第37話 忍び寄る影

 夜が明けて朝食後にヴェルナの結界魔法を見せて貰った。


 〔創造神アッシーラ様の加護により授かりし、守りの楯を我が手に与えたまえ・・・ハッ〕

 中二病の様な詠唱と共に、ヴェルナの前にゆるゆると琥珀色の楯が現れるが・・・遅い!

 しかも直径1.6m程の円形の楯って、巨神兵用かよ。


 ヴェルナの足が震え膝をつきそうになっているが、俺が魔力を大量使用した時と同じ状態だと思われる。

 授かった魔力が少ない、魔法を使うには魔力が必要と思い無理矢理絞り出しての悪循環だろう。


 (鑑定!・魔力)〔魔力・14〕

 魔力52の内38も使っているとはね、保有魔力の3/4近くを一気に使ってよく立っていられるな。

 俺なんて1/5の魔力消費でへたり込んでしまったので、流石は虎人族ってところか。


 他人の結界魔法を初めて見るが、淡い琥珀色とはねぇ~。

 結界と言えば、亜空間フィールドとか電磁バリアのイメージだったから、無色透明だと思い込んでいたよ。


 「ヴェルナの結界は綺麗な琥珀色だけど、人によって色が付いているのかな?」


 「私も他人の結界魔法は初めて見ましたので、他の人がどうなのか判りません」


 「でも詠唱をしているし結界も作れるのなら、誰かに教わったのじゃないの。それとも独学で習得したの」


 「冒険者ギルドで魔法の事を尋ねている時に、結界魔法を見たことがあると言った方に聞きました。その時にうろ覚えだがと詠唱と結界の形や色のことも聞いたのです」


 結界持ちは少ないので、それだけの情報で魔法が使える様になるだけでも大したものだ。

 結界に色を付けて可視化出来るとの情報のお礼代わりに、ヒントを与えれば使いこなせる様になるかもしれない。

 俺を入れて七人が一塊になると、(結界!・琥珀色)

 俺達を包む様に釣り鐘形の結界を作るが、結界が琥珀色に見えている。


 「ヴェルナの結界を真似て見たが、強度は遥かに強いと思うよ」


 そう言って出入り口を作り、皆を外に出してから出入り口を閉じる。

 外部から見ても綺麗な釣り鐘形の結界だ。

 怪我をして横になっている者を結界の側に置かせると、直径8m程の無色の結界を作る。


 「周囲に見えない結界を張っているので、ヴェルナ以外の者は結界の側に行き周囲を見張り索敵の練習をしていなよ。索敵と気配察知の練習は何処ででも出来るけど、野獣を見ながらだと捗るよ。ヴェルナは結界を作る練習だな」


 ヴェルナには出来上がった釣り鐘形の形を覚えさせると同時に、結界の特性を教える。


 「結界ってのは何物も通さないと思われている様だが、条件次第では通すんだよ。先ず息が出来るし音も聞こえる。土魔法で作るときには、穴を開けておかないと息が苦しくなって死んでしまうのだが、結界魔法には必要無いんだ。だけどそれ以外の物、煙や匂いは通さないし魔法もね」


 「さっき条件次第って言わなかったっけ?」


 「それは魔法使いの上位者や転移魔法使いなら可能だって事さ。出来上がった結界に出入り口を作り出入りしたけれど、あれには魔力を使っていない。微量な魔力を使っているのかもしれないけれど、自覚するほどの魔力は使わない」


 そう言って釣り鐘形の結界に出入り口を作ってみせる。


 「昨夜オークを結界越しに射ったけどオークと俺との間の結界に、腕が通るくらいの穴を開けてそこからアイスランスを射ちだしたんだ」


 「全然判りませんでした。オークの突撃が止まったので結界が有るのだとは判りましたが、結界を通して射っていると思っていました」


 釣り鐘形の結界に、10cm程の穴を開けて手を入れてみせる。


 「この結界が作れる様になれば、昨日のような時には此の穴から攻撃出来ることになる。だから最初に此の結界の形を覚えて貰う事からだな」


 周囲をぐるりと回らせ、地面にもしっかりと埋まっていることを確認させる。

 覚えたら魔力の使い方の講習だが、使った魔力の回復は未だ当分無理そうだが、残魔力での方が教えやすそうだ。


 魔力溜りや魔力操作のことはある程度知っていたので、残っている魔力のことを尋ねて見た。

 何時もの1/4位残っているが、此では魔法は使えないと答える。

 そこ迄判っているのなら簡単だろう。魔力切れも体験させてやろう。


 「ヴェルナは魔力を使いすぎるのと、魔力の通し方が悪いから魔法の発動が遅いし、魔力切れを直ぐ起こすんだよ。魔力ってのは魔力溜りから腕を通して送り出すものなんだ、決して絞り出したり無理矢理込めるものじゃない。序でに詠唱も必要無いぞ」


