第128話 盗賊はどちら

 八人を並べて持ち物を調べると、マジックポーチ1-5が二つと2-30の物が一つ出てきた。

 1-5はいざ知らず、2-30の物が持てるほど稼げている様には見えない。


 「面白い物を持っているな」


 「おいおい、お前等の方が盗賊じゃねぇか!」


 「それはお前等だろう。さっきの台詞から大分手慣れている様に聞こえたぞ。ランク1の物は少し頑張れば買えるが、ランク2の物は幾らすると思っているんだ。ランク2の30の物だと、最低でも金貨7~8枚は必要だ。三つとも使用者登録を外して貰おうか」


 「やっぱり俺達から奪うつもりだろう」

 「捕まれば犯罪奴隷だぞ、判っているのか」


 「残念なお知らせがあるのだが、此れを見てみろよ」


 マジックポーチから取り出した身分証を見せてやる。


 「・・・男爵・・・様」

 「嘘だろう!」

 「こんな猫の仔が男爵だと?」


 「冗談で持てる様な物じゃないし、此処でお前達を皆殺しにしても何も言われないからな」


 「待てまて、俺達は殺されるようなことなんてしてないぞ」


 「ん、さっき俺を攻撃していたじゃないか『たんまり持っていそうだな』とか『今日はついてるぜ』なんて事も言ってたよな。マジックポーチの中を改めて、不審な物が無ければさっきの事は不問にして解放してやる。だから使用者登録を外せ」


 何も言わずに顔を見合わせているのが、疚しい事があると白状しているのも同然なのに。


 「よーし、ゴブリンの代わりになって貰うか。ハリスン死なない程度に頼むよ」


 「はぁ~、せっかく臭い思いをしてゴブリンを生け捕ったのに」


 「どうせ練習するのなら、人間の方がリンレィも真剣になれるってものだよ。なあ、リンレィ」


 ゴブリンを嫌そうな顔で見ていたリンレィが、ハリスン達を見てウンウンと頷く。

 とたんにデレる五人・・・ボルヘン、お前もか!

