第84話 協力要請

 遠征費用は一人一日銀貨二枚で今回は四ヶ月の予定、冬場と夏場の二回行く必要が在る。


 条件として受けるのは俺個人で、恐かったら逃げ帰っても良く違約金は発生しない事。

 この依頼が完了するまでは外部に漏らさない事と、無事討伐と採取が完了しても他の参加者を公表しない事。

 俺とオンデウス以下15~20人で向かうので、他の者の遠征費用も王家持ち。

 年に一度公式行事参加と魔法を披露する約束だが、今後はどちらか一つにする事。

 討伐と採取方法については俺に任せる事と、薬草の見本を用意する事等を要求し全て受け入れられた。


 ドラゴンの剥製を見せて貰ったが、体長16m少々で棘だらけの手強そうな奴。

 胴長なアルマジロトカゲとかヨロイトカゲと言われる、ペットショップにいる奴に似ている気がする。

 頭部に縦に五つの角が鶏冠のように生えているのでトゲトゲ鱗の表皮と合わせ凶暴な風貌にちょいビビる。


 但し剥製とは言え傷だらけで、相当な激戦を思わせる代物であった。

 頭部や鼻面に黒く焦げた後が見受けられたが、苦い表情でドラゴンを見るグレンの闘いの痕跡と思われる。


 収納持ちの男から薬草の見本を各種受け取り、グレンが待たせていた辻馬車に同乗してグレンの家へ行く。


 「グレン、ドラゴンの生息地って何処よ」


 「はぁ~、一番最初に聞く事だろうが」


 「いやいや、グレンが一緒に行くのなら別に聞かなくても良いかなと思ったので」


 「国王陛下や宰相閣下とタメ口で交渉しているかと思えば、とんだところで抜けていたな」


 「予定では四ヶ月と聞いたので、片道二月ならそこそこ遠いかなと」


 「ファーガネス領サモンの村から森を北に向かって二週間程度の奥地のその奥だな」


 「ファーガネス領サモンって?」


 「王都よりシエナラ街道を西に進み、フェルカナと言う街の一つ手前だな」


 ちょっと嫌な予感がするぞ、確かストライ・ザワルト伯爵って赤ら顔のオッサンだったな。

 そんな事を思い出していると、預かっていたマジックポーチを返すと言うのでそのまま遠征の食料備蓄に使って貰う。

 一週間程食糧確保に励んでもらい、その間に馬車の手配とザワルト伯爵からの妨害を受けない様に、王家から釘を刺して貰う事にする。


 ふと思い出して依頼書の束を取り出して捲ると有りましたよ、ファーガネス領フェルカナの領主ストライ・ザワルト伯爵。

 シエナラ街道での無礼は許すので治癒魔法の腕を見せよ、能力によっては治癒魔法師の一員に加えて高額を支給する・・・と。


 * * * * * * *


 領地に居たストライ・ザワルト伯爵の元に、ヘルシンド宰相より書状が届いた。

 何事かと急ぎ封を切ると、領地内をユーゴ・フェルナンド男爵の一行が滞在するかも知れないが、彼が望めば協力を惜しむなと記されている。

 ユーゴ・フェルナンドとはあの冒険者の事だ、我を軽くあしらった報いを何れはと思っていたが、思っていた以上に王家の知遇を得ている様だ。


 奴を迎えに行かせた配下の者は、野獣の待ち伏せを受け危うく全滅する所だった。

 恨みを持って迂闊な事をせぬ様、よく言い聞かせておかねばならない・・・が。


 * * * * * * *


 コッコラ会長にお願いして馬車を借り、グレン達と共にシエナラに向かった。

 薬草採取ならコークス達大地の牙とハリスン達王都の穀潰しに頼むに限る。

 俺はハティーから、薬草を見逃すのが多いとお叱りを受けるほどだ。

 冒険者登録をしてからも本格的に薬草採取に励んだ覚えが無いので、餅は餅屋に任せるに限る。


 グレンからは今度はコッコラ商会の馬車かよと呆れられたが、一応依頼のお仕事に向かうのだから足の確保は大事だと胸を張って答えておいた。

 それにコッコラ商会ならシエナラに支店が在るし、フェルカナにも支店は在ると会長から教えられた。

 フェルカナの支店に馬車を預けてサモン村に向かえば、とっても都合が良いだろうと言うと、何も言わずに首を振っていた。


 オールズは馬車の中からストーンアローの練習、グレンもアイスランスの射撃練習に励み俺一人が暇を持て余す。


 * * * * * * *


 「申し上げます。フェルナンド男爵の馬車がボウダルの町を通過したとの報告が届きました。乗っているのはフェルナンド男爵と、グレン・オンデウス男爵親子の三名です。コッコラ商会の馬車を使っているとの事です」


