第136話 手打ち
サブマスがギルマスの執務室に入るといきなり話を始めた。
「実はな、ギルマスが彼奴にドラゴン討伐を頼んだのだが、三日程前に帰って来たので結果を聞いたんだ」
「そりゃー依頼していたのなら、結果ぐらい聞くだろうな」
「いや、依頼じゃない頼んだのだ。でだ、俺もギルマスもドラゴンが手に入ると興奮してしまって・・・食堂で聞いてしまったんだ」
「興奮してって、馬鹿ですか!」
「ドラゴンの話を食堂でするって、しかも興奮していたのなら声も大きかったろうな」
「ギルマスやサブマスともあろう者が、冒険者の獲物を大声で話すって」
「あの子は、騒ぎになるのを一番嫌うのに・・・」
「此処のギルドはマシな方だと思っていたのだが」
「それでだな、何とか機嫌を直してドラゴンを卸して貰えないだろうか」
「騒ぎになったのなら無理ね」
「ああ、奴は貴族相手でも撥ねつけるからな」
「ギルマス、諦めが肝心だぜ」
「彼奴はここへ来る来る前に、ファルカナで獲物を売りにギルドに寄ったらしいが、何やら騒がれて売るのを止めたって言ってたな」
「あぁ、獲物のことで騒がれたのが気に入らなかったと言っていたな」
「その獲物は此処で売った筈だけど」
「獲物の事以外でも、騒がれるのを嫌っているわよね」
「俺達が何か言っても無駄だろうな」
「それでも何とか頼む。此れで又王都から売りに出されたら面目丸潰れだ」
「あらららら。王都のギルドと張り合っているの。それなら尚更ドジを踏んだわねぇ」
「だな、多分ドラゴン以外にも珍しい奴を持っている筈だ」
「ギルマスのお願いだから、言うだけは言ってみるね」
「期待はするなよ」
「売る売らないは別にして、今度会った時にきちんと謝罪しておかないと、二度とシエナラのギルドに来なくなるぞ」
* * * * * * *
「ユーゴちゃん♪ おかえりぃ~」
「ハティー、気持ち悪いよ」
「待ってたぞ。首尾はどうだ?」
「サブマスが嘆いていたぞ」
「サブマスなんてどうでも良いが、見せてくれ」
「ギルドで出せなくなったので、ハリスン達が来たら草原で見せるよ」
「大きさは?」
「13.5メートルってところかな」
「あ~あ、ギルマス達が喜ぶサイズなのにねぇ~」
「食堂で騒ぎになったと聞いたぞ」
「だな、飲んでいる奴等の半分は、お前とギルマスの噂かドラゴンを持っているかどうかの話だぞ」
「あの馬鹿親父共、内緒の頼み事を受けてやったのに食堂でベラベラ喋り始めたからな」
「まぁ、蜥蜴となれば興奮するのは判るけどな」
「ギルドが、冒険者の獲物のことを大声で喋るのは不味いよな」
「物が物だから、小声でだって不味いし」
二日後にハリスン達がやって来て、此方もギルマスから頼まれていた。
「ユーゴ、噂になってるよ」
「ギルマスが俺達に泣きついてきたよ」
「ユーゴがギルマスを虐めてるって聞いたし」
「何か凄い威圧を受けて、ちびった奴から失神したり腰を抜かした奴も大勢いたって」
「ギルマスも冷や汗タラタラで動けなかったと、大盛り上がりだよ」
「だから、ユーゴがギルマスを虐めているって話しになったのかな」
「それより持っているのだろう。見せてよ」
「んじゃ、町の外に出るか」
* * * * * * *
ゾロゾロと団体で西門から出ると、俺達を見た冒険者達が後を付いてこようとする。
軽く威圧を掛けて足止めして、西門から少し離れた草原に大きなドームを作る。
「流石よねぇ~、私も未だ未だだわ」
「かあちゃんのも相当なものだぞ」
「ああ、毎日安心して眠れるからな」
どうもハティーが居ると調子が狂う。
ドームの上部を解放して、皆に壁際に寄って貰い空間収納から蜥蜴をドンと放り出す。
「此れも一撃とは、流石はユーゴだね」
「今度は真横からか」
「王家のは真上から、皆の時は上と下からなので横にしてみたんだ」
皆で蜥蜴の周囲を回りながら検分して彼此言っている。
「それでなんだけどね、気に入らないだろうけどシエナラで売りなよ。王都で売れば、私達とあんたは別行動だったと誰も知らないわよ。此処で売ればあんたと私達は別行動だと皆知っているから疑われないわ」
「だな、今回は頼むよ」
「それに、俺達やハリスン達はギルマスに頼まれている。此処でお前が折れてくれたら、ギルマスは俺達に借りを作る事になるからな」
「あっ、それ良いね。流石はコークスさん」
「此れだけ持って王都に行くのも面倒なので良いよ。確り恩を売っておきなよ」
「それで、未だ出す物が有るでしょう。今度はどんな物が居たの?」
「確かに、蜥蜴だけって事はないよな」
「ユーゴ、出し惜しみは良くないぞ」
グレンがクスクス笑っていやがる。
「あらっ、グレンは何か心当たりでもあるの」