 ランク2のマジックポーチを持っていた男を地面に固定して、魔力を込めたフレイムを股間に乗せてやる。


 えっといった顔で股間のフレイムを見るが、炎が消えず燃え続けて股間が熱くなり腰を振り出した。


 〈止めっ・・・止めてくれ! 熱いぃぃぃ、ウォーォォォォ〉


 「よーく見ておけ。言われたことに素直にならないと熱い思いをするだけだぞ」


 〈熱いぃぃぃ、止めて、下さい・・・お願いします〉


 「あ~・・・使用者登録を外すのなら消してやるよ。黒焦げになる前に言いなよ。黒焦げになったら治癒魔法でも治せないからな」


 「酷ぇ!」

 「流石にあれは可哀想だよな」

 「でもよく耐えているなぁ~」

 「早くしないと消し炭になるよ」


 「外します! 外しますから消して・・・」


 「あららら、気絶しちゃったよ」

 「正気じゃいられないって事だな」

 「これでヒールの一言呟いて、金貨300枚だな」

 「いやいや、金貨3枚も持って無いと思うよ」


 「俺はそれ程悪辣じゃない、金の無い奴から毟り取ったりしないよ」


 「確かに、金の無い奴からは毟り取れないもんな」

 「次はあんた達の番だけど」


 「外します! あれだけは勘弁して下さい」

 「俺も外します!」


 使用者登録が外されたマジックポーチを、野営用のローブの上にぶち撒ける。

 野営道具やナイフにショートソードと長剣が数本に、着替え等が出てきたがそれだけだ。

 もう一人の物も同じ様な物だが違和感が・・・


 「へっ、へへへへ、おれっちは真面目な冒険者ですからぁ~」

 「さっきのはちょと揶揄っただけですよ。へい、すんませんでした」


 「そうか。でもなぁ~、お前等の台詞に頷けないんだよな」


 「ユーゴ、何が怪しいんだ?」

 「判った! 服をよく見てみろよ」

 「本当だ。冒険者御用達の店しか行けない様な奴が、吊るしの服を持っているぞ」

 「大きさもチグハグだな」


 服を確認していると小袋が有ったので確認すると、イヤリングや指輪が数点出てきた。


 「早くランク2の中を確認したいな。ユーゴ、其奴を起こしてよ」


 グロスタの期待に満ちた声に急かされて、脇腹を蹴り上げて無理矢理起こす。


 「さっさと起きろ!」

 「何時まで寝てんのさ」

 「後はお前だけなんだから早くしろ!」


 頭をパシパシ叩かれて呻きながらマジックポーチを手に取り、溜め息を吐いて使用者登録を外した。

 それをルッカスがすかさず取り上げ、広げたローブの上でひっくり返す。

 広げたローブに山積みになる品々、多数の剣や衣類。

 女性用や子供服まで雑多に出て来たので有罪確定。


 「なかなか手広くやっていた様だな」


 「どうする? 街までつれて行っても金貨二枚だったよな」

 「殺して埋めようか」

 「だな。糞みたいな奴等を生かしておく必要もないし」


 「命だけは、命だけは助けてください!」

 「お願いします。お許し下さい!」


 「お前等も、命乞いする者を殺してきたんだろう」

 「今度はお前達の番になっただけだ」

 「諦めろ!」


 「まぁ死ぬか生き延びるかは此れからだな。お前達には少しばかり協力して貰うぞ」


 「何でもします。殺さないで」

 「有り難う御座います。この恩は」


 「此奴等をもう少し痛めつけてやって。あっ、首から上は止めてね」


 リンレィが青い顔で見ているので、土のドームの中に入れて少し休ませる。

 その間に、鑑定で確認しながら痛めつけ、擦り傷や打撲から肉離れ骨折内臓破裂と様々な症状を作り上げる。

 鑑定で瀕死と出た奴は軽く治療して重傷に止めてから、簡易担架に乗せてリンレィの所に運んで貰う。


 土の台に置かれた簡易担架、呻く男を恐々と見るリンレィ。


 「今から治癒魔法の練習だが、いきなりは無理なので少し詠唱を教えるから良く聞いていて。〔アッシーラ様の力をお借りして、この者の怪我を癒やしたまえ〕かな。声に出さなくても良いから、ちょっと練習してみて」


 リンレィが真剣な顔で、ブツブツと詠唱の練習をしているのを見て、担架の上の男が絶望した顔になる。


 「覚えたら此奴の擦り傷から治してみようか。水球を作る要領で魔力を流すんだ。やってみな」


 「アッシーラ様の力をお借りして、この者の怪我を癒やしたまえ・・・」(ヒール!)


 男が恐いのか1m以上離れた所から、掌を患部に向けて治癒魔法を使う。

 擦り傷まで50cmくらい離れているので、治癒魔法に使われた魔力が拡散して淡い光りになる。

 だが、擦り傷が治っているので一応成功。


 「リンレィ、離れすぎだよ。出来れば傷の直ぐ側か上からでね。離れると魔力が拡散して、治療効果が薄くなるので注意して。次は胸の青痣でやってみて」


 今度は痣の少し上に掌を翳したが、遠いので斜めになっている。


 「リンレィ、魔力は腕を通して掌から溢れ出る。患部に斜めに掌を向けても治せるが、掌と患部が平行になる様にすれば効率よく治療出来るよ。それと腕を通して魔力を流すとは言え、そんなに突っ張らなくても大丈夫」


 指示に従い、青あざの上20cm程度の所に手を置き「アッシーラ様の力をお借りして、この者の怪我を癒やしたまえ・・・」(ヒール!)と呟く。

 良しよし、綺麗に治っているので続けて腕の骨折をやらせたが、見た目は元通りだが青タンが見える。


 (鑑定!・状態)〔骨折・軽傷〕

 ポッキリ折れていたのを治したが、イメージ不足か魔力量の関係か完治していない。

 再度同じ事をやらせると〔完治〕と判り一応治癒魔法使いとして使えそうと判る。


 但し、魔力使用量を確認していたが、一回の治療に魔力を2.5から3近くを使っている。

 水球作りの時の魔力使用量の癖が出ている様だ、再度水球作りで魔力の使用量を徹底的に減らす練習が今後の課題だな。

 其れとリンディの様に、綺麗に怪我や病気が治る様に願ってイメージ投入の・・・これはお姉ちゃんのリンディに任せよう。


 残魔力11で治療練習は終わりにしたが、重傷の男が情けなさそうな顔でリンレィを見ている。

 ハリスン達が遠慮会釈なく殴りつけたのだから、全身打撲と骨折多数なのに治ったのは少しだけ。

 そりゃー不安にもなるよな。


 奴等に聞こえない様に内緒話、俺が治癒魔法の手本を見せるが治療一回分の魔力しか使わないと教えておく。

 治療途中の男の台を地面に降ろし、少し離れた所から怪我の治癒を願って(ヒール!)


 (鑑定!・状態)〔骨折・打撲・軽傷〕

 鑑定結果をリンレィに教え、再度(ヒール!)(鑑定!・状態)〔健康〕


 「怪我は完治したが、魔力が広がっているのが判っただろう」


 「はい、ユーゴ様の掌から綺麗な光りが降り注ぎ、全身を包んでいました」


 「あれは見た目は綺麗だけれど、魔力が広がって患者に届く前に消えているんだ。次は患者の少し上でやるので、違いを比べてみな」


 (鑑定!・状態)〔骨折・打撲多数・重傷〕

 中々の獲物なので魔力を二つ使い(ヒール!)(鑑定!・状態)〔打撲・軽傷〕

 結果を教えてから、もう一度(ヒール!)


 見る必要もないので次の奴に取りかかる。

 (鑑定!・状態)〔骨折・打撲多数・瀕死〕

 おっ、死にそうなので魔力四の特別コース、胸に手を置いて(ヒール!)(鑑定!・状態)〔健康〕


 リンレィが真剣な顔で横たわる男を見ている。


 「どうだ、少しは違いが判ったか?」


 「はい! 患者に掌を直接当てて治療すれば、魔力が全然外へ・・・でも身体から溢れて」


 「それは治療に余った魔力で、それがほんのりとしか見えないのであれば注ぎ込む魔力が足りないって事だな」

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