第150話 ヤクザ予備軍
倒れているランゴットに再び(ヒール!)と呟いき治療して蹴り起こす。
「さてとランゴットさん。治療費を払って貰おうかな」
「えっ・・・治療費って」
「お前はさっき、怪我を治してくれと俺に懇願したのを忘れたのか」
「確かに言いました。払いますよ払えば良いんでしょ」
「両足と顎を治したが、一回分金貨300枚の格安料金で勘弁してやるよ」
「そんな無茶な! 教会の治癒魔法だって金貨10枚が良いところだぞ」
「お前なぁ~、両足ポッキリ折れていたし顎も砕けていたんだぞ。そんじょそこらの治癒魔法使いに治せると思うか」
「それでもぼったくり過ぎだろうが!」
「払う気がないのなら仕方がないな」
マジックポーチから訓練用木剣を取り出すと「払います! お支払いいたします」と即座に同意してくれた。
泣きそうな顔でマジックバッグから革袋を取り出すと、辛そうな顔で差し出す。
中を確かめ重さから100枚入りと確認して、3袋をマジックポーチに放り込む。
「ベイオスには、未払いの給金が貰える様に話をつけてやるからな」
「済まねぇ。あんたも以前はブイブイ言わせた口とみた。俺を舎弟にしてくれねぇか。あんたの役に立ってみせるぜ」
「まぁ此奴等の始末を付けてから話そうか。お前同様に使われていた者達を集めろ」
日も暮れかけた時間になって警備隊の者達がやって来たので、ランゴット達を引き渡す。
ベイオスだけは事情を話して、俺が保護すると伝えてランゴット商店を後にした。
ベイオスを連れて近くのホテルに部屋を取り、酒場に連れ出して好きに飲み食いをさせる。
それはそれは嬉しそうに酒を含み、美味そうな料理を聞いて遠慮無く注文する。
「いや~、生まれて初めて酒を口に出来たぜ。なんの因果でこんな糞な世界に生まれたのやら。あんたも若そうだが、此方の世界は長いのか?」
「その話しは止めておけ。俺達の世界の話をするな」
「判っているよ。いや、あの糞野郎をどうやって始末してやろうかと思っていたんだが、身体はガキだし右も左も判らねぇんで困っていたんだ。兄貴に日本語を見せられた時は、思わず泣いたね」
酔いが回り、口が軽くなったところで質問だ。
「お前はどうして死んだんだ?」
「いやね、ちょとドジを踏んで追われていたんですが、運転手が下手糞で対向車とドッカーンですわ。人間死ぬ時は走馬灯とか言いますが、耳元でサツの野郎が怒鳴っていて煩せえって思っていたら、何もみえなくなってそれっきり。気がついたらオムツをしてましたよ」
「お前はランゴットに『死ぬ前なら、俺に逆らった奴は徹底的に痛めつけて命乞いさせたんだが』と言っていたが、何処に属していたんだ」
「俺は族の特攻隊長でしたよ。そんじょそこらのチンピラじゃありませんよ。杯を貰う話が出来ていたんですが、上納金が少し足りなくてちょいと無理をしましたが」
「それでドッカーンか?」
「へぇ、しかし、兄貴の手際に惚れました。兄貴の舎弟として誠心誠意勤めさせて頂きやすので宜しくお願いいたしやす」
「お前が使える男ならばな。その時には、金に不自由のない様面倒をみてやろう」
「へい、お任せ下さい兄貴」
酔いが回り、揺れる身体で頭を下げる。
此奴は駄目だ! 族上がりのヤクザ予定だった男に、神様の悪戯の秘密は教えられない。
魔法の手ほどきなどしたら、絶対犯罪組織を作るか俺強ぇ~な馬鹿になるのは間違いない。
酔った男をホテルの部屋に放り込み、鼾を立てて眠り込んだのを確認して無様に膨らんだポケットの中を確認する。
指輪に革袋や金鎖の付いた懐中時計等、ランゴットのポケットや指から抜き取った物に事務所の机の中から盗んだであろう物で一杯だ。
ホテルの支配人に、明日警備隊の者が奴を迎えに来るから起こさない様に伝えてホテルを出る。
そのまま伯爵邸に跳び、執事のペドロフに事情を話してベイオスも捕縛して貰う事にした。
* * * * * * *
ドアを激しく叩く音に起こされて、二日酔いの頭で此処は何処だと考える。
「開けろ! 警備隊の者だ! ベイオスにランゴットの事で聞きたい事が有る。詰め所まで同行して貰うぞ」
「静かにしろよ。こちとら二日酔いで頭が痛いんだからよう」
ブツブツ文句を言いながらドアを開けると、険しい顔の警備隊員が踏み込んで来る。
「何すんだよ、俺は被害者だぞ。話を聞きたいんじゃねえのか?」
「ああ、詰め所まで来て貰うし、ランゴットの事を詳しく話して貰うぞ」
「偉そうに言うなよ。俺は伯爵様の使いの・・・使いのかわせって奴の舎弟だぞ」
「カワセ・・・誰だそれ? 訳の判らない事を言ってないで服を着ろ!」
「俺達は伯爵家の留守を預かっている、ペドロフ様からの指示で動いている。おとなしく警備隊詰め所まで来るんだ」
