〜第41話〜 よしのり

個人戦当日。

元々決まっていた順番に俺たちを捩じ込んだらしい。

どうやって捩じ込んだかというと、それは空いているところに無理やり入れたんだ。

え?空いてるところなんてあるのかって?

もちろん欠場者や出場停止者なんていない。

じゃあどこが空いてるかって?

シードだよ!

よりによって初戦からシードだった人と当たるんだよ!

勝てねえだろこれ!


と、嘆いても現状は変わりませんね、ええ。

シードという名前に狼狽えず1度対戦相手を見てみましょう。

壁には貼り付けられている対戦表を見ると…名前は…ルーカス。

うーむ、顔がわかりませんね。

だが幸いな事に今は出場者が集められています。

誰かに聞いて教えてもらいましょう。

なんか優しそうな人に…。


「すいません…ルーカスっていう人ってどなたですかね?」


「ん…、あんた急に参戦する事になった人か。最初からルーカスさんとは大変だね。あ、あの人だよ。昨日の優勝チームの1人さ。ほら、スレイヤーさんと戦ってた人」


あ、うん。

負けですねこれ。


だってあの人勇者の剣持ってる時のけっつんと同じくらいの強さだよ多分。

ってことはあの魔族と同じレベルだよ。

無理だよそんなの。

助けてーどら◯もーん!


「あ、ありがとうございます…。できるだけ頑張ります」


「うん、がんばれよ!」


めちゃ良い人だったな。

これからも困ったらあの人聞こうかな。

いや、色んな人と関わったほうがいいか。

ただでさえ俺たちは浮いてるだし。

でも俺たちをよく思わない人だっているかもしれない。


…どっちでもいいわ。

今はルーカスさんとどう戦うか考えないと。


「よぉ、お互い大変だな」


「ん…おお、けっつんか」


「相手あの人だろ?昨日スレイヤーさんと戦ってた」


「ああ、ルーカスさんな。けっつんはもう1人の?」


「ノアさんだ」


「だよな…俺たち1回戦も越えられないぞこれ」


「1回戦超えたら優勝だな」


「はっ、超えたらな」


「なぁ、まだ試合まで時間あるよな?」


「ああ、俺はお前の一個前だがらな。どうかしたか?」


「ちょっと見たいもんがあってな。付き合ってくれてねえか?」


「ん、おっけー」


ちょうどいい。

俺も現実逃避したいし…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「着いたぞ」


けっつんも緊張しているのか道中は一言も話さなかった。

そして着いたのはどうやら武器屋。


「こいつはその場しのぎで買った安物だからな」


そう言って腰にかかった剣に手をかける。


「愛着が生まれてきたところだがこいつじゃこの先は無理だ。良いやつが欲しい。今は金もあるし」


そう言ってから武器屋の扉を開ける。


「らっしゃい」


店主らしき男はそれだけポツリと言い、新聞のような紙を眺めている。


おお…。

出たぞ、無愛想な店主。

まさか生で見れる日がくるとは。


にしてもすげえ品揃えだ。

防具はあっちでこっちが武器か。

うわぁすげえ…

刀だけじゃなくて斧や槍、ハンマーまであるぞ。

いいなぁ…俺もなんか武器買おうかな…。


「すげえなこれ…。何買うんだ?…けっつん?聞いてるか?」


返事がない。

ぼーっとしてる…のか?

いや、何かを見てる?


けっつんが見ている方向と同じ方向を見る。

そこには1本の刀が飾ってあった。


「おっちゃん!これくれ!」


けっつんはそう言い刀を指差す。


「…できねぇな」


当たり前だ。

あれは明らかに非売品だ。

よっぽど高いか、店主のお気に入りかだな。


「これじゃなきゃダメなんだ!頼む!」


「刀ならそこにたくさんあるだろう」


「ねぇんだ!俺が今見えてる刀はこれだけだ!」


「そう言われたって無理なもんは無理だ。諦めてくれ」


「金ならある!」


「金じゃねえんだ。そんなもんじゃこいつの価値は決められない」


「俺ならこいつの価値が分かる!頼む!売ってくれ!」


「しつこいな…」


「勝つにはこれしかねぇんだ!」


「勝つ?誰にだ?」


「ノアさんだ。今のままじゃ手も足も出ねえんだ」


「あんた…トーナメントに出るのか?見ない顔だが…」


「急遽出る事になったんだ。討伐隊に入ったからな」


「あのノアに勝つつもりか?No.2だぞ?」


「当たり前だ!」


「ふっ、ワッハッハ!お前面白いな!」


「な、何笑ってんだよ」


「気に入った!この刀やろう!」


「ほんとかおっさん!」


「だが条件がある。ノアに勝て!それができなければこの刀は返してもらう」


「…わかった」


「今のところあいつに勝てるのはスレイヤーだけだからな。一泡吹かせてやれよ」


「ああ、面白いもの見せてやる。今日の最後だからな!絶対来いよ!おっさん!」


「わかったよ!それとおっさんじゃねえ。よしのりだ」


…よしのり?

このおっさん…もしかして…。


「この刀は俺の師匠が打った最後の刀、妖刀村正だ。変な名前だろ?これは俺の故郷で有名な名前でな、師匠が亡くなったあと、俺が名前をつけたんだ。さぁ受け取れ」


「…いや。良い名前だ」


けっつんはそう言い、差し出された村正を手にした。


「村正は妖刀というだけになかなか特殊な刀だ。今まで村正の力を完全に発揮できた者はいない。あのノアでもな」


「おもしれぇ…持ち主を選ぶ剣か」


「ああ。武器という観点で持ち主を選ぶというのはそれだけ扱いにくいという事だからよくないのだがな。だがこいつはそんな次元の話じゃない。刀のポテンシャルが高すぎるんだ」


「師匠はよっぽどすごい人だったんだな」


「ああ。名刀と呼ばれる刀を数多く作った人だからな。そんな人が強さだけを詰め込んだ刀。それが村正だ。そして誰にも扱えないじゃじゃ馬が生まれた。初めて見た時俺は思った。これが本来の刀の形だと、ただ強さだけを求めた武器だと。それから俺も刀を何本か打ったがまだまだだ」


「…納得がいく刀が打てたら俺にくれ」


「ワッハッハ!生意気な若造だ。いいぜ、渾身の出来ができたらお前にやろう」


そう言ってよしのりは笑っていた。


「この刀もらえたのは嬉しいんだけどお金はいいのか?」


そこで俺はどうしても気になってしまったのでつい口を挟んでしまった。


「あ?いいよそんなもん。お代はノアに勝つ事で返してくれ」


「ああ、まかせろ。試合は今日だから見に来いよ」


「わかった。あんた名前は?」


「けっつんだ。じゃあな!よしのりのおっさん!」


そう言って俺たちは店を出た。


「だからおっさんじゃないって言ってるのによ…。ふっ、けっつんか。面白いやつだ。さて、はやいとこ店を閉めて見に行ってやるか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る