みたいに膝枕をしてあげるから。……そう、そうやって右耳を上にして寝転んで。それじゃあ、早速……。まずは、耳かきの先端を耳の外側に当てて、順番に……。コリコリ……。こういう風に、削るんじゃなくて撫でるようにして……。大丈夫、これはまだ練習。いきなり耳の中に入れて、力加減を間違えたら困るから。カリカリ、カリカリ……。耳の外側も、随分とゴミが溜まってるね。ちゃんと掃除してる?」


(※最近、余裕が無くて)


「そう。でも、これから先は安心して良い。お兄さんが例え忙しくても、お兄さんが寝ている間に軽く掃除をするくらいならできる。コリコリ、コリコリって掻き出して、お兄さんの耳を清潔に保ってあげるから。……はい、外側はこれでおしまい。いよいよ、耳かきの本番。い、いくからね?こうして、中に棒の先を入れて……。はい、カリカリ、カリカリ……。どう? 気持ち良い?」


(※うん)


「なら、良かった。こっちにも、ゴミがかなり溜まってる。耳かきを怠ると難聴の原因になったり、ばい菌が繁殖したりして危険。定期的に掃除をしないと、酷いことになるかもしれない。けど、問題ない。耳の中も、これからは私がちゃんと管理してあげるから。基本的に、掃除をするのは気持ち良いもの……らしい。現に、お兄さんは耳かきで一定の快感を得ている。耳を清潔に保てるだけじゃなく、快感を得て気持ち良くなることができるなんて一石二鳥。でも、あまりやり過ぎるのも考えもの。耳の中を傷つけては本末転倒だから。……はい、これでおしまい。ちょっと残念かもしれないけど、我慢してほしい。代わりに、仕上げが待ってる。こうして、耳かきの反対側についた綿で優しく取り損ねたゴミを絡め取る。あまり強く触れるとゴワゴワするから、毛先をバウンドさせて軽く触れる程度に留めておく。ふわふわ、ふわふわ……。うん、これでお終わり」


(※待って欲しい)


「どうしたの? まだ、何かして欲しいことがあるの?」


(※耳をふーってしてほしい)


「ふー……? 息を、吹きかけるということ? ……分かった、やってみる。こう、お兄さんの耳元に近づいて……。(息を優しく吸い込んで)ふぅぅ……。これでいい?」


(※ありがとう)


「これを行う意味に関しては理解不能。しかし、お兄さんが満足しているのならそれで良いと思うことにした。お兄さんは、耳に息を吹きかけられるのが好き……っと。これも、私の中のユニバースに情報として蓄積された。それじゃあ、反対側もやるから体を反転させて。……そう、今度は左耳を上に向けて。……じゃあ、始めるね。さっきと同じように、まずは外側から順を追ってやっていくから。カリカリ、カリカリ……」


(あなたはごそごそと身じろぎをした)


「くすぐったいのは分かるけど、身じろぎはしないように。変に動くと、手元が狂って耳を傷つけてしまうかもしれない。……うん、そう。じっとしてて。耳の溝とか、細かいところに溜まったゴミをささっと取っていくから。……カリカリ、カリカリ、コリコリ、コリコリっと……。うん、これで、だいぶ終わったはず。次は、中の方もやっていくね。耳かきの先を耳の穴の中に入れて……。カリカリ、カリカリ……。ん、こっちもかなり溜まってる。それにしても、お兄さん。お兄さんが最後に耳かきをしたのはいつのこと?」


(※……覚えていない)


