第2話
「泣いてんの?」
声をかけたのはサッカー部の松野だ。
「さーね。本人に聞けば。」
神川が気だるげに答える。松野は明智のほうへ視線を向けると
「あけちぃ、泣いてんの?」と尋ねた。
伏せながら明智は首を左右に動かし、それを否定した。
「泣いてるみたいだな。」
「泣いてない!」
明智は少し強めの語気で泣いてないことを主張した。
「で、何したの?神川。いじめた?」
「いじめてない。私は奈津子のお願いを聞いただけ。」
神川は仏頂面を浮かべながらぶっきらぼうに答えた。
「おねがい?」
松野が一言疑問を言葉にすると、神川は一瞬迷うような素振りをして、重いため息を吐いた。
「死んだら代わりに告白してって。」
「え?」
松野は素っ頓狂な声を上げて、一瞬目を丸くすると明智のほうへ視線を向けた。
「あっ、あー。それで泣いてるわけね。もっとタイミングとか考えたほうがよかったんじゃないの?」
「でも、私も明日死ぬかもしれないし。」
「たしかに。一理あるな。」
あっけらかんとした態度で松野は笑った。
「アンタは怖くないわけ?」
訝し気に神川は話しかけた。
「怖いけど、みんな死にすぎて最近はよくわからないんだよな。」
少し考え込むようにして松野は話を続ける。
「ガキの頃はまさか15歳かそこらで死ぬなんて考えても見なくてさ、気楽なもんだよな、俺は自分が将来サッカー選手になるって信じてたよ。そう思ってた夜は周りにそういう環境があって自然とそうなってた。今もさ、俺は10年後リーグで成功して海外にスカウトされるなんて思ってんだぜ?」
「何?自分だけ死なないって思ってるわけ?」
神川は目を細めて言った。
「かもな。」
松野は神川に笑い返してそう言った。
「だから俺が死ぬかもしれないなんていまいち実感ないんだよな。急に夢を叶えられないなんてそう簡単に信じられねえよ。」
「そうだね。ホントは私も信じらんないよ。私が死ぬことも、奈津子が死んだことも。」
如月まで生きられない べっ紅飴 @nyaru_hotepu
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