第54話 王家の依頼
おれとアブダーラの遣り取りを、呆れ顔で見ている冒険者達の分もせしめてやろうと交渉開始。
「金貨100枚で勘弁してやろうと思ったけど、ごねたから150枚ね」
「そんなぁ~ぁぁ、」
「だってさっ、後ろにいる冒険者達は命懸けであんた達を守り瀕死の怪我を負ったりしているんだよ。彼等の功績に報いるには、回復するまでの生活の保障と感謝の心付けは当然だろう。嫌なら出さなくて良いよ、俺も野盗じゃないので毟り取ったりしないよ」
俺の言葉を聞いて、ボイスが首を振りながら何かを呟いている。
「払います。支払いますので、その依頼書をお返し下さい」
「王都に帰ってからなんて言ったら何かやりそうなので、此処で支払って貰おうかな」
長引かせれば不利と悟ったのか、仏頂面でマジックポーチから革袋を取り出したアブダーラは、きっちり150枚を数えてから差し出したのて依頼完了のサインもさせる。
俺から返して貰った依頼書を憮然として見ていたが、通りすがりの馬車に幾許かを包み、護衛の二人と共に乗せて貰い王都に向かった。
「呆れたねぇ~『金ならたっぷり持っている奴からふんだくるから』ってのは、こう言う事だったのか」
「いやいや、偉そうに言わずに礼を言っていれば、金など要求しなかったさ。ただ、俺に対して個人的な依頼が山程来ているのだが、奴の依頼は金貨五枚で俺を雇ってやるって巫山戯たものだったからね。ちょっとしたお仕置きさ。彼からの心付けの金は、冒険者ギルドで各自の口座に振り込むよ」
* * * * * * *
壊れた馬車の側で野営をして、修理の終わった馬車に動けない者を乗せて王都に戻る。
重傷の二人をホテルに放り込んでからギルドに向かう。
動けない二人には金貨十枚ずつ、怪我をしていた者には金貨六枚をそれぞれの口座に振り込み、ボイスともう一人には金貨三枚とする。
ボイス達と別れてベルリオホテルに戻ると、支配人がすっ飛んできた。
興奮気味に話す内容は、王家差し回しの者が書状を持って毎日俺を訪ねてきていると。
先日までは騎士の迎えで荒々しく連れて行かれたのに、今回は侍従の様な方が恭しくユーゴ様を訪ねて来られますと、興味津々である。
強制連行や奇襲攻撃の恐れは無さそうだが、王家に興味は無いのだがどうしたものかな。
答えが出ないまま翌朝朝食を済ませてお茶を飲んでいると、噂の男がやって来た。
ホテルに入ってきた姿は、宰相の傍らにいた男とよく似た服装なので直ぐに判った。
支配人が待っていましたと小躍りするが如く、嬉々として俺の元に案内してくる。
深々と一礼し「ユーゴ様、王家の御使者様で御座います」と慣れぬ言葉遣いで男を紹介すると後ろにさがる。
紹介された男はフロックコートに似た服に身を包み、直立不動の姿勢から綺麗な動作で一礼する。
「ユーゴ様、ヘルシンド宰相閣下よりの親書で御座います。御一読願います」
干渉するなと言っているのに、親書ってなによ。
差し出された封書を開くと、もう一つの封書が出てきたが〔茨の輪の中に翼の生えた蜥蜴〕王家の紋章が描かれている。
「宰相からのものだと言ったな」
「左様で御座います。御一読願い、返事を貰って参れと仰せつかっております」
やれやれ、なんちゅう言葉遣いだよ。
受け取った以上読まずに突き返せば使いの失態になるだろうから、読んで返事だけはしておくか。
開いた封書の文面は極めて簡素、〔王家より冒険者ユーゴ殿に直接依頼したき事あり。迎えの馬車に乗られたし〕って、危害を加える気は無いって事かな。
「良いだろう。宰相に会うので王城まで頼む」
「ご案内致しますので・・・お召し替えを」
「俺は冒険者だ、これ以外は街着しか持っていないので、駄目なら帰ってくれ」
「申し訳御座いません。そのままで結構です」
お茶を飲み干して立ち上がると、純白の聖衣を纏った男が三人ホテルに入ってきた。
また似つかわしくない奴が来たなと思ったが、支配人が最敬礼で迎えている。
「このホテルにユーゴなる男が宿泊していると聞いた。呼んで参れ」
偉そうに言っている神父を見て、アッシーラ様にお賽銭をはずむ約束をしていたのを思いだした。
あれから随分日にちが経つのに、お賽銭が振り込まれないので催促に来たのかな?
