第66話 集団魔法訓練

 始めに土魔法使いの三人を呼び、30m程離れた場所に防壁を立てて貰った。

 縦横2mの防壁が5mの間を開けて三枚、その左に俺も防壁を立てる。


 それぞれが口の中でモゴモゴと詠唱を唱え、一呼吸どころか(よっこらせっ)といった感じで防壁を立てる。

 なるほど、多数の魔法使いが集団で魔法を使う時は口内詠唱なのか。

 考えれば当然かな、周囲でそれぞれが様々な詠唱を唱えだしたら煩くて困るのだろう。


 同じ物を瞬時に立てた俺を驚愕の表情で見ているが、黙って彼等を会長達の前に立たせる。


 「見ての通りですが、此れから強度試験をします」


 そう告げて火魔法使いの二人を呼び、立てられた的を右から射たせる。

 二人とも約三秒でファイヤーボールを射ちだしたが、女性の方が若干命中率が良い。

 と行っても2m角の的にどうにか四回命中した程度で、男の方は一発外した。

 立てられた的は全てファイヤーボールの攻撃に耐えたが、30m離れて見ていても揺れたのが判った物もある。


 ブルメナウ会長が首を傾げているので、ちょいと見本を見せる事にした。


 「彼等の実力は見ての通りですが、エレバリン公爵の魔法部隊では十分通用するレベルです」


 「ザラムスから聞いた話よりも大分落ちるようですが・・・」


 「彼が見た土魔法はこうです」


 そう言って、一瞬で目の前にドームを作ってみせる。

 半径3m高さ3m半球状のドームが一瞬で目の前に現れたので皆があっけにとられている。


 「彼等の中で望む者がいれば、この程度の物は作れる様に教えます。火魔法使いも命中率が悪すぎるので練習させます」


 そう言ってからドームの魔力を抜いて崩し、立てられた標的に向かうと威力を落としたファイヤーボールを打ち込んでいく。

 無詠唱で連続四発、全弾的の中央に命中して爆発音を上げる。

 三つの的を射ち抜き、四つ目の的は微動だにせず立っている。

 最後に全員を俺の周囲に集めて避難所を作ってみせる。


 〈エッ〉とか〈キャーァァァ〉とか聞こえるが「此れは?」と冷静な声を上げたのはブレメナウ会長。


 「緊急時の避難所ですよ。ドームでも良いのですが、普通の魔法使いだと小さい方が強度を上げやすいのです」

 天井の空気穴からの漏れる灯りに、満足そうな顔をするブレメナウ会長が見える。


 「防壁と申しますか此れとドームが作れるのなら、月に金貨四枚は出します。勿論衣食住は全て此方持ちです。火魔法使いの方もユーゴ様ほどの命中率なら同額で如何ですか」


 「希望者を募って練習させますので成果を見て決めて下さい。それと雷撃魔法使いもいますので、彼女の魔法も見て下さい。獣を追い払うのなら雷撃魔法も中々ですよ」


 雷撃魔法使いが的に向かって射っている間に、火魔法を削除して雷撃魔法を貼付する。

 〔雷撃魔法×19〕となるが、目の前の雷撃魔法使いから六つばかり記憶させて貰う。

 火魔法と雷撃魔法の記憶がそれぞれ〔火魔法×25・雷撃魔法×25〕となる。

 いや~、周辺に魔法使いが大勢いると便利だわ。


 四つの的周辺に落雷音を轟かせて落ちたが命中は無し。

 まっ、薄っぺらい的なので十分なんだが見本を見せておく。


 〈バリバリバリ・ドーン〉〈バリバリバリ・ドーン〉と上空から連続2回の落雷に続き、正面からも二回雷撃を撃ち込む。

 二つの的は縦に裂け、残る二つの内一つは直径1m以上の穴が開き崩れそうになっている。

 俺の立てた的だけが傷一つ無く立っている。


 「ユーゴ様、教えて下さい! 必ずご期待に添える様に頑張ります」

 「私も練習させて下さい」

 「是非ご指導お願いします」

 「お願いします!」

 「ご指南の程宜しくお願いします!」

 「是非ご指導願います!」


 全員のやる気スイッチが入った様で、真剣な顔でお願いされてしまった。


 * * * * * * *


 ブルメナウ会長も俺ほどでなく、半分程度でも充分だと言われたので取り敢えず一ヶ月待ってもらう事にした。


 その夜コッコラ邸のあてがわれた部屋で、魔法使い達と明日からの予定を話していると、牢に放り込まれていた治癒魔法使い二人がおずおずとやって来た。


 「あの~ユーゴ様、ユーゴ様は治癒魔法の優れた使い手だと伺っています。魔法部隊の方々に魔法の手ほどきをなさるのなら、私たちにもお願い出来ないでしょうか。公爵様の所ではどんなに頑張っても怒鳴られるばかりで、治癒魔法が使えませんでした。治癒魔法が少しでも使える様になりたいのです。お願い出来ないでしょうか」