服を着ると縛られこそされないが、まるで容疑者の様に周囲を取り囲まれ警備隊詰め所まで連行された。
警備隊詰め所で連れ込まれた部屋は、ベイオス・・・本間浩一には馴染みの造りだった。
小さな部屋に机と椅子が向かい合って置かれている。
部屋の奥側の椅子に座らされると、ランゴットに奉公にあがった時の年齢や給金は幾ら貰っていたのか等を、事細かに聞かれた。
彼奴は河瀬って書いていたが、此の世界での名前を聞いていなかったなと考える。
御領主様の使いだと言っていたが、紋章が無いとランゴットに突っ込まれていたが、彼奴は何者なのだ。
治癒魔法と暴力を使い分けて、簡単に金貨の袋を掠め取る手口から相当手慣れている様で、兄貴とおだて上げれば甘い汁を吸える筈だ。
調べが終わったらホテルに戻り、彼奴を探さなきゃ。
「聞いているのか!」金蔓の事を考えているといきなり怒鳴られた。
「はあ、何だよ」
「持っている物を全て出せと言っているんだ! 服も脱げ!」
「何だよ。俺は御領主様の使いの方にお世話になって、あのホテルに泊まっていただけだぞ。ランゴットの野郎から働いた給金を貰える様に取り計らってやるって」
「そんな奴は知らん! 寝言を言わずに持っている物を全てだせ! 聞き分けがないのなら痛い目を見る事になるぞ」
「糞っ、兄貴に会ったらお前等の事を話しておくからな」
そう言いながらポケットの中に手を入れたが、顔色が変わるのが自分でも判った。
「何をしている。さっさとしないなら押さえつけてでも調べるぞ」
渋々ポケットの中の物を出すが、刃を布で巻いたナイフや引き千切った金鎖の懐中時計に指輪。
引き出しの中から掴み出した革袋に、上等なペンや宝石で飾られたタイピンや金鎖のブレスレットなどが出てきた。
「服も脱げ!」
「これ以上何もありゃしませんぜ」
「脱がせろ!」
冷たい一言で机の横に立っていた警備兵が、ベイオスを引き倒して無理矢理服を剥ぎ取っていく。
「おい! 何をするんだ。俺は被害者だぞ!」
「はあ、寝言を言うな。お前のポケットから出てきた物は何だ?」
「そっ、それは・・・ただ働きさせられた、賃金の代わりにと、へへへへ」
「そんな事は認められん。お前が出した物が幾らすると思っている。それに革袋の中には金貨銀貨がぎっしり詰まっている。これは立派な犯罪だ」
「待ってくれ。俺は御領主様の使いの方公認で此れを手に入れたんだぞ。使いの者を寄越したかどうか、御領主様に聞いてくれ!」
「そんな者が居るとは聞いていないし、御領主様は王都だ。お前達の事は通報を受けた方からの指示で捕獲した」
冷たく言われて呆然となったが、ポケットの中の物の言い訳を聞いて貰えなければ、犯罪者として牢獄行きだ。
自由になれる嬉しさと、先立つ物は目の前に有ると懐に入れたのが裏目に出た。
まさか、あの男が消えてしまうなんて思いもしなかったと悔やんだが、今更どうにもならなかった。
ベイオスが途方に暮れている時、ランゴット達も取り調べを受けて牢に放り込まれていたが、伯爵の手先に上手く嵌められたとしか思っていなかった。
* * * * * * *
結局ベイオスは情状酌量の余地はあるが、盗んだ金品の額が多いので有罪。 五年間の犯罪奴隷の刑と共に、ファーガネス領より永久追放を言い渡された。
その際、ファーガネス領に踏み入れば死罪と告げられた。
此れは犯罪奴隷として鉱山に送られるが、釈放後シエナラに近寄らせない為にユーゴが仕組んだ事だ。
一度でも犯罪奴隷になれば冒険者にはなれないし、少しでもシエナラに近寄らせない為の措置だ。
ベイオスには、終生神様の悪戯について知らせるつもりはないし、ヒントすら与えたくない。
今回の事に懲りて神様の悪戯については忘れる事にした。
万が一気付く者がいても、日本語が読めて授けの儀で魔力測定板を見せて貰える確率は限りなくゼロに近い。
俺の様な奇跡と幸運はそうそう起きないだろう。
* * * * * * *
ロスラント伯爵が領地フェルカナでの出来事を知ったのは、執事ペドロフからの報告で事件後20日以上経ってからだった。
ある日フェルナンド男爵が訪ねて来て、不当な金を貸し付けに法外な金利を被せ、利子の代わりに子供を奉公させていると伝えて来た。
その者達を捕獲するのでと、指示された書状を書いて渡したところ翌日には警備兵を寄越す様に連絡が来た事。
捕縛した者は六名だが、別に一人捕縛する様にと指示が来たと書かれていた。
その者はランゴット商店へ利子代わりに奉公させられていた男だが、ランゴットと使用人捕獲のドサクサに紛れ、ランゴットの金品を大量に盗んでいたと記されていた。
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