第80話 ホワイトフォックス
「おい静かにしろ!・・・誰かが火魔法を使っているぞ」
「・・・本当だ、連射してるって事は相当腕が良い様だな」
「それ、知り合いかもしれない。でも連射なんて必要ない筈なんだけどなぁ」
記念にそれなりの獲物をと選り好みして二日目、グレンが火魔法の破裂音を聞きつけた。
オールズも言われて気付いたが、狼人族のオンデウス達に聞こえて猫人族の俺には聞こえないって事は、相当離れている様だ。
「知り合いだったら助けが必要かもね。付き合ってよ」
「知り合いってあれか、ブレメナウ商会の者達が森に入っていると言っていた」
「そう、伐採関係者と去年お花の周辺まで来たんだけど、彼等の護衛に魔法使い二人を紹介したからね。土魔法使いと火魔法使いだから、魔法を連射する必要はないはずなんだけど」
音の聞こえた方向は風上って事は、やはり相当に遠そうである。
狼人族であるグレン達の耳を頼りに風上に向かって歩くが、こんな時は索敵範囲が100m前後ってのがもどかしい。
一時間近く歩いても二人の耳には何も聞こえず、俺の索敵にも何も引っ掛からない。
「グレン、雷撃を三連発でお願い。近くに居れば応答すると思うから」
〈バリバリバリドーン〉の三連発が森に響き渡り、暫くすると後方から火魔法の破裂音が三回聞こえてきた。
「通り過ぎた様だぞ」
「森の中だし、こんなものだろう」
それから二回合図の連絡を取り合って後、漸く俺の索敵に引っ掛かったが凄い数が感知される。
それも地面と樹上の二手に分かれている。
グレンにそれを伝えると、猿じゃないかと言われた。
厄介なのはグルーサモンキーとファングモンキーで、30頭以上の群れで行動して頭も良いので厄介だそうだ。
グレンとオールズには結界の中で待機していて貰い、久方ぶりに隠形に魔力を乗せて姿を隠す。
二人が何か言っているが相手をしている暇はないので、即行で索敵に引っ掛かった包囲網の中心に向かったが、牙の長い猿がドームの側に陣取っている。
包囲されて、ドームの側に居座られていては身動き出来ないって事か。
見た目直径5m程のドームで、ファングモンキーの攻撃には楽に耐えている様で一安心。
取り敢えずドームの傍に居て、内部から死角になり攻撃出来ない猿共から始末する事にした。
姿を隠した俺に気付いていない猿の、至近距離からちょっと太めのアイスニードルを頭に射ち込んでいく。
所々開いている覗き穴に近寄り「モルデン、聞こえるか」と問いかけると即座に返事が返ってきた。
周囲の猿を片付けるので攻撃はするなと言いおいて、包囲している猿の背後にジャンプする。
流石は野生の勘、俺が背後に現れると一瞬辺りを見回す。
何もいないので首を捻っているが、心臓や頭を狙ってアイスニードルを射ち込み静かに倒していく。
地上にいた猿は粗方かたづけたので樹上の奴だが、一番見晴らしの良さそうな場所に居る奴をアイスランスで射ち落とすと、入れ替わりにその場所にジャンプしそこから攻撃を開始する。
地上の奴は死んでもその場で動かなくなるだけだが、樹上の奴は枝から落ちていくので猿共もおかしいと気付き騒ぎ出した。
だが自分達より一段高い位置から攻撃されていると判らない様で、戸惑っている。
見晴らしの良い所に居た猿は群れのボスだった様で、指揮官がいない烏合の衆と化した猿を屠るのは容易い。
1/4程の猿には逃げられたが、周囲に野獣の気配が無くなったので地上に降りて隠形を解除する。
一度グレン達の所に戻り連れだってドームの所へ行くと、俺達の姿を認めたのかドームからモルデンやザラムス達が出てきた。
「いやー雷撃音を聞いた時は、アッシーラ様の御心に感謝したぜ」
「モルデンのドームは、立派に役立っている様だね」
「モルデンのドームも、ダルバのファイヤーボールも中々良いが。今回ばかりは数が多すぎて難儀したぜ」
「まさかユーゴさんが来てくれるとは、思ってもいませんでした」
「ダルバのファイヤーボールの音が聞こえたと教えられて、来てみたんだよ。練習は続けている?」
「はい! ですが今回の猿は頭が良くて、ドームに穴を開けて貰い攻撃しようとすると邪魔をするので、困っていたんですよ」
「それね、包囲網とドームの根元に潜んでいる奴に別れているので、頭が良いとは思ったがそんな事になっていたの」
「ユーゴ、助かったぜ」
「バンガード達も居たの?」
「次の伐採の為の下調べなので、馴染みのバンガード達に頼んだのさ。それにあの糞生意気なトールもいないからな。ダルバはファイヤーボールを射つのが早いし、命中率も良いので安心できるしな」
