第132話 賭けにならない模擬戦

 金色山羊さん二頭、エルク一頭、ブラックウルフ七頭、でっかい羊さん(黒灰色の毛に黒紫の巻き角)を土産にファルカナの街へ跳び、そこからシエナラに向かう。

 食料の減り具合から、壁の近くで20日以上うろついていたことになるので11月も終わる頃かな。


 コークス達と別れて三ヶ月程、西門から少し離れた場所に約束の電柱並みの石柱を一本立ててから街に入り、冒険者ギルドに向かう。

 シエナラの冒険者ギルドは久し振りなので、中に入るとジロジロと見てくる奴がちらほらいる。

 買い取りのおっちゃんに、解体場へ行くよと告げると「おう」の一言。

 知っている場所はマジックバッグを見せなくても黙って通して呉れるので楽だ。


 先客がグレイウルフを五頭ばかり出して、解体主任と彼此言っていたので離れて待っていると、解体係の者がやって来て今回はどれ位と聞いてくる。

 やっぱり慣れたところは楽だと思いながら、今回は小者ばかり40前後と伝えて場所を指定して貰う。


 ホーンボア 4頭

 エルク 1頭

 キラードッグ 16頭

 ハウルドッグ 13頭

 オーク 7頭

 ラッシュウルフ 11頭


 「おう来ていたのか。今回は少ないな」


 「此方に向かう途中で狩った奴だよ」


 解体主任と獲物の確認をしていると、後ろで先客の奴等が獲物を見て騒いでいる。

 聞きたい事が有るのだが、此奴等がいると出し辛い。


 〈おい、何だこの数は〉

 〈凄ぇなぁ~〉

 〈何処のバーティーだ〉

 〈見ろよ、全て一撃だぜ〉


 「なあ主任、ちょっと聞きたいのだが金色山羊さんって肉は美味しいの?」


 おっ、目がギラリと光ったぞ、此れは期待が持てそうだ。


 「持っているのか?」


 「持っているけど、出し辛いだろう」


 そう言って、俺の獲物を見て彼此言っている先客をチラリと見る。


 「待ってろ」声が軽いねぇ。


 「おめえ等、さっさと出ていけ!」と怒鳴っているよ、乱暴だねぇ。


 彼等が出て行くと「さあ出せ!」と怒鳴る。


 「煩いよ。騒ぐと出さないよ。なんでギルドの職員って直ぐに怒鳴るのよ」


 「ゴールデンゴートなんて滅多に見る事のない逸品だ。お前相当奥地へ行っていたな」


 「美味しいの?」


 「オークション物だな。俺達の口には入らないが、貴族や豪商達が飛びついてくるぞ」


 「そのお肉が欲しくて狩ってきたんだから、半分は俺が引き取るが、良いか?」


 買い取り主任が〈ウッ〉と言ったきり頭を抱えて悩んでいる。


 「無理ならいいよ。王都で売るから」


 「待て! 待てまて・・・判った、肉の半分はお前の物だ!」


 良し! もう一頭持っているけど当分出さずに備蓄しておこう。

 金色山羊さんはゴールデンゴート、まんま見た目通りの名前で此の世界って命名のセンスがない。

 金色山羊さんとブラックウルフ二頭を並べてやる。


 「おお~、流石は奥地の獲物だ。此れほどの巨体は中々お目にかかれないぞ」


 ギルドカードを預けて食堂で待っていると伝える。


 「待て! お前、何時の間にゴールド・・・て。ユーゴ、ユーゴ・フェルナンドってお前の事かよ! ドラゴンを討伐し、賢者と呼ばれている」


 「煩いって、売るのを止めようか」


 「馬鹿! 此れは返さねぇぞ!」


 「だから、静かに話せよ」


 「判った。で、此れだけじゃ無いよな」


 「大声を出したから、もう出さないよ」


 現金な解体主任だが、後は王都に帰った時のお土産用だから出さないぞ。


 食堂でエールを受け取り空いたテーブルに座って一口飲めば、又面倒な奴が鼻息荒くやって来る。


 「よう、男爵殿」


 「揶揄ってるのなら、二度とシエナラのギルドには何も売らないぞ」


 「いやいや、まさかお前さんがドラゴン討伐者とはねぇ。最近姿が見えないと思ったら、壁の向こうへ行っていたなんてな」


 「態々そんな事を言いに来たのか?」


 「どうだ、昇級申請しないか」


 「ギルマス、俺がシルバーランクってだけでも胡散臭い目で見られるのに、今じゃゴールドだぞ。昇級申請って何だよ」


 「うむ、ゴールドランクは大物討伐やギルドに貢献が認められたらなれるし、ドラゴン討伐を成せば黙っていてもなれる。プラチナランクになるには申請する必要が有るのだが、俺が推薦してゴールドランクをも凌ぐ貢献者だ。お前が王都でドラゴンを売ったので、お前にゴールドランクを与える資格は王都のギルドになってしまった」


 「まさか俺にプラチナランクを与えて、シエナラの名を売ろうって魂胆かよ」


 「まあな。お前が昇級を嫌がるものだからシルバーに据え置いてやったんだから、今度は此方の頼みを聞いてくれないか」


 「却下! ブロンズに戻してくれるってのなら大歓迎だ」


 「馬鹿言え、お前をブロンズなんかにしてみろ、明日には俺の首が飛ぶわ。それより暫くシエナラに居るのなら、大物を狩ってきてくれんか。最近大物の討伐が少ないので困っているんだ。代わりにプラチナ申請は見逃して遣るから」


