第56話 力の誇示
王都内の貴族や商人達には王家の通達が終わったと連絡を受けて、ロスラント子爵様の馬車でベルリオホテルに戻れたのは一週間後であった。
その間にロスラント子爵様に指摘されて、上等な街着の胸に男爵としての紋章を刺繍して貰った。
そのままでは気恥ずかしいのでハーフコート程度の、フード付きのケープを仕立てて紋章を隠す様にした。
王城で俺に魔法を示した男の物に似た、少し長いローブかケープで下っ端魔法使いに見えるので丁度良い。
支配人は俺の顔を見るなり飛んできて深々と一礼し「お帰りなさいませ。フェルナンド男爵様」と抜かしやがった。
即行で公式以外では、これまで通りユーゴと呼ぶ様に言いおく。
面倒事を避ける為に受けた男爵位だが、別な意味で面倒事が増えた気がする。
ただここ2、3日は教会の神父達が姿を見せないと支配人から聞かされたので、御利益は有りそうだ。
依頼の条件として王都内に住居を定める必要があるが、ホテルでは手狭と言うより貴族として扱われるのが煩わしい。
困った時の商業ギルドへ行き、少し広めの部屋を借りる相談をする。
内装や壁を自由に出来ることと、広めのワンルームかそれに準ずるものとお願いしておく。
部屋が決まったら少し王都を離れようと思ったが、顔見せの為に新年の宴に出席する様に頼まれたので大人しくしている事にした。
取り敢えず暇潰しも兼ねてミシェルの様子を見に、ケテイラス通りのブルメナウ商会を訪ねる。
此処もコッコラ商会と同様堂々たる建物で、冒険者スタイルの俺が店に入ると荒くれ達に前を塞がれる。
メダルが二つ、ブルメナウ会長に貰ったメダルを見せて取り次ぎをお願いする。
「ユーゴ様、良くおいで下さいました。男爵位を授爵なされたとか」
「ユーゴ様、ホテルの方へ伺おうかと思っていた所ですよ。男爵様になられて、お目出度う御座います」
「ブルメナウ会長様、コッコラ会長様有り難う御座います。お忙しい様ですので、ミシェルさんの様子を確認したらお暇します」
サロンに案内されたときに、ブルメナウ会長とコッコラ会長以外に三人の男が居た。
何れも上等な衣服に身を包みソファーで談笑していたのだが、冒険者スタイルの俺を見る目は鋭い、と言うよりキツい。
ブルメナウ、コッコラ両人から、男爵位授爵を祝われているのを聞き顔を見合わせている。
年若い冒険者が、何の功績も無く男爵に叙せられるとは思わなくて当然だな。
「ユーゴ様、ご紹介致します。木材加工所を営むクアルトス殿、酒造業を営むアチェリラ殿、宝飾品全般を扱うカラナド殿です」
三人とも立ち上がって名乗り会釈をするが、ブルメナウ会長に紹介されて礼を失しない様に振る舞っているだけだとよく判る。
こういった場は苦手なので、ミシェルの確認に行きたいと告げ様として異変を感じる。
何かが俺の中に侵入してくる感覚に戸惑うが、これに似た感覚は良く知っている。
冒険者ギルドや街中で敵意を持って監視している奴らから感じるものだ。
ブルメナウとコッコラからは悪意は感じられ無い、三人からは侮蔑の感情は持っているが敵意は無いし監視でもない。
とすれば此は鑑定か? 鑑定されて俺の能力が知られるのは不味い。
どうやって阻止すれば・・・ミシェルの・・・と言って黙り込んだ俺を不思議そうに見る二人と、興味深げな三人。
ままよ! 感覚とイメージに全てを委ねて、侵入してくるものを引き千切る。
〈ウワッ〉と言って頭を抱えて跪いたのは、宝飾品を扱うと紹介されたカラナド。
俺を鑑定しようなんて良い根性をしているじゃないの、逆に俺が鑑定してやるよ。
(鑑定!・魔法とスキル)〔生活魔法・水魔法・鑑定スキル・魔力87〕
記憶する必要は無さそうなので全て一括で、(読み取り・読み取り)〔生活魔法・水魔法・鑑定スキル・削除,削除,削除〕
(読み取り・・・)スキルはともかく、生活魔法が使えなくなるのは地味に堪えるだろうから、ざまぁみろだ!
