第76話 旅の道連れ

 「陛下、この報告書に何か?」


近衛騎士も従者も下がらせた国王の意図が分からず、問いかける宰相。


 「ヘルシンド、判らぬか。ウイラー・ホニングスを含めて、ホニングス家の者五人が死んでいる。死んだ五人と生き残っているシャリフ・ホニングスの違いは何だ」


 「侯爵家関係の書類には、シャリフ・ホニングスは生真面目な性格にて、家族より疎まれていたとしか」


 「では以前のホニングス侯爵の評判や噂は?」


 「可も無く不可も無くと言ったところでしょうか。ただあの領地では商人の屋敷が襲われ略奪後一家皆殺しとなる事が時々あり、討伐には手を焼いていた様です。しかし、それとウイラー・ホニングスやフェルナンドと何か・・・」


 「忘れてくれ、ホニングス家の事などどうでも良い。それよりも重大な事が一つ、授けの儀でフェルナンは神様の悪戯だと告げられている。此れは魔法を授かった筈が、魔力測定板では読み取れない現象の事だ。魔力測定板には魔法の種類が現れて、神父はそれを読み取り信者に伝える。時に字を書き損じた時に消す為に縦横の線を引く、あれと同じ状態で授かった魔法が読み取れない事が有るそうなのだ。現にフェルナン、フェルナンドは神父が読み取れなかった魔法を使っている。それも無類の魔法使いとしてな。此れが世に知られたらどうなると思う」


 「まさか、第二第三のフェルナンド男爵が・・・」


 「そのまさかとは思うが、いない保証は無い。故にホニングス侯爵には忘れろと言った。この書類も余人の目に触れさせる訳にはいかない。知らない、知られなければ詮索もされない。フェルナンドの調査に関わった者達はそれぞれ別の任務を与えて交わる事の無い様に手配せよ」


 国王の言葉に、フェルナンドの様な男が二人も居ては堪らぬと思いながら一礼する。


 * * * * * * *


 ヘルシンド宰相に警告をして家に帰ったが、王都ではやる事が無い。


 取り敢えず冒険者の嗜みとして食糧備蓄に励んでいたある日、市場でばったりミシェルと出会った。

 お供は土魔法使いのジュエーラと火魔法使いのイリーナで、護衛としての立場上黙礼をしてくる。


 「ユーゴ様は、全然お家に来てくれないのですね」


 「あー、ミシェルが元気になったので治癒魔法は必要無いだろう。それより秋になったら学院に入学するんだろう」


 「はい、王立貴族学院だそうです。お父様が子爵待遇なのでそちらに通う事になるそうです」


 「それじゃぁー、入学祝いに何か欲しい物はあるかな?」


 「以前お土産に貰ったクリスタルフラワーが枯れちゃったので、何か綺麗なお花が良いです」


 クリスタルフラワーか、あれって暑い盛りだったよな。


 「約束は出来ないけど探しておくよ」


 花の咲いている場所は知っているので、暇潰しに行ってみるのも悪くないかも。

 ジュエーラとイリーナに仕事はどうだと尋ねると、楽な仕事だがお嬢様が色々な物に興味を持って何処へでも行きたがるので、諫めるのが大変だと笑っている。

 殆どをキエテフの家の中で過ごしていたのだから、外の事に興味を持つなと言うのも酷だろう。

 ミシェルには二人にあまり迷惑を掛けない様にと注意して別れた。


 キエテフへ行くのに14、5日花のある場所まで10日、余裕を見て往復で二ヶ月となると食糧の備蓄を増やさなきゃ足りない。

 家に戻ると投函された書面が一枚落ちていた。

 投函者はグレン、グレン・オンデウス男爵からだった。


 先日王城の方角から爆発音と落雷音が聞こえてきた、王都に帰っているのなら魔法の事で相談したい事が有ると書かれている。

 旅の道連れみーっけ!


 二月も一人で黙々と歩くのは、ちょっと憂鬱だなと思っていたので大歓迎。

 釣り上げる餌は何が良いかと考えたが、おあつらえ向きな物が有るので其れを使う事にした。


 * * * * * * *


 「呼び出して済まない」


 「いやいや、俺も暇を持て余していたので丁度良かったよ。で、魔法がどうしたって」


 「うむ、以前言われた短縮詠唱を練習して使えるようなったのだが、何か威力が上がりすぎて獲物が黒焦げで稼ぎにならない」


 「それは上達したからだよ。慣れて魔力の通りが良くなり、腕からスムーズに魔力が抜けているって事だね。前に言った様に使う魔力を少なくすれば、以前の威力に戻ると思うよ。一気に半分にせずにじわじわと魔力量を少なくすれば限界が判るから」