 「二度と男爵と呼ばないのなら、少しは考えようかな」


 「よし、決まった。頼むぞ!」


 解体主任の肩を叩いて口笛を吹きながら戻って行くギルマス。


 「あのおっさんは、何をしに来たんだ」


 「なに、最近獲物が小さくなってな、王都のギルドはドラゴンと大物もたっぷり買い上げて利益を上げたので。獲物の多いシエナラが売り上げで負けているのさ」


 「つまり、ギルマスの肩身が狭いって事か」


 「肉は明日の昼過ぎには用意しておくので取りに来てくれ」


 それだけ言うと査定用紙を置いていった。

 冒険者ギルドはノルマなんて無いと思っていたけど、競争意識はあるのか。


 ギルマスが俺の所へ来れば、食堂に居る奴等は聞き耳を立てている。

 其処へ男爵だ、ドラゴン討伐とかプラチナとか好き勝手ほざいたので、周囲の視線とヒソヒソ声が煩い。


 * * * * * * *


 何時ものハイドラホテルに部屋を取り、翌日にはお肉の引き取りに冒険者ギルドへ出向く。

 狼人族グレンの胴体程の大きさの肉が八個、血の滲んだ布に包まれ置かれていた。

 3/360のマジックポーチに放り込み解体場から出て来ると、人相の悪いのがズラリと立ち塞がる。


 「ゴールデンゴートを狩って来たのはお前か?」


 「それがどうかしたか」


 「何処でだ?」

 「お前一人でか?」

 「一人なら俺達のパーティーに入れや」

 「今以上に稼がせてやるぞ」


 シエナラで俺に絡んで来る奴はいないと思っていたが、暫く居なかった間に流れてきたのだろう。

 俺の事を教えて貰えなかったって事は、嫌われ者か。


 「おい! 俺達が誘ってやっているんだ。返事くらいしろ!」


 「煩いよ。誘ってやっているねぇ~、ご親切にどうも。俺は一人が好きなのでお断りさせて貰うよ。前を開けてくれないか」


 「ふう~ん、中々度胸がありそうだが、俺達を必要としないのならその腕を見せて貰おうか」


 「良いけど、怪我をして泣くのはそちらだぞ」


 〈ブファッ〉

 〈ヒィーッヒヒヒ〉

 〈ちっこいくせに大法螺を吹くなぁ〉

 〈よしっ、ギルマスを呼んでこい〉

 〈腕の良い魔法使いと聞いたが、模擬戦は魔法攻撃禁止だぞ〉

 〈猫の頭なんてこの程度だよ〉

 〈マジックバッグっ持ちを手に入れたら楽になるぞ〉


 好きにほざいていろ、他の奴等が俺に絡む気を無くす生け贄になって貰おう。


 「又お前等か、今度の相手は・・・あ~、殺すなよ」


 「ギルマス~、俺達はそれ程悪辣じゃないですよ~♪」

 「まぁ、猫の仔の躾はしておかないとな」

 「直ぐに素直なにゃんこちゃんにしてやるよ」


 〈おい、模擬戦をやるらしいぞ〉

 〈よしっ、〔牙の群れ〕に賭けるぞ!〉

 〈猫の仔一匹を八人掛かりかよ〉

 〈謝って逃げれば良いのに〉

 〈逃げた所で町の外で逢ったら・・・〉

 〈流れて来た奴にはよい相手だな〉

 〈おいおい、奴に絡む馬鹿が〉

 〈黙ってろ〉

 〈賭けるか?〉

 〈賭けにならねえよ〉


 「おい、何か何時もと様子が違うぞ」

 「お前、何者だ?」


 「あれっ、恐くなったの。牙の群れって聞こえたけど、馬鹿の群れの間違いかな」


 「お前等、俺を呼び出して何をとろとろしている! さっさと訓練場へ行け!」


 ギルマスの奴、質の悪い奴等を潰すチャンスとみたな。

 俺も気に入らないし、利害は一致しているので援護射撃をして貰うか。

 木剣を取り出してかるく素振りをし、相手を見てへらりと笑ってやる。

 久し振りに本気になりますか。


 「ギルマス、面倒だから纏めてやるよ」


 「そうだな、実力差を考えればそれ位のハンデは必要か」


 〈おいおい、マジかよ〉

 〈ギルマス本気で言ってます?〉

 〈冗談きついぜ〉


 「其奴はゴールドランクなので、見掛けより強いぞ。恐けりゃ逃げてもいいが、この街で大きな顔は出来なくなるな。尻尾を巻いて逃げるか?」


 ギルマス、ナイス煽り♪


 〈俺達も舐められたもんだな〉

 〈お言葉に甘えて総掛かりで叩き潰してやろうぜ〉

 〈死んでも責任はねえよなぁ〉


 「御託はいいから用意しろよ。井戸端会議をする為にギルマスを呼んだのか?」


 〈おいおい、八対一かよ。此れじゃ賭けにならないはずだぜ〉

 〈ば~か、実力差からして賭けにならないんだよ〉

 〈そうそう、奴を知っている者は誰も賭けようとしないだろうが〉

 〈どうせ勝負は直ぐに決まるからな〉


 そうそう、こんな奴等を相手にちんたらやってられるか。

 向かい合って立つとギルマスと目が合い、にやりと笑って「始め」とのんびりした掛け声。

 一声掛けたら数歩さがると腕組みをして、好きにしろって雰囲気丸出し。

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