第134話 紋章の威力
シエナラからファルカナに跳び、そこから北に向かって跳ぶ。
二月もせずに又壁に向かって跳ぶことになるとは思わなかったが、コークスやハリスン達と別れての別行動だ。
壁の向こうで一月程度遊んで帰れば、彼等も2~3度はギルドに顔を出している筈だ。
俺がドラゴンを持ち込んでも関連付けられる事は無いだろう。
壁に到着して目印の柱から、サモン村とのズレを修正する為ちょいと東に跳ぶと懐かしい柱を見つけた。
壁の上で野営をしながら周辺散策の予定だが、先ず頼まれたドラゴン討伐をしてから遊ぶことにする。
翌日ドラゴンの里(俺命名)の岩場上空から観察、適当な大きさの奴を探すがそうそう都合良くはいかない。
小さい奴はウロチョロしているのだが、大きい奴はそれなりの岩の隙間が必要なのでそう簡単には見つからない。
大体岩の隙間に入ってトカゲの大きさを測るなんて出来ない。
隠形に魔力を纏って姿を隠し、防御障壁の完全武装で岩から岩へと歩く。
岩の上で昼寝をしている奴の隣りに行き、用意のロープを取り出して身長測定。
13.5mの蜥蜴君に、南無阿弥陀仏の一言を添えて真横からストーンランスを一発。
こうなるとゴブリン狩りと変わらんなと思いながら、氷結魔法を削除して空間収納と入れ替えて蜥蜴を仕舞う。
依頼品を収納したら、移動途中で気になっていた遠くの雪を頂く独立峰。
独立峰、男心を擽る響きに心が躍る。
まっ冬なんだし山に雪が降っているのも当たり前なんだが、前回は蜥蜴探しに忙しくて遊ぶ暇が無かった。
今回は一人旅、何をしようと俺の勝手と雪山に向かってゴー♪
11回の休憩と四日掛かって山麓に到着、思ったよりも遠かったが景色は抜群。
森の上空をひたすら飛んでいたので。白い大地や湖そこへ流れ込む川は新鮮な驚きだ。
川沿いを上流に向かって進み、眺めの良い場所に高さ30m程の石柱を建てると、上部にテラスを作り土魔法のドームを作る。
建設作業に従事する土魔法使いから教わった、一度作れば壊れない家を作る要領で作ったので、魔力が抜けても壊れない優れ物。
ストーブを作り、テーブルや椅子を置いて別荘の完成。
薪を求めて川沿いに流木を探してジャンプ。
* * * * * * *
リンディは王家筆頭治癒魔法師に任じられてからも、時々ロスラント子爵を通じて治療依頼に応じていたが、病気や怪我以外の依頼は初めてだった。
依頼内容は若い時の怪我で左腕の肘が動かない、神聖魔法使いのリンディであれば、過去の怪我で動かない肘を治せるのではないかとの事だった。
ユーゴに教わった『動かない身体も、元の様に戻れと願って治療すれば』の言葉を思い出して、古い怪我の治療でも有効か試したくて依頼を受けてみた。
ロスラント邸以外の場所での治療に際しては、王家の指示に従い王家筆頭治癒魔法師の衣装で出掛ける。
お供はリンレィと何時もの執事見習いが同行する。
相手は伯爵家当主、貴族街なので直ぐに到着して正面玄関に馬車が止まると執事が出迎えてくれた。
執事は馬車から降りるリンディを見て硬直している。
純白のワンピースに豪華な刺繍が施されていて、胸には王家の紋章と太い赤線が見える。
王家筆頭治癒魔法師を任じられ子爵位を賜るが、所詮女の一代子爵と侮り軽く考えていたが、此れでは王家の身内も同然だ。
リンディが王城では嘗てのエレバリン公爵の控えの間を与えられていて、子爵ながら扱いは公爵待遇なのを知らなかった。
最敬礼でリンディを迎えると、主人の所へご案内致しますと直立不動で伝える。
ヘルシンド宰相は国王と相談して、リンディを王城内だけでなく治療に出掛けた先でも、王家との関わりと公爵待遇を示す、紋章付き衣装で出掛けるように指示した効果がよく現れている。
主人の待つサロンへとリンディを案内した執事が「王家筆頭治癒魔法師、リンディ・フェルナンド子爵様です」と室内に向かって伝える。
ソファーに座る主のダンセル伯爵は訝しげに執事を見たが、リンディの纏う衣装を見て驚き素速く立ち上がる。
このあたり、相手が子爵でも身に纏う衣装の紋章は、自分より立場が上と示すもので無意識に敬意を示す。
同じくソファーに座って寛いでいた、彼の家族も主の態度を見て慌てて立ち上がり伯爵の背後に回る。
「良くおいで下されたリンディ殿。依頼を受けて貰えて有り難い」
「ダルセン伯爵様、状態を伺った限り治せる保証は御座いませんが、問題の肘を拝見させて貰えませんか」
リンディも上位者相手の場数を踏んで、仕事をさくさく進める事が出来る様になってきた。
もっともその大半を、着ている服と紋章のお陰だと承知していた。
「おお、そうですな。若い頃の怪我でな、部屋住みだった私は高額のポーションを飲ませて貰えなくてねぇ。何の因果か当主になってしまったが・・・」
好好爺かただの話し好きか、だが此の話に付き合うと長くなるのは経験上判っているし、あらぬ方向に行きかねない。
微笑みながらも返事も相づちも打たず、左肘を見て(鑑定!・状態)〔骨折・固着〕
「伯爵様、指を握ったり開いたりして貰えますか」
「おお、こうかな」
指は動くので、肘の関節のみの治療で行けそうだと見当をつけると、ソファーに横になりテーブルに腕を置く様に指示する。
肘の上に薄衣を置き掌を重ね、固まっている肘を正常な状態に戻すのは初めてなので、魔力を少し多目の20使って試す事にした。
口内で肘の塊をほぐし元の状態に戻ります様にと願って(ヒール!)
