〜第43話〜 剣士vs剣士
「な、なんということだぁぁ!
その実況が掻き消すくらいの歓声が会場全体を震わせる。
「まさに魔術師!その種類の豊富さとそれを扱いきる頭脳!討伐隊が誇る最強の盾に勝利をおさめたー!」
持ち上げまくる実況と歓声を聞きながら控室へと戻る。
この試合、俺が勝ったのは偶然だ。
俺の手の内がバレていない初試合だから勝てただけ、次はないだろう。
だがあれほどの相手に勝利を収めた。
そして何より助けることができた。
その事実に心が震えない訳がなかった。
自分の成長を実感できるこの機会があってよかった。
そう噛み締めた。
長い廊下を歩いていると1つの人影が現れた。
その人影に向かって俺は言う。
「俺は勝った、次はお前の番だ。」
「任せとけ」
高く挙げられた手のひらを俺は少し強めに叩いた。
次はあいつの番だ。
だが懸念点はある。
あの新しくもらった剣、妖刀村正だ。
あれを扱えたものはいないらしいし、そんな代物をこんな短時間で扱えるとは思えない。
だが扱えなければ勝ち目はないだろう。
俺は観客にバレないように上の観客席に入り、端っこの席に座る。
控室でもらった青色の魔力が回復するポーション的なものを一口飲む。
うん、おいしい。
魔力回復アイテムがあるのは助かるな。
「おお、やるじゃねえかガキ」
突然そんな言葉を投げかけられる。
声がした方を見ると隣に座っていたのよしのりさんだった。
突然現れたよしのりさんに心臓が止まりかけるもなんとか返事をする。
「まぐれですよ。それより次はけっつんの試合ですね。大丈夫かな…」
「大丈夫だろ。そうじゃなきゃ困る」
「…ははっ、そうですね」
よしのりさんがけっつんに寄せる信頼が垣間見えた所で実況が始まる。
「さぁさぁ!先ほどは誰もが予想しなかった大波乱が起こりました!そしてこの男も突然の参加!またもやブラックホールとなるか?けっつん選手だぁぁぁ!」
その声とともに出てくるハッピを背負った男。今更だがやはりおかしな格好だ。
どこぞのお祭り男みたいだ。
「対するはこの男!討伐隊No.2にして前回チャンピオン!ノアーー!」
出てくるのは1人の金髪の好青年。
2人が中央に集まる。
「さぁ!今度は剣士と剣士の戦い!真っ向勝負です!ブラックホールのけっつんが勝ちをもぎ取るか!それともノアが順当に勝利を掴むか!」
2人が握手をし、少し離れる。
「さぁ!始まりの合図がいま…」
カァーン!
「なったー!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜けっつん視点〜
もう時間が来た。
ここまできたらやるしかない。
それにあいつも勝ちやがったしな。
対戦相手であるノアがこちらへ歩いてくる。
今は実況の声も観客の声も聞こえない。
俺は今、ノアにだけ集中している。
「よろしく」
そう言ってノアは手を差し出す。
「ああ、よろしく」
がっちりと手を掴み気持ち強めに握る。
そしてその後互いに距離をとる。
カァーン!
その合図とともに剣を抜く。
こいつから溢れる力を感じれる様になれたがまだ扱いきれてはいない。
時間がなさすぎた。
だがやるしかない。
こういう時は先手必勝。
素早く距離を詰め、刀を一振り。
簡単にいなされ、カウンターが飛んでくる。
俺は上半身を後ろに引き、刀は頬を掠める。
そしてすぐにこちらもカウンター。
だがこれもバックステップで避けられる。
2人の間に距離ができ、息の詰まる攻防が終わる。
そしてこの一瞬の攻防で力関係がハッキリした。
純粋な強さじゃ俺は勝てない。
予想はしていた。
そして対策も立ててきた。
本当はあまりやりたくないんだけどな…。
「戦いの最中に考え事か?」
気がつくとノアは目の前にいて、刀が振り下ろされる。
俺はすぐに後ろに距離を取るが間に合わない。
胴体を刀が切り裂き、血が湯水のように溢れ出す。
そしてすかさずニの太刀を繰り出すノア。
かろうじて刀で受けるが体制を崩す。
まずい、このままじゃ押し切られる。
刀を力強く握り直し、カウンターを放つ。
簡単に避けられ、逆にカウンターを受ける。
形勢は変わらず、ノアは攻撃の手を緩めない。
躊躇ってる時間はない。
やるしかない。
手のひらから魔力を火魔法として放出させる。
そして両手に握る剣に伝わせる。
その結果剣は火に纏われ、ひとまわり分リーチが伸びる。
その姿にノアが一瞬怯む。
その隙に手のひらをノアにむけ、とにかく大きくした火球を放つ。
ノアは火球を真っ二つに切るがその間に距離をとる。
「ふっ、こざかしい」
ノアは吐き捨てるように言う。
「わりぃな。ほんとは剣一つで戦いたかったんだが…勝てなきゃ意味がねえんだ」
そう言いながら剣先をノアに向ける。
その瞬間剣を纏っていた炎は剣先に集まり、1本のレーザーのように発射される。
ノアはこの不意打ちを防ぐが体制が崩れる。
その間に距離を詰め、再び炎を纏った剣でノアに斬りかかる。
防がれはするものの、リーチで勝っている分、互角だ。
そのまま互いに一進一退の攻防が続いた。
近接先頭になると慣れていない魔法は使う暇がなく、状況を打開できる策は互いになかった。
そんな中一瞬、刀を握る右手に違和感が走った。
だがそんなのは気にする暇もない。
一瞬でも集中力が切れれば押し切られる。
そして刀を振った瞬間、ノアが吹っ飛んだ。
何が起きたかを理解するのにそう時間はかからなかった。
誰がどう見ても俺がノアを吹っ飛ばした。
観客にも実況にも、そしてノアにもそう映った。
俺が本当の力を隠していたと。
だが違う。
俺の力じゃない。
これは村正の力だ。
あの違和感、間違いない。
たったの一瞬、だが確実に村正の力を引き出せた。
「なんのつもりだ…?俺相手に手加減していたのか?」
煙から出てくるノアが怒りの混ざった声で言う。
「そうじゃない。…だがこれが本気だと約束するぜ」
「はっ、おもしろい!」
十文字に刀を交差させる。
押し合いでは互角。
互いに刀を弾き、一度距離ができる。
そしてすかさず距離を詰め、刀を振る。
さっきの力は出ていない。
だが掴んだ、確かに。
あの感覚を思い出し、もう一度刀を振るう。
さっきと同じ感覚をハッキリと感じた。
だがノアは吹っ飛ばなかった。
俺の刀を受け流したのだ。
「パワー馬鹿には慣れてるんだよ!」
そう言いながら俺の脇腹目掛けて刀を振る。
俺は反応できなかった。
はずだ。
カキーンと音が鳴り、ノアの刀が弾かれる。
右手はいつのまにか防御の姿勢に入っていた。
今のは俺の意思じゃない。
防御は確実に間に合わなかったはずだ。
だが俺の手には残っていた。
村正の力を引き出した時のあの感覚が。
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