〜第44話〜 襲来

村正が俺の意思に関係なく防御をした。

俺にはそうとしか考えられなかった。


もしそうならばまだまだ村正の力を引き出せていないということだ。

そしてこいつに意思があるということ。

いつかこいつの声を聞きたい。

なんにせよ今はノアと互角に戦えている。

勝負はこれからだ。


再びノアに向き合った瞬間、謎の気配を感じた。

ここからは遥かに遠くから。


「待て…。気配を感じる」


そうノアに告げる。


「気配…?何を言って…」


ノアは言葉を途中で止め、素早く振り向く。

気配に気付いたのだろう。


「…たしかに。君の言う通りだ。みんな!試合は中止だ!正体不明な何かがこちらへ向かっている!」


大きな声を出し、みんなに知らせる。

こう言う時の状況判断はさすがと言うべきだろう。


ノアの声に観客席はザワつき始める。

そんな中、俺たちが立つステージにはスレイヤーさんや医療班、控室にいた討伐隊のメンバーがぞろぞろと集まってきた。


そんな中、マイク越しに発された声が会場全体に響き渡る。


「皆さん!落ち着いて聞いてください!何者かがここに接近しています。ですがここには討伐隊の面々、あのスレイヤーもいます!慌てずその場で待機してください!」


その声は今までの実況者の声とは違う女性によるもので、美しくそしてなぜか安心感の与える声だった。

その声を聞き、観客は静かにその場でじっとしていた。


「敵を迎え撃つ部隊と観客の護衛をする部隊に分かれるぞ!」


ノアがステージに集まったみんなに向かってそう言った。

迎え撃つ部隊はスレイヤーさん。

そして連携が取れるノアさんとルーカスさん、ゆずさんの4人。

それ以外は観客の護衛として観客席へと向かう。


人数のバランスが悪すぎるが最小限の人数じゃなきゃスレイヤーさんの邪魔になる。

それに観客の護衛が最優先だ。


敵がここに来るまでにはまだ時間がかかる。

そしてこの気配には心当たりがあった。

俺と聴視あきみは互いに目線を交わし合い、観客席へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


聴視あきみ視点〜


奴らがきた。

戦うのは一体何回目なんだ。

だが今回は頼れる仲間が多くいる。

まさか討伐隊の初陣がこんな形になるとは。


そしてこちらの準備が整った時、奴らは姿を現した。

ステージに舞い降りる4人の魔族。

その中にはサリタンの姿もあった。


魔族が4人もいると迫力が違う。

場は静まり返り、緊張感が走る。


そんな中、ゆっくりと4人の魔族が地面に手をつける。

すると地面から続々とモンスターが姿を現した。

おそらく召喚魔法であろう。

ゲームで散々見た魔法だが、その禍々しさに思わず息を呑む。

召喚されたモンスターは観客席へと乗り込み、護衛をしている討伐隊との戦闘がそこら中で始まった。


しかし俺はモンスターを倒しながら違和感を感じていた。

何かがおかしい。

あまりにも急すぎる。

それに魔族はたったの4人、討伐隊が集まるこの場所にわざわざ向かってきたにしては少ない戦力だ。

そして召喚されたモンスターは強くてBランクほどで、質より量といった感じだ。

さらに俺でも気づけたほどのあの気配。

まるで俺たちにわざと気づかせたようだ。


ならばやつらの狙いは俺たちを倒すことではなく、おそらく時間稼ぎ。

一体なんのために…?


そこから答えを導くのにそう時間はかからなかった。

やつらの狙いはこの国の王だ。

この国を支配することができれば人間側の戦力はぐんと下がる。

さらにこの国は魔王城に近い場所に位置している。

支配されると魔王城の攻略も難しくなってくる。

なんとか阻止しなければならない。


その旨をけっつんに簡潔に伝えるとすぐに理解してくれた。

けっつんも違和感を感じていたのかもしれない。

そして俺はステージに降りると伝え、けっつんにこの場を任せた。


向かってくるモンスターを蹴散らし、スレイヤーさん達の元へと辿り着く。


「奴らの狙いは時間稼ぎだ!王様が危ない!」


なるべく簡潔に、俺はそう叫んだ。

だがスレイヤー、ノア、ルーカス、ゆずの4人は何も言わずモンスターと魔族と対峙している。


聞こえているはずだ。

俺が新入りだから信用されていないのか…?

俺はもう一度息を吸い、言葉を発そうとする。


その瞬間、4人の魔族の姿がブレ、消える。

まずい。

そう頭が理解するより先に体が動いた。

バックステップをふみ、さらに風魔法を使い体を後ろへ押し出す。

景色が線になる中、かろうじて見える景色には4人の魔族が俺がいた位置を囲うように姿を

現し、刀を振っている姿だった。

それをノアさん、ルーカスさん、そして残りの2人をスレイヤーさんが刀で受けていた。

そしてそれぞれ刀を交わらせて押し合いをしている。

その結果魔族4人ともが弾かれ、少し距離を置いた。


聴視あきみ、さっきの話は本当か?」


声を出したのはルーカスさんだった。


「おそらくだけど…奴らの狙いは時間稼ぎ、そうじゃなきゃそもそも戦力が少なすぎるし、観客を襲って無駄な犠牲を出してる事の説明もつかない」


「ふむ、なるほど。ならばノアとルーカス、ゆずで城へ迎え」


スレイヤーさんがそう言った。


「わかりました。…ただあと1人だけ、けっつんだけ連れて行っていいですか?」


「ふっ、ノアがそこまで言うとは…よほど気に入っているんだな」


「ええ、まぁ」


「わかった。4人で城へ迎え」


『はい!』


そうして2人だけが残った。

この采配に文句はない。

あの4人なら王を守る事もできるだろう。

だが、この4人の魔族を俺とスレイヤーさんで倒せるのか…?

奴らにはまだ奥の手もある。

いくらスレイヤーさんと言えど…


「不安か?」


「いや…はい、不安です」


「正直だな、いい事だ」


「だって、奴らはまだ奥の手を隠してるし、それに4人もいる。観客でも狙われてたらいくらスレイヤーさんでも…」


「大丈夫だ。安心しろ。俺は討伐隊最強のスレイヤーだ」


驚く事に俺の不安はその一言で全てなくなった。

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