第68話 冒険者見習い

 翌朝西門の外で落ち合う約束をしてギリス達と別れると、皆を引き連れて市場へ向かった。

 バンゲルとラメリアには、日持ちのする食料を十日分は仕入れておけと言っておく。

 俺も備蓄食料が少ないのでせっせと買い込み、一月程度なら大丈夫だろうと思える程度に溜め込んだ。


 六人を連れてハイドラホテルに向かい、ギリスに預ける二人は一泊とさせた。

 他の四人は大地の牙や王都の穀潰し達と合流するまでなので、連泊予定と伝える。


 翌朝攻撃魔法使いの四人を連れて出掛けようとすると、治癒魔法使いの二人もギリス達の生活を見てみたいと言いだしたので、後学の為に連れて行く事にした。

 治癒魔法の練習の為に森に連れて行くので、慣れさせる必要もあった。

 西門を出て暫く歩くと、草原の中に琥珀色の結界の頭が見える。


 「お早うギリス」


 「ちょっ、六人も」


 「ああ、今日はバンゲルとラメリアの腕前の確認と、残り二人の腕試しも兼ねて少し森に入ろうと思っている。後の二人は治癒魔法使いだけど、暫く俺と行動を共にするので少しでも森になれて貰うつもりだ」


 ほっとしているギリス達に、索敵の腕は上達したのかと尋ねる。

 さっぱり上達しない者から、30~40m程度なら何とか判る者まで様々だそうだ。

 索敵や気配察知もそうだが、スキルなんてものは人それぞれと言うか相性もあるので、焦らず練習を続けるしかないと言っておく。


 今日は魔法の腕の確認なので、獲物を探す為に俺が索敵を引き受けて森へ向かう。

 シエナラの誓い七人の中では、ヴェルナが一番気配察知に優れていると聞いたので殿を頼む。


 久し振りの森だが、獲物が多いと言われる場所だけ有ってそこ此処に獲物の気配が感じられる。

 魔法の確認だがゴブリン程度では腕試しにならないのでパスして、ホーンボアから始める事にした。

 振り向けばラメリアが一番近い所に居るので手招きをして呼び寄せる。


 「ホーンボアだ、動く標的は初めてだろうから気楽にやれ。外したところで結界魔法に土魔法使いと守りはバッチリだ」


 獲物が見える所まで誘導するが、本格的に森を歩くのが初めてなので煩い。

 何とか40m程度の所まで近づいたので、後は任せて後ろに回る。

 後ろから見るとガチガチに緊張しているので、肩を上下させて深呼吸をさせる。


 「獲物から目を離さずに遣れば当たるからな」


 一つ頷いた後、深呼吸して腕を伸ばすと何事か呟く〈バリバリドーン〉

 ホーンボアがビクンと跳ね上がったが惜しい、至近距離で感電して一時的な仮死状態の様だ。


 「直撃していないぞ、今度は正面からな」


 又一つ深呼吸をしてから腕を伸ばして何事か呟くと、倒れているホーンボアに向かって雷光が走り〈バリバリドーン〉と轟音が響く。


 「おーし、ご苦労さん。次はバルゲルなっ・・・と、皆集まれ! ヴェルナ全員を包んでくれ。多分ホーンドッグの群れだと思う」


 ヴェルナが周囲を見回して全員居る事を確認すると小型のドームを作る。

 一呼吸で必要な大きさの結界をスムーズに作るので、相当練習したのだろうと思われる。

 ちょっとヴェルナを(鑑定!・魔力)〔魔力・52〕

 ん、以前は確か魔力は52だったと思うが、一回魔法を使って52って事は魔力が増えているって事か!


