第6話『進化の果てに』
ある日の休日、仲の良い親子はリビングで昼下がりの時間を過ごしていました。子供は床に大きく図鑑を広げ、父親は新聞紙を読みながらソファーでゆっくりくつろいでいます。
「ねぇねぇ、おとうさん」
「なんだい、何やら難しい顔をしているね」
「ぼくたちってさ、サルから人間に進化した動物なんだよね」
息子は図鑑から顔を上げて父親に言いました。
「そうだよ。よく知ってるね」
「じゃあさ、人間が進化したらどうなるのかな?」
息子の質問に父親は少しだけ考えました。
「んー、難しい質問だね。私たちは道具を使うことを学んで二足歩行を始め、それから意思の疎通を行うために言葉を生み出した。頭もだんだん良くなってきて色んな道具を作り、独自の発展を遂げて今があるからね。これ以上の進化はないんじゃないかな」
父親はそう言って息子を納得させようとしました。
「でもさ、おとうさん。何千年もたてば変わると思うよ。見た目も。環境に応じて動物は生態を変えるって書いてあるもん。未来の環境ってどうなふうになるのかな?」
「なるほど……それはあまり考えたことがないね」
どうやら息子が広げている図鑑は人類史のようでした。子供にもわかりやすいイラスト付きの本です。父親は息子の教養のためにも人類の発展について、自身の考えを加えつつ伝えようと思いました。
「まず、私たちが今、仕事するうえで欠かせないのがパソコンなどのコンピューターだね。これを作るのも、扱うのも難しいし、知識と知恵が要るよね。しかもこの機械はバージョンアップを繰り返してますます便利な機能が搭載されるんだ。軽くなったり、できることが増えたりね。携帯電話だってすごく変化しただろう?」
言いながら父親は最新型のスマートフォンを取り出して、息子に見せました。昔の携帯電話はもっと大きく、機能が少なかったのだと。
「人間の脳は考えることが多いから大きく成長する可能性があるかな。アインシュタインみたいに頭の良い学者さんなんかは脳が大きかったらしいからね。みんな頭が大きくなるんじゃないかな。そして、より多くの情報を広く得るために眼が大きくなるかもしれない」
息子は父親の話を聞きながら何やら画用紙に絵を描いています。
「ねぇねぇ、コンピューターも進化するなら自動車もすごいことになるよね。宙に浮かぶようになったり、ものすごく速くなったり、前に見た映画みたいにタイムマシンになったりするよ。ぼく、絶対そうおもう」
「あはは、デ○リアンじゃあるまいし。そんなすごい車ができたらお父さんびっくりだな」
父親は愉快そうに笑います。
「まぁ、そうだね。移動手段が増えて歩かなくなることが多いかも。便利になりすぎると運動する機会が減るから筋肉が衰えていくし、そうなると陽にあたらなくなって青白くなるし、体毛も少なくなる。いまもさ、公園が少なくなってるくらいだからね」
「ふーん、そうなんだ」
息子はまた画用紙に絵を描き込みます。
「現代じゃ仕事も人を減らしてお給料を減らすことに頑張ってる会社が多いから、AI化が進み簡単な反復作業や大変な重労働は機械が行うようになってるんだ。すると、人は機械を操るだけの仕事ばかりになる。パソコンの文字や記号を打つのに適した長く細い指先になるだろうね」
これからの未来を想像しながら父親は語ります。
「ねぇ、おとうさん」
「うん、なんだい。絵が描けたのかな?」
息子は父親に画用紙を渡しました。
「ぼくたちが将来どうなるかわかったよ」
「え……これって……」
画用紙に描かれた絵を見て父親は言葉を失いました。
そこに描かれていたのは父親が語った通りの特徴を持つ人間の姿でした。頭が大きく、体は細く青白い、瞳は大きくて黒々としている不気味な生物。その隣には未来の自動車のイラストもあり、空を飛ぶことを想定した形となっています。
父親は息子に訊きました。これは何だと。
「宇宙人だよ、それとUFO」
……そう、我々人類が発展と進化を遂げた姿こそが、宇宙人と呼ばれる存在だったのです。頭脳の発達、運動と日光の不足、柔らかいものばかり食するようになり顎は細くなる。未来では環境に適応できず絶滅する生物も増え、いつしか我々は肉を食べる機会も減るでしょう。未来人が痩せ細るのも無理はありません。
そして、技術は進化を遂げて自動車は空を飛ぶようになり、科学の進歩によってタイムマシンが開発されるかもしれません。我々が時々対面する宇宙人という存在は未来から来た子孫である可能性が考えられるのです……。
※ただの作者の考察と妄想です。適当に流してください。
【進化の果てに・完】
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