 「えっ・・・でも、創造神様に願い必要な大きさと形を決めなければ・・・」


 「確かにそれは必要さ。俺が此を作る時に何も言わなかっただろう」


 「はい、無詠唱魔法なんてお伽噺の世界だと思っていました」


 「詠唱はしているよ。口内詠唱ってか短縮詠唱だな。避難所ってね」


 「避難所?」


 「そう、この形のことを避難所と呼んでいる。大きさは必要に応じて変えるけど、避難所と口内で呟けばこの形を作る事と決めている。考えることも詠唱する必要も無い。そいつの形と硬さをよく覚えたら、同じ物を作って貰うからな」


 そう言うと、避難所の周囲を回り〈避難所〉〈避難所〉と呟いて形と大きさ硬さを頭に叩き込んでいる。

 暫くしてヴェルナを鑑定すると、魔力が17に回復しているので実際にやらせてみることにした。


 俺の場合は1/73で魔法が発動するが、ヴェルナの場合だと1/52では無理だろう。俺と同じ魔力量を必要とするのなら、大雑把に1.5/52だがいきなり魔力の小分けは出来ないだろう。

 取り敢えず残魔力を使ってやらせてからだが、魔力の流し方を教えなくっちゃ。


 「魔法を発動するには大きさや形を決めたら魔力を流すのだが、魔力ってのは無理矢理押し出したり引き摺り出したりするものじゃない。魔力溜りから必要な魔力を腕を通して流し出すんだ。俺の場合は避難所、と呟いた時に腕から魔力を流し出す感じかな。ヴェルナの魔力溜りから1/3の・・・19に回復しているな。魔力溜りから半分の半分を、腕から流し出す事を心がけて遣ってみな」


 真剣な顔で腕を差し伸べると(避難所!)と呟きながら目を閉じる。


 〈オー〉

 〈凄いぞ!〉

 〈出来ているぞ!〉

 〈遣ったね!〉


 「お喜びの所を申し訳ないが、避難所は緊急時に自分の周囲に作るんだ」


 全員をヴェルナの周囲に集めて避難所を作らせると、今度は完璧に全員を包み込んだ物が出来た。


 〈凄いぞ、ヴェルナ!〉

 〈完璧だね♪〉


 「どうだ、もう少しやれば魔力切れになるが身体は大丈夫だろう」


 「はい! 足の震えも身体の疲れもありません! まさか・・・こんなに簡単に使える様になるなんて」


 「そりゃー、曲がりなりにも魔法が使えていたからさ。魔法を授かったばかりだと教えるのも大変だぞ。出入り口や穴を作る時は、此処に穴を開けるとか塞ぐって明確な意思を、出来た物に送り込むんだ。先ずは手を添えてやってみな」


 壁面に手を添えて〈穴を〉と呟くと50cm程の穴が開いた。


 「はっきりと穴の大きさを考えないと、ふだん穴と思っている大きさになるぞ。塞いでみなよ」


 何度も穴を開けたり塞いだりした後、出入り口を作ったり塞いだりと練習に余念が無い。

 ギリスを呼び、ヴェルナに本格的な魔力切れを体験させるので今夜もお泊まりだと告げる。

 稼ぎが無いのは困るだろうから、フォレストウルフはシエナラの誓いに全て渡すので、暫くヴェルナに付き合えと言っておく。


 「魔法を教えて貰った上に獲物まで、本当に良いんですか?」


 「俺はしっかり稼いでいるから心配無用だよ。オークだけでも当分食えるからな」


 ヴェルナを寝かせる準備をしてから二度避難所作らせると、魔力ゼロで崩れ落ちた。

 大怪我をして横になっているザビドの横に寝かせると、残りの5人を連れて適当な立木の前に連れていくと小弓を取り出し、立木に向けて連射してみせる。


 「カニン、あんたは小弓スキルを授かっているだろう。此奴を遣るから練習しろ。ヴェルナが避難所を作ったら、中から此奴で野獣を殺せるからな。ギリス、あんたにも遣るよ。此奴の方が少し強力だが、あんたなら扱える様になると思うぞ」


 (内緒で小弓スキルを貼付しておいたからな)とは言えないけれど、筋が良さそうだと褒めておく。

 それぞれに練習用の矢を各20本と、通常の矢を20本ずつ渡しておく。

 その際至近距離から矢をつがえて的を射つ練習をして、段々早く矢をつがえて射てるようにしなと言っておく。

 そう言って、今度は25m程離れた場所から連射してみせる。


 今夜は透明な結界のドームにお泊まりだが、陽が暮れると野獣の徘徊が増えてドームにも近づいて来る。

 振る舞った夕食を食べてのんびりしている彼等に、索敵と気配察知の練習は何時でも出来るぞと揶揄う。


 俺に言われて思いだしたように目を閉じたり、闇を睨んで様子を探る。

 まさかのんびりとだべっている背後の藪に、キラードッグが忍び寄ってきているとは知るまい。


 本気で索敵や気配察知の練習をさせるには、良い刺激剤になるだろう。

 ニヤリと笑う俺を、ギリスが不思議そうに見る。

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