第151話 一兵卒

 追記として、ランゴットを取り調べた警備隊の主任が、最後に捕らえた男がフェルナンド男爵を兄貴と呼び、親しげに話しかけていたと記されていた。


 捕らえられた男は18才、フェルナンド男爵を兄貴と呼んで不思議はないが、親しげな者を何故指示までして捕らえさせたのか?

 追記の内容が頭から離れず、又フェルナンド男爵の事は報告の義務が有るので、王城へ出向いてヘルシンド宰相に報告書を見せて意見を聞いてみた。


 ヘルシンド宰相も意味が判らずに、相談の結果その男がどうなったのか確認を求める事になった。


 * * * * * * *


 返事が帰って来たのは一月半以上経ってからだが、通常業務の連絡と問題の人物の境遇や現在の処遇なども調べての報告なので遅くなった。


 フェルナンド男爵が指示をして、捕縛させた男の名はベイオス18才。

 高額窃盗の為に、犯罪奴隷10年の刑を受けて鉱山送りになったと書かれていた。


 フェルナンド男爵の事は知らず、自分は仕事に行った先で出会った郷里の者だと言っているが、ぜんせとか、にほんとか訳の判らない事をしきりに喋る事。 その郷里の者の特徴として、猫人族で鈍い銀色の毛並みに縞模様、目の色は赤銅色とフェルナンド男爵の特徴を明確に話している。

 フェルナンド男爵の事をかわせと呼び、自分は以前ほんまと呼ばれていたと話しているとも書かれていた。


 補足として、ベイオスは父親ルークスの子としてフェルカナの家に生まれ、街を一歩も出た事はなく、彼の話す人物は周辺には存在しないと結ばれていた。


 報告書を読んで、ますますもって訳が判らなくなる。

 報告書の内容は自分一人の手には負えないと、再びヘルシンド宰相を訪ねる事になった。


 報告書を読んだヘルシンド宰相は「何ですか、此れは」と言ったきり首を捻っている。

 ただ読み過ごす訳にはいかない部分がある。


 フェルナンド男爵は、ヴォーグル領フンザの町で、ホニングス男爵の子フェルナンとして生まれたのは確認済みだ。

 フェルカナとは縁も縁もないし、問題の男と関わりがあるとすれば冒険者としてだが、彼は奉公人で冒険者ではない。

 フェルナンド男爵が、かわせ等と訳の判らない名を名乗った記録もない。


 「一つ引っ掛かるのは、仕事で行った先で彼と出会い、兄貴と呼び親しげであった。と、先の報告にあった事だ。此の男が仕事先で出会ったところが何処か、その辺りの事を詳しく調べて貰えないか」