 群れの斥候なのだろう一頭が慎重に近づいて来るので、俺達の事を気付いている様だ。


 〈ウオォォォーン〉と一声吠えると、後は〈ギャンギャン〉と吠えだした。


 「四人で迎え撃ってね。ヴェルナは取り合えず四人の前に穴を開けてよ」


 黙って頷きそれぞれの前に穴を開けていくが、四人とも目を丸くしてそれを見ている。


 「そこから攻撃して貰うけど決して穴から手を出さない様に、喰い千切られても知らないよ」


 注意しているのに腕を出したパルモ、土魔法使いとしては興味が湧いたのだろうが、ホーンドッグに飛びかかられてビックリしている。

 ビックリしているのはホーンドッグもだ、獲物に飛びかかったのにヴェルナの結界にぶち当たり〈ギャン〉と悲鳴を上げて地面に落ちる。

 淡い琥珀色の結界に気付いた奴が戸惑っている。


 「は~い、ドンドン射っちゃってよ~。獲物は山程居るので焦らずにね」


 「ユーゴさん、それって屋台の親爺の呼び込みと変わらない台詞ですよ」


 脱力気味のギリスに突っ込まれてしまった。


 手の平大の穴なので、時々ホーンドッグが鼻面を突っ込んできて吠えまくるが、ギリス達に一撃を入れられて逃げて行く。

 ヴェルナは彼方此方に穴を開けるのに大忙しだ。


 ものの5分ほどの戦闘だったが、バリアの周囲には大量のホーンドッグが転がっている。


 「ギリス、此にホーンドッグを入れなよ。5-30のマジックバッグだから楽に収まるよ」


 「えっ、登録していないのに使えるのですか?」


 「此れは使用者登録をしてないよ。ギリスとヴェルナに後一人くらいが登録しておけばいいよ。二人を預かって貰うお礼に貸しておくからさ」


 「でも・・・ランク5ってお高いんでしょう。そんな高価な物を預かれません!」


 「ん、でも二人が居れば獲物は増えるよ。それに今までは獲物をどうしていたの?」


 「ランク2の一番安いやつを、パーティー用として買いました。それに皮や肉などを詰めて売りに行っています」


 「それじゃー俺も登録しておくよ。登録者全員の使用者登録を外さないと他人は使えないからね」


 「そうなんですか?」


 「後から追加登録をするには、一度全員の登録を外してからでないと出来ないんだよ。魔道具店で聞かなかった?」


 「追加登録をする時は、登録者全員で店に来てくれとは聞きましたけど」


 「だから取り上げられそうになったら、黙って渡しても大丈夫だよ。相手が誰だか覚えておいて、後で教えてくれれば良いから。こいつには獲物だけを入れておけば被害も少なくて済むだろう」


 「有り難う御座います。お借りします」


 「ギリスが嬉々としてホーンドッグをマジックバッグに放り込んでいく」


 その後もエルクとブッシュゴートを狩り、昼前には二人の腕を確認出来たのでシエナラの誓いに預けてお別れする事にした。

 牢屋暮らしの長かった治癒魔法使いの二人が、慣れぬ森を歩いてバテてしまったからである。

 リフレッシュで回復させたが、精神的な疲れまでは取れなかった様でぐったりしている。


 こりゃー治癒魔法の練習前に体力を付けさせないと駄目だと実感する。

 俺の予定では魔力の扱いが出来る様になったら、ゴブリンやオークに協力して貰って治癒魔法の腕を磨く予定なのだが、体力が無いのは致命的だ。


 ホテルの部屋は押さえているので野営する事にして、大地の牙と王都の穀潰しに預けるボルヘンとパルモの為に、結界のドームを作る。

 二人には索敵と気配察知を貼付しているので、多少なりとも練習して貰うつもりだ。


 治癒魔法使いの二人には鑑定スキルを貼付したが、当分は教えない事にしている。

 多少なりとも安定して治癒魔法が使える様になれば、鑑定を教えて治療の補助に使う事を教えようと思っている。


 夜の森は野獣の天国で、透明な結界の中でライトの明かりを煌々と灯していると、まるで野獣ホイホイと変わらない。

 街から近い森の縁なので大物は居ないが、ドッグ系にウルフ系にブラックキャット等がやって来る。


 治癒魔法使いの精神衛生上二人には結界の中の土魔法のドームでお休み願い、ボルヘンとパルモは索敵と気配察知の練習だ。


 * * * * * * *


 2、3日に一度街に帰りホテルと冒険者ギルドに顔を出して、コークスやハリスン達を探す。

 三度目に冒険者ギルドでギリス達と会ったが、皆ニコニコ顔で相当獲物が獲れたと推測出来た。

 彼等に預けた二人は少し窶れていたが、冒険者として遣って行けそうですと言うので安心した。


 独り立ちするのは未だまだ先だろうが、その時は攻撃魔法使いが一人余る事になるので、良いパーティーをギルドに紹介して貰う事になりそうだ。

 コークスやハリスン達と中々会えないので、毎朝冒険者ギルドで待つ事にした結果何とか会えた。


 大地の牙には土魔法使いのパルモを預け、ハリスン達王都の穀潰しには氷結魔法使いのボルヘンを頼んだ。

 ハリスン達にも獲物が増えるだろうからと、5-30のマジックバッグを自由に使ってくれと渡しておく。


 漸くリンディとザマールに、本格的な治癒魔法の手ほどきが出来ると張り切って森に向かった。

 不安げな二人には治癒魔法は他の魔法と違い、教える事もその能力も他者に知らせたくないと言っておく。


 * * * * * * *


 「陛下、やはり王都の穀潰しと名乗る冒険者パーティーの中に土魔法を使える者がいるそうです。しかも驚く事に授けの儀では魔法を授かっていません。授かったのは栽培スキルと工作スキルだけで、その時の魔力は27です。問題の男を鑑定させたところ、栽培,工作スキルに土魔法と鑑定結果に出たようです。それに魔力も30と僅かながら増えています」


 「彼が関わった・・・手ほどきした者は魔法の腕が上達し、授かっていない者が魔法を使える様になっていると言うことか」


 「はい、それも魔力が30で獣を狩るほどにです」


 「あの男、その方が以前言った賢者だとすれば、我が国にとって途轍もない宝となるぞ。ロスラントに命じて、フェルナンド男爵の為すことには全面的な支援を命じておけ! それと報告は怠るなと」

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