第137話 金色山羊さん

 おいおい、解体主任自ら解体場を掃除して綺麗にしているよ。

 俺達の姿を見ると満面の笑みで近寄ってくる。

 むくつけきオッサンの笑顔なんて、ホラー以外の何ものでもないわ。


 中央の一番広い場所を指定されたので、空間収納から蜥蜴をポイ。


 〈うおぉぉぉ、凄ぇ~〉

 〈此れがドラゴン!〉

 〈此れをユーゴさんが一人で?〉

 〈流石は師匠です!〉

 〈こんなのが居るんだ〉


 「此れって、王都の奴より大きいよな?」


 「ああ、王都のギルドに渡したのは11m少々だが、此奴は13m半は有るぞ」


 「流石はドラゴンだ・・・凄い迫力だな」


 〈見ろよ。頭を横から一発だぞ〉

 〈いや~、男爵様になったとか、ドラゴンスレイヤーの噂は聞いていたけど〉

 〈こんなにでかい奴には会いたくないよな〉

 〈無理! 森の中でこんなのと出会ったら絶対に腰を抜かす!〉


 呆けている解体主任に活を入れて、売り損ねた獲物を並べていく。


 ブラックウルフ、5頭

 エルク、1頭

 キラードッグ、16頭

 ハウルドッグ、13頭

 オーク、7頭

 ホーンボア、4頭

 ラッシュウルフ、11頭

 ハイオーク、4頭


 並べた獲物を見て、解体主任が又も呆けている。


 「なんとまあ~。こんなに溜め込んでいたの」


 「ここへ来る前に売り損ねた分も含めてね」


 「ファルカナのギルドで揉めた奴か」


 「彼処には、元ザワルト伯爵の配下の奴等が沢山居たよ」


 「伯爵様の騎士団の奴等か、阿呆な主人のせいで放り出されたのか」

 「お可哀想にねぇ~」

 「ハティー、顔が笑っているぞ」


 獲物の査定額は商業ギルドの口座に入れて貰い、ドラゴンもオークションの手数料を引いた物を、同じく商業ギルドに入れてくれと頼んで解体場を後にする。


 〈おっ出てきたぞ!〉

 〈お前等がドラゴン討伐をしたのか?〉


 「これだ。馬鹿野郎! 俺達はずっとシエナラに居たぞ」

 「ドラゴン討伐はユーゴ一人でやったんだ」

 「俺達にドラゴン討伐が出来ると思うとは」

 「いやはや、一度治癒魔法で頭を治して貰え! ばーか」

 「折角ユーゴの討伐したドラゴンを拝んできたら、いきなりこんな馬鹿と出会うとはなぁ」

 「厄落としに飲み直すか」


 〈なにおう。俺達とやろうってのか〉


 「俺の友達に何か用か?」


 「えっ、いや・・・」口ごもる男の、頭の天辺から爪先までじっくり見て鼻で笑ってやる。


 「コークス達の方がお前達より遥かに強いのに、よく喧嘩を売れるな」そう言って軽く威圧を掛けると、回れ右をしてギクシャク歩きでギルドから出て行った。


 「あんまり脅しちゃ駄目よ。私達まで怖がられちゃうわ」


 出入り口を野次馬の冒険者に塞がれていたが、男が出て行った隙間に足を踏み入れると、ささっと道が出来る。


 「ほらみなさい。皆が怖がってるじゃない」


 「俺って疫病神かよ」


 「疫病神なら恐くないけど、ドラゴンスレイヤーと喧嘩は御免だな」

 「そうそう。対人戦の訓練で殴るだけにしておくよ」


 「おっ、言ったなハリスン。返り討ちにしてやるさ」


 * * * * * * *


 ロスラント子爵邸に行ってみたが、代官が居てお嬢様やザマールはファルカナの屋敷に引っ越した後だった。

 どうしたものかと思ったが妙案は思い浮かばず、一度王都にもどることにした。


 ギルドに寄り、ギルマスに面会を求めると即座にギルマスの執務室に案内された。

 ほくほく顔のギルマスに、連絡用の掲示板の様な物を作ってくれとお願いすると「パーティー仲間募集の場所を使え」とあっさり言われてしまった。


 早速サブマスの所へ行き、コークスやハリスン達に俺は王都に行ったが、帰って来たら掲示板にメッセージを出すと、伝えてくれる様に頼む。

 解体主任にも言っておくとの返事を貰って安心して王都に向かった。


 * * * * * * *


 王都の冒険者ギルドに直行して解体場へ入らせて貰う。


 「今日はどれ位だ?」


 解体主任のザンドスが、いそいそとやって来る。


 「ハイオークと金色山羊さんだな。先に言っておくが、金色山羊さんの肉は全て引き取るからな」


 「そんなぁ~、それは殺生だぞ! オークションに出せば、貴族や豪商が群がってくる目玉商品なのに」


 「だから駄目なの。ロスラント伯爵様の陞爵祝いに贈るのだからな。黙って解体したら、後で珍しい物を出してやるよ」


 「珍しい物って何だ?」


 「落ち着いてから持って来るよ。今見せる訳にはいかないからね」


 ハイオーク三頭と金色山羊さんを並べる。


 「ハイオークか、此奴もでかいな」


 翌日の昼に肉を引き取りに来ると告げて、久し振りにアパートに戻る。


 * * * * * * *


 「よう、ご主人様。お早いお帰りで」


 「嫌みったらしいな。何か問題は・・・ある訳ないか」


 「今をときめくフェルナンド邸に、難癖を付けに来る奴はいないさ。お陰で暇で暇で」


 「はいはい。ロスラント子爵様が陞爵したって何時?」


 「去年の暮れで、お引っ越しやら陞爵祝いで大騒ぎさ。リンディ嬢とリンレィは邪魔だからと放り出されて、暫く上にいたぞ。最近漸く落ち着いたのか、又ロスラント伯爵邸に居るな」


