第40話 鉢合わせ

 コッコラ会長が嘆息しながら現状を教えてくれた。


 「最近、私の所にも貴男を紹介するようにとか、居場所を尋ねてくる貴族や商人仲間が多くなりました」


 そう言って溜め息を吐き、肩を竦めて言葉を続ける。


 「貴男が訪ねて来られた事は、数日を経ずに王都の貴族と商人達や教会にも知れ渡るでしょう」


 「ロスラント子爵領の様な片田舎ならいざ知らず、相応の街や教会には優秀な治癒魔法使いが居るのに何故?」


 「先ず絶対数が足りません。中でも優秀な者は、高額で召し抱えられるか教会が手放しません。ロスラント子爵様のマリエ嬢の場合、優秀な治癒魔法使いを何度も招聘致しましたが治りませんでした。それを貴男は・・・たった一度で治されたのです」


 「代替わりした御方は?」


 「関連付ける事は無いと思われますが・・・」


 「俺の容姿が知れ渡ると、生い立ちからって事もか。まっ、手を出せばどうなるのかは判っているだろうから良いか」


 コッコラ邸で予定外の事を聞かされたが、此の国の概略を示す地図と他国の位置を示す物があれば欲しいのだと頼む。

 その際ホラード通りのベルリオホテルに投宿しているので、俺の事を聞かれたらホテルを教えてくれれば良いと伝えておく。


 「宜しいのですか?」


 「問い合わせや紹介を強要されても困るでしょう。私の居場所を教えれば、貴男に無理は言わないでしょう。私がホテルから居なくなったら連絡のしようもないと言えば宜しいです」


 「そう言って貰えると助かります。貴男が訪ねてこない限り居場所を知りませんしね。此の国の概略図と各国の位置関係を示す図は、2、3日中にホテルに届けさせます」


 「それと会長に私への紹介状を要求する者がでて来るでしょうけれど、紹介状は貴男を脅して書かせた物と見なしますので、会えなくなると断って下さい」


 逃げ隠れが無駄なら、正面から迎え撃ってやるさ。


 * * * * * * *


 ベルリオホテルに宿泊して3日目に、コランドール王国の概略図と王都クランズの地図に周辺国の配置図が届いた。

 これさえ有れば後はどうにでもなるので、旅の途中に狩った獲物の処分の為に王都冒険者ギルドに向かう。


 王都のギルドは久し振りだし、時々しか顔を出さなかったのでジロジロと見られて恥ずかしいぜ。

 マジックバッグをぽんぽんと叩き、獲物を沢山持っていると告げて解体場へ行く。


 一気に出すと嫌がられると思い、少数ずつ出す事にした。


 ホーンラビット、20羽

 ヘッジホッグ、20匹

 チキチキバード、20羽

 カラーバード、20羽


 「ちょっと待て! どれ位持っているんだ?」


 「う~ん・・・沢山としか。旅の途中で出会った奴を、適当に狩っていたのでよく判らないな。大きいのはエルクやホーンボアにオーク程度だけどね」


 「エルクもホーンボアも5頭ずつだ。オークは10頭な」


 ホーンボア、5頭

 エルク、5頭

 フォレストシープ、5頭

 オーク、10頭

 ハウルドッグ、10頭

 ホーンドッグ、10頭

 グレイウルフ、10頭


 「待て! もう良い。これ以上出すな!」


 わんちゃんと狼は群れで襲って来るので、沢山持っているんだけどなぁ。

 透明な結界の中から安全に狩り放題なので増えちゃうんだ。

 解体場から食堂へ行き、エールのジョッキを片手に空いた席に向かう。


 混み合うテーブルの間を抜けていると、スーッと足が伸びてくる。

 古典的だねぇ~と思わず笑いそうになるが、ここは真面目な対応を心がける。

 延びきった足を踏みつけて、グリグリグリと捏ねてから「お兄さん足をどけてくれないか」と真顔で頼む。


 声も無く足を抱えて唸る男に代わって隣の奴が立ち上がったが、口を開きかけて黙って座り込んだ。

 何処かで見た顔だが、誰だっけ?


