第130話 練習相手募集
舐めた態度の奴にはキツい威圧を掛けて放り出し、適当な所で打ち切って貰い明日も来ると告げてエールを引っかけに食堂へ行く。
俺も余り王都のギルドには顔を出して居なかったし、シエナラの方が長いので見知った顔が殆ど居ない。
リンレィを座らせて、エールとつまみに軽食を受け取って戻ると、リンレィを取り囲む汚らしい集団。
黙って近寄り、ブラウンベア相当の威圧を浴びせてやる。
〈ヒェーッ〉とか〈ギャー〉とか、腰が抜けて座り込む奴までいる。
「俺の連れに何の用だ。大人しそうな相手に絡むつもりなら、それなりの覚悟を持ってやれよ。それとお前、軽い威圧で小便を漏らす様なら冒険者を辞めろ」
威圧を解除し「散れ!」と一言言って下がらせる。
「ユーゴじゃないか。王都に戻っていたんだ」
振り向けば・・・ん、誰だっけ?
「キラードッグに襲われた時に、助けて貰ったボイスだよ。あの後全然会えなくて礼も言えずじまいだったからな。で、此奴等が何かしたのか?」
「ああ、俺の連れに手を出そうとしていたからな。巣立ちの儀も未だの娘なのに、良い度胸だと思って脅したのさ」
「噂は聞いているぜ。ドラゴンを討伐したんだってな」
「それな、王家が俺の事を大声で喋って大迷惑だぞ」
「ギルドにも持ち込んだんだろう」
「小さいのをな。それより、あんたの周辺で怪我人や病人は居るかい。居るのなら明日にでも此処へ連れてきて、俺の名を出しな。此の娘は治癒魔法使いだが、練習相手が欲しいんだ」
「無料で?」
「練習させて貰うのだから当然だ。それに」
「金は持っている奴からふんだくる。だったな」
暫く一緒に飲んで、俺達の事を言いふらさない様に口止めをしてギルドを後にする。
* * * * * * *
少し遅い時間にギルド行くと、ボイスが待っていて後ろに居る仲間達が頭を下げる。
口々に以前の礼を言われたが、彼等の後ろに五人ほど居て興味深げに俺とリンレィを見ている。
俺の目が背後の五人を見たのを察して、知り合いの病人と怪我人だと教えてくれた。
ギルド職員に、彼等を先に治療してから続きを始めると伝えていると、ボイス達を掻き分けて大男がのっそりと出てきた。
「お前が怪我を治してくれるって奴か? 俺は朝早くから待っているんだ。俺を先にしろ!」
「先にしろ、って事は依頼って事になるのだが、金は持っているのだな」
「金ぇぇぇ。己は俺を舐めとんのか! ただで治してくれると聞いて、態々朝早くから待ってるんだ! 金なんか有るか! 治せ!」
「俺に治療依頼をするのなら、金貨300枚を持って来てから言え! 金が無いのなら大人しくエールでも飲みながら呼ばれるのを待っていろ!」
「何おぅ~、チビ猫が偉そうに」
そりゃー熊五郎から見たら俺はチビだが、とっ~ても気に入らない。
俺に向かって踏み出したので、ドラゴン(小)と対峙した気分で威圧を叩き込み、ずいっと一歩前に踏み出す。
熊五郎が顔面蒼白となり震えているが、容赦する気は無い。
「俺のやることが気に入らないのなら帰れ! ボイスは俺の知り合いで連れてきてくれと頼んだんだ。見知らぬお前より優先するのは当然だ。力尽くなら何時でも来い」
熊五郎が何も言わないので、ボイスが連れてきた五人を借りている部屋へつれて行く。
今日は部屋に簡易ベッドを用意してくれていたので、病人から治療を始める事にした。
一人目は膝が痛くて歩くのに難儀すると愚痴りだした小母さん。
鑑定するまでもない、指で治療場所を指示して治療させる。
リンレィの(ヒール!)の呟きと治癒の光りが消えたので(鑑定!・状態)〔肉腫〕って何よ。
肉腫って癌のことだよな、膝の状態が出ないので治っているはず「動かしてみろ」と確認させる。
「あらっ、何ともないわ、治癒魔法って凄いのね」
「それは良かった。膝は治ったけどもう一つ病気が有るので、其方も治すからベッドに横になってくれるかな」
「えっ・・・わたしゃ膝以外に悪い所は無いよ」
「俺は鑑定も使えるんだが、お腹に病気があると判ったのさ。今は何とも無いだろうけど、痛み出してからだとポーション代も馬鹿にならないよ」
「そうね。ただで治してくれるのだからお願いするわ」
リンレィに小母さんの下腹部を指差し、そこを集中的に治療しろと言いながら指を三本示す。
一つ頷くと、俺の示した場所に掌を置いて目を閉じ(ヒール!)・・・(鑑定!・状態)〔健康〕
よしよし、病気治療に際し、健康な身体に戻る様に願って治療している効果が出ている様だ。
後は鑑定が使える様になったらもっと良くなるだろうし、魔力の使い方も良くなるはずだ。
後は練習あるのみ。
打撲と思って居た骨折、所謂骨にヒビが入って腫れ上がっていた奴。