支配人が言い辛そうに俺の方に目を向ける。
「ユーゴ様、どうぞ」
迎えの男に促されて歩き出したが〈ちょっと待て!〉と声が掛かる。
その声に案内の男の足が止まる。
「その方、ユーゴと申す冒険者だな。教主様がお前をお呼びだ、我等について参れ!」
アッシーラ様の僕にしては、偉そうな奴だねぇ~。
「確かにユーゴですが、見ての通り先約が御座いますので後日日を改めてお願い致します」
「どこぞの馬の骨の相手は後で良い。我等に同道せよ!」
「アッシーラ様の僕にしては横柄だねぇ~、先約があるって言っているのが判らないの。用事が有るのなら、最低限の礼儀は弁えろよ」
「無礼な奴! 教主様の使いたる我等に従わぬ気か!」
「お前達が気に入らないので嫌だって、教主様に言っときな」
迎えの男に行くぞと目で示し、ホテルを出ようとすると後ろから追いすがって腕を掴んできた。
掴まれた腕を引かれて振り向きざまに、男の腹にアイスバレットを射ち込み直ぐに氷塊の魔力を抜いて水にする。
〈ウゲッ〉と一声漏らして崩れ落ちる男を無視してホテルを出る。
俺ってモテ期に入ったのかなと思ったが、宰相や教主って男だよな。
* * * * * * *
宰相の執務室に通されたが、応接室に移動すると護衛騎士と従者を下がらせる。
「教会の者がホテルに来た様だね。それに関する事で国王陛下が直接君に依頼したいそうだ」
そう言うと、陛下の下に案内すると言い侍従の先導で曲がりくねった長い通路を進み、要所要所に警備の騎士が立つ場所の一つで止まる。
宰相が頷くと扉を警備する騎士が「ヘルシンド宰相閣下とお客人です」と扉に向かって告げる。
迎え入れられた部屋は宰相の執務室がかすむほどの豪華絢爛な部屋だが、此処も執務室の様であった。
護衛騎士の数も多く煌びやかで、これがラノベで言う近衛騎士かと思われる。
窓際の執務机から男が立ち上がり、部屋の中央に据えられたソファーを示す。
「良く来た。ユーゴだったな座ってくれ」
ん、国王陛下だよな? えらく気さくじゃない。
黙って一礼しソファーに座るが、護衛達の気配が変わる。
「来て貰ったのは他でもない、そなた男爵にならないか」
このおっさん、頭は大丈夫かいな。
「陛下、私は直接依頼したいことが有るとの事で参上致しました。何方様であろうと臣下になる・・・」
「まあ聞け。依頼として男爵にならないかと言っているのだ」
「意味が判りませんが」
「陛下、迎えの者からの報告によりますと、教会の者が来ていたそうです」
「そうか・・・のうユーゴ、其方の治癒魔法は引く手数多と聞くが、それは貴族や豪商共だけではなく教会も同じだ」
王家もね、その為に呼んだのでは・・・ってそれなら男爵じゃなくて治癒魔法師としてじゃないのかな。
「噂通りなら、其方の治癒魔法の腕は王家としても欲しい。だがそれ以上に魔法の能力は捨てがたい。王家に仕えよとは言わないが、依頼として男爵になって欲しいのだ。男爵としての地位と権利を与える代わりに、我が王国と敵対しないことだ」
「君は貴族や豪商達から多数の依頼を受けている様だが、男爵になれば他の貴族や豪商達からの煩わしさを振り払える。勿論教会も王国の貴族に対して迂闊な事は出来ない。王国が君を臣下に迎えたと周囲は認識するが、代わりに君は貴族として他者からの干渉を排除出来る」
王家は治癒魔法の能力より魔法の攻撃力を恐れているのか? 魔法訓練場に作った結界も破壊できなかったのだろう。
魔法部隊の精鋭と思しき男の、攻撃力があれじゃーな。
王家が強力な魔法使いを召し抱えたと内外に示して、力を誇示する為には俺が必要か。
そして俺が男爵でいる限り王家と敵対しない証にもなるって事ね。
「臣下ではなく、依頼として男爵になる条件を言って貰えますか」
ヘルシンド宰相から示された条件を聞いてちょっと呆れる。
年金貴族として月金貨30枚、年間360枚を支給する。(爵位は何時なりと返上可能)
王都に住まいを定める事(定住しなくても良い)
年に一度以上は公式行事に参加して、臣下としての礼を取る事。
年に一度、公式の場にて氷結魔法・土魔法・火魔法を披露する事。
其れ以外にも王家より俺に対して依頼をすることもあるが、その際には内容と依頼料を示す(拒否も可能)
「随分好条件ですね」
「君の存在は、それだけの価値が有るのだよ。はっきり言って、教会や他国の手に渡したくないのだ。かと言って高位貴族に任じると、国内の貴族達が反発する」
これを受ければ当面の問題として教会からの干渉は防げる。
教会自体は恐くないが、宗教というものは狂信的な信者を使って色々裏で動くから厄介だ。
お互い持ちつ持たれつって事か。
「確認しておきたいのですが男爵より上位の貴族・・・上位者から依頼を受けていますが、気に入らないものが多々有ります。此を拒否して問題になった時に、従わなくてはならないのですか」
「序列として、普通は上位者には従うものだね。ただそれぞれの器量によるとしか言えないが」
気に入らなければ、力ずくで拒否しても良いって事だよな。
「この依頼お受けしますが、忠誠を誓うものでは在りませんのでお忘れ無き様に願います」
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