第133話 ギルマスのお願い

 あ~あ、木剣を肩に担いだり、片手にぶら下げてのんびりと歩き出した。

 最強の威圧ドラゴンメンチを浴びせて足止めして、正面の奴に跳び込み胸を蹴り飛ばす。

 〈グエッ〉と言って後ろに吹き飛んだが、胸部陥没だな。

 そのまま奴等の背後に回り、膝カックンの要領で膝裏を思いっきり蹴ると足があらぬ方向を向いている。

 ドラゴンメンチの威圧を掛けたまま、次の相手を横殴りに殴り飛ばすと隣の奴の肩に一撃。

 冷や汗を流して震えている奴等を殴るのは、案山子を殴っているのと変わらないが手加減無用。

 俺に絡んだことを後悔しやがれ。

 最後に最初に絡んで来た奴の正面から、渾身の蹴りを股間にプレゼント。


 「何ともまぁ~。威圧でそこまで動きを封じられるか。ドラゴンスレイヤーの面目躍如だな」


 「ギルマス、あんまり大声で言わないでよ」


 「そりゃー無理だ。王家がドラゴンスレイヤーにして賢者と大々的に報じたからな。お前を知っている奴は半信半疑ながら、名前と聞こえて来る容貌でお前だと思っているさ」


 〈おいおい、恐ろしい威圧だぞ〉

 〈あんな奴の前には立ちたくないな〉

 〈誰も動けずに殴られただけって〉

 〈あの猫の仔って何者だ?〉

 〈エールを奢ってくれたら、飲んでいる間だけ喋ってやるぞ〉

 〈俺なら酔いが覚めるまで教えてやるから、飲ませろ!〉

 〈お前、猫の仔猫の仔って言っているが、叩き潰されても知らねぇぞ〉

 〈そうそう、俺達は絶対に揶揄ったりしないからな〉


 「ギルマス、後始末を宜しく~♪」

 ホテルに帰ってお肉を焼いて貰い、エールで乾杯だ。


 * * * * * * *


 お肉を堪能した翌日、ただ黙って皆を待つのも退屈なので森の奥へ行ってみる事にした。

 ホテルには十日後に帰ると伝えて、俺の客が来ればそう伝えてと頼み部屋代を預けてお出掛けする。


 ホテルを出て物陰に入りジャンプ、シエナラの森は余り奥へは入ったことがない。

 というか、2~3日奥へ行けばそれなりの獲物と出会えるので、態々行く必要が無い。


 転移魔法の空中散歩なら、歩きで2、3日の距離をほんの数分で行けるので苦にならない。

 一度推定高度500m上空から森を見たが延々と森が続いているので高度をとってのジャンプは意味が無い。

 200m程度の高さから、遠くの高木や目印の岩などを覚えながら西に向かって跳ぶ。


 二度目の休憩からは森を歩く事にしたが、徒歩なら何日掛かる場所なのか判らないが、獲物が豊富だ。

 森を突き抜ける石柱を立てて、獲物が欲しい時の目印にする。


 九日目に数頭の獲物を土産にシエナラのホテルに戻ると、コークスやハリスン達から明日冒険者ギルドで待つとの返事を伝えられた。


 * * * * * * *


 冒険者ギルドの食堂に行くと、ざわついていた食堂が一瞬静まりかえる。


 「あんた、また何かやったの?」


 「酷い言われ様だ、俺はゴブリンやオークじゃないよ」


 「でもユーゴの事だから、誰かを返り討ちにしたんだよな」

 「違いない。以前もこんな反応を見たことがあるからな」

 「ユーゴに絡む猛者が未だいるのか」

 「シエナラに来て日の浅い馬鹿に違いないと思うな」

 「で、十日も何をしていたの?」


 「ギルマスが大物が欲しいって煩いので、ちょっと奥の方へ行ってみたんだ」


 「あんたの奥の方って此れで?」


 ハティーが上を指差す。


 肩を竦めると獲物を見せろと言いだしたので、解体場へ行く事に。

 解体主任が満面の笑みで迎えてくれるが、下心丸出して気持ち悪い。


 ブラウンベア、1頭

 ファングタイガー、1頭

 レッドホーンディア、1頭

 キングシープ、1頭

 ビッグエルク、1頭


 「相変わらず一撃ね」

 「ユーゴが的を外す方が珍しいよな」

 「ファングタイガーなんて、何処にいたんだよ」

 「こんなのとは出会いたくないよなー」


 「流石は男しゃ・・・ゴールドランクだな」


 「そうそう、余計な事を言わなきゃ時々獲物を持って来るよ」


 「判っている。それよりギルマスが呼んでいるぞ」


 「呼んでいるぞって、俺は今来たばかりだぞ」


 「お前が来たら、ギルマスの部屋へ来るように言えと言われているんだ」


 「そお、じゃあ査定分はギルドに預けるから査定用紙はカウンターへ渡しておいてよ」


 ギルマスの用事って、プラチナランクへの昇級に決まっているので無視しよう。

 エールを飲みながら今後の事を話し合ったが、コークス達もハリスン達も地道にシエナラ周辺で稼ぐと話している。

 俺も当分シエナラに居るつもりだから、用が有ればハイドラホテルに部屋を確保しておくので来てくれと伝える。


 「おい、何で俺の所に来ないんだ」


