「どれ…?」 

低迷アクション

第1話



 「おかーさん、おかーさん、あれっ、あれぇっ!!」


「どーしたの?うーちゃん…病院内は静かにね。えっ?ああーっ」


知人の“N”の体験である。花粉の季節、彼の病院通いは必須となる。そんな待合室での出来事である。


昨今は、車内もカフェでも、何処でも、皆が長方形の箱を熱心に眺め、弄り倒している。老いも若きもだ。


Nも使う事は使う。だが、天邪鬼の性格から、皆が示し合わせたように箱に魅入る中では、敢えて、雑誌や漫画、小説と言った読書を楽しむようにしている。


今日も待機時間をページ捲りで潰していた頃、向かいに座っていた親子の娘が自分の方を指さし、注意しようとした母親も、こちらを見つめ、同じような声を上げた次第…


(何だろう?本の表紙に気になるもんでもあったか?)


彼は生粋のホラーマニア、読む本もそう言ったモノになる。幼稚園くらいの子供がはしゃぐような内容は無いと思うが…


そう考えるNの前で、子供が会話を再開する。


「そっくりだね~おんなじだね~?やっぱり有名なんだね~」


「そうね~」


「えっ?」


思わず顔を上げてしまう自身の前で親子は中に呼ばれ、笑顔のまま、席を立って、行ってしまう。去っていく背中に思わず呟いた。


「どれ?」


彼が呼んでいた本は“晋遊社ムック 水木しげる著「水木しげるの妖怪まちがいさがし」”


その表紙には、複数の“妖”の姿が描かれている…(終)

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