「覚えてないくらい、やってないんだ。それなら、これだけ溜まるのも頷ける。ほら、先端に大きな塊が……。少し、強めにするね。こっちは、さっきよりも量が多いみたいだから。ゴリゴリ、ゴリゴリ……。絶対、動かないでね。今動いたら、かなり危ないから。ゴリゴリ、ゴリゴリ……。うん、これで大丈夫かな。これ以上は、耳の中を傷つけるかもしれないから辞めておく。じゃあ、お次は綿でポンポンするからね。綿の毛一本、一本の先で撫でまわすようにして……。さわさわ、ふわふわ、ポンポン、ふわふわふわ……。じゃあ、お兄さん流の仕上げね。耳元まで近づいて……。(息を吸い込んで)ふぅぅ……。はい、終わり。お疲れ様。名残惜しい? 安心して。これからは、定期的に私が耳かきをしてあげるから。それまでは、お楽しみとして取っておけばいい。ゴミが多く溜まれば、それだけ長く耳かきができるから」


(※ねえ、僕も一つお願いしていい?)


「お願い? 何か、してほしいことがあるの?」


(※添い寝してほしい)


「添い寝……。なるほど、分かった。お兄さんがちゃんと眠れるように、私がサポートしてあげる。それじゃあ、ベッドに行こうか」


(~~あなたと電波ちゃんはベッドまで移動してきた~~)


(あなたが布団の中に入ると、電波ちゃんは隣に寝て掛布団を一緒に被った)


「どう? 狭くはない? 息苦しかったりはしない? 私は電波だから、あまり気にはしないけれど……」


(※全く問題ない)


「そう? ならいい。けど、添い寝をするだけでいいの?」


(※どういうこと?)


「その、添い寝というのはこうして体を寄せ合って寝ることだけど、こうして私が近くにいるだけで安心して眠れるのかと疑問に思った。銀河は常に私たちの隣にあるけれど、彼らは何もしないし、何かをすることもできない。私も、同じようなもの。これには、どんな意味があるの?」


(※電波ちゃんが隣にいるだけで嬉しい)


「私が隣にいるだけで嬉しい? それは、私が隣にいること自体に意味があると?」


(※うん。そういうこと)


「そう……。私は、こんな風にして隣にいるだけでお兄さんの必要を満たせるということ。でも、何かして欲しいことがあれば言って欲しい。私は、お兄さんがどうすればもっと喜んでくれるのかを知りたいから。……でも、そうだ。確か、お兄さんは私の大きな胸が好きだったね? お兄さんは私が見て良いって許可を出しても遠慮するから、きっと触って良いって言っても遠慮する。それどころか、逃げ出すかもしれない。けれど、この状況ならお兄さんは逃げ出すことができない。だよね?」


(※そ、それは……)


「待って、逃げないで。(あなたの体を羽交い絞めにして)こうやって、抱きしめて引き寄せる。私、意外と力が強いでしょ? 正確には、私が発する電波でお兄さんの脳内に干渉して私の方が力が強いと錯覚させているだけ。もしも、私が動くなって本気で命令したらお兄さんは動けなくなる。でも、その必要はないはず。お兄さんが、私から逃げる理由はないから。ほら、私の胸の谷間に顔を埋めて……。どう? 柔らかい? 気持ち良い? 喜んでくれてる?」


(※嬉しいけど……。ちょっと、苦しい……)


「あ、息ができないの? ごめん、忘れてた。人間は息をしないといけないから、私の乳圧で押し潰すだけだといけない。まだ、お兄さんを宇宙の彼方へと飛ばすわけにはいかないから。これは、もう胸を触っているのと同じ。だから、私の胸を揉んでも良いよ? 私も、お兄さんから逃げないから」


(あなたは、少し遠慮しがちに胸を触った)


