第160話 ランガート伯爵
ロスラント伯爵様よりデリスの将来について話し合いたいと申し出があり、デリスを伴って伯爵邸に出向いた。
サロンに迎えられ伯爵様と向かい合ったが、何故かリンディが伯爵様の隣りに座る。
ひとしきりの挨拶の後、伯爵様の咳払いでデリスに対する王家の申し出が伝えられた。
今回の事件、王家魔法部隊の脱走者ベイオス以下二名鎮圧の立役者たるデリスに、子爵位を与えたいとの国王陛下の申し出だ。
ロスラント伯爵様より、デリスの将来と申し出を受けた時点で予想できた事で、ただ俺との兼ね合いもあり男爵位だと思っていた。
それが男爵ではなく子爵であったが、デリスの返答は決まっており躊躇いも無く断った。
「そう言われると思っていたよ。実は、私一人がリンディ嬢をエスコートするには少し無理があってね。ファーガネス領を賜ったが、一度も領地にすら行けていない。そこへ今回の事件だ。デリス君を子爵に叙爵し、王城でのエスコート役を頼みたい。デリス君も子爵ともなれば、リンディ嬢と対等の立場になれるのでプロポーズも可能だろう」
ちょっと待て!
横のデリスを見ればリンディを見て頬を染めていて、リンディも恥じらっている。
デリスはもうすぐ19才、リンディは・・・あれから4年半経っているから22、3才か。
こんな所にリア充が居たとはな。
俺はリンディに恋心はない。
と言うより、未だ男としての身体になっていない、と思う。
前世では12、3才で精通を経験したが、その兆候すらないので外見と中身が合っていないとは感じていた。
黒龍族の血が1/2とはいえ、黒龍族の生態を知らないので判らないが多分エルフの血かな。
デリスは、リンディと同格プロポーズと言われて、見つめ合っている。
はいはい、好きにしろってんだ!。
デリスは元々伯爵家の人間であり、今回の事件で魔法巧者だと知れ渡った。
俺が手ほどきしたと知られても、一介の冒険者となれば貴族達の争奪戦が始まる。
それが子爵位を授かり王国の貴族となれば手は出せないし、貴族の中では魔法使いとして並ぶ者なき存在になるだろう。
姐さん女房で何が気に入らないのか、リンディの顔を見ながら困っているデリスの尻を蹴飛ばしてやる。
「リンディと結ばれたくば、申し出を受ければ良いのさ。元々伯爵家の人間だし、今回の事で叙爵しても文句は出ないだろう。それにロスラント伯爵様一人に、リンディのエスコートを頼むのは心苦しいからな。ハリスン達には上手く言っておいてやるよ」
* * * * * * *
「ヘルシンド殿、デリスが申し出を受けてくれましたが条件が一つ。貴族の五男として領地経営など何も知らないので、領地は不要との事です」
「領地を望まないとはまた」
「彼の周囲には、富や栄誉を求めない者ばかりですよ。彼もリンディが居なければ申し出を受けたかどうか」
「彼の様な人材が王家に忠誠を誓ってくれるのは有り難い。カンダール家は惜しい人材を放逐したものだ。当主は国外追放、後を継いだ者は一年少々で隠居、その後を継いだ四男も頼りなさそうで頭が痛いですよ」
満座の中で恥をかいたのだ、死ぬまで領地に籠もっている訳にもいくまい。
カンダール家の名誉は地に落ちたが、デリスが授爵すればそれに拍車が掛かるか。
「ロスラント殿、フェルナンド男爵は未だ王都に居るのでしょうな」
「はい、昨日今日の事ですし居ると思いますよ」
「では、デリスの授爵を急ぐ様に陛下に進言致します。彼にデリスの授爵式に立ち会って貰えれば、他の貴族達もデリスが何者かを理解するでしょう」
「それは又、皮肉な事になりますよ。デリスを追放したカンダール家と、追放されたデリスが同格の貴族になれば」
* * * * * * *
後日、デリスを伴って迎えの馬車に乗り王城へ向かった。
国王と宰相にロスラント伯爵を交えた話し合いで、デリスは年金貴族として伯爵位をと言いだした。
それについては話が大きくなっていたので問い質すと、狐親父の言い訳が振るっていた。
「此の度の事件は魔法部隊の脱走者三名によるもので、逃走時と捕獲時に多大な被害がでた。王国騎士団と魔法部隊に捜索に当たった警備隊では太刀打ち出来なかったが、デリス一人で三名を倒した功績は大きい事。王城内でリンディのエスコート役を務め、公式行事の際には予の傍らで護衛を務めるのなら伯爵は当然だ」