虚弱体質な若い男に眼病を患っている者と、過去の怪我で腕が上手く動かない男。
此の男は冒険者だが、腕のせいで今は王都周辺での薬草採取しか出来ないと愚痴る。
痺れもあると言うので怪我の部分を集中的に鑑定すると、骨がずれて固まっているのと神経を圧迫している様だった。
ゴブリン相手では再現できない症状なので、リンレィに詳しく説明して治療させる。
骨が元通りになる様に、腕の痺れが治ります様にとブツブツ呟きながら魔力を二つ使って治療している。
短縮詠唱や無詠唱は目立つので、此の方がリンレィ向きかな。
「終わったぞ、動かしてみろよ」
肘を曲げ腕をグルグル回して拳を握り、にっこりしている。
「前の様に動くし何とも無い、ありがてぇ~」
「腕の力が落ちている筈なので、暫くは元通り動く様に訓練しろよ」
「有り難うユーゴ。あんたの治癒魔法も凄かったが、この嬢ちゃんも中々の腕だな」
「まぁね。下で待っている奴等を寄越す様に職員に言ってくれ」
ボイス達が降りて行くと、新たな患者が次々とやって来たが13人で魔力切れ寸前になり、俺が後を続ける。
冒険者なので殆どが怪我人だが病人もチラホラいて、痩せた青白い顔の男は栄養失調。
食堂で飯を食えと言って銀貨を五枚ほど握らせて放り出す。
密やかなノックの後で、そーっと顔を覗かせたのは朝一の熊五郎。
「朝の事はすまねぇ。怪我を治して欲しいのだが・・・頼めるか」
「良いだろう、座りな」
「あのぅ~、金は?」
「ああ、いいよ。金の有る奴からふんだくるので気にするな。で、何処を怪我しているんだ」
「実は以前腕を怪我してから、上手く動かなくなってしまったんだ」
差し出した左肘近くに動物の爪痕だろう三本の筋が付いている。
多分怪我をした時にポーションで治ったと思っていたのだろうが腱の一本でも切れていそうだ。
軽く掌を向けて(ヒール!)
「動くはずだ、動かしてみろ」
へっ、と言った顔をしたが腕を屈伸させ手首をグルグル回し、手を握ったり開いたりしている。
「此れで、討伐任務に戻れるので助かる。あんたがドラゴンスレイヤーで凄腕の魔法使いとは知らなかったよ。モルドだ、俺で役に立つ事が有ったら何時でも言ってくれ」
「職員に聞いていると思うが、此の部屋を出たら治癒魔法の事は忘れろよ。此処で長く治療する訳じゃないのでな」
一週間程通ったが冒険者ギルドなので怪我人が多く、病人は治療を受けた者の知り合いとか家族だったりと少なかったが、多少だが経験は積めたので良しとする。
これから先、俺の元では経験を積むのが難しいのでリンディに手ほどきさせる事にした。
翌日リンレィを連れてロスラント子爵邸に出向き、リンディにリンレィの治癒魔法の経験を積む手ほどきを頼み、ロスラント子爵様の許しを貰う。
所属はあくまでも俺の配下で、子爵様に預けるが経費はリンディ持ちとなる。
リンディが治療依頼を受けて出掛ける時は同行して、リンレィが出来る事は指示を出してやらせる事になる。
* * * * * * *
リンレィの姿がアパートから消えると、俺達もそろそろシエナラに戻ると言い出すハリスン達。
食料を仕入れると三日後には旅立ってしまったが、俺も後から行くので目印のことを伝えて送り出した。
「奴等もいなくなったらがらんどうだな」
「ホリエントは、此処の留守をお願いするよ」
「お前も行くのかよ」
「暫くは王都に居るけど行ってみたい所があるし、試したい事も多いからな。主のいない家の番人なんて気楽で良いじゃない」
「依頼書受取人の間違いだろう」
* * * * * * *
高ランク冒険者が着るような服を誂えると、耐衝撃・防刃・魔法防御・体温調節機能を貼付してお出掛け準備完了。
王都クランズからシエナラ街道を西へ、馬車で順調にいけばシエナラまで19日、ハリスン達は到着している頃だ。
王都から西へシエナラ街道を行けば、最初の大きな街は馬車で三日の距離にあるアランドの街。
王都クランズからアランドの間には、大小五つの村や町がある。
ハリスン達が旅立ってから転移魔法を研究して、王都クランズとアランドの街の間なら、魔力が半減する前に跳べることは確認済みだ。
隠形で姿を隠し上空へジャンプと結界を各五回、推定高度500mに到達したら西方の集落の上空目指してジャンプ。
此処までで魔力を12使っているが、高度調整の為に上空へ1、2回ジャンプして次の集落を確認してジャンプ。
アランドまでの間に五つの村や町があるので、計六回繰り返す必要がある。
単純計算で魔力を96必要とする。
俺の魔力は73だが,魔法が使える回数は推定150回なので2/3減った事になる。
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