皆が心配そうに見ていたが、カラナドは頭を振りながら立ち上がったので、メイドにミシェルの所へ案内してもらった。
* * * * * * *
年が明けて新年の宴の前日、王都に参集した貴族とその子弟や各国の公使達を招待して、魔法部隊による特別演習が行われた。
春の魔法大会ならいざ知らず、一月の寒い中魔法大会の会場に使われる闘技場に集められた貴族達は、不平たらたらである。
しかし、王家の命を無視する事も出来ずに早く終われと祈っていた。
何時もの魔法大会の様に、各攻撃魔法が披露された後は各部隊による一斉攻撃と続く。
退屈な時間が流れる中、少数の者はいつもと違うことに気がついていた。
標的が太く頑丈に見えるし、背後の防壁も遥かに分厚く高く作られている。
そして各部隊による一斉攻撃が終わると、大きな張りぼての的が引き出されてきた。
係の者が張りぼてを固定して離れると、一人の少年がやって来て直ぐにはなれる。
〈何だあの的は?〉
〈いやいや、唯の張りぼてだろう。運んできたところを見ただろう〉
一際声を張り上げた説明係が、これより魔法部隊に連続した一斉攻撃を始めると伝えた。
土魔法・氷結魔法・火魔法・雷撃魔法の順で二度全力攻撃をしたが、張りぼての的は傷一つ付かないどころか揺れもしなかった。
事此処に至って、漸くこの特別演習がただの魔法部隊の展示訓練でないと悟った。
〈あれは、結界魔法か?〉
〈そんな馬鹿な、あんな結界なんぞ見たことも聞いたことも無いぞ!〉
〈それより見たか! 魔法攻撃が5m以上手前で阻止されていたぞ〉
〈魔法攻撃防御を施しているのか?〉
〈それならもっと近くで防ぐはずだろう〉
攻撃を終えた魔法部隊の集団が一斉に的から離れていく。
〈又何かやるのか?〉
〈引き上げて来ないな〉
〈何をするのだろう?〉
魔法部隊が60m以上下がると又少年が現れたが、今度は標的から50mの線上を歩き出した。
無造作に伸ばされた腕から打ち出されるストーンランス。
〈ドゴーン〉〈ドゴーン〉〈ドゴーン〉〈ドゴーン〉〈ドゴーン〉と轟音を立て、連続して的を射ち抜き背後の防壁を大きく抉り取る。。
〈何だあれは!〉
〈誰だ! あんな魔法使いがいるなんて聞いた事が無いぞ!〉
〈ストーンランスの連続攻撃だと〉
〈短縮詠唱なのか?〉
〈それにしても間隔が短すぎないか?〉
貴族や各国の公使達が騒ぐ中、ストーンランスからアイスランスに変わりこれも連続五回的を射ち抜いた。
〈そんな・・・馬鹿な!〉
〈あの少年は何者だ?〉
〈奴を必ず召し抱えて見せるぞ〉
〈待て! 未だ何か遣る様だぞ〉
その言葉が終わると同時に〈バリバリバリ、ドォーン〉〈バリバリバリ、ドォーン〉と雷撃音が連続して五回闘技場に響きわたる。
〈雷撃魔法までも使えるのか!〉
〈三属性の攻撃魔法・・・〉
〈奴一人で王国の魔法部隊を凌ぐ攻撃力だぞ〉
〈待て待て! 何を・・・〉
〈嘘だろう!!!〉
驚愕する人々の目の前で、少年の前方に巨大な火球が浮かび上がり射ち出される。
〈ドオォォォン〉〈ドオォォォン〉と轟音を立てて爆散する火球。
爆散した炎は上空へ吹き上げられて消えていく。
不思議に思い防壁を見ると、火球の射ち込まれた場所は壁が斜めに削がれていて爆風を上に逃がす様に作られていた。
〈四属性の攻撃魔法と無敵の結界・・・〉
〈陛下はこれを見せる為に我等を集めたのか〉
〈王国は巨大な戦力を手に入れた事になるぞ〉
〈あの魔法使いが居れば安心だな〉
貴族達は自国に強力な魔法使いが現れたことを喜んでいたが、コランドール国王の側近くに控える、一部の高位貴族や各国の公使達の顔色は冴えなかった。
国王はそれを見て僅かに口角を上げると、魔法展示の終わったフェルナンドが下がるのに会わせる様に、引き上げていった。
* * * * * * *
「見たか、奴らの顔を」
「中々面白い見物でした。陛下が彼を男爵にと言い出されました時は何をお考えかと・・・魔法の試しを見た時に彼は王家の強力な武器になると思いましたが、今日彼等の顔を見て陛下の深いお考えに感銘致しました」
「これでコソコソ動き回る奴らも少しは大人しくなるだろ。でなければ彼に依頼する事になるな」
「依頼を受けて貰えるでしょうか?」
「受けなくても良いのだ、彼が我が配下に居るという事が抑止となるし、予が彼に依頼すると思えばどうすると思う」
「なるほど、彼を排除しなければ我が身が危ういとなれば」
「そう言う事だ。しかし公使達の表情を見れば、男爵位は低すぎたかな」
「何か理由を付けて子爵か伯爵に・・・」
* * * * * * *
午後のお茶を楽しんでいる時に、ベルリオホテルの前に迎えの馬車がとまった。
ロスラント子爵様の従者が綺麗な一礼とともに「お迎えに参りました」と丁寧な挨拶をする。
どうもこの糞丁寧な対応には慣れないが、これも依頼の一環だと諦める。
王家の通達が行き渡ってからは、教会を含めた多くの呼び出しや依頼がピタリと止んだ。
代わりに丁寧な依頼書に変わったのには笑ってしまったが、無理強いをされないので良しとする。
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