と抜かし、その後でデリスに向かい「リンディを娶るのなら、伯爵の方が良かろう」とニンマリと笑いやがる。
「陛下、俺の男爵でも何かと不満が出ていたのに、またぞろエレバリンの様な奴が沸いて出ても知りませんよ」
「なに、あの騒動を治めただけで子爵位は当然だが、授爵後デリスの魔法を披露して貰う。世襲と年功序列でその地位に就いた者に、実力者を重用すると知らしめる意味もあるのだ。それに、その方には依頼で男爵になって貰っている。王家の配下としての実力者も欲しいのだ」
デリスは、異例の年金貴族で在りながら伯爵となる事が決まった。
デリスの仕事は、公式行事の際に陛下の護衛とリンディのエスコート役、公式行事にはリンディは国王と王家一族の傍らに控えるので、デリスも当然側に居る事になる。
伯爵として月々金貨200枚年に金貨2.400枚の支給と、子爵以上には貴族街に館を与えるのだが、年金貴族は貴族街に館は与えられない。
なので俺のアパートをデリスに提供し、俺は一部屋を寝室兼居間として使用する事にした。
と言っても、デリスにいきなり家臣や家具が増える訳でもないので当分は現状維持だろう。
但しあの家には厩と馬車置き場が無い、一階を厩と馬車置き場に改造する許可を貰う。
それからが一悶着、デリスはカンダールの姓は捨てているので名乗る気はない。
ならばリンディに習ってフェルナンドと宰相が言いだしたので、俺が断固拒否。
俺は男爵と謂えども気楽な冒険者で、フェルナンド一派をつくるつもりはない。
フェルナンド姓の貴族が三人で、その筆頭が男爵など笑い者もいいところだ。
良い家名と紋章を考えてやるのも、国王の仕事だと丸投げする。
* * * * * * *
九月半ば、王都に滞在する貴族が見守る中、デリスの伯爵位授爵の式典が行われた。
先の事件を鎮めた事と、デリスが火魔法・土魔法・結界魔法・転移魔法の優れた使い手と説明されて、伯爵位を授かる事に大きな反対はなかった。
同時にリンディ・フェルナンド子爵との婚約も発表されて、閲見の間が大騒ぎになった。
立ち会いを求められて渋々付き合った俺は、リンディと共に高位貴族の位置に居たが、皆はリンディは俺と結婚すると思っていたらしい。
デリス・ランガート伯爵、紋章は交差するストーンランスに翼を持つ真紅の狼。
紋章は国王陛下より贈られ、家名は生まれた街の名から拝借したそうだ。
翌日行われた魔法披露は、陛下の護衛として闘技場に入り、魔法部隊の待ち構える前に転移魔法でジャンプして、魔法部隊の一斉攻撃を受ける事から始まった。
ファイヤーボール、ストーンランス、アイスランス、雷撃の攻撃を順次受け、その後一斉攻撃を三度受けて結界の無敵さを見せつける。
その後、魔力を三つ使ったファイヤーボールとストーンランスを各五連射してみせ、最後に国王陛下の前にジャンプし跪く演出。
俺は師匠として立ち会って欲しいと頼まれて、恥ずかしいのでリンディの後ろに隠れていた。
リンディのエスコート役を、ロスラント伯爵様一人に押しつける心苦しさはなくなったし、俺が男爵を辞めてもホリエントの就職先の目処は付いた。
と言うか、デリスは俺のアパートが住居になるので、時期をみてホリエントと妻子を彼に押しつけるつもりだ。
俺はデリス邸に寄生する居候なので、配下のホリエント達を受け入れる部屋もないので仕方がない。
* * * * * * *
デリスが伯爵となった事を、アパートに帰ってホリエントに報告すると呆れかえっていた。
「どうりで、街着にしては上等すぎる服を誂えていると思ったよ。で、ランガート伯爵様は当分此処に居るんだな」
「ホリエントさん、伯爵様は止して下さいよ。今まで通りデリスでお願いします。剣の稽古も続けますので、宜しくお願いします」
「おっ、伯爵様をぶん殴れる機会なんぞ滅多に無いから楽しみだな」
「あっ、ユーゴ様の居る時だけにして下さいね」
「リンディと結婚するんだから、気にせず叩きのめしていいぞ」
「何い~ぃ、伯爵になってリンディ嬢も手に入れたのか! 羨ましい奴って言うより、ユーゴは完全に負けているな。お前の配下として、稽古の時に仇は取ってやるからな♪」
へいへい、可哀想な子を見る様な目で俺を見るホリエントは、この状況を楽しんでいるのが丸わかりだ。
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