第100話 対人戦訓練再び
火球の大きさから、ハティーにもう少し魔力を絞っても十分魔法が使えると教えておく。
その際射ち出さず火球だけ作らせては魔力を抜かせる。
そうしながら30cm程度の火球になるまで魔力を絞らせ、慣れたところで打つ練習に変えろと言っておく。
鑑定は使える様になったのかと聞くと、自分の魔力が71に増えていると判っているので十分使えている様だ。
それなら治癒魔法の手ほどきもしておき、使う魔力量によっての治療効果もオーク辺りで試そうと決めた。
取り敢えず依頼遂行が先なので、翌日は全員を下に下ろしてベースキャンプを作り目印の柱を建てる。
前回の事でドラゴンと出会ってもハティーのドームで十分防げるし、ホウルのドームも十分強固と判っているので安心だ。
俺は一人壁を見下ろしては、草の茂っているところを探してジャンプを繰り返す。
下から見上げても草の生えている所が中々見つからないが、上から下を見下ろせば結構彼方此方に草や小さな木が生えている。
見本の草を目安に草丈40cm前後の物を中心に探していく。
鳥が止まり木に止まるように目星を付けた岩棚や割れ目に止まり、風精草を探す。
3~5ヶ所に一つ程度に目的の薬草が生えていたが、ジャンプと結界を繰り返す為にあっという間に魔力が少なくなっていく。
グレン達の所へ行き目標の花付きの茎30本×2倍の採取には一週間前後掛かると伝えた。
グレン達も燃えるような花の色と炎の様な火炎華の花は直ぐに予定数の20花を収穫出来たそうだ。
だが精霊草の新芽と葉の付いた茎の部分は、森の緑に紛れて大変だと言っている。
その為に一日毎に野営地を移動しながら精霊草を探す事になり、予定通りハティーが目印の柱を立てることになった。
予定より早い五日目に風精草の花と茎30本×2の60本を収穫してグレン達を追う。
ハティーの立てた柱を順に跳んで行くと、最後の柱の近くで索敵にグレン達と獣の気配が入り乱れている。
まさか襲われているのかと慌てて跳んで行くと、三つの避難所に中からハイオークの群れを攻撃している。
と言っても一つの避難所からストーンランスが飛び、二つの避難所からはアイスジャベリンが飛んでいる。
しかしハイオークが接近しすぎていて狙いづらい様で、致命傷になっていない。
倒れているのが七頭に暴れて居るのが六頭、隠形に魔力を乗せて避難所に近づく。
一番小さな避難所はグレンとオールズだろうから放置、もう一つのアイスランスを射ちだしている避難所に近寄る。
「ボルヘン、魔力は大丈夫かい?」
「ユーゴさん、良い所へ・・・近すぎて動くから狙いが付け辛くて大変です」
「詠唱をもっと短くするか、魔力を送り出す寸前にして詠唱しなよ。遠くなら多少のずれは何とかなるけど、近すぎると間に合わないよ」
「やってみます!」
「ハリスン、怪我人はいないよね?」
「大丈夫です。遠くで接近を察知しましたから余裕で避難所に入りました」
ちょっと考えてボルヘンにお手伝いして貰う事にした。
「ボルヘン、ちょっと試したい事が有るので射つのを止めてくれるかい」
グレン達の所へも行き同じ様にお願いする。
その間にハイオークの両太股にアイスランスを射ち込み、逃げられなくすると同時に両手足と首を大地に固定する。
突然ハイオーク達が倒れだしたのでハティーも射つのを止めていた。
隠形を解除するとそれぞれの避難所から皆が出て来きた。
「ユーゴ、何をするつもりだ?」
「まさか・・・ゴブリンの代わりに使うつもりなの」
流石はハティー、女の勘は鋭い。
「暫くの間、皆をドームの中に入れておいてよ」
「このメンバーなら知ったところで喋らないでしょう」
「まぁね。ハティーが良ければいいか」
「で、治癒魔法の奥義でも教えてくれるの?」
「ゴブリン相手じゃ難しい事だよ。取り敢えず小さな傷を治してみてよ」
俺達が近づくと暴れ出したので、用心の為に腹も固定する。
「武器を手にしないで近づくのは、流石に恐いわね」
そう呟きながらハイオークに近づき(ヒール!)と一言。
射ち込んだアイスランスの傷も綺麗に治していく。
「ハティー、次からは魔力の量を絞ってやってみて」
「あれね。少ない魔力で使えるギリギリの魔法を使う練習。って事は魔力を使いすぎているの?」
「練習なら良いんだよ。でも十分治癒魔法を使えるのなら、魔力を節約するのは大事だよ」
魔力を絞る方法は火魔法の時に十分練習しているので、直ぐに出来る様になった。
ここからが本番、傷の治ったハイオークの腹にアイスバレットの強烈なのを射ち込む。
〈ギャオォォォ〉って悲鳴が森に響き渡り、みているコークス達も顔が引き攣っている。
ハティーに頷くと、ハイオークの側に立ち(ヒール!)・・・あれっといった顔で首を捻る。
「良いんだよハティー。さっきまでの傷なら今ので治るので、その魔力量を基本に覚えておいて」
(鑑定!・状態)〔内臓損傷・重態〕
「ハティー、鑑定してみてよ」
頷いて鑑定をしているが難しい顔になる。
多分鑑定情報が多すぎるのだろうと思うので、鑑定の時に(状態)だけを引き出す方法を教える。
「お腹の中が傷ついていて重態って・・・」
「怪我を治した魔力量を1として、この程度なら2から3の魔力量を治癒魔法に乗せて使って見てよ」
俺の言葉に真剣に頷き、深呼吸を一つして(ヒール!)
