第79話 氷結魔法と魔力

 今作った氷も、俺の掌に乗った氷をイメージして作ったので拳大の氷だ。

 グレンが何もイメージせずに氷のみを念じ、雷撃と同じ2/92の魔力を使った氷を作れば、どんな大きさの氷が出来る事やら。

 相当大きな氷が出来るのは間違いない。


 「歩きながらやろうか。自分の拳と同じ氷塊を作るつもりで作りなよ。氷は40個までで数を数えていろよ」


 俺の後を歩きながら時々(氷!)って声が聞こえ、〈ほう〉とか〈へえぇ~〉とか聞こえる。

 自分で作った氷塊に感心しているらしいが、その後で〈ほれっ〉て聞こえるのは後ろを歩くオールズに渡しているらしい。

 オールズにとって、父親は歩く簡易冷却装置と化した様だ。


 「ユーゴ、40個終わったぞ」


 立ち止まってグレンを(鑑定!・魔力)〔魔力・24〕

 ん、氷塊を41個作ったので、残魔力は10の筈だが24も残っている。

 試しに雷撃と氷塊作りを一回ずつやって貰ったが、どちらも魔力を2/90使っていて残魔力20になった。


 魔力92で魔力切れから完全回復するまでに八時間とすれば、魔力が1回復するのに五分少々か。

 ゆっくり氷塊を作っていたので、回復分が残魔力にプラスされていたようだ。


 「グレン、魔力が腕から抜ける感覚は判るよな」


 「おう、お前の教え通りにやっているからな」


 「今から作る氷塊は、腕から抜ける魔力を半分で止めろ。雷撃じゃないので、魔力を半分にしても氷は出来るから。魔力の流れに注意してやってみな」


 歩きながらでは気が散ると思い、立ち止まってやらせる。

 その間一回毎にグレンの魔力残を鑑定し、魔力の使用量を教えて注意する。


 「未だ未だだね。氷塊10個作るのに魔力を16使っている。試しに今の魔力使用量で雷撃を一発射ってみな」


 小さく口内詠唱をすると〈バリバリバリドーン〉と雷撃音が轟き標的の岩の表面が飛び散る。


 「あー駄目だ、魔力切れ寸前だな」


 「でも少ない魔力でも雷撃を射てただろう」


 「確かにな。なんで魔力を減らすことが出来なかったんだろう」


 多分魔力が少ないと魔法が発動しないっていう、最初の思い込みが無意識に作用していたんだと思う。

 日暮れには早いが野営する事にして、二人の為に土魔法のドームを作る。

 その隣に結界のドームを作り椅子やテーブルなどを並べる。


 「此れがユーゴの言っていた野営用の結界なのか」


 「そう、此れだと野獣が寄ってきても起き上がって確認する必要が無いからね。索敵の練習には最適だし、寝ながら狩りが出来る優れ物だよ。土のドームだと獣からも俺達の事が判らないので、余り近寄って来ないしね」


 * * * * * * *


 一夜明けて、魔力満タンのグレンに前日よりもっと魔力を減らして、魔法が発動しない限界を探れと言って出発する。

 その際、氷塊を作るのは40個までと言っておく。

 グレンから40個作り終わったと聞き、残魔力を鑑定で確かめたが39と回復分を含めても未だまだだ。


 二日目の残魔力は42、三日目が45と着実に魔力の使用量が減っている。

 六日目に魔法が発動しないと言ったので、そこが限界点なのでそれより少し多い量の魔力を流す練習を続ける様に指示する。


 その間も森の奥へ奥へと進むと、オールズが俺はこんなに野獣の多い所は初めてだと泣き言を言っている。

 確かに王都周辺じゃ様々な野獣に連続して出会うって事はないだろうから、無理もない。

 索敵で獣を察知する度に避難所でやり過ごしていると、流石にオールズも土魔法の重要性に気付いた様だった。


 「この間、俺も土魔法が使えるって言ったよな・・・あれって本当の事なのか」


 「使えるよ、但し相当練習・・・練習以前に魔力の扱い方からだな。親父さんの雷撃や氷結魔法の練習は簡単そうに見えるけど、元々雷撃魔法が使えていたからこそだよ。それでも雷撃魔法と氷結魔法では、やり方が随分違うからな。この先アイスバレットやアイスアローで苦労すると思うよ。オールズの場合は魔力操作から始めるが、絶対に魔法が使える保証はないよ。魔法ってのは、アッシーラ様から授かっても使え無い奴は多いからね。魔法が使える様になっても10回前後で魔力切れになるよ。それでも練習してみる」