 「二人とも家には帰れないんだったな」


 「はい、私は金貨10枚で売られた様なものでして、帰れば又売られます。少しでも治癒魔法が使えれば王都で生活していけると思うのです」

 「私も似たようなものです。勿論お教え頂くのですので頂いた金貨の中から指南料はお支払いいたします」


 「お願い致します」と二人が揃って頭を下げる。


 翌日魔法部隊の者八人と治癒魔法使いの二人を、冒険者御用達の店に連れて行き身形だけは冒険者と同じにする。

 ピッカピカの新米冒険十人を連れて市場へ行くと、各自に命じて15食分の食料調達をさせる。

 買った物は俺の所に持って来させ、マジックポーチにドンドン放り込んでいく。


 市場の屋台で昼食を済ませてから草原に向けて出発、王都の出入り口は混雑しているので貴族専用通路を使う。

 男爵位を貰ってから初めて使うので少し緊張したが、難なく通過できたが冒険者スタイルで徒歩なので注目されてしまった。


 小一時間ほど歩いてから街道をそれて草原に踏み込むが、小学生を連れた遠足みたいな感じである。

 街道から見えない場所にドームを作って全員を入れて休ませ、その間に標的作りに取りかかる。

 火魔法と氷結使い用は10mで、雷撃魔法使い用は20mの位置に立てる。


 火・氷・雷の攻撃魔法使い達には、近距離からの標的射撃と魔力の放出量のコツを教えれば良い。

 それが出来れば短縮詠唱を考えさせて、どの程度まで短縮できるのか遣らせる事にした

 土魔法使いのドームと避難所作りは、目の前でゆっくり作って要領を教えれば後は練習あるのみだ。


 厄介なのが治癒魔法使い達、自分の魔力溜りから魔力を引き出す事から教えなければならない。

 それに治癒魔法の練習には相手が必要なので、今回もゴブリンに協力して貰う事になりそうな悪寒がする。


 * * * * * * *


 「陛下ユーゴ・・・フェルナンド男爵が攻撃魔法使い達を草原に連れ出して、魔法の練習をさせているようです」


 「エレバリン公爵の魔法部隊に居た者達の事か?」


 「そうです。それについてシエナラに送り込んだ者から、興味深い報告が来ています」


 「興味深いとは?」


 「彼が一時期シエナラで冒険者として、複数のパーティーと行動を共にしていた様です。その共に行動していたパーティーの一つが、王都から共に移動した王都の穀潰しと名乗るパーティーです。そのパーティーには魔法使いはいませんが、冒険者ギルドに持ち込まれる獲物の中に、時々魔法で仕留められたと思われる物が有るそうです」


 「魔法使いが居ないのに魔法を使っていると言うのか」


 「獲物を解体する係の者から聞き出したそうです。もう一つは大地の牙と名乗るパーティーですが、此方はフェルナンド男爵と合流してから格段に腕を上げた様です。ハティーと申す冒険者が土魔法と火魔法を授かっていますが、此方はストーンアローやストーンランスで獲物を討伐しているそうです」


 「腕の良い土魔法使いなら、それ位の事は出来るのではないのか」


 「陛下、フェルナンド男爵と合流してからと申し上げました」


 「それは・・・つまり」


 「今回コッコラ商会に宿泊している魔法使い数名を、ブレメナウ商会に連れて行き、その後草原にて腕試しをした様です。ブレメナウ会長を呼び出して尋ねたところ、魔法使いの能力を試した後で必要な魔法を教えると言ったそうです。何でも野営用のドームと、避難所と呼ばれる小さな防壁だそうです」


 「土魔法・火魔法・氷結魔法・雷撃魔法・結界魔法・治癒魔法と十大魔法の内六つを使い熟し、魔法の手ほどきも出来ると申すのか」


 「姿を隠して、もしかすると転移魔法も使えるのかも知れません。まるで話に聞く賢者の様です」


 「その魔法の手ほどきをしている者達から目を離すな。それと授かっていない魔法を使えるかもしれない者の事を、徹底的に調べろ! 但しフェルナンド男爵と行動を共にしていたのなら、彼を刺激しない様に十分注意して調べる様にと命じろ」


 * * * * * * *


 土魔法使い達には俺の避難所と野営用ドームを見本に作る事を指示する。

 その際詠唱は必要最小限に短くすることと、魔力を今までより少なく使う事を心がけさせた。


 火魔法使いと氷結魔法使いにも同様な注意をして、10mの的に確実に当てる様にさせる。

 最低でも連続して20発命中する様にならなければ、次の15mの的を射たせない。

 そして獣を追い払う為に、ファイヤーボールの大きさは約30cmを心がけさせる。


 雷撃魔法使いも同様だが、正面から打ち出す事に手子摺っていた。

 練習が終わり野営用のドームに入ると、火魔法使い達に正面から射つコツを色々聞いて試している。

 自分で考えて試す様になったら上達は早い。


 練習を始めて10日目には土魔法の避難所とドーム、追い払う為のファイヤーボールも十分役に立つレベルだと思い、ブレメナウ会長の所へ連れて行く。

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