第67話 ハウルドッグ
再びブレメナウ会長に草原までお付き合い願い、火魔法使いと土魔法使いの上達した腕を見て貰う。
火魔法は簡単に合格と認められたので、土魔法使いが作った避難所と野営用ドームにアイスバレツトを射ち込み、強度がどの程度かを見せる。
〈ドカーン〉〈ドカーン〉と音を立てて砕け散るアイスバレット、衝突痕と言うか割れて穴が開いた避難所とドーム。
「少し強度が足りないようですが」
チラリと俺を見て呟くブレメナウ会長。
「此れくらいの強度が有れば、小型のウルフやドッグ系の野獣には十分耐えられますよ。それに魔力を追加すれば強度は上げられます」
そう言って二人に自分の作った避難所とドームに、固くなれと願って魔力を流す様に指示する。
再びアイスバレットで攻撃すると、轟音を立てて氷が砕け散るが穴は開いていない。
近寄って確認すると皹が入っているので、もう一度魔力を込めれば大丈夫だと言っておく。
ブレメナウ会長は土魔法使いと火魔法使いを、男女二人ずつ雇うことにしたようだ。
男二人は伐採や森での倒木調査に同行する為に、女性の方は孫娘ミシェルと母親の護衛として王都の屋敷に住まうことになった。
四人をブレメナウ会長に預けると、治癒魔法使いの二人とあぶれた四人を連れてロスラント子爵様のお屋敷へ向かう。
* * * * * * *
「治癒魔法を授かっていて、フェルナンド殿が手ほどきをしていると」
「今は魔力の扱いを教えていますが、魔力は80以上有りますのでそれなりに使える様になると思います。治癒魔法が使える様になれば、以前お話しした条件でならと思いまして」
「後ろの四人は?」
「土魔法使い氷結魔法使いと雷撃魔法使い達です。王家への仕官を断ったのでシエナラの冒険者に預けようかと思っています」
「知り合いに預けると言うことは、相応に使えると言うのですね」
「勿論です。ブレメナウ商会の会長に紹介したのですが、四名しか必要無かったのでシエナラにと」
「腕を見せて貰っても?」
振り向くと一人が渋い顔をしている。
無理に配下に加えることは無いと諭し、子爵邸内の訓練場に行き腕前を披露させる。
土魔法使いに避難所と野営用ドームを作って貰い、氷結魔法使いの二人には、標的に向かってそれぞれ五連射を披露して貰う。
約30mの距離から全弾命中に子爵様も感心している。
続いて雷撃魔法だが、上空から三発正面から三発を撃ち込んで貰った。
最後に子爵様の頼みで避難所と野営用ドームに対し、それぞれ二発ずつ攻撃して貰う。
傷一つ付いていない避難所とドームを見て、冒険者が嫌になったら何時でも雇うと伝えている。
俺が魔法の手ほどきをするのならとの条件付きだが、治癒魔法使いの二人を子爵様が雇うことを約束してくれた。
条件としては、治癒魔法が使えるようになるまでは月に金貨二枚、衣食住は保証する。
一年契約で腕次第で給金は増やすし、無理強いしての契約延長はしないと約束してくれた。
二人が心配気に俺の顔を見るので、子爵様が「フェルナンド男爵殿の紹介なので約束は守る」と言ったので納得して頷いていた。
三月の終わりには領地に帰ると言う子爵様に同行して、シエナラに向かう事にする。
序でに魔法は授かったが練習する気の無い者がいるので、彼等の仕事が有れば紹介をとお願いしておく。
コッコラ会長やブレメナウ会長にも同様なお願いすることになった。
此れは家に帰る事を希望した者九名の内、二名は受け入れられたが七名は拒否されたので、彼等の働き口を確保してやる為でもあった。
王都を去るに当たり、世話になったコッコラ会長に金貨二袋を渡そうとしたが、家族や自分の命を助けて貰った礼だと固辞されてしまった。
今後とも末永いお付き合いをとにっこり笑って言われたが、声を潜めて「貴男と貴男の周辺の事を、王家が必死に調べています」と教えてくれた。
持ちつ持たれつと思い、感謝の言葉を述べてコッコラ商会を後にした。
* * * * * * *
ロスラント子爵様の馬車に同乗してシエナラに向かう事になり、魔法使いの六人も使用人用の馬車を用意してもらい同行する。
途中何度か野獣と出会ったが、護衛の騎士と冒険者が馬車の周囲に陣取ると、氷結魔法使いと雷撃魔法使いが野獣を迎撃して馬車に近づけない。
土魔法使いは万が一に備え、馬車を守る冒険者の傍らに控えて防壁を張る態勢になる。
それを見て子爵様は満足気に頷いている。
出番は少なかったはずだが、エレバリン公爵の所で護衛の訓練も確りやっていたようだ。
* * * * * * *
シエナラ到着後、治癒魔法使いを含む六人を連れて冒険者ギルドに直行する。
大地の牙も王都の穀潰し達も姿が見えない、冒険者ギルドが珍しいのかキョロキョロする攻撃魔法使い達を受付に連れて行く。
