第46話 不意打ち
商業ギルドで、以前作ったフード付きローブを見せて、耐衝撃・防刃・魔法防御・体温調節機能を付与して欲しいと注文する。
元々俺の貼付した、耐衝撃・防刃・魔法防御は削除しているので怪しまれないだろう。
同時にそれ以外に便利機能は無いかと尋ねたが、身に纏う物ではこれ以外はありませんと言われてしまった。
付与の費用金貨60枚は口座から引き落として貰い、三日後に受け取りを約して商業ギルドを後にした。
ブルメナウ商会に戻ると、母親と共にミシェルが嬉しそうに出迎えてくれる。
「ユーゴ様、幾ら歩いても息切れも目眩もしません。でも足が直ぐに疲れるのです」
「それは今まで長い時間歩いたり出来なかったからだよ。無理をせずに毎日お散歩を続けたら、段々疲れなくなるし遠くまで歩ける様になるよ」
「遠くまで歩ける様になったら走れますか?」
「無理をしないで練習すればね」
* * * * * * *
ミシェルの散歩に付き合ったり、食料の仕入れに市場を散策したりして一週間が過ぎた。
この間に受け取ったローブから読み取り記憶した、耐衝撃・防刃・魔法防御・体温調節機能を元の服に貼付したので極めて快適である。
夕食後執務室に呼ばれて治療代として金貨300枚を貰ったが、ミシェルも問題無さそうなのであと数日でお暇すると告げる。
王都のベルリオホテルには二月分しか預けていない、既に一月近く経っているので一度帰らなければならないと告げる。
その日の食事の時の話題として、折角キエテフ迄来ているので一度は森へ行ってみたかったと話した。
それを聞いたブルメナウ会長が、王都の店に連絡してホテルの部屋を確保しておくのでゆっくりしていってくれと言って貰えたので、有り難い言葉に甘えることにした。
翌日から森へ入る準備をしていると、森の何処へ行くのかと尋ねられて冒険者を案内人に雇って10日前後散策するつもりだと告げた。
初めての森でいきなり奥へ行けば迷子になるのは確実、長期間居るのなら浅い所から覚えていくのだが、今回は1、2度森に行ったら王都に帰るつもりだ。
暫く考えていたブルメナウ会長が、5日後に伐採の為に森の奥へ行くのだが冒険者を護衛に雇うので同行しないかと提案された。
但し、良い樹木を求めて森に入る為に20日前後は帰れないと言われた。
ホテルさえ確保されているのなら、日数は別に問題ないので伐採の仕事に付いて行くことにした。
* * * * * * *
森へ入る当日、伐採に関わる6人と馬車で街の出入り口に向かい護衛の冒険者と落ち合う。
8名の冒険者の乗る馬車と2台で半日ほどの距離の村へ向かい、そこから森に入ると聞かされた。
村で馬車を預けて冒険者達と顔合わせをしたが、早速文句が出る。
「何で猫の子が混じっているんだ、伐採をする商会の者6名と聞いていたんだがな」
「何だ聞いて無いのか、会長から付けて貰った護衛であんた達とは別だぞ。あんた等は彼を守る必要は無いし、命令も出来ないからな」
「目の前で食われても助けはしねえぞ」
「お構いなく。俺は伐採現場の見学と、伐採関係者が危険になったら手助けするだけだからね。彼等の安全は基本的にそちらの責任だから」
「判った。護衛の邪魔になったら野獣共々始末するから覚悟しておけ!」
まっ、気持ちは判らなくもないがちょっと気に入らないのが居るね。
前後を冒険者達が固め、間に伐採関係者6人と俺が混じり黙々と歩く。
地元の人間だけあって目的地が判っているので歩くのに迷いが無い。
陽が陰り始める前に野営地に着いたので、伐採責任者のザラムスに野営地の指定を受ける。
「バンガートも呼んで貰えるかな。ドームは一つの方が良いだろう」
護衛の冒険者リーダーのバンガートがやって来る。
「どうした坊主」
「野営用のドームを作るんだけど、どうする」
「ドームって、土魔法で作るあれか?」
「そう、見張りが必要無い程度には頑丈な物を作るよ。ザラムス達と一緒で良ければ、大きな物を作るけど必要かな」
「本当に作れるのなら、たのまぁ」
疑わしげな目付きながらも、リーダーを任されるだけあって頭から否定はしない。
半径3m、高さ3mにすると円周が18mオーバーなので、全員寝られるだろうと思う。
話を聞いていた冒険者達が興味深げに見ているので、ロープを取り出して3m程の長さに括り杭をペン代わりに地面に円を描く。
地面の線より1m以上離れて貰い(ドーム!)と短縮詠唱に見せて呟く。
〈おお、凄えぇぇ〉
〈マジかよ!〉
〈唯の猫の子じゃねえのか〉
〈はあ~、ビックリしたなぁ~〉
「これ、大丈夫なんだろうな?」
「心配なら、自由に攻撃しても良いよ」