ファングモンキーは2、3匹持ち帰り、残りは魔石を抜いて放置する事になったので、俺が持ち帰り分を預かる。
その日はモルデンのドームに俺のドームをくっつけて、エレバリン公爵邸の地下室から掻っ払った酒を振る舞いどんちゃん騒ぎになった。
一晩一緒に野営をしたが、ザラムス達は倒木調査の為に暫く森にいると言うのでお別れする。
モルデンには、もう少しストーンランスの長距離射撃の練習をしておく様に注意しておく。
獲物を持ち帰るマジックバッグが無いので、討伐しないから必要無いと思っていた様だが、いざという時の為に練習は必要だろう。
* * * * * * *
ザラムス達と別れてキエテフに向かう事にしたが、大物を一匹と思っている時に限って出会わない。
結局、ブラックベア一頭・オーク三頭・ホーンボア三頭・エルク二頭・ブッシュゴート一頭と冴えない戦果。
モルデンのドームを見てからオールズも一層魔力操作に熱が入り、歩きながらでもやっている。
その為に注意力散漫になり、時々木の根に躓いている。
グレンは拳大の氷塊を自由に作れる様になったので、同じ大きさのストーンバレットを渡して同じ硬さにしろと言っておく。
「おい、流石に此れは無理だろう」
「ん、俺のアイスランスを見た事有るだろう。岩とは言わないがそこの立木なら射ち抜くぞ」
そう言ってアイスバレットを立木に向けて射ち出す。
〈ドゴーン〉と音がして、アイスバレットが立木にめり込んでいる。
次いでアイスランスを射ち込むと〈バキーン〉と音がして同じ様に穴が開いたが、突き抜けて向こうが見えている。
「ふにゃふにゃの氷なんて、当たっても痛いだけだぞ。精々酒を冷やすのに都合が良い程度だな。アイスバレットなら未だ良いがアイスアローやアイスランスだと使い物にならないからね。石の如く固い氷を作る気迫で魔力を流しなよ」
隣で聞いていたオールズが首を振りながら〈無茶を言うぜ〉と呟いている。
でも作れるから言っているんだよね。
魔法はイメージだけどそこまで親切に教える気は無いが、ヒントはバッチリ言っているので頑張れー♪
ザラムス達と別れて二日目の夕方、索敵に引っ掛かった大物。
二人を足止めして結界に残すと、確認の為に隠形で姿を消して近づいてみる。
白色と言うより純白の見事な毛並みのお狐様だが、しきりに地面の匂いを嗅いでは何かの後を追っている感じだ。
「グレン、純白の狐だけどどうする?」
「ホワイトフォックスか、大きさは?」
「尻から鼻先までで3.5mオーバーだな。尻尾が見事だったよ」
「是非討ち取りたいが・・・雷撃で傷付けては価値が半減するからなぁ。ユーゴに譲るよ」
「んー、偉く残念そうに言うけれど、もしかしてオークションコースなの」
「当然だろう。それを雷撃で黒焦げにして見ろ、絶対にギルドに恨まれて文句たらたらだぞ」
「じゃー、パスね」
「何でよ~」
「俺のランクはシルバーの二級だぞ、19才でゴールドになんてなってみろ! 後が煩くて適わないよ」
「ふぅ~ん残念だなぁ~。馬車を用立ててくれたブルメナウ殿への、良い手土産になろうってものだが」
「それはお花が有るので良いんだよ」
「それは王家の依頼、てか王妃様のおねだりだろう。俺達からもブルメナウ殿へお礼がしたいのだが、俺の腕ではなぁ~」
「何か俺に押しつけようとしてないか」
「ユーゴ、俺も一度はホワイトフォックスを拝んでみたいので頼むよ~」
「あぁ、判ったよ! 但し討伐者はグレンだからな!」
「有り難い、やはりユーゴは良い奴だなぁ」
「えぇ~、俺の腹黒さをた~ぷり見たとか言ってなかったっけ」
「それは幻聴だよ、げ・ん・ち・ょ・う・に違いないぞ!」
まぁいいや、グレン達を待たせてホワイトフォックスの後を追い、奴の前にジャンプする。
突然俺が目の前に現れてビクッとするお狐様に、指向性のフラッシュを浴びせる。
後は簡単で、口の中に大きめのアイスバレットを射ち込み窒息死させてマジックバッグにポイ。
「捕ってきたよ~。はい、此れね♪」
「凄えなぁ~、本当に真っ白じゃねえか! こんな奴が居るんだ」
「おいおい、無傷じゃねぇか。どうやって狩ってきたんだよ」
「ん、口の中にアイスバレットの大きいのを放り込んだんだよ。アイスランスでは俺とバレるし無傷では不味いだろう。グレンが二つ三つ槍傷を付けておいてよ」
グレンが「何が悲しくて死んだ野獣を、わざわざ槍で突かなきゃならないんだ」とぼやいているが、し~らねっ。
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