 「やる! やります、教えて下さい」


 グレンが息子の顔を見ながら、ニヤニヤと笑いを浮かべている。


 「横でニヤニヤ笑ってないで、魔力溜りの場所を教えてやりなよパパさん」


 「雷撃魔法を、それなりに使える様になるのに何年掛かったと思っているんだ。だけど、魔法巧者のユーゴから教われるんだ、頑張れよ」


 オールズは魔力溜りと魔力溜りから魔力を腕へ導く練習をパパから教わり、毎夜真剣に取り組み始めた。

 俺は二人の練習を横目に、結界の中でお茶を片手に索敵で周辺を探り、近づく奴をアイスバレットで追い払う。


 * * * * * * *


 予定より二日遅れたが、清流の流れる伐採現場に到着した。

 倒木の切り残しもそのままで、此処が以前クリスタルフラワーの匂いに誘われた場所と教えてくれる。


 「こんな場所に生えているのか?」


 「ああ、俺も偶然花の匂いに誘われて見つけたんだ。まさかオークションものの花とは思わずにお土産として採取したのさ」


 以前花を見つけた場所も殆ど変化しておらず、川縁の低木の密集した所に潜り込んで確認する。

 今日は風がなく潜り込んだ草叢から、甘く優しい香りが沸き上がる様に匂っている。


 「ほう~、此れがクリスタルフラワーの香りか」

 「でも花が見えないぜ、有名な花なんだろう。さぞや見事な花だと期待したんだけどなぁ~」


 「余り草叢を荒らすなよ。ゆっくりと草を掻き分けて、薄緑色の半透明な花を探せよ」


 「此れかな? 薄緑で半透明な花」


 「根から採取するのでそのままにしておいてよ。今容器を作るから」


 「おっ、こっちにも咲いているぞ。香りも良いが花も半透明で綺麗なもんだな」


 「踏み荒らさない様に気を付けて、じっくりと周辺も探してみてよ。多分まだ在ると思うよ」


 初めの場所で咲き始めたばかりの花を二本採取して、周辺の似た様な環境の所を探して歩く。

 二日で九本の花を採取したので、三本をグレン達に四本をブレメナウ会長に渡す事で納得して貰う。


 「つくづく土魔法って便利だなぁ。攻撃も防御も野営もお任せだぜ、それに容器まで作れるって呆れたね」


 「まぁね、重宝しているよ。預けたマジックポーチはランク3、3-180なので、王都に帰ってギルドに渡しても新鮮なままだから高く売れると思うよ」


 「ユーゴは本当に要らないのか?」


 「あぁ、俺はお土産に二本有ればそれ以上は必要ないよ。稼ぎは別な方法があるからね」


 「確かに、口先一つで見事に稼いだからな」


 「えっ、ちゃんと治療をして、その対価を貰っただけだよ」


 「はいはい。見事なお手並みでしたよ」


 「所で野獣を一頭も狩っていないんだけど、3-180のマジックポーチが有るのなら少しは獲物を持ち帰ろうぜ。親父も練習ばかりで退屈だろう」


 「頑張れー、パパさん♪ あっ、大きさは気にしなくて良いよ。12サイズのマジックバッグを持っているから大丈夫」


 「気楽に言ってくれるよ」


 「親父、今なら無敵の防御に守られて気楽に狩れるぞ。ドラゴンとは言わないが大物を一頭頼むよ」


 大物を探すのは面倒なので川辺でキャンプして獲物が現れるのを待つ事にした。

 但し昼間より夜の方が野獣も活発で、結界に餌がいると見ればすかさず寄ってくる習性を利用する事にした。


 「おい、こんな状態で寝るのかよ」

 「これって寝ている間に消えたりしないよな」


 「えっ、もともと消えてるじゃない。気にしないで寝てて良いよ、獲物が現れたら起こしてあげるから」


 「ユーゴが訓練の為だと言って結界の中で寝ているが、よくこんなので寝られるな」

 「此れじゃ獲物を狩るって言うより、俺達が獲物じゃないの」

 「まぁ獲物の餌に見えるよな」

 「止めてくれよ親父。ユーゴ様、俺は死にたくないので宜しくね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る