第111話 魔力の使用量
掌に乗る水球をマジマジと見ているリンレィに、同じ様に掌を上に向けさせる。
「魔力操作ができるようになったと聞いた。此の水球と同じ物を自分の掌に乗せてみろ」
困惑した目で俺を見てくるので、水の玉を掌に出ろと願って魔力を流せば良いと教える。
「あのぅ、魔法を使うのにはアッシーラ様にお願いしてお祈りするのでは?」
「そんな面倒な事は要らない。魔法を授かったって事は、魔法を使うことを許されている。今更お願いなんて無駄だよ」
「あんた、身も蓋もない言い方ね。せめてウォーターボールくらい教えなさいよ」
「じゃあそれで。掌の上に此れと同じ物を願い、ウォーターボールと呟きながら魔力を腕から掌に流してみて」
差し出した掌を睨み「うぉ、うおぅうたーあぁっ、ぼおるうぅぅ」
〈ブハッ〉と吹き出したのはハティー、俺は肩に力が入り口ごもりだした時に、何かやらかすと身構えていたのでセーフ。
「ハティー、真剣にやっているのに笑うなんて、失礼だよ」
「ごっ、ごめ・・・ん。ちょっと意表を突かれちゃて」
真っ赤な顔で俯くリンレィの肩を叩いて深呼吸させ、ウォーターボールと何度も繰り返し言わせる。
「肩の力を抜き、軽い口調でウォーターボールと言いながら、魔力をそっと流せば良いんだからな」
肩を上下させ口内で何度も繰り返した後で〈ウォーターボール〉と呟くのが聞こえた。
同時に掌の上に水球がポンといった感じで現れたが、直ぐに形が崩れて流れ落ちた。
「やったわね、リンレィ」
濡れた掌を見つめたまま硬直しているリンレィを抱きしめて褒めるハティー。
さっき笑った気不味さゆえか、褒め方が大袈裟なんだよ。
「何をにやにやと笑っているのよ!」
「こんなに早く魔法を発現させられたのも、ハティーが確り魔力操作を教えてくれたお陰だよ。ゴブリンを捕らえてきたら、治癒魔法の奥義をみっちり仕込んであげるからね」
「ちょっとぉ~、その言い方は恐いんだけど」
リンレィには俺の作った水球を持たせて、同じ大きさと形を保った水球を作れと命じる。
(鑑定!・魔力)〔魔力・51〕・・・〔魔力・43〕・・・〔魔力・36〕29、21となったところで止めさせた。
魔力の使用量が6~8で初めてにしては安定しているが、元々の魔力が57なので無理はさせられない。
リンレィが俺が作った水球をマジマジと見ている。
「ユーゴ様、これはどうして壊れないんですか?」
「んっ、慣れだよ。慣れるとそれ位は出来る様になるし武器としても使えるぞ」
「水魔法がですか?」
「練習を続ければ出来る様になるさ」
そう答えたが、その水球はウォーターに魔力を込めたものだとは言えない。
生活魔法に魔力を込めれば立派な武器になるが、飛ばすことが出来ないんだよな。
フラッシュなんて最高に使い勝手が良いが、接近戦以外は用無しだし、フレイムはタマタマ焼き以外に利用価値を見いだせない。
玉焼きなんて、リンレィやハティーにはとても教えられない魔法だ。
リンレィに魔力の使用量を抑える方法をハティーに頼み、ゴブリンを持って来た時の準備をしておく。
暫くするとハティーが困惑顔で尋ねてくる。
「魔力の使用量を抑えるってどうやるのよ?」
「あれっ、鑑定が使えるって言ってなかった?」
「それなりには使える様になったわよ」
「だからリンレィを鑑定すれば良いのさ。鑑定の時に魔力と唱えればリンレィの魔力だけ鑑定出来るよ。てか、自分の魔力残量を確かめてるだろう」
「そうだった。他人の魔力を鑑定するなんて、思いつかなかったわ」
「治癒魔法の時だって、病状・・・状態を鑑定すれば判るので、そこだけを集中的に治療すれば良いのだから鑑定は大事だよ」
リンレィは当分水球作りを遣らせて、魔力のコントロールを身に付けさせれば良いだろう。
治療自体はゴブリンに協力して貰い、ある程度出来る様になったらリンディに預ければ何とかなると思う。
人に教える事も勉強だと、嘗ての世界で言われた覚えがある。
うん、素敵な言葉だ。
リンレィも水魔法が発動して魔法が使えることが確認出来たので、内緒で鑑定スキルを貼付しておく。
ハティーに、暇な時に鑑定の練習もさせてと頼むと、にっこり笑って頷いている。
魔法やスキルを、貼付したり削除出来る事を知っている相手は遣り辛い。
* * * * * * *
遠くからハリスン達が帰ってくるのを察知したが、何だかよろよろしている気がする。
見ているとゴブリンの手足を縛り棒を通して二人で担いでいるが、臭いのか匂いを避けながら歩いている。
「ユーゴ、臭くて運べないから一匹だけだぞ」
「担がなくても立木を切って橇を作れば良いのに」
「もっと早く言ってよ!」