受付で四人の冒険者登録をお願いすると〈えっ〉と言ってビックリしている。
そりゃーどう見ても立派な成人男女四人の冒険者登録なんて、前代未聞・・・多分。
「ユーゴさん、お久し振りです」
登録途中で声が掛かり、振り向けばシエナラの誓いのリーダー,ギリスだ。
その背後にはヴェルナやカニン達が控えていて会釈をして来る。
「丁度良いや、この二人を連れて食堂で待っていてくれるか。御領主様の預かりだから、絡んで来る奴がいたら直ぐに教えてくれ」
「あぁ、まるっきり新人の格好だからねぇ~」
冒険者規約を聞いている四人の背後で壁に凭れていると、通り過ぎる冒険者達がジロジロと見て品定めをしている。
そんな彼等を、壁に凭れた俺が(鑑定!)と(読み取り)で授かっている魔法とスキルの有無を確認し〔索敵・隠形・気配察知〕等のスキルを記憶する。
勿論火・土・雷・氷の四大攻撃魔法の記憶もバッチリさせて貰った。
魔法部隊と冒険者ギルドは、魔法とスキルを読み取り記憶するには最高の場所だ。
登録が終わった四人を連れてギリス達の所へ行くと、早速声が掛かる。
「よう、兄さん。新人ばかり引き連れて大変そうだな」
「冒険者としての手ほどきなら俺達が手伝ってやるよ」
「失せろ! 彼等は子爵様の預かりだ、絡むのならそれなりの覚悟を持って遣れよ」
「子爵様だぁー、冒険者登録をして子爵様とは笑わせるぜ!」
「見ればアイアンの二級の様だが、一丁冒険者の洗礼を受けてみるか」
「俺達ブラックウルフに喧嘩を売るとは大した度胸だな」
「ブラックウルフだって、笑わせるな。群れてキャンキャン吠えるハウルドッグに名前を変えろ! 万年ブロンズが群れて意気がるな。模擬戦なら受けてやるが、ポーション代を持っているんだろうな」
〈おいおい、キャンキャン吠えるハウルドッグって、上手い事を言うなぁ〉
〈違いない。一人二人の時はやけに静かだからな〉
〈おい! そこまで言われて黙っているのか?〉
〈お前等から絡んだ癖に、此処で引いたらシエナラではやっていけねえぞ!〉
〈さっさと模擬戦をやれよ! 大穴狙いでお前等に賭けてやるから〉
〈おいおい、その大穴を狙って俺が賭けようとしているのに〉
「ユッ、ユーゴさん大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。弱そうなのが群れて気が大きくなっているだけだよ。絡まれても、勝てそうになかったら頭を下げておけば良いんだよ。無理矢理模擬戦に持ち込めば、ギルドカードを取り上げられるからね」
「でもユーゴさん、思いっきり揶揄ってますよね」
「最近姿を見せなかったので、知らない人も多いんじゃないですか」
「それそれ、大地の牙や王都の穀潰しがどうしているか知ってる?」
「時々見掛けますよ。結構稼いでいるようです」
「見掛けたら俺が探しているって言っておいてよ。暫くはマーライト通りのハイドラホテルに泊まっているからさ」
「あっ・・・逃げた!」
〈こらぁ~、逃げるなハウルドッグ!〉この一言に食堂中が大爆笑に包まれてしまった。
〈此れで奴等はブラックウルフなんて名乗れなくなったな〉
〈万年ブロンズがブラックウルフなんて生意気なんだよ〉
〈おい、あの猫の仔って何だよ〉
〈凄腕の魔法使いさ、ソロのなっ〉
〈時々大量に獲物を持ち込んでくるので有名だぞ〉
〈魔法使いでソロなんて初めは驚いたが、奴は本物だね〉
〈以前ブラウンベアとオーク五頭を一人で倒して持ち込んだぞ〉
「あの話は有名ですよねぇ~。あれでシルバーランクになったんでしょう」
「人の話を聞かないオッサンのせいでな。俺は万年ブロンズの方が気が楽なんだけどなぁ。ところで稼いでいるかい?」
「ヴェルナのお陰で、安心して薬草採取が出来ますのでそれなりに」
「それに宿代が掛かりませんので、随分生活が楽になりました」
「時々結界の中から野獣も狩れるので、以前とは比べものになりません」
「小弓って便利ですよねぇ~」
「んじゃー暫く攻撃魔法使いを預かってくれないか。冒険者としての手ほどきを頼みたいのだ。ヴェルナの結界の中から大物狩りが出来るぞ」
「手ほどきって?」
「王都でお貴族様の魔法部隊に所属していたのだが、部隊が解散してね。まっ、貴族の事情は知らない方が気楽だろうから言わないけどね。バンゲルが氷結魔法使いでラメリアが雷撃魔法使いだ。明日腕試しをして冒険者に向かないと思ったら言ってくれ」
ちょっとギリスの顔が引き攣っているが、見ない振りをしておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます