第99話 恐怖のバンジー
「オンデウス男爵には年金額を年金貨120枚に増額が決まっているのだ。それ以外に目に見える褒美をと」
「年金貨120枚?・・・グレンって今まで幾ら貰っていたの?」
「うむ、男爵位を賜って年に金貨60枚だな。月に五枚を頂いている」
「やっすう~、世間が貧乏男爵と呼ぶのも当然か」
「そう言うな。パーティーは壊滅しても生きてこられたのは、褒賞として金貨300枚と年金貴族として月に金貨5枚は大きいからな」
「それでも、家賃を払ったら幾らも残らないだろう」
「まあな、でも家族がいれば尚更に金貨5枚50万ダーラは有り難いぞ」
「あ~、お話し中に済まない。年金額については規定があって、気儘に支給できないのだ。それ故今回の功績を理由に支給額を増やしたのだが、それ以外に何か望むものをとな。フェルナンド男爵には、望むならザワルト伯爵の領地だったファーガネス領を」
「要りません、あんなものを貰ってどうしろと。どうせなら今の住まいの近くで、4~5部屋有る家を紹介してくださいよ。じゃなきゃ、薬草採取の依頼が終わったら王都から出て行きます」
「待ってくれ! それって・・・」
「当然男爵位はお返しします」
「何故・・・そんな事を?」
「何故、そんな事を? 馬鹿ですか! 勝手に賢者に祭り上げた挙げ句、依頼で狩ったドラゴンの討伐者として大々的に告知されてはね。断りもなく王家に利用されるのは御免ですよ。今俺の家に押し掛ける奴等を殺さずにいるのは、どうしてだと思います」
「悪かった、君の生活を乱したことをお詫びする。急いで希望の家を探すので暫く待って貰えないか、その間君の家に近づく輩を排除すると約束しよう」
「残りの薬草採取が終わってから今後の事は考えますよ。オンデウス男爵の用事を済ませたら帰らせていただきます」
グレンも俺の話を聞き、家が手狭なので家族八人がゆったり暮らせるアパートが欲しいとおねだりしていた。
下町とは言え王都の家賃と年金額を考えれば、貧乏男爵を辞退して王都を去る者が一定数いるのも当然か。
腕さえ良ければ王都以外の方が遥かに稼げるのに、無理に王都に住む必要が無いからな。
* * * * * * *
「グレンはアパートだけで良いの」
「ああ、母親も娘夫婦も王都を離れたがらないのでな。年金が増えるのなら、少しでも広い家で暮らさせてやりたい」
グレンってマイホームパパだったのかよ。
冒険者で家庭を持って生活していける者なんて半数以下なので、男爵位と年金は有り難いのも頷ける。
「ところで本当に男爵位を返納するのか?」
「貴族や豪商達に教会が絡んで来たので、面倒になって虫除け代わりに受けただけだからね。ロスラント子爵様も言っていたけど、今なら貴族でいなくてもそうそう無理は言ってこないだろうって。それに年に一度の公式行事出席って面倒だろう」
「そうか、経った一日辛抱すれば良いだけじゃないか」
「そりゃーグレンが王都住まいだからだよ。シエナラに居て呼ばれてみろよ、往復と王都に居る十数日で二月は必要だぞ。王都に来たからって翌日にお仕事とはならないからな」
「王家の公式行事をお仕事って・・・」
「依頼で男爵になっているのだから、公式行事出席はお仕事だよ」
* * * * * * *
翌日から胡乱な客の来訪がピタリと止まったが、彼方此方に警備兵が居て地域住民以外は止められて彼此質問しているそうだ。
ルッカスが止められた時に、俺の身分証を見せたら敬礼して通してくれたと教えてくれた。
一週間後にはグレン親子がやって来て、アパートを一軒貰ったと興奮気味に言われた。
俺の部屋に居たハティーやホウル達が興味津々で話を聞いていたが、現在の住まいの二本通りを隔てたアパートを、一棟丸ごと王家が買い上げた様だ。
3LDKで向かい合わせの四階建てに屋根裏部屋付きの建物で、二階の部屋を空き部屋にして進呈してくれたそうだ。
勿論建物の名義はグレン・オンデウスになっていたそうだ。
「俺は広めのアパートの一室と言ったつもりだったのに、お前の一言が強烈すぎて宰相閣下も気を回したのかな」
「ユーゴは何を言ったの」
「ドラゴン討伐後来客が殺到して煩いので、部屋数の多いアパートが欲しいって言っただけだよ」
ハティーが疑わしげな目で見てくるが、それ以上は言わないよ。
グレンも察して、苦笑いで頷いている。
聞けば二階の一室を娘夫婦が住み、グレン達と母親がもう一室に住むらしい。
1・3・4階と屋根裏の四室は住民がいて、家賃収入だけで十分生活が出来ると喜んでいる。
もっとも冒険者を辞める気はなく、夏の薬草採取にも行くぞと張り切っている。
* * * * * * *
五月が終わる前に各自が食料備蓄を始めて、六月半ばに王都を離れて残りの薬草採取に出掛けた。