「ん……。優しいね、お兄さん。せっかく許可を出しても、お兄さんはあまり気が進まないみたい。仕方ないから、私が手伝ってあげる。ほら、こうやってギュッて鷲掴みにする。お兄さんの指が弾力ある肉厚の胸に吸い込まれるように沈んでいく……。そして、一度吸い付いたら離れることは困難。一度、深い海の底に沈んだら再び太陽の光を浴びる日が遠くなるように……。さあ、そのまま胸を堪能していて。私は、空いた両手でお兄さんの背中に手を回して……。ギュッと引き寄せて、頭をよしよしってしてあげる。人間の母親は、自分の子供にこのようにして愛を伝えるそう。母と子で愛を伝達し合えるのなら、恋人同士になった私たちでも理論上はできないことはないはず。よし、よし……。すっかり、胸の谷間が好きになってしまったみたい。私の知る限りでは、たぶん赤ちゃんに近い行動……。ほら、すぅって息を大きく吸って……。吐いて……。お兄さん、段々とα波が強くなってきたね。徐々にではあるけれど、ちゃんとリラックス状態にある証拠。……ねえ、お兄さん」


(※何?)


「私はね、最初はお兄さんから発せられてる悪い電波を何とかするために現れた。あのままだったら、きっとお兄さんは酷いことになっていたかもしれないから。だから、私はお兄さんのことを何とかしたらそれで終わりだって勝手に思ってた。ただ機械のように仕事を終わらせて、用済みになったら消える。それだけの存在。でも、私はお兄さんと一緒にいるうちに、お兄さんが喜んでくれることは何だろうって考えるようになった。お兄さんが喜んでくれる、不思議と私も同じ気持ちになれる気がしたから。ううん、違う。私も、同じ気持ちなんだと思う。今でも、お兄さんが私の胸の中にいるってだけで、胸の中心が温かくなって、満たされているような感覚になる。私の中にあった無機質で無感情だった虚無に等しいユニバースに、新しい星々が生まれていくのを感じるんだ」


(※つまり、嬉しいってこと)


「そう、嬉しいってこと。お兄さん、ようやく私のことが分かるようになってくれたんだ。とっても、嬉しい。だから、お兄さん。私を傍に置いてくれて、ありがとう。私のことを、一人の人間の女の子みたいに扱ってくれて、ありがとう。これからも、私はお兄さんの傍にいるね。お兄さんが私のことを必要としてくれる限り、私はお兄さんから離れることはないから。だから……。これからも、よろしく。じゃあ、そろそろ寝る時間だね。また、私がα波が出るように誘導してあげるから、私の声をよく聴いて。今度は、耳元で囁いてあげるから。さあ、お兄さん。私の声を聴くと、段々と眠くなる。眠くなる、眠くなる……。段々と、瞼が重くなる……。深い、海の底に意識が沈んでいく……。どんどん、どんどん、眠くなって、体が重たくなって、私の声が遠くなる……」


(※すぅ、すぅ……)


「すっかり、寝ちゃったね。子供みたいで、可愛い……かもしれない。うん、可愛いん、だと思う。おやすみなさい、お兄さん。(あなたの額に)ちゅ。良い夢を、見てね」


(~~それから、数年が経って~~)


「ほら、起きて。あなた。もう朝になったよ。仕事の時間、来ちゃうから。早く朝ごはん食べて」


(※おはよう……)


「おはよう。ほら、お目覚めのキス。ちゅ……。うん、目が覚めたみたいだね。ん? どうしたの? 仕事に、行きたくない? どうして? 何か、嫌なことでもあったの? ……怖い夢を見た? 私がいなくなる夢? 確かに、それは怖い夢。私は、お兄さんの前からいなくなることはないけれど……。なら、ほら。私の胸の中で、ぎゅうううってしてあげるから。これで、私の存在をあなたの体に刻み込んでね。はい、ぎゅうううう……。どう? これで大丈夫? ……んん、そんな風に胸を揉まないで……。ちょっと、気持ち良いかも、だから……。変な、気分になったら……。その、困るでしょ? そういうのは、帰ってきてから。ほら、明日は休みだし……。(あなたの耳元で)今夜は、お楽しみにしてあげるから。だから、あと一日だけお仕事頑張って。(あなたから離れて)うん、大丈夫みたいだね。それじゃあ、今日も一日頑張ろう。あ、な、た♪」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

電波少女は電波系 黒ノ時計 @EnigumaP

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