「臭いし重いし二度とやりたくないよ」
「クジに負けたんだから仕方がないだろう」
「次は俺がクジを作るからな!」
地面に転がされたゴブリンを土魔法で持ち上げ、ウォーターでお水バシャバシャしてクリーンを三度繰り返す。
手足と首に腹を固定するとハティーを呼び、皆には気が散るからと離れて貰う。
ゴブリンを挟んで向かい合い、ドームで見えなくするが天井には大穴を開けておく。
「ハティー、今の魔力は幾つ?」
「78に増えたわ」
「ストーンランスは何発射てる?」
「最近数えて無いけど60発以上の筈よ。それが何か関係あるの」
「魔力が回復している時にストーンランスを10発か20発射ち・残魔力を調べれば魔力数から大体の数が判るよ。何故かというと、此れから教えるのは再生魔法だからだよ」
「再生って、手足の欠損を復活させるやつよね。それって、治癒魔法の最高術者にしかできない筈じゃないの」
「誰にでも出来るよ。但し魔力のコントロールが出来なければ無理だ」
「その為の魔力量や魔法を使う回数が重要なのね」
ゴブリンが煩く騒がない様に猿轡をして、足の親指を切り落とし軽く(ヒール!)で血止めする。
「足の指一本再生に、多分俺だと治癒魔法6~7回分の魔力を使うと思う」
ゴブリンに触れたくないのでボロ切れを足に被せて手を乗せる。
「6~7回分の魔力だと思うが、少し多めにして10回分を治療の時に流すんだが、一気に流さず治癒魔法で使う様に魔力を連続して流すんだ。それも患部に直接手を添えて、魔力が患部以外に流れない様にしてだ」
ゴブリンの足を見ながら指の再生を願って魔力を流し込む。
ボロ布一枚隔てた患部に直接治癒魔法の魔力が流れ込み、溢れ出た治癒の魔力が淡い光りとなって足から溢れ出る。
治療が終わっても、魔力を20/100を一気に流した時の様な膝の震えは起きない。
ボロ切れを足から取り去ると、斬り落としたはずの指が再生している。
「凄い!・・・流石は師匠って所ね。完璧に元通りに治っているわ」
「でも再生した物は、切り傷と違って元通りには動かないんだよ」
「それじゃー治療しても意味が無いじゃない」
「傷や骨折は治療すれば元通り動くけど、流れ出た血は戻らないだろう。流れた血が復活するまでは体力は落ちたままだ。再生した手足は動かす訓練から始めなければならないんだよ。今此奴を解放しても、親指が元通りに動かないのでまともに歩けないと思うよ」
反対側の親指を切り落として血止めの後、ハティーに再生治療の練習をさせる。
その際に治癒魔法四回分程度の魔力を使う様に指示する。
不審げなハティーには、理由は後で教えると言って強引にやらせた。
ボロ切れを被せた上に手を乗せると、一つ深呼吸をして目を閉じる。
ゴブリンの足から治癒の光りが漏れてくるが直ぐに収まった。
ハティーは目を開けると、いそいそとボロ切れを持ち上げて斬り落とした所を見ている。
魔力四程度じゃ少ししか再生出来ていない。
「これって、斬り落とした指が少し伸びているわね」
「そうさ、再生治療は投入した魔力量に依って再生するんだよ。切り傷や骨折程度を治療する魔力量では、何回何十回治癒魔法を使っても再生出来ないのさ。少しでも再生させたければ、通常より多い魔力を必要とするんだ」
「それじゃあ、もう一度同じ程度の魔力を流せば、此の指は元通りになるのね」
俺が頷くと再びボロ布を足に被せて治療を始め、今度はほぼ再生出来ていた。
「ちょっと爪先が足りないわねぇ」
「だから必要と思われる魔力数より、少し多目に使うのがコツかな」
そう言って今度は足の甲の所から斬り落とし(ヒール!)と血止めをする。
ハティーがドン引きしているが、今度は自分で考えてやってみろと言ってやらせる。
暫く斬り落とされた足を見ていたが、一つ頷いて「魔力の半分は必要そうね」と呟いて手を伸ばす。
俺は慌ててハティーの後ろに回り、マジックポーチから椅子を取り出して後ろに置いて構える。
「ん・・・あんたは何をしているの?」
不審者を見る目で俺を見て問いかけてくるが、直ぐに判るから治療をしろと惚けておく。
「一気にと言っても、無理矢理魔力を押し出さずに、治癒魔法を使う時と同じ量を連続して出すのだから時間が掛かるよ」
一つ頷いて(ヒール!)と呟く声が聞こえると、ゴブリンの足から治癒の光りが溢れ出て段々と強くなっていく。
暫くするとハティーの身体が揺れ膝が震えているのが判ったので、透かさず椅子を差し出す。
崩れ落ちるハティーを支えて座らせ、ゴブリンの足を見ると指の再生途中だった。
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