第129話 リンレィの協力者

 風の牙八名の内五名の状態を確認して、死なない程度に治療して穴に放り込む。

 何やら治療して貰えない五人が文句を言っているが、リンレィの魔力が回復してから練習台になって貰うので放置する。


 次の日は、骨折部位の上10cm程度の所に掌を翳しての治療から始める。

 その際、治療する骨折部分だけを治れと願いながら治療させたり、骨折部を含む周囲も治れと願ってやらせたりする。

 詠唱も口内詠唱にさせ、文言も〔アッシーラ様の力をお借りして、この者の怪我を癒やしたまえ〕から〔この者の怪我を癒やしたまえ〕と短くしてやらせる。


 午前中は治療をさせ、魔力が回復している夕方からは魔力を絞った水球作りをさせる。

 その際作った水球の数を必ず数えさせることにさせている。

 水球作りは魔力切れまでやらせるので、パタンキュウで朝まで目覚めない。


 目覚めると怪我をしている残りの奴等の治療だ、ハリスン達がドン引きしているが何時までも付き合ってやるつもりはない。

 基本的な事が出来る様になったら、お姉ちゃんから教われと預ければ病人に対する経験を積めるはずだ。


 俺が一番興味があるのは、リンレィの魔力が魔力切れの後増えるのか増えないのかだ。

 俺の様に魔力は増えないが、魔法自体の威力が上がる者が居るのかどうか。

 神様の悪戯が他人とどう違うのか知りたい。


 * * * * * * *


 風の牙八名を二回り怪我をさせて治療したら、もう勘弁して下さいと泣き出したので、王都に連れ帰り警備隊に引き渡すことにした。

 余り痛めつけて動けなくなれば。王都迄運ぶのは面倒なので殺す事になる。

 余り長く付き合うと、リンレィがモルモットに情が湧かないか心配だ。


 後ろ手に縛り首をロープで数珠繋ぎにした連中を連れて王都に戻ると、警備隊の衛兵が飛んで来きて注目の的。

 身分証を示して事情を説明した後で、取り上げていたマジックポーチ三個を渡してお任せする。


 一週間程休み、食糧を確保して再度草原に向かうおうとすると、ハリスン達が嫌そうな顔をする。

 今回はゴブリンの生け捕りは無しと言うと、冒険者の勘を取り戻す為などと尤もらしく言いながら付いてくる。

 目的はリンレィだと判っているが、未だまだ巣立ち前のおぼこだしお姉ちゃんに預けるのでやらねぇよ。


 今回は氷結魔法を削除して、水魔法を貼付しての射撃練習だ。

 少し大きめのドームを作り野営用のベッドに座らせると、五m程離して標的を立てる。

 水球作りは出来るので、ウォーターボールの詠唱と掛け声で射ち出す練習から始める。

 確実に水球を、ウォーターボールの詠唱と掛け声と共に射てるのを確認してから的打ち練習に切り替えた。


 リンレィの練習するドームの隣りにくっつけて、ホウルの作ったドームが有る。

 接触部分は穴が開いているので、ハリスン達が帰ってくれば相手をしてくれるので、俺も久方ぶりに風魔法を使った空中散歩の練習に出掛ける。

 心細げなリンレィには、他の冒険者達や野獣は中に入れないので練習に専念しろと言って放置だ。

 中が見えなきゃ野獣も野獣と変わらない風の牙の様な奴等も、かまってこないので安心だ。


 「頑張れー♪」の一言を残して上空へジャンプ。

 隠形で姿を隠すと大きな結界を張り、自由落下中に風魔法で下から吹き上げる。

 前回の練習でも思ったが、魔法で下から吹き上げるのも精々50m前後で、上空に吹き上げると風の力が弱くなり横風の影響をもろに受ける。


 上空にいて地面を起点に上昇気流を吹かせても、起点は移動してくれない。

 移動させるには風向を変更すれば良いが移動距離は数十m、下から吹き上げながら水平移動しようとしても、水平方向に吹かせる風の基点が無い。

 結界に貼り付けたらくるくる回って目も回り、危うく墜落する所だった。


 風魔法は、スカート捲り以外に大して役に立たないと結論づけた。

 序でなので水魔法の練習をするが、水球が意外に便利だと気付いた。

 大きな水球で野獣の頭部を包み込み溺死させたり、小さな水球を口に詰め込んで膨らませて窒息死させれば、獲物は無傷で手に入る。

 練習台になってくれたゴブリンやホーンボアには感謝。


 転移魔法での長距離ジャンプは、五回ほど上空へジャンプしてから遠くの街に向かってジャンプ、結界を張って降下する。

 上空へのジャンプ五回に結界五回、水平移動に結界と地面へジャンプで13回魔力を使う。

 馬車旅一日の距離を一度か二度のジャンプで移動可能と判り大収穫。


 前回魔力調整した時には推定150回の魔法使用が可能だったので、楽に長距離ジャンプを10回出来る計算だ。


 * * * * * * *


 リンレィの治療練習の為に、今回はタルトス通り施療院を訪れたが病人が少ない。

 何故かと問えば、俺がベラント通り施療院のルリエナに教えた方法で治療をした結果、病気の回復が早まり患者が減ったのですと言われてしまった。

 此れじゃリンレィの練習にならないが、病人が減るのは良いことなので次の手を考える。


 辻馬車を雇って冒険者ギルドへ行き、ギルマスに面会を求める。

 ドラゴンの引き渡し以来、俺の顔を覚えた受付は二つ返事でギルマスの所へ向かい、直ぐに戻って来るとギルマスの所へ案内してくれる。


 「おう、今日は何を持ってきた」


 嬉しそうに声を掛けてくるが、ホーンボアやオーク程度しか持ってないぞ。


 「この娘は、俺が預かって治癒魔法の練習をさせている。相談なのだが、冒険者で身体の調子が悪い者や怪我人がいたら、練習台になって貰おうと思ってね。勿論無料だし、この娘が治せない重病人や怪我人は俺が治してやるよ」