 「伯爵邸の場所は?」


 「元ストライ・ザワルト伯爵邸だな」


 そう言って、ニヤリと笑う。

 グレンやコークス達から話を聞いているようだ。


 「じゃあ、明日の昼からロスラント伯爵様の所へ行くので、辻馬車を手配しておいてよ。それと奥さんを呼んでくれるかな」


 「ん、娘じゃなくて?」


 「どっちでも良いが、料理をしてくれているのは奥さんが主なんだろう。大きなお肉を渡すので、ワゴンも持って来て」


 ファランナがワゴンを押して来たが、食事をのせる華奢な物。

 グレンの胴体ほどの物を乗せるのは気が引けるので厨房へ行くことにした。


 「ファランナ、食材を入れるマジックポーチはどの程度の物を使っているの?」


 「ランク1で、時間遅延が10の物です」


 「じゃあー此れを預けておくよ。ランク3で時間遅延が360、所謂3-360って奴ね。このお肉を入れているマジックポーチも同じ物で、入れてから半年も経っていないので数年は大丈夫だよ」


 作業台の上へ、血の滲んだ布に包まれた大きな肉の塊を乗せる。


 「あっ、今夜は此れのステーキ食べ放題でお願い」


 一番大きな寸胴を用意して貰い。拳大の氷を大量に落とし込んで山盛りにしてマジックポーチに仕舞わせる。

 序でにエレバリン公爵秘蔵の酒を10本ばかり取りだし、氷漬けにして冷やしておいて貰う。


 「便利な魔法だな。で、この肉は何の肉だ?」


 「まぁ、今夜の夕食を楽しみにしていなよ。一人二枚は食べると思うよ」


 食べる前に教えると、恐縮して食べるのを遠慮するかも知れないからな。

 広い食堂に四人だけと寂しい夕食だが黙々とお肉を貪り、よく冷えた秘蔵の酒の水割りで流し込む。


 「初めて食べる物だが、美味い! の一言に尽きるな。で、何の肉だ?」


 「金色山羊さんだよ。美味しいと聞いたので狩って来て、シエナラで皆と食べたけど病みつきになるよな」


 「金色山羊って・・・あれだよな」


 「それ以上は気にしない。美味しい物を美味しく食べる」


 「確かにそうだ、旨い酒も付いているしな」


 「コークス達は此れを食べた後じゃ、他の肉はブーツの皮って言ってたぞ」


 「ぶっ、ブーツの皮って・・・彼奴らブーツを齧ったことが有るのかよ」


 ちょっと笑いの発作を起こしたようで、涙を流してヒイヒイ言っていた。

 ファランナとフィーネは、金色山羊さんと聞いても判らないのかきょとんとしている。

 ゴールデンゴートなんて教えたら、食べなくなりそうなのでそれ以上の説明はしなかった。


 * * * * * * *


 ホリエントの呼んでくれた辻馬車に乗り、ホリエントも引き摺って冒険者ギルドへお出掛け。

 解体場へ入ると、ザンドスの隣りにギルマスが仁王立ちで待っている。


 「ユーゴ」


 「だ~め! 一欠片も渡さないよ。うだうだ言うのなら今後王都のギルドとは取引をしないからな」


 「お前なぁ~、此奴が持ち込まれたって噂が流れて、貴族や豪商は疎か王家までが買い取りの打診をしてきたぞ」


 「ほ~ん、あの王様意外に食い意地が張っているんだな。丁度良いや、ロスラント伯爵様の陞爵祝いに贈るので、そちらから王家に回るさ」


 しかし冒険者ギルドの中にまで情報収集の触手を伸ばしているとは、貴族や豪商達恐るべし。

 だが、お肉は一欠片も渡す気はない!


 ギルマスがマジックポーチに消えていくお肉を恨めしそうに見ているが、まるで欠食児童の目付きだ。


 「じゃあなぁ~♪」


 「待てまて、ユーゴ! それで珍しい物って何だ? 何時もって来るんだ」

 「少しは教えろよ! お前が珍しいと言うのなら相応の物だろうから、俺達にも準備が有るんだ」


 「はぁ~ん。昨日金色山羊さんを持ち込んだら、即行で知れ渡っているような相手に教える訳がないだろう。落ち着いたら持って来るよ」


 馬車を貴族街へ向かわせて、元ザワルト伯爵の館へ行けと命じる。

 ホリエントも俺も上等な街着とは言え紋章も付けて無いし、冒険者ギルドから貴族街へと言われて戸惑っている。


 貴族街入り口で止められて睨まれ、伯爵邸の正門に止めて又衛兵に睨まれてと御者が泣きそうになっている。

 その度に俺の身分証を見せて通して貰うが、面倒だ。


 執事のバルガスに迎えられて、ホリエントを紹介しておく。

 空き家同然のアパートながら、一応俺の家の番人にして唯一の家臣・・・かな。


 序でに厨房へ案内してもらい、ゴールデンゴートの肉10個を渡しておく。

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