第140話 デリスの訓練
三度も回復させると、肉体よりも精神的なダメージが大きくてげっそりしている。
手加減しての訓練には物足りなさそうなホリエントと、俺が対峙し打ち合うのを壁際で目を見開いて見ているデリス。
終わればホリエントと自分の怪我を(ヒール!)の一言で一発回復。
夕食後は魔力操作を教えるのだが、魔力溜りの場所の認識からだ。
確実に魔力の認識が出来れば、次は魔力を必要分だけ取り出す事の練習だが、此処で躓いた。
魔力の分割は確固たるイメージが出来なければ無理、魔力の認識が出来ても魔力溜りから魔力を取り出す事が出来ない。
どうしたものかと悩んだが名案が浮かぶ。
俺って賢者と呼ばれるほどの魔法使なのだと自画自賛。
氷結魔法を削除して水魔法を貼付し、デリスの目の前で魔力を込めた水球を作る。
スイカほどの水球が、崩れもせずにテーブルの上に乗るのを見て驚いている。
「良いかデリス、此れが魔力溜りの魔力だと思え。魔力を取り出すとは、此の魔力の塊から魔力を一掴み取り出す事だ」
そう言って水球から一握り掴んで取り出して見せる。
デリスちゃん、お目々まん丸で掴みだした水球を見ている。
「取り分けた魔力を腕を通して放出することが出来れば、魔法が使える」
そう言って掴みだした小さな水球を腕の上で転がし掌に乗せる。
魔法使いの促成栽培なのできっちりイメージを持たせないと、魔法が使える様になるのに時間が掛かる。
「判ったら、暇な時や寝る前には必ず、魔力溜りから小さな魔力を掴み出す練習をしろ。掴み出したら元に戻して、常に一定量の魔力を取り出す練習だ」
頷いているが、目は水球から離れない。
「ユーゴ様、此れってどうなっているのですか?」
そこかい!
* * * * * * *
10日程して、ホリエントと共に冒険者ギルドに出向く。
「おい! お前、シエナラのギルドにドラゴンを渡したのか?」
査定用紙を持った解体主任のザンドスにいきなり問い詰められた。
「もう伝わったの」
「あったりめぇだ! うちのギルドのより大きいじゃねえか!」
「当然だよ。シエナラのギルドじゃお世話になっているからね。どうせ王都に持って来てオークションに掛けるんだろう」
「だが、うちのギルマスがシエナラに負けたと悔しがっていたぞ」
「俺をゴールドランクにしたお返しだ! シエナラじゃ、俺をシルバーのままにしていてくれたからな。それに声が大きいって、何度言えば理解するのかな」
そう言いながら、じわりとドラゴンメンチの威圧を掛けていく。
口で言っても判らないのなら、骨の髄まで刻み込んでやるぞ。
「ちょっ・・・待て! 待ってくれぇぇぇ、悪かっ」
冷や汗を流し膝が笑っている解体主任に「次は無いぞ」と囁いておく。
「この間王家の馬車が止まっていたけど、何を持ってきていた?」
「やっぱりあれはお前が討伐した奴か。白い毛のゴールデンベアと、同じく白い毛のフォレストウルフ二頭だ」
あらっ、贈った物を全て献上しちゃったのか。
獲物を持って引き返しても良いのだが、ロスラント伯爵様は贈った祝いの獲物を全て王家に献上している。
リンディやリンレィがお世話になっているので、白いフォレストウルフ二頭を剥製にして贈る為に引き返すのを我慢した。
解体主任と解体場に入ると、先客がいたが俺の顔を見ると慌てて出て行く。
失礼な奴等だね。
「ユーゴは大分恐れられているな」
「俺から絡んだことは無いんだけどなぁ」
「けど絡んで来た奴は叩き潰してきたんだろう。この間の威圧だけでも恐れられるには十分だぞ」
「えっ、ホリエントはしれっとしていたじゃない」
「馬鹿言え! お前の後ろにいたからギルマスほどに反応しなかっただけだぞ」
「おい! さっさと出してくれ」
ザンドスがじれているので指定の場所にドン。
純白のフォレストウルフ四頭と黒灰色の毛に黒紫の巻き角のでっかい羊さん、1頭
「ウルフ二頭は剥製にして、ロスラント伯爵邸に届けてよ」
「だー・・・此もかよ」
「二頭はギルドに売るよ。どうせオークションで稼ぐんだろう。で、この羊さんの名前は何なの」
「グレイシープだ、名前も知らずに狩ってくるかねぇ」
「この巨体に見事な角だもの、見逃すには惜しいと思ってね」
「この黒紫の角は人気があるんだ。角笛一本に金貨25枚~30枚だぞ」
「肉は?」
「ゴールデンゴートに比べれば一段落ちるが、其れでも人気だな」
査定用紙は受付に預け、商業ギルドに振り込んでおいてくれと頼んで、ギルマスが来る前に逃げ出す。
ザンドスの口振りから、ぐずぐすしていたらドラゴン討伐を頼まれかねない。
* * * * * * *
デリスは対人戦訓練以外の時間、熱心に魔力操作に励み一週間で出来る様になりましたと報告してきた。
その掴み出した魔力を掌まで押し出しては元に戻す練習を付け加えた。
