第131話 転移魔法旅
ホリエントに「暫く留守にする」と告げて上空へジャンプし、朝日を背に受けて西へ跳ぶ。
馬車旅にしろちんたら歩くにしろ、転移魔法で一気に移動できると判っているのに付き合うのは面倒だ。
ドラゴン討伐の時には、此れほど転移魔法が使えるものだと思っていなかったが転移魔法様々だ。
有り難うアッシーラ様、お布施をはずもうと思いながらも、教会に近づきたくないので振り込んでいませんが感謝はしています。
空の旅を楽しみながら、らちもない事を彼此と考える。
アランドの手前で地上に降り、結界の中でお茶を飲みながら魔力の回復を待つ。
以前魔力切れから回復迄の時間が6時間程だったが、魔力半減からなので2時間ちょいで全面回復した。
今回は使える回数の約半分を使用して残魔力が41なので、また少し使える魔力が増えている計算になる。
シエナラに到着したら魔力測定をして、正確な魔力の使用回数を確認しておく事にする。
11時前にはアランドを飛び越えて次の街ハブァスに向かい、遠くにハブァスらしき街が見えたところで降下。
残魔力が42、転移で移動するって事はほぼ全ての時間を魔力回復に当てる事になると理解した。
11時前に出発して今は11時前、ジャンプしていた時間は極僅かで魔力の回復に2時間少々掛かる。
連続のお茶タイムは退屈なので、魔力の完全回復まで歩く事にする。
街道を一人で歩けば厄介事に出会す確率が高いので、街道沿いの草原をのんびり歩く。
旅をしているというよりお散歩だが、王都周辺と違い獲物とこんにちは率が高い。
ゴブリンが索敵に引っ掛かると進路変更して、目視と同時にアイスランスの連射で仕留めて放置。
ホーンラビットやヘッジホッグ等は、アイアンやブロンズランクの為に無視して、キラードッグの群れをほぼ殲滅してから出発する。
ハブァスを飛び越えて次の目標はシュルカ・・・の手前。シュルカまで跳べば馬車で12日の距離を一日で跳ぶことになる。
のんびり跳んでもシエナラまで2日で跳べることになるが、今回は寄り道の予定なのでシュルカの手前で野営をする。
翌日はフェルカナの冒険者ギルドに寄り、獲物を売りに買い取りカウンターへ行く。
此処は初めてなのでギルドに入った時から注目の的だ。
「あ~ん、解体場だと?」
マジックバッグをポンポンして少し多いと告げると、頭の天辺から爪先まで二度見されてから、奥へ行けと顎で示された。
態度が悪いね、フェルカナ周辺の森は案外獲物が少ないので持ち込まれる物も少ないのかな。
解体係の指示に従って獲物を並べるのだが、多いと言っても鼻で笑って此処へ出せと怒鳴られた。
ゴールドカードを鼻先に叩きつけてやろうかと思ったが、素直な性格の俺は指示された場所にマジックバッグから取り出して積み上げる。
エルク 1頭
キラードッグ 16頭
ハウルドッグ 13頭
オーク 7頭
ホーンボア 4頭
ラッシュウルフ 11頭
〈馬鹿! 止めろ!〉とか〈綺麗に並べろ!〉とか騒ぎ出したが素知らぬ顔で積み上げてやる。
「てめえぇぇぇ、綺麗に並べて出せ!」
「あぁ~ん、マジックバッグを示して大量に持っていると言ったぞ。そこの糞馬鹿が、鼻で笑って此処へ出せと怒鳴ってきたから出したまでだ。文句が有るのなら、そこの糞馬鹿に言え!」
「己は俺達を揶揄っているのか!」
汚いつばを飛ばして睨み付けてくるので、ならばとブラウンベア並みの威圧で返してやる。
「ギルドの職員だからと冒険者を馬鹿にしすぎじゃないのか。気に入らないようなので売るのは止めるよ」
俺の威圧を受け、脂汗を流す解体職員に告げて獲物は全てマジックバッグに戻す。
「邪魔したな、糞馬鹿野郎!」
こんな所はエールを呑んだらおさらばだ。
食堂に行き、エールを頼みつまみはと見ると不味そうな肉が並んでいる。
マスターと交渉して、カラーバードを提供するのでステーキを焼いてくれと頼む。
ステーキに使った残りの肉を貰えると知り、愛想良く注文に応じてくれる現金な奴。
マジックバッグから取り出したカラーバードは無傷で死後硬直が始まったばかり。
マジックバッグとカラーバードを交互に見てから、でかい鳥を抱えて奥の台に乗せ羽根をむしり始めた。
お肉が焼けるまでエールをチビチビ飲んでいると、何か注目の的だ。
足音荒くやって来るのは解体用エプロン姿のおっさん。
「お前か、さっき獲物を持って来ていた奴は?」
「そうだが、あんまり巫山戯たことを言うので売るのは止めたよ」
「此奴等が何を言ったのか知らないが、一度査定依頼に出した物を引っ込めるとは冒険者にあるまじき行為だぞ。獲物を出せ! 出さないのなら、ギルドカードを取り上げるぞ!」