 やはり以前よりフェルナンド男爵と繋がりがあると噂の、コッコラ商会の馬車を借りたか。

 あの男が我が領地で何をするつもりなのか、王家は何のつもりであのような書状を送ってきたのか。


 「監視の者は気付かれてはいまいな?」


 「はっ、馬車の近くには近寄るなと指示しております。シエナラ街道の各所にも監視の者を潜ませていますが、彼等に近づいたり声を掛けるようなことはするなと命じています」


 「引き続き監視と報告を怠るな」


 糞生意気な猫の仔が、我が領地で何をする気なのか。

 書状の内容が気になって仕方がないザワルト伯爵であったが、フェルナンド男爵達は宿には泊まらず旅を続けて、四日目の昼前には領境を越えてダブリンズ領へと消えていった。

 肩透かしを食ったザワルト伯爵であったが、監視の目を緩める事は無かった。


 * * * * * * *


 シエナラの町に到着すると冒険者ギルドの前で降ろしてもらい、馬車はコッコラ商会の支店で待機する様に言って送り出す。


 「話の通り、中々大きなギルドだな」

 「王都の冒険者ギルドは獲物が少ないからなぁ」


 「シエナラは獲物が多い事でも有名だし、森に入れば結構いるぞ」


 「ここでお前の知り合いを待つのか?」


 「ああ、どちらも野営をしながら薬草採取と討伐をしているので、直ぐには会えないよ」


 ハイドラホテルに泊まり、毎朝冒険者ギルドに出向いてコークスやハリスンを達を探す事になる。

 二日目にギリス達シエナラの誓いと出会ったが、バンゲルの姿が見えない。

 ラメリアとヴェルナが並んで楽しそうに話しているので、バンゲルはと尋ねると冒険者生活が合わなかった様だと教えてくれた。

 今はロスラント子爵様の魔法部隊に所属しているそうだ。


 ギリスに調子はどうかと尋ねると、ラメリアと言う攻撃魔法使いがいるので稼ぎは上々ですと満足気だ。

 ヴェルナからも、話し相手が出来て嬉しいと礼を言われてしまった。

 コークスやハリスン達はたまに見るが、狩り場が違うので滅多に見ないと言われた。


 毎朝ギルドの食堂に居座っているが、グレン親子が居ると誰も揶揄ってこないので気楽だ。

 時に〈おい! 奴が帰ってきているぞ〉とか〈彼奴にだけは絡むなよ〉なんて声が聞こえるが、素知らぬ顔で朝エールを楽しむ。


ギリス達と出会った三日後に、ハリスン達とギルドの入り口でばったり出会った。

 詳しい事は話せないが、一日銀貨二枚で当分の間俺の仕事を手伝ってくれと頼む。

 俺には世話になったし、何時も稼がせて貰っているのでと快く了解してくれたので、二ヶ月分の食料調達を頼み、3-180のマジックポーチと銀貨100枚入りの革袋を渡しておく。


 * * * * * * *


 「冒険者パーティーにマジックポーチを渡して、食料を大量に買い集めているだと」


 「はい、最初の知り合いらしいパーティーと情報交換した後は、そのパーティーと接触しただけです。どうも別なパーティーを待っているようです。それ以外は市場で食料を仕入れたり街を彷徨いているだけです」


 「判った。引き続き監視を続けて、変化が有れば直ぐに報告しろ!」


 * * * * * * *


 「コークス、待ちわびたよ」


 「何だ、今度の連れは新米魔法使いには見えないが」


 「ちょっとした依頼を受けているのだが、手伝ってくれないかな。この二人は後で紹介するが、一日銀貨2枚と採取した薬草の代金全てだ。大きな声では言えないが相当な額になるよ」


 「それを支払ってもお前に稼ぎは残るって事か」


 黙って頷くと、面白そうだから詳しく話せと言いだしてホテルに移動する。

 ホテルの商談室を借りるとグレン達親子を紹介した後で、ハリスン達も交えて依頼内容を説明する。


 「ドラゴン討伐なんて、大昔の話だと思っていたがなぁ」

 「それで、ユーゴは受けたのか?」


 「一応恐かったら逃げ帰っても良いって条件でね」


 「あっきれた! それって王家の依頼でしょう」

 「それを恐かったら逃げ帰るって・・・」


 「討伐出来なくても薬草などの代金は支払われるし、一日銀貨二枚の手間賃は貰えるよ」


 「そう言う話じゃないんだがなぁ」


 「で、オンデウス男爵殿が、ドラゴンの住処まで案内してくれるって事か?」


 「殿は要らんよ、王都で冒険者をしているし、ユーゴとも何度か一緒に出歩いた仲だ。ドラゴンの住処は隣の領地から北へ二週間ほどの森の奥、そこから要害の地を進んだその奥だ」


 「森の奥へ二週間程って、野獣の住処みたいなものだぞ。しかもその奥ってどんな所だよ」


 「そこへ行く時は皆に防御障壁を張るので、おいそれと怪我や死んだりしないと思うよ」


 「あれか、あれって目が回るからなぁ~」

 「そうそう。吹っ飛ばされたら、天地がひっくり返って大変だったんだぞ」


 「あの~う、防御障壁って?」


 「身体の表面を覆う結界だね。魔法攻撃程度じゃ怪我はしないよ」


 「但し魔法が当たれば吹き飛ばされて目が回るけどな」

 「違いない」


 コークス達に爆笑されてしまった。

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