第98話 引き渡し

 毎度まいどご苦労な事で、威圧なら俺だって出来るんだぞって思ったら、隣のグレンが騎士達を睨み付けている。


 「お前はヘルシンド宰相から何も聞いて居ないのか?」


 「おっ、お前・・・王家代理人たる我を・・・」


 「そんな事はどうでも良いんだよ。俺はフェルナンド、隣がグレン・オンデウス男爵だが、宰相から何も聞いていないのなら物は渡せないぞ」


 「ふぇ、フェルナンド・・・男爵・・・様」


 「知っているの?」


 「申し訳御座いません! 一介の冒険者と思い・・・」


 「あぁ~確かに一介の冒険者には違いないが、今、此の場所に、関係者以外の者が来ると思うの?」


 「誠に申し訳御座いませんでした!」


 「ああ、面倒だから謝罪はいいよ。で、蜥蜴の解体依頼に来たの、其れとも野獣の受け取りに来たの?」


 「あっ、はい。ユーゴ・フェルナンド男爵様とグレン・オンデウス男爵様より野獣三頭を受け取り、冒険者ギルドに解体と剥製の製作依頼を仰せつかっております」


 「て事は、蜥蜴は持って来ていないんだな」


 「はい、宰相閣下より指名された者が運ぶと聞いております」


 「ギルマス、と言うことで彼に野獣三頭を渡すので立ち会いをお願いします」


 「それは良いが、その蜥蜴とやらは」


 「今日預けますので宜しく」


 「よしっ、解体場へ行くぞ!」


 ギルマスに続いて使いの者が部屋を出るが、護衛騎士達の緊張が酷い。


 「グレン、そんなに脅かすなよ」


 「下っ端騎士が生意気に威圧を掛けて来るから、ちょいと脅しただけだぞ」


 「この野郎殺すぞって睨むだけで、それ程の効き目とは流石はグレンだね」


 「ちょっ、力が抜ける様なことを言うなよ。オークやオークキングと対峙した時の気迫を、相手に叩き付けるんだよ」


 「そうなの、どうりで俺が睨んでも大して効き目がないと思ったよ」


 「効き目がないって、そんな時はどうしていたんだ」


 「揶揄って模擬戦に持ち込み、叩きのめしていた。結構面倒なんだよね、今度からはドラゴンを叩きのめすくらいの気迫を送るよ」


 コークスやハリスン達が、後ろでクスクス笑っていてちょっと恥ずかしい。


 * * * * * * *


 解体場の入り口にはギルド職員が立ち塞がり、関係者以外立ち入り禁止になっている。

 ギルマスの後をお役人様に騎士と続き、俺達が通ろうとすると通せんぼ。


 「俺達も関係者なんで通してよ」


 「あー、そいつ等は通せ。それ以外の奴は入れるな!」


 の野郎、封鎖するのなら少しくらい段取りをしておけよ!

 て思っていたら、解体場が清掃されていて綺麗じゃないの。


 「あらっ、今日はやけに綺麗ね」

 「だな。久方ぶりのギルドだがこんなに綺麗なのは初めてだぞ」

 「やれば出来るのなら、時々は掃除をしろよ」


 お~ぉ恐っ、解体主任が睨んでいるから余計な事を言うなよ。

 解体主任の示した場所へ王家受け取り分の三体を並べる。


 七つに枝分かれした角を持つエルク

 漆黒のバッファロー

 レッドホーンディア


 「おい! こんな良いやつを隠していたのか」


 「馬鹿言っちゃいけない。こんな物を最初に出したら大騒ぎするだろう。それに、此れは過去のオークション価格の二割増しで王家がお買い上げだよ」


 「勿体ねぇ~。もう持って無いのか?」


 「こんなものがホイホイ居る訳ないだろう」


 「ドラゴンを狩ってくる奴の台詞かよ」


 「え~と、お役人様確認出来たかな。後はギルマスと交渉してね」


 エルクだバッファローだと聞き、そこいらで狩ってきた奴と同じ様に思っていたのだろう、獲物を目の前にして固まっている。


 「ギルマス、この呆けているオッサンを何とかしてよ。後がつかえているんだから」


 ギルマスがお役人様の差し出す書類にサインをして渡すと、そそくさと帰っていくご一行様。


 「さあ、ドラゴンを出せ!」


 「ギルマス、焦りすぎだよ。場所を指定してよ」


 長さとしては大型トラック一台分程だ、柱に当たらない様に注意して〈ドン!〉

 ゴールデンベア

 ブラックベア

 キングシープ

 ビッグエルク


 と、この間売り損ねた奴を少し離して並べて、さあ査定しろ!