飲みかけのエールを男の顔に浴びせて、ドラゴンメンチで威圧を叩き付けて立ち上がる。
〈なっ〉と言ったきり、俺の威圧を受けて凍り付き真っ青になって黙る。
俺達の遣り取りを見ていた冒険者達も、エールを浴びせたので驚愕の声を上げたが、俺の威圧の余波で一瞬で静かになる。
「面白い事を言うなぁ。俺達冒険者は、何処のギルドに獲物を売るのか自由なはずだ。お前の言葉だとその権利は無く、断ればギルド追放って事になる。お前にその資格や権利があるのか? どうなんだ!」
威圧をドラゴン(大、対峙した事は無いが)に切り替えて広げていく。
静まりかえるギルドの中、彼方此方から悲鳴と何かが倒れる音が聞こえる。
文句を言ってきた男は泡を吹いて卒倒したかと思ったら、股間に水溜まりが出来ている。
情けない奴、威圧を消してエールのお代わりを貰いに行くとステーキ肉から煙が上がっている。
「マスター、お肉が焦げてるよ。それとエールのお代わりを頼む」
「いっ・・・今のは何だったんだ?」
「さぁ~、解体場の職員が泡を吹いているけど、何か有ったのかな。そんな事よりエールのお代わりとステーキを早く頼むよ♪」
お漏らしした男の傍でエールを飲みたくないので、少し離れたテーブルに座る。
一口飲んでいる間に、周囲の者がガタガタと音を立てて立ち上がり食堂から出て行くし、受付カウンターの方から血相を変えたギルド職員が足音荒く押し寄せて来た。
「何だ! 何が有った!」
泡を吹いて倒れている男を見て周囲の者に聞いているが、素知らぬ顔の俺を恐れて何も言わない。
職員を掻き分けて出てきたのは見覚えの有る顔で、確かギルマスだったはず。
周囲の雰囲気と素知らぬ顔でエールを飲む俺を見てずかずかとやって来る。
「確か・・・ユーゴだったな。この騒ぎはお前か?」
「俺は何もしていないぞ。獲物を売りに来たのに馬鹿にされたので、売るのを止めただけさ。そしたら、そこで寝ている奴が獲物を出せと騒ぎ出しただけだ。興奮しすぎたのか泡を吹いて倒れたけど、介抱してやる義理はないので放置しているけど何か?」
「では、先程の殺気はお前か?」
「そいつが煩いから静かにさせようと軽くな。ギルドの職員って、偉そうに人を怒鳴りつけるわりに気が弱いな」
「さっきのあれが軽くか、流石はドラゴンスレイヤーだな。前回は貴族同士の争いと見逃したが、ギルド内で騒ぎを起こすなよ」
「だから言っているだろう。騒いだのはそいつ一人で、俺はエールを飲んで・・・」
脂のはぜる音がして、上手そうなステーキの皿が置かれた。
このマスターもいい性格をしてそう。
「もう良いだろう。飯を食ったら出て行くよ」
「大人しく頼むぞ、男爵殿」
「さぁ、そうしたいのはやまやまだけど」
「うん・・・」
「此処へ来た時から鬱陶しい奴等が大勢いてな、手出しをしなけりゃ何も起こらない。としか言えないな」
「ああ、ザワルト伯爵の元配下が大勢いるからな。あれ程の殺気を浴びれば、馬鹿な事はしないだろ・・・それであの殺気か」
冷めないうちにステーキを食ったら、さっさとおさらばするさ。
ギルマスが首を振り振り引き上げて行き、寝ている男は職員が足を持って引き摺っていく。
やっぱりギルドの連中は乱暴だ。
* * * * * * *
ファルカナのギルドを出ると即座にジャンプ、進路を北に取りひたすら森の上を跳ぶ。
魔力回復休憩の場所に石柱を立てて目印を作り、三度目の目印は壁が見える場所となった。
道無きところを歩く森の中が、如何に歩き辛いのか良く判る。
今回は壁を越える気はないので、三本目の石柱からは下に降りて歩く。
方角は適当、この森がどんな所か興味があったので来ただけだ。
コークスやハリスン達に言えば呆れられると思ったので黙っていた。
ぼちぼち秋になるので、美味しい茸や果実を採取出来れば御の字だし楽しみが増える。
鑑定に期待した茸は、無毒と結果に出た物を煮たり焼いたりと調理してみたがゲロマズだったり、匂いが酷くて逃げ出す羽目になった。
特に匂いの酷い物は野営用のドームを放棄し、服も水魔法でジャバジャバお洗濯。
茸を焼くのは止め、というか予備知識なしの茸採取は諦めた。
地面は諦めて果実を探したが、俺って薬草採取が下手だったのを忘れていた。
特定の場所に有ると判っているのなら良いが、森の中から探せと言われたらお手上げだ。
手ぶらで帰るのも癪なので、南に向かって歩きながら出会った野獣をお土産に狩る事にした。
ゴールデンゴートのお肉が美味しいと聞いたが、山羊さんが都合良くいてくれたら良いのだけど。
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