出入り口を作り、天井の中心を少し持ち上げると穴を開けて煙抜きを作る。
外から〈ドガッ〉とか〈ゴン〉とか聞こえる合間に「こりゃー固えなぁ~」なんて声が聞こえて来る。
「ユーゴ、大したもんだな。今回の遠征は楽が出来そうだが、これはどれ位持つんだ?」
「放っておけば丸一日程度だな。魔力を込めればもっと長持ちするけど、必要無いだろう」
「まあな。こんな物が森の中に残っていたら、野獣共の住処になっちまうからな。それとさっきもう一つの場所に印を付けていたが、あれは?」
「あれは俺用のドームですよ。森に居る時の訓練用ですけどね」
そう言って全員をドームの中に入れてから出入り口を封鎖する。
勿論ドームに瘤の様な小さなドームをくっつけて、トイレだと説明しておく。
皆から見えない様に俺の居る方向には監視穴や空気取り入れ口は無い。
透明な結界のドームの中で簡易ベッドを出して、ローブを布団代わりに横になる。
お客さんが来た時に一々起きて確認するのは面倒だから、透明な結界なんだけどな。
* * * * * * *
森の中を奥に向かって進むこと7日目、今まで護衛の冒険者達が追い払ってきた野獣とは明らかに違う奴が索敵に引っ掛かる。
「バンガード、今まで追い払ってきた野獣とは明らかに違う奴が居るぞ」
「どういう事だ。と言うかお前も索敵スキル持ちか?」
「ああ、以前共に行動していたパーティーから教えて貰っていたからな」
バンガードが仲間の斥候を呼び寄せて確認するが、首を捻るだけで俺の言葉を信用していない。
「お前の魔法は認めるが、俺も長年斥候役を務めてそれなりの自負もある。列の中程にいるお前の言葉に、すんなりと頷く訳にもいかないんだよな」
「それは判っている。だから暫く此処に留まり静かにしているから、あんたが俺の示す方向の確認を頼む」
「なら俺がシュラクに付いて行こう」
「トールか、良いだろう」
「確認をしたら、刺激をせずに静かに帰って来いよ」
「一々煩えなぁ~。お前に指図される謂れはねえぞ!」
「声が大きいぞトール。シュラク頼んだぞ」
シュラクが頷きトールを連れて藪の中に消えていったが、彼奴は自己顕示欲というか他人の上に立ちたがる性格だから心配だ。
勤めていた工場でもマウントを取りたがる奴は数人居たが、俺は密かにマウンテンゴリラとかマウンテンモンキーと呼んでいた。
常に人を見下しお山の大将を気取る、馬鹿な奴等とトールはよく似ている。
〈パーン〉と乾いた音がすると、間を置かずに獣の咆哮が聞こえた。
あの馬鹿! 心配は見事に的中して獣を怒らせただけの様で、索敵には逃げてくる二人とそれを野獣が追って来ている。
〈グオォォォ〉と野獣の咆哮が近づいて来る。
「ザラムス俺の周りに集まってくれ。バンガート達も、早く!」
「何をする気だ?」
「避難用のドームを作る。早くしろ!」
ザラムス達は素直に俺の周囲に集まったので、避難所を作り俺だけ外に出る。
冒険者達は護衛が仕事なので躊躇いながら迎撃の準備を始めたが、その前にシュラクとトールが駆け戻ってきた。
「シルバータイガだ! 逃げろ!」
叫ぶシュラクの後ろ20mも無い距離まで追いすがられているし、獲物との間にシュラクとトールがいてストーンランスが射ち辛い。
仕方がないのでシュラクとトールの後ろに、防壁状の結界を張る。
数歩の差で結界の障壁にぶつかり、戸惑うシルバータイガの周囲を取り囲む様に高い結界を張り巡らせる。
直径10m近い、結界の筒の中に閉じ込めたがどうしようか悩む。
透明な結界の中、興奮状態で吠え結界に体当たりをしたり鋭い爪の猫パンチを放ったりと凶暴だねぇ。
初めて見るシルバータイガを結界越しに繁々と見ていると〈トール、止せ!〉と声が聞こえた。
なにっと思って振り向きかけた瞬間、目の前が真っ赤になり〈パーン〉と破裂音が耳元で響いた。
真横からファイヤーボールを受け、横の結界と激突して弾き返され地面に転がる。
この野郎・・・腰抜けにも程がある。
駆け寄って来た冒険者達が、無傷で立ち上がる俺を見てびっくりしている。
ぽんぽんと服を叩いてから、羽交い締めにされているトールの所に歩み寄る。
「偉そうに言っていたが、勝てそうも無い相手にちゃっちい火魔法を放って逃げてきたのか? 自分のヘマで仲間まで巻き込むなよ」
歯軋りをして睨むトールの腹に、一発蹴りを入れて睨むのを止めさせる。
本来なら股間を蹴り潰してやるのだが、足手まといになるので許してやるが覚悟していやがれ。
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