〜第42話〜 初試合
俺たちはよしのりさんの店を出てからすぐにトーナメント会場まで戻った。
試合は3分の1が終わったくらいで俺たちの出番はまだまだだった。
けっつんは1人になりたいと言いどこかへ行ってしまい、取り残された俺はやることもないので試合を観戦していた。
他の人の戦い方を参考にしつつ、どう戦うかを考えていると時間はあっという間に過ぎていった。
そして出番がきた。
「さぁさぁ!次の試合は、急遽参加する事になりました!登場してもらいましょう、
暗く長い廊下を抜けてフィールドへと出る。
フィールドは上から見てると小さく見えたが思っていたよりも大きく、観客の声がよく聞こえる。
「急遽の参加により空いている場所がなく、初戦からシードの予定だったこの男と戦います!登場してもらいましょう、ルーカス!」
奥から1人の男が歩いてくる。
この男も観客席から見るよりも大きい。
「ルーカスだ。今日はいい勝負をしよう」
「
「さぁ!試合開始はもうすぐだ!順当にルーカスが勝つか!それとも謎だらけの男、
観客がわぁー!と声をあげる。
その大きさに音の震えを感じられた。
「両者位置について!試合開始の合図が…」
ゴォーン!
「鳴ったー!!」
その音とともにバックステップを踏む。
ルーカスさんは動かない。
よかった。
距離を詰められたら勝ち目はない。
俺はまだ戦い方が定まっていなかった。
ルーカスさんの特徴はその防御力。
それを破らなければ勝利はない。
だが俺にその防御力に勝るほどの魔法はない。
どうにかして隙を作り出さないといけない。
とりあえずものは試しだ。
色々な魔法を使ってみよう。
まずは木魔法。
ルーカスさんの後方から大きなツルを作り、薙ぎ払う。
ルーカスさんはすぐに反応し、その場でツルを両断。
その間に足元からツルを伸ばし、全身を絡めとる。
だが軽く破られる。
ムキムキの筋肉を持った人が力を入れるだけで服を破るかのように。
んー、ダメか。
これができたら動きを止めれて大分楽になるんだけどな。
まあしょうがない。
次だ。
手のひらに火の玉を作り、ルーカスさんに向け発射。
簡単に躱される。
だがそれでいい。
これは布石だ。
すぐさま躱した先の地面にトラップ魔法を仕掛ける。
ルーカスさんがそのトラップを踏んだ瞬間、その場に火の柱が作られる。
このトラップ型の魔法は最近考えついたものだ。
理屈はよくわかってないがなんかできた。
いつかしっかりとした理論を立てたい所だ。
恐ろしいほどの炎が燃え盛る。
そして何事もなかったかのように消えていく。
だがルーカスさんは立っていた。
それどころかほとんど負傷の跡がない。
やはりこれぐらいじゃ倒せないか。
だが攻撃を当てる事はできた。
あと一歩だ。
さて、どうしようか…。
火もダメ、木もダメ。
後使えるのは水、氷、土、岩、風くらいか。毒は人間にはなるべく使いたくないし。
まぁ、これも1つずつ試していくか。
水の矢をルーカスさんの四方八方に作る。
死角はない。
全部を一斉に発射。
水の矢をはルーカスさん目掛けて飛んでいく。
ルーカスさんは水の矢を弾きながら前に思いきりダッシュする。
そしてそのまま俺の方へ向かってくる。
距離が一瞬で詰まる。
やべ、油断してた。
急いで俺とルーカスさんの間に土の壁を作る。
土の壁は一瞬にして真っ二つにされる。
だがそれでいい。
土の壁はただの時間稼ぎ、そして相手に俺の姿を見せないことが目的だ。
土の壁を切り伏せ、突進してくるルーカスさんと目が合う。
そして地面に仕掛けておいたトラップにより今度は水の柱ができる。
これはルーカスさんの足が一瞬止まる程度。
だがこれも目的は別にある。
「その程度の魔法効かないぞ!」
そう叫び、再び距離を詰めるため、突進してくる。
真っ直ぐに。
これはできれば使いたくなかった。
まだ調整が難しいため、観客も巻き添えになる可能性があったからだ。
だが、ルーカスさんが濡れている今。
威力を弱めに設定しても効果は絶大だ。
手のひらに貯めた魔力が雷に変わり、放出される。
バリバリと音を鳴らし、白色とも紫色とも見えるそれは、目に追えないほどのスピードで空気を切り裂く。
そしてそのまま向かってくるルーカスさんとぶつかり、一瞬にして全身へまわる。
凄まじい放電現象が起こり、余波で俺にも通電する。
「ぐわぁぁぁ!」
「いてっ」
ちょっと強い静電気程度の俺に比べ、ルーカスさんへのダメージは大きいようだ。
その証拠に、ルーカスさんから煙が上がる。
渾身の一撃だ。
だがこれで終わるとは思えない。
俺はすぐに水の矢をつくる。
動きが止まっている今しかチャンスはない。
パワー最大、スピード最大、回転最大。
俺が今出せる最高出力の技だ。
キュインと音を出しながら発射。
それはルーカスさんの右腹に大きく穴を開け、そのまま後ろの壁にも大きな風穴を開けた。
「…え?」
俺を含めその場にいた全員が状況を飲み込めずにいた。
俺はすぐに我に帰り、状況確認。
幸いな事に水の矢が風穴を空けたのは下側の壁、観客席は上側にあり被害はなかったが問題はルーカスさんだ。
その場に倒れたルーカスさんの元へ駆け寄る。
「見事だ…。この勝負…俺の…負けだ」
そう途切れ途切れの声で囁いた。
すぐに俺は治癒魔法を使う。
ここまでの怪我を治したことはないがせめて治療班が来るまでの時間を稼ぐ。
俺は全神経を手に集中させ治癒魔法を使う。
会場がざわめく。
だが誰も何も言わず時間だけが過ぎていった。
そして1分ほど経った。
「
その声も俺には届かない。
「
その瞬間、手に流れていた魔力が急激に弱まり、治癒魔法が使えなくなる。
いくら使おうとしても何もできない。
「嘘だろ…こんな時に魔力切れかよ!頼む…治ってくれよ…」
「
その時初めて声が聞こえた。
周りを見ると数人に囲まれていた。
「落ち着いてください。ルーカスさんはもう大丈夫です」
「大丈夫って…。こんなに大きい穴が…」
自分の目を疑った。
右腹に空いていた大きな穴は何事もなかったかのように塞がっていた。
「
俺がやったのか…。
ああ…よかった。
俺は緊張状態から解放され、その場にへたれこむ。
ルーカスさんは医療班によって控室に運ばれていった。
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