 「煩いなぁ~。ギルマスの用事って、プラチナランクになれって無粋な事だろう。俺はお友達と楽しく飲んでる方が良いんだよ」


 「ギルマス、ユーゴにそんな事を言っても無駄ですよ」

 「そうそう。ユーゴって魔法にしか興味がないからな」

 「ユーゴなら、アイアンの時から確り稼いでいるからなぁ」


 「そんな事じゃ無い。ちょっと頼みが有るんだ。此処じゃ何だから部屋に来てくれ、頼む」


 ありゃ、拝みだしたよ。

 此の世界ってアッシーラ様だけの一神教だと思ったが、仏様も居るのかな。

 食堂で拝まれて注目の的になり、渋々ギルマスの執務室へついていく。


 「ギルマス、好い加減にしなよ。俺は静かにエールを飲んでいたいんだから」


 「悪かったな。だがな、お前が此処で冒険者をしていた事は知れ渡っている。それに王家の依頼でドラゴンを討伐した事もな。その為にドラゴン討伐依頼が絶えないんだ」


 「そいつ等は無理を言ってくるの」


 「馬鹿言え! ギルドは王国相手でも対等だが、ギルドは王国と貴族の領地に存在するので、無碍には出来ないのさ。持ちつ持たれつの関係だからな。お前が王家だけの依頼をこなしたのなら断れるのだが、王都のギルドにもドラゴンを渡しただろう。お前とは指名しないのだが、ドラゴン討伐依頼が次々と舞い込むので本部も何とかしろと煩いんだ。頼む! 一匹だけで良いんだ。出来れば王都のギルドに渡したのより大きい奴を」


 お願いしながら、王都のギルドより大きいのを寄越せと張り合うのか。

 あれなぁ~、確かに王家の分だけなら問題なかっただろうけど、ハティーやグレン達が倒したものを捨て置く訳にもいかなかった。

 かと言って彼等の名でギルドに渡せば、後は推して知るべし。


 グレンはそれで大迷惑を被ったので俺名義でギルドに渡したのだが、こんな所に飛び火しているとは計算外だ。

 このまま放置しても良いが、王都のギルドに渡した物は雷撃にストーンランスが二発とアイスランスの痕跡が残るもの。

 俺以外の者に目が向かない様に、偽装しておく事も必要かな。


 「期日を決めずにで良いのなら受けても良いだろう、但し・・・」


 「よしっ!」


 「慌てるなよ、其れには条件がある。一つはクラス12のマジックバッグか空間収納持ちを用意する事と、俺がドラゴンを引き渡す迄は口外禁止だ」


 「任せろ! 直ぐに手配しよう」


 「大きさは用意出来たマジックバッグか空間収納持ちの能力次第だな」


 「お前・・・其れってお前は空間収納が使えるって事だぞ」


 ニヤリと笑い「王家に渡した物より大きいのは駄目だぞ」と言っておく。

 数年を経ずして直接依頼主の物より大きいのを渡すのは、冒険者としての仁義にもとるからな。

 ぶっちゃけ、大きい奴を探すのは面倒なだけだ。


 「王都のギルドに渡した奴より、大きいのを頼む」


 「あれは11mちょいの大きさだったので、ランク12のマジックバッグに収まった。ギルマスの要望に応えるのなら、空間収納持ちが必要だな」


 「王家に渡したやつは19mオーバーと聞いたぞ」


 「あれは国王からの直接依頼だからだよ。王城の大広間に飾られていたのが16m少々だったので、それより大きな奴にしただけだよ。マジックバッグに収まらない大きさなら文句は無いよな」


 「少しでも大きい奴を頼む! 空間収納持ちには心当たりがあるので何時でも良いぞ」


 はいはい、さっさと行って、チャッチャッと狩ってくるかな。

 俺が一人で気楽にドラゴン討伐をすれば、皆の方に目が向く確率も減るだろう。


 さてと、グレン達が以前狩ったドラゴンが16m少々、この前共同で討伐したのが11mちょいなので13~15m程度でいいか。

 食料を仕入れたらちょいと行ってきますか。


 食堂に戻ると皆が興味津々で待ち構えていた。


 「ギルマスに拝み倒されるとはな・・・で、何の話だ?」

 「そりゃー、依頼だろうさ」

 「だな、それも・・・」


 「ストップ! 変な事を喋られると困るんだよ。見なよ、皆が聞き耳を立てているので、奴等が此処を一歩出たら噂の嵐になるぞ」


 「あららら。本当だわ、お目々キラキラお耳がピクピクしてるわよ」

 「巻き込まれない為にも、ユーゴから離れていた方が良いな」

 「そうそう、厄介事を押しつけられない為にも逃げておこうかな」


 「じゃあ、巻き込まれる前に俺達は行くぞ」


 「あっ、美味しいお肉をあげるよ。ハリスン達も要る?」


 「有り難う。ユーゴが美味しいって言うのなら間違いないだろうし」

 「何のお肉なの?」


 「金色山羊さんだよ」


 「寄越せ! ハティー、俺達じゃ一生掛かっても食えない奴だ。ユーゴは良い奴だなぁ」


 「現金だねぇ~」

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