 「それなら、彼は犯罪奴隷として鉱山送りになっていますので、何処に送られたのか報告が来ているはずですよ」


 ロスラント伯爵が報告を終えて帰ると補佐官が呼ばれて、ベイオスなる男が何処の鉱山に送られたのか調べさせた。

 ベイオスが送られたのは、シエナラ街道ハブァスの街から二日の距離、スタンザス銅山だと判った。


 直ぐにベイオスが仕事先で出会った場所と、フェルナンドをかわせと呼んだ経緯を詳しく調べる様にと、調査官を派遣した。


 * * * * * * *


 ハリスン達と行動を共にして、デリスとホウルの魔力確認をする。

 デリスは又一つ増えて、魔力が81になっていて羨ましい。

 ホウルは以前鑑定した時は38だったが45に増えていた。


 「ホウルの魔力が45に増えているよ」


 「本当かい。いや~寝る前の魔力切れを続けている甲斐があるな」


 試しにストーンランスを射って貰ったが、十分過ぎるほど強力だが魔力を3使っている。

 魔力を絞る練習の為、少しずつ魔力を少なくしながら拳大の石になるまで続けさせる。

 最終的に魔力1.5で拳大の石が作れて、その魔力量でストーンランスを射たせてみる。

 ハティー程ではないが十分大物狩りに通用しそうなので、避難所とドームも同じ1.5で作って貰う。


 「ホウルは、今の魔力を絞った状態で十分だよ。今の状態で魔法を使えば30回程で魔力切れになるな。24、5回までなら攻撃に使えるよ」


 「ドラゴンを一撃で撃ち抜くには?」


 「まぁ、絞った魔力5~7個分位使えば打ち抜けると思うよ。」


 「おいおい、ドラゴン討伐の夢を見るのは止めてくれよ」

 「あの壁を越えるのは無理だよ」

 「あの時だって、ユーゴが来なけりゃドームの中で震えていたんだからな」


 「俺だってドラゴン相手は嫌だよ。ユーゴ並みの威力はどれ位の魔力が必要なのか知りたかっただけだよ」


 デリスには透明な結界の作り方を教えて、索敵や気配察知のスキルを磨く様に言っておく。


 * * * * * * *


 ベイオスの調べに向かった調査官の報告書で、フェルナンドと出会ったのがコッコラ商会のフェルカナ支店と判明した。

 そこへ仕事で行ったベイオスがフェルナンドに呼び止められて、地面に書かれた文字を見せられたと供述している。

 しかしその供述は訳の判らぬ事の羅列で、地面に書かれた文字とはの問いににほんごだと言い、書かせてみたが読めるのに書けないと頭を抱えて泣き出してしまった事。

 ぜんせとは、此の世界に生まれる前に生きていた世界の事だとか、魔法なんてなく沢山の神様がいるとか、話す内容が支離滅裂だと書かれている。

 挙げ句に、こんな世界は嫌だ帰りたい、あの男、かわせに会えばもっと思い出せるかもと錯乱してしまい、取り調べにならないとあった。


 ますます不可解になってきたが、コッコラ商会なら会長が王都に居るので呼び出す事にした。


 * * * * * * *


 ヘルシンド宰相から王城に来て欲しいと連絡を受けて、急ぎやって来たコッコラ会長は頭に?マークを浮かべる事になる。


 「宰相閣下、フェルカナの支店で、ユーゴ様が会って話していた男のことを調べるのですか?」


 「ああ、何故コッコラ商会の支店に彼が居たんだ。彼はそれ程頻繁にコッコラ商会に顔を出しているのかね」


 「いえ、何か用がある時以外は来ませんが、何の用事だったんでしょうね。店に来ていたのなら、何の用事だったのかは番頭に聞けば判りますよ」


 「ああ、判っていると思うが内密にな。それとその番頭にも口止めを頼むぞ」


 * * * * * * *


 フェルナンド男爵は何をしていたのか、あの男を連れ出したのに何故犯罪者として警備隊に引き渡したのか。

 ベイオスなる男は、フェルナンド男爵が興味を引く対象だった筈だ。

 それが一晩で彼を不用と判断したその理由は何か。


 その答えは二週間程でもたらされたが、思いも寄らないものだった。

 コッコラ会長から渡された支店からの書状には、久し振りにユーゴが現れて頼み事をされた事。

 その頼み事とは、フェルカナの街に授けの儀で神様の悪戯と告げられた者がいる筈なので、探して欲しいと言うものだった事。

 その者は直ぐに判り、再び現れたユーゴ様に報告し会える様に手配したと綴られていた。


 神様の悪戯・・・フェルナンド男爵も授けの儀で神様の悪戯と告げられている。

 だが彼は賢者と呼ぶほどに卓越した魔法の使い手だ、ではベイオスも優れた魔法の使い手なのか。

 だがフェルナンド男爵は彼と話をして連れ出したが、一晩で見放したのは何故だ? 


 幾ら考えても結論は出ず、国王陛下の下に二人目の神様の悪戯と告げられた男が見つかったと、報告に向かった。


 「魔力判定版で確認出来ているのか?」


 「いえ、犯罪奴隷としてスタンザス銅山に送られています」


 「その男が犯罪奴隷になる様な男なら、扱いには注意が必要だぞ」


 「もしも神様の悪戯の判定を受けた者でしたら、如何致しますか?」


 「お前はどう思う」


 「犯罪としては盗みだけで凶悪とは申せません。神様の悪戯の判定が出れば、王家に忠誠を誓わせ、魔法部隊の監視の下で調べてみたいと思います」


 「その男が、フェルナンド並みの魔法が使えるとなれば大騒ぎになる。此に関わる者達を厳選して、他国の大使や貴族達に情報が漏れないよう慎重に扱え」


 現在までにベイオスに関わった者達で、神様の悪戯の秘密を知る者はいないと思われる。

 ただコッコラ会長には口止めをしておかねばと、ヘルシンド宰相は考えながら、ベイオスを疑われることなく王都に連れて来る方法に悩む。


 * * * * * * *


 鉱山奴隷として辛い日々を送るベイオスは、ある日突然作業に向かう列から連れ出された。

 連れて行かれた場所では、教会で見た魔力測定板に手を乗せる様に命じられて、それを覗き込む男が何度か頷くと「連れて行け」と命令する。

 小部屋に連れ込まれて囚人服から街着に着替えさせられたが、直ぐに目隠しをされてご丁寧に袋を頭から被せられて馬車に押し込まれた。


 両手は縛られているし何も見えず、監視の為に両隣に座る男と無言の行が続く。

 口にすることが出来るのは(水)が欲しいと頼む事と(大小便)のお願いだけだった。


 * * * * * * *


 ベイオスの魔力測定板の結果は、早馬にて届けられ報告書は即座にヘルシンド宰相の下に届けられた。

 報告書には、魔力78ながら魔法欄は縦横の線で読み取れないが、読み取れない数は10個になると書かれていた。


 読み取れない物が10個、ヘルシンド宰相は興奮した。

 確認されていないがフェルナンド男爵も全ての魔法が使えると認めたことがある。

 10大魔法を使える者がもう一人増えるかも、報告書を持って国王陛下の下に急ぐ。


 「陛下! 魔力78で魔法を読み取れないながら、その数10個だそうです。此の男を上手く育てれば、フェルナンド男爵と同じ能力の魔法使いを、配下に加える事が出来るやも」


 満面の笑みで国王陛下に報告するヘルシンド宰相。

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