「そこで鑑定してみて」
「内臓打撲、軽傷って出たわ」
「ならさっきの傷は今使った魔力量より一つ多い魔力で完治するよ。怪我も病気も、鑑定をしてから魔力量を調節する練習をすれば大抵治せる様になるよ。それと怪我は綺麗に治るように願い、病気なら健康な身体に戻るように願ってね」
「それで鑑定をくれたの」
「それだけじゃないけど、鑑定って役に立つだろう」
「勿論、十分に役立っているわよ」
可哀想なハイオークは、様々な部位をグレンとボルヘンからのアイスバレットで負傷させられる事になった。
お陰でハティーの治癒魔法の腕は、飛躍的に上達したと感謝された。
その日の夕食後、ハリスン達が嬉しそうにハティーに何かをお願いをしている。
頼まれたハティーがちょっと引き気味に頷き、横目で俺を見る。
「俺が何かしたの?」
「シエナラに来てから対人戦の訓練が出来なかったので、ハティーさんが治癒魔法を使えるのなら訓練後の治療をお願いしたんだ」
「木剣は振っているんだろう」
「それは続けているけど、やはり打ち合わないと勘が鈍っているんじゃないかと不安なんだよ」
「まだ革袋を持っているんだ」
俺達の話をグレンやコークス達が興味深げに聞いていたが、久方ぶりに遣るかとなり大きめの結界のドームを作る。
懐かしいクジ引きの勝ち抜き戦となったが、ショートソードに見立てた革袋とは言え、本気の叩き合いに二人を省いて大興奮。
「参った! 糞ッ、ハリスンに負けるとは」
「ルッカスには散々殴られたからな、日々の鍛錬はルッカスに負けない工夫をしているんだ」
「それならユーゴに負けない工夫をしろよ」
「その成果を見せてやる!」
「えらい強気だねぇ、俺だって日々の鍛錬は怠ってないよ」
「始め!」
「そこだ! いけ!」
「ハリスン、押されているぞ」
「足を払え!」
「ぶちかませぇ~」
散々ハリスンに殴られたルッカスが、よろよろとハティーの所へやって来る。
「ハティーさん、お願いします」
「何で魔法付与された服を着てしないの?」
「えっ、木剣で殴っても痛くも痒くも無い、てより当たったのかも判らないのでは真剣になれません。殴られたら痛いので真剣になります」
ルッカスの返事に、ハティーとボルヘンが呆れた様に首を振る。
その間も対人戦の訓練と言う名の叩き合いは続き、コークス達も対戦の順番の列に並んで彼此言っている。
「ちょっとぉ~、あんたは私達のリーダーでしょう、なんで負けてんのよ」
「いやー、グレンは中々の腕だぞ。俺が一回殴る間に二回殴ってきやがるんだ」
「ハティー、俺も頼む」
「ボルト、あんたもなの」
「ユーゴに負けるとは思わなかったぜ」
真剣勝負は体力を使うので長続きはしないが、それでも二回りほどして訓練は終了した。
バテ気味のオールズが「こんな訓練をしていたら、腕が良くなるのも当たり前だぜ」とぼやき気味に言っている。
「若いのに中々の腕前だと思っていたが、真剣にやらなきゃ痛い目をみるので上達もする筈だ」
「明日もやろうぜ。どうせ夜は暇なんだし、対人戦の訓練にもってこいだ」
「二人も治癒魔法使いが居るので、少々の怪我は大丈夫だしね」
「ハティーの練習に丁度良いね」
「えぇ~、打ち身だけなので大して練習にならないわよ」
昼は薬草採取、夜は結界のドームの中で訓練と言う名の殴り・・・叩き合いが続くことになった。
* * * * * * *
「魔法付与の服を着ているから安全快適なんだけど、精霊草がこんなに見つけ難いとは予想外だよ」
「必要数の60は確保できたけど、他の薬草は二倍集めたからね。これだけが半分じゃおかしいだろうし、茎一本金貨八枚なら苦労のしがいもあるだろう」
「そうそう、此れが終わればこんな所に来ないわよ」
「ドラゴン幾らで売れたかなぁ~」
「さっさと見つけて早く帰ろうぜ」
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