 どや顔で解体主任を見たが、完全に無視されてしまった。


 ギルマス以下全員が、ドラゴンを取り囲んで彼此言っている。


 「物は小さいが流石はドラゴンだ、中々の迫力だな」

 「以前の奴は傷だらけで激戦の跡が見て取れたが、此奴は頭以外は小傷だけだな」


 グレンやハティー,ボルヘンが顔を見合わせている。

 俺が戻るまでは、通常の魔法が発動する魔力で攻撃していたので、ドラゴンを殆ど傷付けられずにいたからな。

 魔力量を増やす様に言い、攻撃位置を指示して倒せた事は口に出来ない。


 ハティーがチロリと俺を見るので、素知らぬ顔で横を向く。


 「よしっ、ドラゴンは預かってオークションに回すぞ。ザンドスは其奴の査定をしてやれ」


 「ギルマス、ゴールデンベアとキングシープも、オークションに回した方が良いぜ。此の大きさの奴はちょと見ないからな」


 「それで良いか?」


 「それじゃーオーク二頭とホーンボア二頭を追加しておくよ」


 「お前、いったいどれ位持っているんだ?」


 「後2~3回に分けて出せば終わりだよ。金は俺の口座に振り込んでおいてよ、後でグレン達11人の口座に均等に振り込む事になっているから」


 「11人って、お前は良いのか」


 「俺は依頼分で稼いだし、此れ等を狩ったのは彼等だから」


 * * * * * * *


 ヘルシンド宰相から依頼料金貨6,000枚、6億ダーラ

 グレン以下11人を四ヶ月雇った給与分、26,400,000ダーラ。

 薬草代金金貨1,080枚、108,000,000ダーラの振込完了通知が届いた。


 全員で商業ギルドへ行くと、給与分と薬草代金を各自の口座に均等に振り込んで貰う。

 給与と薬草代金合計が134,400,000ダーラ、11人で割ると一人12,200,000ダーラ少々と伝えて各自の口座に15,000,000ダーラを振り込ませる


 「ユーゴさん、良いんですか」


 「ボルヘンか、大丈夫だよ。俺は蜥蜴の依頼完了で全員分の何倍も貰っているからね」


 「ユーゴさんのお世話になってからは幸運続きで、感謝しています」


 「さんはいらないよ。ハリスン達と仲良くやってくれて有り難う。今度は夏場の薬草採取だから頑張ってね」


 商業ギルドに預けている金が380,000,000ダーラ少々+蜥蜴の代金6億ダーラ有り合計980,000,000ダーラ。

 多少分配金に上乗せしても減った気がしない。

 むしろ獲物の分配に関与しなくて良いので、その方が気が楽だ。


 しかし、蜥蜴のオークション価格は少し気になる。


 * * * * * * *


 晩餐会以来、ドラゴン討伐と国王が賢者と呼んだ俺の名がいっそう知れ渡り、少々鬱陶しい。

 その上冒険者ギルドに預けたドラゴンが、定期オークションに出品されると告示されて王都はお祭り騒ぎだ。


 家には連日貴族や豪商から祝いの使者や、お届け物と称する品々が贈られてくる。

 コークス達に来客を追い返す様にお願いしていたが、三日で根を上げて何とかしろと怒られた。


 怒られたら矛先を変えるのが被害を減らす最善の策なので、ヘルシンド宰相に書状を送る。


 曰く、国王陛下が賢者などと称したお陰で、たった一間の俺の家に来客が絶えず贈答品の受け取りを拒否するだけでも大変だ。

 何とかしろ! 出来ないのなら依頼が完了した時点で男爵位を返納すると脅してやる。


 即座に返事がきたが内容がちと不穏、と言うか何か企んでいそう。

 特にオンデウス男爵共々王城にお越し頂きたいってところが怪しい。


 お向かいに住むコークス達に留守を頼み、辻馬車を雇ってグレン共々王城に出掛けた。

 グレンに何を企んでいるのだろうかと尋ねると、どうせドラゴン討伐の褒賞でも与えようって事じゃないのと言われる。


 俺って依頼による雇われ男爵なんだけどなぁ。

 討伐依頼が完了したら、報酬を貰って終わりにして貰わないと面倒だ。


 お城の通用門も久方ぶりだが、前回とは対応がまるっきり違う。

 身分証を提示すると、直ぐに城内の男爵用控えの間に案内された。


 「今までと扱いが全然違うぞ。ユーゴの脅しが利いているのか」


 「えっ、俺は侍従やメイドを脅した事なんてないよ。ちょっと魔法を空に向けてぶっ放しただけ」


 「世間では、それを脅しって言うんだよ」


 控えの間に入ると、侍従に俺とオンデウス男爵が面会を求めていると伝えに行かせた。

 俺達が控えの間に入ると直ぐにお茶が出され、侍従は頼まれると即座に行動する。

 前回の出来ません許されていませんとかの言い訳が、一切ない。


 「ちょっと気味が悪いくらいだな」


 「グレンもそう思う。今回は否定の言葉が全然出て来ないな、宰相に文句を言ったのが効いたかな」


 「宰相閣下に文句を言ったのか?」


 「用が有って来ているに放置されたら、文句の一つも言いたくなるでしょう」


 「まさか・・・宰相閣下相手に、金貨の袋を要求してないだろうな」


 「治療依頼でないので、そんな事はしないよ」


 「ユーゴ・フェルナンド男爵様、グレン・オンデウス男爵様、宰相閣下がお待ちです」


 * * * * * * *


 「態々来て貰って申し訳ない。ドラゴン討伐の立役者フェルナンド男爵とオンデウス男爵に、褒美をと陛下が言っといるので何か望みの物はないかと」


 「要りません! 依頼として蜥蜴を狩ってきただけです。褒美なら、王命で俺達をドラゴンの地まで案内した、オンデウス男爵にこそ与えられて然るべきでしょう。王命なのに彼に与えられたのは俺が雇った者と同額の金子だけです。野獣でも狩って稼がなきゃ、やってられないでしょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る