今回は王家が気を利かせ、取り潰したザワルト伯爵の王都屋敷から馬車と御者を貸し出してくれた。
皆ドラゴンのオークションを楽しみにしていたが、残念ながらオークション開催日は六月の二十日。
恨みがましい目で出発を遅らせようと言われたが、盛夏の時期の物が最良と聞いているので却下。
帰って来たら、俺の口座に振り込まれている筈だから楽しみにしていなと慰めておく。
予定通り15日でサモン村に到着して、馬車はフェルカナの代官屋敷へと送り出す。
領主不在で代官屋敷になっているとはね、王家も気軽に俺に押しつけようとする筈だ。
* * * * * * *
サモン村から森に入り北へ北へと向かって進み、前回より二日早い15日で壁に到着した。
「流石に二度目ともなると早いわね」
「ああ、前回はうろ覚えの路を進んだが、今回は自信を持って進めたが少しズレたな」
右手遠くの壁の上に、針の様な柱が見える。
ハティーが手を出して「行くわよユーゴ」と当然の様に催促してくる。
俺を空中散歩かバンジージャンプの用具と勘違いしている様なので、腕を組みジャンプ。
見覚えの有る地形の上空で再度上空へとジャンプし、巨大な結界を張る。
隣を見ると鼻をつまんで息抜きをしながら、嬉しそうに周囲を見間回している。
もう一度上空へジャンプしたが、今度は結界を張らずに自由落下。
風圧を受けながらの落下に〈キャァーァァァ〉と心地よい悲鳴が聞こえるので、ニヤリと笑って結界を張る。
地面に降りて「ハティー、チビってないよね」と言った瞬間〈バシーン〉と平手打ちを食らった。
なんでよ、ハティーの大好きな空中散歩(急ぎ旅)を体験させてやったのに。
「あんたねぇ~、覚悟は出来てるの」
「あっ、コークス達を迎えにいってきま~す」
ヤバイ、本気で怒らせたかな。
でもストーンランスやアイスランスが飛んで来なかったので、大丈夫でしょう・・・多分。
皆の所に戻ると「ユーゴその顔はどうした?」とコークスに聞かれたので、理由を説明すると腹を抱えて笑われた。
「コークス、此処からじゃ柱の上にしか行けないので、耳が痛くなったら口を閉じ鼻をつまんで息を吹き出せよ」
少し練習させてから、コークスの腕を掴んでジャンプ。
すかさず上空にジャンプしてから自由落下に移る。
〈ウオォォォォォォ〉俺を笑ったコークスの心地よい雄叫びを聞きながら、見上げるハティーの隣に卸す。
「何か叫びながら降りてきたけど、あんた、まさかチビってないよね」
亭主で憂さ晴らしをしているハティーを横目に、次の犠牲者を求めてジャンプ。
11人全員を運び終わった時には、魔力が1/3しか残っていなかった。
何せ一往復する度にジャンプ六回に結界を最低三回は使うし、万が一を考えて皆に内緒で結界を張っていたから。
お疲れモードの俺を余所に、一瞬の空の旅と自由落下を経験した興奮で煩い。
「ハティーが、ユーゴの横っ面を張り飛ばした気持ちがよく判るよ」
「おう、崖から落ちた様な恐ろしい経験だったぞ」
「金〇マが縮み上がったぜ!」
「俺は少しちびったかも」
「俺もちびったかもと思い、思わずクリーンを掛けたからね」
「ユーゴはあの高さから落ちてもよく平気だね」
「落ちてはいないよ。本当に落ちたら死んでるよ。まっ、転移魔法が結構危ない魔法って事を体験して貰ったんだよ」
「先に言いなさいよ! あの時は死んだかと思ったわ」
「でも凄いよね。あんなに遠くに見えていた場所へ、一瞬で来たのだから」
「今日は下へは行かないの?」
「無理! 全員を降ろす魔力が無いよ。それと崖に生えているって聞いた風精草を探してみたいから」
「崖の、と言うより壁に時々植物が生えているのだが、行ってみなけりゃ判らないからな」
「あんな所によく生えるなと思うけど、下からだと草や小さな木とくらいしか判らないからなぁ」
「これこそユーゴ向きの薬草だと思うぞ」
「じゃあ、風精草はユーゴの担当ね」
「火炎華と精霊草は任せるね」
「二手に分かれたら合流できなくなるぞ」
「ハティーが目印の柱を立ててその周辺で探していてよ。その間に壁に生えている草を片っ端から見て回るから。不味い事になったら、上空に火魔法を三発打ち上げれば帰ってくるよ」
「火魔法って、あんまり得意じゃないのよね」
「ちょっと打ち上げてみろよ」
コークスに言われて、ハティが頭上に手を上げて何事かを呟くと、火球が現れて上空に飛んで行き〈ドーン〉と腹に響く爆発音が森に響く。
直径50~60cm程の火球とはね(鑑定!・魔力)〔魔力・71〕魔力が順調に増えている様だ。
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