ギルドに獲物を引き渡せばやることがないので、デリスの魔力操作の成果を確かめる事にした。
デリスを呼び、魔力を乗せたフレイムを浮かべて見せる。
拳大のフレイムだが、魔力を乗せているので何時までも綺麗な球形を保ち燃えている。
デリスを正面に立たせて掌を上に向けさせる。
「此れから掌の上10cmの所へ、此れと同じ物を作って貰う。詠唱は無いと不便だろうからファイヤーボールだ。先ず掴み出した魔力を腕を通して掌に導くが、その時に此の火の玉を思い浮かべて、ファイヤーボールと言ってみろ」
真っ直ぐに腕を伸ばし掌を上に向けると、何度か確認する様に見つめてから(ファイヤーボール)と呟く。
呪文一発、ビーチボールほどの火球が現れた。
〈うわっ〉
慌てて手を引いた瞬間、火球が消えた。
中々優秀だが、魔力の量が多すぎる。
デリスの魔力は79のはず、鑑定して見ると72となっている。
そりゃーちんまりと魔力を摘まむより、がっつり魔力をぶち込んだ方が魔法が使えると思うよな。
「魔力操作のやり直しだな。やり直しって言うより、一掴みの魔力が大きすぎる。今使った魔力を半分に出来るか」
「やってみます」
目を閉じ俯き加減に何かを呟いているが、パッと目を開くと嬉しそうに「出来ます!」と報告する。
「では同じ事をして貰うが、ファイヤーボールと唱えたら〈ハッ〉と掛け声を掛けろ。ファイヤーボールが詠唱で、掛け声が魔力を腕から放り出す切っ掛けだと思え」
一つ頷くと腕を伸ばし(ファイヤーボール)〈ハッ〉ポンといった感じで火球が浮かび数秒の後に消えた。
浮かんだ火球はバレーボール大、未だ未だ大きい。
(鑑定!・魔力)〔魔力・68〕
一度目が魔力を7使い、二度目が4とは中々筋が良いが未だ魔力量が多い。
「今の半分だ。最初の半分でも魔法が使えるのは判っただろう。だから今使った魔力量の半分、魔力を掴み出すのでは無く、摘まみ出す感覚で魔力を取り出せ」
そう言って指三本で物を摘まむ仕草をする。
今度は少し難しそうなので、出来る様になれば報告する様に言い、俺の居ない所で魔法を使うなと厳命しておく。
二日目に出来る様になりましたと言って来たので、その半分にと言えば「出来ます」と即座に返事が返ってきた。
「半分の半分に出来るのか試してみたら、出来る事が判りました」と嬉しそうに言う。
ならばと、小さい方の魔力で火球を作らせて見る。
(鑑定!・魔力)〔魔力・79〕を確認。
(ファイヤーボール)〈ハッ〉ソフトボール大の火球が浮かぶ。
(鑑定!・魔力)〔魔力・77〕
五回連続してやらせたが、一回の魔法に2/79の魔力を安定して使っているので、残魔力69で止めさせた。
「今の魔力量を安定してつまみ出せる練習をしろ。明日は草原に出ての練習だ」
「はいっ」て嬉しそうな返事が返ってくる。
まぁ嬉しいのは判る。
子爵家を放り出された理由の一つが魔法が使えないだし、冒険者になっても下っ端だったものな。
それにしても教えたことを素直に聞いて熱心に練習をして、みるみる上達していく。
対人戦の訓練もカンダール家で受けていて野外訓練をしていたので、一端の冒険者よりは強い。
血煙の剣の連中には寝込みを襲われた事と、腕が動く様になったとはいえ剣を振るって闘うにはまだ無理があったと、悔しそうだった。
冒険者や庶民の知識が無いばかりに騙されて、七人掛かりで袋叩きにされて武器や有り金を巻き上げられたそうだ。
金も武器も無ければ奴隷扱いに甘んじるしかないってのがなぁ。
野外に出たら、隙を見つけて皆殺しに出来る度胸が足りないのかな。
まっ、冒険者になるつもりなのでその辺もみっちり鍛えてやるか。
デリスを連れてお出掛け前に、ヘルシンド宰相から待望の連絡が届いた。
五月の末、春の夜会にカンダール子爵から出席の返事が来たと。
それ迄一月少々の間、デリスを徹底的に扱くことにした。
* * * * * * *
王都から少し離れた草原にベースキャンプを作り、デリスに魔力切れまでソフトボール大の火球を作らせる。
目覚めたら食事を済ませてから、魔力切れまで火球作りを繰り返せと命じてドームに放置。
その間に王都に戻って食料を仕入れると同時に情報収集。
* * * * * * *
王家の催しならロスラント伯爵様に聞けば良い。
春の夜会、一種のデビュタントを兼ねた舞踏会らしい。
早い話年頃の娘を社交界に送り出して、良縁を求める場と言った所か。
勿論お坊ちゃま連中も来る華やかな場だが、ちょいと似つかわしくない事になるが陛下には諦めて貰おう。
安定した火球が作れる様になったので、5mの所に的を立てて射ち出す練習だが、先ず手本を見せる為に外に出る。
50m程の所に的を立てると、デリスを俺の横に立たせる。
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