 「それで大丈夫なのか」


 「大丈夫だよ。グレンの魔力は92だったよね。あの時は45発前後魔法を撃てた筈だが、今なら倍近く射てると思うよ」


 「本当か!」


 「ああ、練習は必要だけどね。でだ、練習がてら俺に付き合わないか」


 「何か裏が有りそうだな」


 「裏なんて無いよ。ちょっとお花を摘みに出掛けるんだけど、一人じゃ退屈だな~と思っていたんだ」


 「お前が腹黒い奴に見えるんだが、ただの花じゃないよな?」


 「ん~・・・クリスタルフラワー」


 「クリスタルフラワーって、マジかよ! と言うか幻の花だぞ。あんな物おいそれと見つかる訳がない。万が一見つけたらオークション確実だ」


 「実は生えている場所を知っているんだ。グレンとオールズが俺に付き合うのなら、2~3本譲るよ」


 「お前が嘘を言ってないと思うが、それだとお前の稼ぎが減るんじゃないのか」


 「大丈夫だよ、花で稼ぐ気はないから。俺って治癒魔法が使えるからその方面でがっぽり稼いでいるよ」


 「魔法だけで男爵になれたんだから当然か、良いだろう付き合うよ。オールズ、お前もついてこい!」


 「じゃー此れを渡しておくよ。3/180のマジックポーチだから食糧をたっぷり詰め込んでおいてよ。一週間後に迎えに来るから頼むよ」


 さーてと、後はキエテフ迄の足だがブルメナウ会長にお願いしよう。


 * * * * * * *


 「馬車ですか」


 「はい、キエテフの街まで往復したいのです。お礼と言っちゃ何ですがお花を2~3本、見つからなければ森の奥の野獣等でどうですか」


 「お花とはあれですか?」


 「以前の物は枯れたと聞きましたし、ミシェルの入学祝いにと思いましてね。今から行けば去年と同じ時期になりますので、咲いていると思いますよ」


 「馬車はお出しします、と言うか願ったり叶ったリですよ。王妃様達からお花をおねだりされていたのですよ。冒険者ギルドに依頼しても、見つけるのが至難の物ですから受けて貰えません。貴男が見つけた場所の事は教えられませんし。と言うか正確な場所は誰も知りませんので」


 グレン達まで歩かせるのは心苦しいので、馬車の手配が出来て一安心。

 でも、歩いても馬車より数日多く掛かるだけなので、日数的には大して変わりはない。


 * * * * * * *


 「お待たせー」


 「おい・・・何処から調達してきたんだ」


 「知り合いが貸してくれたんだよ。見返りはお花を2~3本ね」


 「親爺、これで行くのなら護衛が必要だろう」


 「大丈夫だよ。そこいらの野獣程度なら結界で防げるし、襲って来たら稼ぎの種にさせて貰うから」


 「ユーゴって一人でやっていると言うだけあって、俺達とは感覚が違うよな」 「あの土魔法だけでも並みじゃないからな。お前が魔法を授かっていればなぁ」

 「アッシーラ様は、そんなにお優しくないって事さ」


 御者には貴族用通路を通る様に指示して、さっさと王都を後にする。

 馬車は軽快にサンモルサン街道を西に向けて走る、まぁ西に南にとうねうねとした道だけど。

 最初の大きな街ファルラド迄は約三日、御者以外に余計な者が居ないのでオールズにどんな魔法が欲しかったのか尋ねて見た。


 「そりゃー親爺と同じ雷撃魔法かな、でも火魔法も捨てがたいよな」

 「雷撃魔法も火魔法も戦闘向きって言うより、魔法部隊向きの魔法だぞ。獲物を仕留めても黒焦げじゃ査定が下がるだけだ。金になるのは治癒魔法だが、庶民が下手に授かると飼い殺しだしなぁ」

 「その点ユーゴは良いよな、氷結魔法も土魔法も使えるのだから。冒険者ならこの二つが最高だと思うよ」

 「それは使い熟せての話だぞ。土魔法でユーゴの半分も使える奴は殆ど居ないからな」


 「オールズは魔力が24だったよな」


 「ああ、万が一魔法を授かっても魔力が24じゃなぁ~」


 「俺の知り合いに魔力が27で魔法を使える奴がいるぞ」


 「・・・それって、まさか手ほどきしたのか?」


 「それもあるが、土魔法を与えたのさ」


 「手ほどきだけで使えると一瞬信じかけたけど、魔法を与えるって・・・ないわ」


 「まっ信じられないだろうけどな。でもグレンは氷結魔法が使えるぞ」


 「よせやい。旅は始まったばかりで、与太話には早すぎるぞ」


 「本気で魔法を使いたいと思ったら言いなよ。使い方なら教えられるから」


 * * * * * * *


 キエテフの街まで全工程野営になると言ってあるので、御者のアガニスが野営地に良さそうな所に馬車を止める。

 俺は馬車と馬をそれぞれのドームで覆い、隣に俺達四人用のドームを作る。


 「何度見ても不思議と言うか見事と言うか、便利な魔法だよな」


 「まぁね、冒険者にとって土魔法が使えるってのは便利だよ。武器と塒を持ち歩いているんだからね」


 御者のアガニスの傍らには、暑い一日を労って極太の氷柱を立ててやる。


 「おいユーゴ、俺にも頼む」

 「俺にもお願い!」

 「しかし、ユーゴは汗一つかいてないがその服って」


 「魔法付与の服だよ。稼ぎは安全と快適さの為に使っているからね」

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