テーブルに置かれた腕から治癒の光りが溢れる様をマジマジと見つめるダルセン伯爵。
リンディの背後に控えるリンレィも、姉の治療を真剣に見つめている。
姉が腕の状態を鑑定している時にリンレィも鑑定したが、結果は出ずガッカリしていた。
だがユーゴの教えに従い、常に姉の治療を見学して共に鑑定をしている。
暫しの沈黙の後、溢れていた治癒の光りが薄くなって消えた。
(鑑定!・状態)〔正常〕
「伯爵様、腕を動かして貰えますか」
「治ったのか?」
「治っている筈です」
真剣な顔で腕を睨んで力んでいるが、治療前と同じ僅かに動くだけだが指は変わらずに動く。
伯爵の顔に失望が浮かぶが、リンディは「失礼します」と、一言断って伯爵の腕を持つ。
肘上と手首を握り、手首の部分を上に曲げて見せる。
「おお! 動いている!」
「肘は治っていますが、長年動かしていなかったので力が落ちているのでしょう。此れからは腕の曲げ伸ばしの練習を続ければ普通に動くようになります」
「半信半疑であったが、流石は王家筆頭治癒魔法師だ」
喜ぶ伯爵に微笑を向けるとすっと立ち上がり「私は此れで失礼致します」と一礼する。
「長年の不自由を治して頂いて有り難い。お茶の用意をさせますので・・・」
リンディの背後に控えていた執事見習いの男が、伯爵の声を遮る。
「失礼致します。ダルセン伯爵様。リンディ様の治療に際し、如何なる挨拶や接待も不要と、王家からの通達が御座います。私はその為に、治療に際しリンディ様に付き従いその全てを主に報告し、主は王家に報告する義務が御座います」
リンディにちょっかい掛けると、全て王家に筒抜けだと言われては規約通りに礼を言って帰すしかない。
伯爵の背後で声も無くリンディの治療を見守っていた彼の家族達も、そう言われてはリンディに声を掛ける事も適わず無念そうである。
それはリンディだけでなく、背後に控えるリンレィも治癒魔法を授かりユーゴの配下として、日々治癒魔法の修行をしているからである。
リンディは無理でもリンレィを手に入れれば、賢者と神聖魔法使い二人と繋がりを持てる。
ロスラント子爵を見れば、それがどれ程の利益を生むか計り知れない。
ロスラント子爵は国王の覚え目出度く、近々伯爵に陞爵するのではないかと噂されている。
フェルナンド男爵と早くから交流を結び、神聖治癒魔法使いリンディを預かっているし、彼女の世話係を国王陛下より命じられている。
それに加えて、先のカンダール伯爵邸への襲撃も不問にされている。
上位貴族の館に完全武装で乗り込み多数の死傷者を出せば、爵位剥奪一族皆殺しもあり得たものだ。
詳しい事を知らない者達は事の表面のみを見て羨み、何とかして取り入ろうと画策しているが、王家が先手を打って迂闊に近寄れないようにしていた。
* * * * * * *
「あぁ~、少し遅かったな。暫くシエナラに行ってくると言って消えちまったんだ」
「それじゃー、此処にはホリエント殿しか居ないのか」
「俺は留守番用の番犬として雇われたからな。しかし、そんなに冒険者が良いのかねぇ」
「それなりの腕が有れば十分食っていけるし、野獣相手の真剣勝負の場だからな」
「親父、俺達も行ってみようぜ。獲物が多いってのは魅力だぞ」
「だな、王都周辺じゃ腕が鈍るってものだ。奴に何か伝える事はあるか?」
「対人戦の訓練が出来ないし、殴る相手がいないので早く帰ってこい。と伝えてくれ」
ニヤリと笑ってグレンとオールズが帰ると、掃除以外にやることがないとぼやく女房と娘以外、相手のいない俺はなんて不幸なんだとユーゴを恨む。
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