 「それは有り難いが、教会や治癒魔法師ギルドが黙ってないぞ」


 「なに暫くの間だし、噂になる前に止めるよ。だから此の娘の名前は聞かないでくれるかな」


 「良いだろう。お前がバックに居れば、そうそう無理を言って来る奴もいないだろうしな。それにお前は治癒魔法も凄腕なんだってな、神聖魔法の使い手の師匠だそうじゃないか」


 「それも知れ渡っているのか?」


 「王家が発表したドラゴン討伐に続き、お前が賢者と呼ばれる様になっただろう。其れに続いて、神聖魔法の使い手が現れたと大騒ぎになったからな。俺達に縁の無い相手だと思っていたら、お前が師匠だと噂が流れてきた」


 リンディ紹介の時に俺が付き添っていたし、家名は俺と同じフェルナンドだから当然か。

 貴族や豪商達の間だけでは止まらないのが噂だからなぁ。


 「で、どうやるんだ」


 「職員を食堂へ行かせて、病気や怪我をしている者に声を掛けてよ。勿論冒険者であれば誰でもよいが、その際ポーションを飲ませてやると言って誤魔化しておいて。それと、病気や怪我をしていない奴が、ポーション狙いで来たらギルドカード没収だと脅すことも忘れないで。俺達は空き部屋を貸してくれればそこで治療をするので、職員を一人付けてくれたらいいよ」


 「判った、逆らったらゴールドランク相手の模擬戦だと、脅してやる」


 リンレィには全ての患者を(鑑定!・状態)か(症状)とやらせてから治療する様に言ってある。

 風の牙の奴等を治療するに際し、俺が怪我の部位を全て鑑定して状態を教え、鑑定の重要性を教えたので真剣だ。

 内緒で鑑定を貼付しているので、余程相性が悪くなければ使える様になるだろう。


 会議室の隣りを貸してもらい、椅子を並べてセットしてモルモットの到着を待つ。


 「此処っすか?」


 「おう、何処が悪いんだ?」


 「ホーンボアの突撃を避け損なって、ちょいと肉を削られたんすよ」


 「入れ、余計な要求はするなよ」


 「へいへい・・・と、猫の仔とあまっ子かよ」


 「怪我を治したくないのなら帰ってくれ。ただで治してやるのに馬鹿にされる覚えは無いからな」


 「本当に治してくれるのか?」


 「真ん中の椅子に座って傷口を出し、手前の椅子に怪我をしている足を乗せろ」


 捲りあげたズボンから見える足には、皮膚がザックリと削られているが軽傷だな。

 足を怪我しているのに普通に歩いてきたので当然か。

 軽傷なのを見てホッとしているリンレィに頷くと、傷の上で手を翳して(ヒール!)と呟く。


 「ほぇっ、治癒魔法かよ!」


 「ああ、下に戻ったらポーションを少し飲ませて貰ったって言うんだぞ。ぺらぺら喋ると、ギルマスに睨まれても知らねえからな」


 「判ってるよ。ねぇちゃん有り難うなっ」


 そいつが出て行くとすかさず次の男が入って来たが、黙って俺達を見ている。


 「真ん中の椅子に座って悪い所を言いなよ」


 「最近胃が痛くてよ、安いポーションじゃ治らねえんだ。治癒魔法って聞こえたけど、本当に金はいらねぇんだな?」


 「払える程稼いでないだろう。椅子の上で横になりな」


 男がもそもそと横になったところで(鑑定!・症状)〔胃潰瘍〕

 胃潰瘍って、見掛けによらず繊細なのかな。

 男の腹を指差して頷くと、少し考えて何かを呟いてから(ヒール!)と治癒魔法を使う。

 (鑑定!・状態)〔健康〕


 ふむ、胃潰瘍を一発で治すか。

 大怪我を治した時と同じくらい魔力を使ったな、鑑定は未だ使えないが考えて魔法を使っている様なので、鑑定が使える様になれば期待できそうだ。


 その後も腕の骨折やトイレの度に血が止まらないと嘆く痔主、嫌な咳をする男と次々とやって来るので、あっという間にリンレィの魔力が切れそうになった。


 魔力切れです、ハイお終いとはいかないので俺が治療を受け持つ。

 俺に代わって八人目、胸がムカムカして頭も痛いと言ってきた男。

 鑑定すると〔二日酔い〕巫山戯ていやがると思い、フォレストウルフが牙を剥いた様な威圧を掛けて「出て行け!」と放り出した。

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