 「おう、思いっきり人の足を踏みつけやがったな!」


 「止めておけ。其奴は強いぞ」


 「なんでぇ~、知っているのか?」


 「以前アイアンの五人組に絡んだ奴は、其奴一人に一瞬でのされたぞ。俺はお前に付き合う気はねえな。お前の兄貴分も、奴の顔を見て座っただろうが」


 そう言われて、足を伸ばしてきた男がバツが悪そうな顔で座る。

 タイミング良く解体主任が査定用紙を持って来た。


 「何だ、此奴と揉めるのなら止めておけ。お前等の勝てる相手じゃないぞ」


 解体主任に言われて、顔が赤くなっているとは可愛いね。


 「今度のオークは何処で狩ってきたんだ?」


 「シエナラから王都迄の間だな。街道脇の草原や森を歩いていたら襲って来た奴だよ」


 「王都の周辺じゃないんだな」そう確認して査定用紙を差し出した。


 ホーンラビット、3,000×20=60,000ダーラ

 ヘッジホッグ、7,000×20=140,000ダーラ

 チキチキバード、9,000×20=180,000ダーラ

 カラーバード、13,000×20=260,000ダーラ

 ホーンボア、50,000×5=250,000ダーラ

 エルク、60,000×5=300,000ダーラ

 フォレストシープ、65,000×5=325,000ダーラ

 オーク、75,000×10=750,000ダーラ

 ハウルドッグ、12,000×10=1200,00ダーラ

 ホーンドッグ、8,000×10=80,000ダーラ

 グレイウルフ、55,000×10=550,000 ダーラ

 合計3,015,000ダーラ


 〈おい、凄い数の獲物を持ち込んだ奴がいるぞ!〉

 〈何か、解体主任が途中で止めたってよ〉

 〈オークが10体だぞ、それも全て一撃だぜ〉


 解体場で獲物を渡した奴が、興奮して喚いているのが聞こえる。


 「なあ・・・あんた、今解体主任から査定用紙を貰ったよな」


 「それが何か?」


 「いやさ、さっきの奴がオーク10体とか・・・言っていたけど」


 「シエナラ街道を王都に向かって歩くと、草原や森には結構獲物が居るよ。あんた達も、稼ぎたければ王都を離れて旅をしてみなよ」


 そんな話をしていると、今度はギルマスが現れた。


 「獲物を大量に持ち込んだ奴がいるって聞いたが、やっぱりお前か。ユーゴだったな、お前に話が有るから俺の部屋まで来てくれ」


 「えぇ~、査定も終わったし金を貰ったら帰るよ」


 「お前を指名しての依頼が来ているのだ。とにかく俺の部屋まで来い!」


 〈おい、新人に指名依頼ってよ〉

 〈ばーか、唯の新人ならそうだろうが、解体場を見て来いよ〉

 〈何日で狩ったのかは知らねえが、奴は化け物かよ〉

 〈相当な攻撃魔法の使い手には違いねえな〉


 「ギルマス、指名依頼なんて受ける気はないよ」


 「まぁ話を聞け。お前は今や有名人だぞ」


 「知ってる。治癒魔法を使える事が知れ渡っちゃったからね。人気者は辛いよ」


 「それだけじゃない。シエナラの領主が王家に呼び出されて色々と聞かれたらしい。まっ、噂を裏付けただけらしいがな。でだ、お前は冒険者をしているが基本的に一人だ、貴族達がお前の事を調べたら・・・シエナラのギルドにブラウンベアを持ち込んだだろう」


 此の世界の情報網って、俺のプライバシーがダダ漏れじゃん。

 「今のところ公・侯・伯・子爵と豪商達がそれぞれお前を指名して、治療依頼や討伐依頼を出している」


 「討伐依頼?」


 「ああ、大物ばかりだぞ。アーマーバッファローにゴールデンベア、アースドラゴンなんてのも有るな」


 「冗談! 生活費はたっぷり稼いでいるからお断り、同じ理由で治療依頼もお断り。お貴族様に跪くなんて、真っ平御免だし」


 「だが、シエナラの領主の娘は治療はしたんだろう」


 「ロスラント子爵のお嬢様ね。何一つ俺に命令しなかったし、配下の者を俺に近づけなかったからね。それに俺の様な小僧にも礼儀正しかったよ」


 「そりゃー又、珍しい貴族だな」


 「そう言った訳で、指名依頼は受けません。と言えば断るのが大変だろうから、俺はホラード通りのベルリオホテルに泊まっているので、用が有るのなら直接交渉しろと言っといてよ」


 「受けるのか?」


 「此方から無理難題を押しつけて諦めさせる。力尽くで来たら命の保証はしないけどね」


 「大っぴらに貴族を敵に回すなよ」


 それだけ言ってギルマスは引き下がったが、周囲の冒険者達が呆れている。

 受付で精算して貰い、マジックポーチに放り込んでホテルに戻る。

 現在手持ち資金が800万ダーラ、金貨80枚有るので当分の間は生活に困らない。

 マジックバッグの中の物を全て売り払えば、もう300~400万ダーラくらいにはなるだろう。


 * * * * * * *


 ホテルに戻ってから、昼間は市場や屋台を巡って食料を買い込みマジックポーチに保存する。

 万が一の時に、土魔法や結界のドームに籠もってゆっくり逃げる算段をするつもりだが、何はともあれ食料は大事。


 等と呑気に考えていた俺は、結構間抜けな部類だと実感することになった。

 ホテル住まい三日目、食堂で朝食を取っていると俺の名を告げる声が聞こえる。


 顔を上げれば、受付カウンターの所に四人の騎士がいる。

 支配人が俺の名を聞き食事中の俺に視線を向けると、騎士の一人が振り向き俺と目が合う。

 揃いの服に胸には茨の輪の紋章が見える。

 早速やって来たかと思いながら食事を続けようとして、視界の片隅に新たな来客の到着を知る。


 チラリと視線を向ければ、此も揃いの服にロングソードを下げた一団だ。

 俺の方にやって来る奴等を目聡く見つけ、その先にいる俺を見ると一つ頷き進路を変える。

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