如月まで生きられない

べっ紅飴

第1話

今日も誰かの葬式だった。同じクラスの堀川さん。同級生で一番可愛くて、僕も彼女が好きだった。


その前は隣のクラスの武藤君。それから前は誰だっただろう。


毎日誰かが居なくなるようで、思い出すのも億劫になる。


「また死んじゃったね。クラスもこれで半分かぁ。」


イスと机だけが残されて随分とガラガラになった教室で僕の隣の席にいる神川いずみが僕に同意を求めてそう言った。


「そうだね。」


素っ気なく僕は答えるけど、神川はため息を吐くだけだった。


「明智さ、奈津子のこと好きだったでしょ。よく目で追ってた。」


今度は僕がため息を吐く番だった。好きな子が死んでしまってセンチメンタルになっているときにいちいちそんなことを聞いてくるなんて些かデリカシーが足りないんじゃないかと僕は神川をじっとりとした目を作るようにしてねめつけた。

「別に。気になってただけだよ。神川には関係ないだろ。」


「あっそ。奈津子もあんたのことが好きだったよ。初恋だってさ、よかったね。」


僕はぎょっとして神川を見た。


「ほら、やっぱ図星だ。」


「...。」


嘘なのか、本当なのか、どちらにしたって今更聞かされてもどうにもならないことを知って、僕は動揺するばかりで、神川の瞳の奥をじっと覗き込むことしかできなかった。


「ほんと勝手だよね。死んだら伝えておいてだってさ。」


怒っているように聞こえるような声音でも、神川の瞳の奥は悲しんでいるように見えた。


「自分で伝えればよかったのに。」


つぶやき声で言って、神川はそっぽを向いた。遅れてため息の音が聞こえてくる。


あの堀川さんと両想いだった。本来ならそれは嬉しいことで、喜ぶべきことだったはずなのに、僕の心は全く逆の感情を発していた。


辛くて、苦しくてどうしていいのか分からなくなる。


出来ることならそんなこと知りたくなかったと後悔すら抱いてしまうのだ。


一回一回の呼吸が重たくなって、僕の世界が現実感を失っていく。


だんだんと鼓動が速くなるのが分かるほど、全身が強く脈動していた。


噴き出すようにして次々と流れていく汗が随分と冷たいことに気がつくことで初めて自分が動揺していることを自覚した。


自覚してからは急激に心身が乱れていくのが分かった。


それから僕は、そんなに彼女のことを好きだっただろうかと、まるで他人事のように疑問に思った。涙が流れてくるたびに自問自答した。


僕は既に簡単には乾かないくらいに袖を濡らしきっていた。


「言うなよ、バカ。」


僕は愚痴るように神川に文句を言って机に顔を伏せた。




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