令和の学校教育システムとアイシス

ちなみにアナログ教師といっても、俺より年下の女教師たちだ。


両者ともアメリカへの留学経験と飛び級制度を利用して、

十八歳までに大学を卒業している天才かつ秀才だ。


一方は五教科(国数社理英)を二十歳までに教員免許をすべて揃えている。

片方は同じ歳に芸術は工芸含めてすべてマスター。

保健体育や情報科・家庭科まで担当している。

農業も当然のように指導できる力を携えている。


彼女たちの給料は通常の教師の十人分を獲得しており、

二十歳そこそこの癖に年収は四千万円を越えているそうだ。


我々薄給の公務員とは雲泥の差である。


 学校はいろんな科目を修めたジェネラル教師とカリスマ一流プロフェッショナル講師に分かれていることがざらである。

さらに彼らは特段、自分で黒板の前に立って教える訳では無い。教員不足のもっともスタンダードな解消法だろう。

生徒諸君たちが、学校のシステムに少しずつなれてきた新緑の頃から梅雨時期にかけ、各学校を巡礼することとなっている。


学校には先生と呼ばれる存在も居るには居るが、学校の制度を決めるのはほぼAIに置き換わっている。校長先生はスクールAIに駆逐されてしまった。


一人一人大切にしないといけない価値観は異なるのに、全校集会で校長が全体に長々とメッセージを出しても響く生徒は少なく効率が悪いとなってしまった。スクールAIが彼ら彼女らにそれぞれ違うメッセージを異なる表現方法で伝えたほうがいいということになった。



地球温暖化の進展で、校長の演説中に熱中症で倒れる生徒児童も後を立たなくなってしまったのも大きい。


スクールAIにより、生徒の要望を反映しつつ、学校運営と教員資格のあるサポーターのような生身の人間(もっともうちの学校は変わっているが……)と都市部の一流カリスマ講師の通信教育で運営されている。カリスマ講師はオンラインで授業を配信し、わからないことがあった教員資格のある学校の先生に聞くのだ。


今や我が国の学校は競争社会に大の効率好きの人間にとっては天国な時代だろう。

しかし、過剰な競争社会に巻き込まれており、国全体で中間テストや期末テストは廃止されている。すべての学校が同じ単元末テストをオンラインで受け、瞬時に採点され、各校の平均点が採点後すぐ公開され、ランキング形式で現れる形になっている。


競争が嫌いな人間にはディストピアだ。


戦国の世や明治憲法下に生まれたのならまさしく命懸けの状況だったが、今は死ぬ訳ではないが精神を酷使する時代が到来したのだった。誰かと比較されることが半ば教育の中では日常となっている。


半世紀近く前からやれフォロワー数やらチャンネル登録者数やらいいね!は何人だーとか、再生数は?とか広告収入はいくらだ?とか何かと視覚的にフルオープンで比べられる世の中になっていたが、それがより極度な時代だ。


昔と違って、落ちこぼれの生徒も視覚化されて、生身の先生は学校の見栄のため、その子の点数を上げるために指導に必死だった。


生身の先生のボーナスも学校のランキングに基づく傾斜配分で決定されるためだ。


基本給は教えられる科目で決まるが、

ボーナスは採点システムで决定する。


人参をぶら下げられた馬のようだった。


俺が生徒だった頃、時代はようやく学校で一人二台の通信端末が導入されたばかりだった。

何しろ学校と家庭の往復で通信端末をいちいち持ち運びするのが大変だというのではあるが、二台導入決定まで、十年ぐらいの議論をかけてようやく決定されたのだった。


現在のAIはプログラミングを作れるAIも存在するようだが、なにせ我々は地方に住んでいる。


プログラミングに無いことは実行できないバージョンの古いAIしかうちの学校にはなかった。そのため、その古いAIにアイドルとは何か?から説明をしなければならなかった。全然時代に最適化されていないポンコツAIだった。


そのポンコツAIを学校運営AI通称AISSYS(アイシス./Artificial Intelligence for School System)初号機を説得するのにだいぶ時間をとられた。

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