「ユーゴは、珍しい奴に目がないからな。お土産用に何か持っているのは間違いないな」
「そうそう大物は見逃すくせに、襲って来る奴か珍しい物はあっさり討伐するんだから」
しゃーない。というか蜥蜴とは別口の、解体主任の要望に応えた奴を披露する事にした。
ゴールデンベアらしき純白の熊さんと、同じく白い毛並みのフォレストウルフらしき奴。
「えっ・・・こんな奴初めて見るって言うか、聞いた事も無いな」
「綺麗な毛並みねぇ~」
「ゴールデンベアだと思うよ。雪の多い山麓で狩ったんだが、冬毛だろうね。ウルフも毛が白いけどフォレストウルフとそっくりだし」
「ゴールデンベアってこんなだったっけ?」
「フォレストウルフと言われれば確かにそう見えるな」
「こりゃー、蜥蜴並みに貴重な個体だな」
「ウルフが一頭だけって事はないよな」
「ああ、ウルフが八頭とハイオークが七頭だな」
「良し! 取り敢えずギルドに行くぞ。ユーゴは食堂で一杯やってろ。俺とハリスンでギルマスに会って苦労話をして来るので、ユーゴは勿体ぶって蜥蜴を出せ」
「コークスさんも、腹黒そうな顔になってるな」
「ユーゴの影響だな」
「ユーゴに交われば黒くなる」
「あ~君達、二度と美味しいお肉にありつけると思うなよ」
「よっ、ドラゴンスレイヤー」
「ユーゴはいい男だな」
「王都以来の仲じゃないの。その口振りだと、未だお肉を持ってるの?」
「ユーゴちゃん、ブーツの切れ端は飽きたの。美味しいお肉が食べたいわぁー」
「ハティー、棒読みになってるよ。で、ブーツの切れ端って何よ?」
金色山羊さんのお肉を食べた後だと、普通のオークやホーンボアの肉がブーツの切れ端くらい不味く感じるって。
それを聞いたハリスン達が爆笑している。
仕方がない、コークスとハリスンにお肉を二つずつ渡して、恨めしげなグレンに少し小さくなった塊を渡す。
「良いのかこんなに?」
「ああ、金色山羊さんのお肉を半分引き取ったので八個有ったからな。あと一つ有るから良いよ」
「ユーゴは良い子ねぇ。大好きよ♪」
「ハティー、下心が丸見えだよ」
「それはそうと、噂ではロスラント子爵様が伯爵になったらしいぞ。なんと領地は隣のファーガネス領だそうだ」
「伯爵様かぁ~。それじゃあ~白熊ちゃんは陞爵祝いだな。白熊ちゃんとウルフ二頭くらいで良いかな」
「貧乏男爵の、俺に聞くなよ」
「でも、何方もオークション物の逸品だから良いんじゃね」
馬鹿話をしながら街に戻りギルドに向かう。
ギルドの近くで出会ったギリス達を誘い、食堂に陣取るとコークスとハリスンに声援を送っておく。
ギリス達シエナラの誓いのメンバーを含めると17人、三つのテーブルを占領してしまったが、俺の顔を見ると皆そそくさと離れて行くので無事に座れた。
「あんたが脅したので、誰も近くに座りたくないようね」
「ユーゴの威圧はちびりそうになるからね」
「直接受けなくても腰が引けるよ」
「あの~、ユーゴさんってドラゴン討伐に行っていたんですか?」
「さんは要らないよ。蜥蜴なら持ってるからちっょと待ってな、見せてやるからさ」
「ユーゴさ・・・ユーゴがギルマスを脅したって噂になってますけど」
「ああ、人の獲物の事を大声で騒ぐからちょっとね」
「来たわよ。あんまり脅しちゃ駄目よ」
ちょっと腰が引け気味のギルマスとサブマス、その後ろでコークスとハリスンがニヤニヤ笑っている。
「あ~、この間は済まなかった」
「ちょっと興奮してしまってな。冒険者の事も考えて話をするよ」
「で、コークス達から聞いたが、此処に卸してくれるのか?」
「冒険者の獲物や稼ぎを、大声で喋らない騒がないと約束してくれるのならな」
「約束する。済まなかった」
「今後は十分気を付けるよ」
「じゃぁ解体場に行こうか。但し此処に居る者以外を中に入れるなよ。引き渡した後はそっちの勝手だが、俺に被害が及べばそいつ等の保証はしないからな」
「判っている」
「行こう。ギリス達も来なよ」
「良いんですか?」
「ラメリアを受け入れてくれたからな。そのお礼だよ」
静まりかえっていた食堂が、俺達が立ち上がると騒然となる。
〈やっぱり、ドラゴンを持っていたんだ!〉
〈行くぞ!〉
〈ドラゴンを見逃したら笑い者だぜ〉
〈一番良い場所に陣取るぞ!〉
「喧しい! お前達は後だ、受け渡しの邪魔をしたらギルドを追放するぞ!」
解体場の入り口にはサブマスが陣取り、背後にギルド職員が冒険者達を睨み付けている。
やっぱり騒ぎになるのかと思ったが、引き渡してしまえば後はギルドの問題だ。
又討伐依頼が増えるだろうが、ホリエントが何とかしてくれるだろう。
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