第3話 解答編
「犯人は、旅人です。」
迷いなく発せられた犯人の名前は、オレにとっては何ら以外でもない名前だった
「正解だ。」
項垂れながら、オレは解答の正否を告げる。
でも、なんでそんな簡単に分かったんだろうか。もともとある程度の長さにする予定の小説のアイデアなのだから、さきほど語った内容では推理をするための情報が少ない。むろん、推理が成り立たないようなミスはしていないつもりだが、それにしても、やや意地悪な個所も残る。それなのに、天ヶ瀬は楽々と解き明かした。
いや、本当に彼女は正解したのだろうか?
偶然の当て推量かもしれない。勘で答えても、三分の一の確率で犯人は当たるのだから。
「ちなみに、なんで旅人が犯人だと思ったんだ?」
「いくつかありますけれども、死体が島の波打ち際で発見されたからです。乃木口くんの語りでは、『海』に流した遺体は何処かへ消えるということでした。でも、司祭の遺体は島に辿り着き、集落から見つけることが出来た。そう考えると、死体は流されたのではなく、島に運ばれたと考えるのが妥当です。しかも、亡骸の様子が語られていることから、描写はなかったですが、遺体は島から集落へと運び直されたはずです。しかし、集落の人間には『海』を渡ることが出来ません。」
「ああ、死体を担いで海を渡るなんて、よほど体力がなければできない。」
あえて意地の悪い相槌を打つ。しかし、天ヶ瀬はゆるゆると首を振る。
「違います。『海』を渡れないのは体力などの問題ではないはずです。乃木口くんは死体の行方を調べられないことについて、『ここ数年集落で命を落とす人間もなく、物理的にも調べることはできない。』と言いました。つまり、人が亡くなれば、物理的には調べることはできるということです。そうすると、集落の人々が『モルグ海』に入ることが出来ないのは、精神的な理由――宗教的な戒めからではないかと考えました。そして、遺体を『海』に流せば消失するという不思議な現象があるのに、犯人はわざわざ島に運んだ。この点から、犯人はこの集落で執り行われる弔いを見たことがない人物だと分かります。」
天ヶ瀬はそこまで語ると一度言葉を止め、乾いた唇をひと舐めする。
「旅人が集落にやってきたのは二年前。しかし、数年の間人死にがなかったことから、旅人は葬儀を見たことがなかったはずです。そして、改宗を拒まれ続けた旅人に宗教的な戒めはありません。したがって、司祭殺しの犯人は旅人です。」
ぐうの音も出ない、見事な推理だった。
「なんで、こんな意地の悪い問題がすぐに答えられるんだよ、」
つい恨み節が口を衝いてしまう。
「『海』だからじゃあないですかね。」
「どういうことだ?」
笑みを浮かべながら天ヶ瀬は細い指でオレを指し示し、その後自分の口許で人差し指を立てて、「
天ヶ瀬結の事件簿③ 『モルグ海の殺人』事件 乃木口正 @Nogiguchi-Tadasi
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