第33話 治療依頼

 コークス達とも話し合い、そろそろ王都の穀潰し達を独り立ちさせようと決めた。

 ホウルも避難所作りが上達したし、ドームも直径4m程の物を楽に作れる。

 万が一の為のストーンアローとストーンランスも6本を限度として使用を許した。

 それ以上使うと死の危険があるのもしっかり認識させたので、俺はもう必要無い。


 ただ森や草原で出会えば共に行動する事もあるだろうし、情報交換もする独立したパーティーだ。

 俺は大地の牙とも離れて、暫くは本格的に魔法の彼此を調べるつもりだ。

 そう伝えると「何か有ったら何時でも来てくれ」と言って貰えた。


 「ユーゴには色々と教えて貰ったから、何時でも歓迎するわ」


 「巣立ちの儀から何かと忙しかったので、一人でのんびりと魔法について考えたいだけだよ。暫くはシエナラの街か周辺の森に居るよ」


 一人になって先ずやることは服とブーツの新調だ。

 コークス達と再会した時にも言われたが、少し服が小さく感じるんだよな。

 俺は外見が猫人族だからこれ以上余り大きくはならないと言われたが、未だ17才なので希望は捨てない。


 服の生地は以前王都で買った服と同じ、特殊な繭から織った布の高撥水の物を指定する。

 多少よれてはいるが俺が着ている物が高価な物なので、係員も心得顔で頷いている。


 上下一式とフード付きローブの生地代で金貨90~100枚、仕立代が金貨10枚と王都と変わらないお値段。

 街着も王都で作った物と同程度の上等な生地を選び、上下一式の生地代が金貨40枚に仕立代金貨5枚と聞き、価格協定でもしているのかなと一瞬疑ってしまった。


 支払いは商業ギルドに預けている金から差し引いて貰い、序でに懐から金貨50枚を出して預ける。


 ブーツは、商業ギルドで紹介して貰ったランカン通りのラシット革製品加工所に出向いて注文する。

 ちょっとお高くて150万ダーラ、金貨15枚を支払って八日後の受け取りとなる。


 ホテルまで採寸に来てくれるので、夕方まで食料やお茶に菓子などを買い込みマジックポーチに備蓄だ。

 3-180なら、一日しか持たない物も半年は大丈夫で、パンなら少々固くなるのを辛抱すれば2~3年は大丈夫だ。


 マーライト通りの〔ハイドラホテル〕一泊銀貨一枚だけあって食事は美味い。

 此の世界に来てからコッコラ商会とウイザネス商会に逗留した時以外は、美味い食事と言っても庶民の食事なので高が知れている。

 高級ホテルではないが、一階のレストランで出す料理なので屋台料理とは一味も二味も違う。


 服が出来上がるまでは王都で作った街着に着替えたが、やっぱり心持ち小さい感じだ。

 仕方がないので吊るしの街着を買い、注文服が出来るまではそれで凌ぐことにした。

 何の事はない、王都で作った服を一揃いサイズアップで作り直しただけだ。


 採寸を済ませて、ブーツを受け取り仮縫いも済ませ出来上がりを待つだけとなった時に、ホテルの支配人から来客を告げられた。

 目で問いかける俺に「フェルカナのウイザネス商会からの使いの方です」と教えられた。


 商談室を借りて、使いの者から書状を受け取る。

 予想通り治療依頼だが、相手がシエナラの領主ユジノラ・ロスラント子爵の三女、マリエ・ロスラントに対する治療を頼みたいとの事。

 ただ一つ、予想外だが俺を指名しての依頼であり、使用人の中から情報が漏れた様だと書かれていた。


 それなりの治癒魔法使いに依頼を出すには相当の金が掛かるので、治療依頼なら豪商か貴族だろうとは思っていたが、シエナラの領主の娘とはね。

 俺の名を知っていて尚、冒険者ギルド経由や直接依頼してこないって事は、名を伏せている事への配慮かな。

 俺の素性を知られているのなら、逃げ隠れはせずに一度は正式な治療依頼を受けても良いだろう。


 使いの者から返事が欲しいと言われて、紙とベンを借りて返事を認める。


 〔治療依頼を受けるには条件が有る事。当方は冒険者故貴族に対しても跪きたくないので、身分の上下関係を持ち出さない事。治療結果の如何に関わらず俺の名を他に漏らさない事が条件〕と記す。

 使いの者に返書を手渡して、もうすぐホテルを引き払うので、用事が有れば冒険者ギルドに使いを寄越す様にと伝言を頼む。


 俺がホテル住まいをしている事を知ったのなら、冒険者ギルドに人を派遣して返事を届ける事くらいは出来るだろう。

 コッコラ会長も男爵家の厄介者の事を知っていたのだから、出来なければ其れ迄だ。

 しかし、金や権力の有る者は相当な情報網を有しているとみるべきで、油断がならない。


 注文服を受け取ると早速森に向かい、貴族対策の為に結界魔法のレパートリーを増やす練習を始める。

 現在は戸板状の結界と言う名の防壁と、ドーム状の避難所しか作れないので先ずは周囲を円筒状に張り巡らせる事からだ。

 だがこれがなかなかに厄介で、結界自体が見えないので思ったとおりの物が出来ているのか判らない。


 土魔法で大きめのドームを作り、中に籠もって魔力切れまで色々と試すが中々満足出来るものにならない。

 氷結魔法も土魔法も自在に使えるし、治癒魔法も転移魔法もラノベを参考にそれなりに使えるのだが、結界魔法だけは思い通りにいかない。


 毎日毎日色々と考えて試すが万策尽きた、現在のドームや円筒状でも十分だが・・・

 やっても駄目なら酒飲んで寝よか、何処かの誰かが言っていた言葉に従って不貞寝を決め込む。

 だが習慣とは恐ろしいもので、寝る前の魔力操作をしていて閃いた。


 魔法とはイメージに魔力を乗せるとのラノベの教えと、押しても駄目なら引いてみなの言葉に従う事にした。

 魔法に魔力を乗せずに、魔力に魔法を乗せれば良いだろう。

 体内を巡らせる魔力に結界魔法を乗せるのだが、体の表面より10cm上に結界を張るイメージで(結界!)


 見えない結界の確認の為に右手で左腕を叩くと、約20cm程の所で手が止まる。

 土魔法で此をやれば酸欠で死ぬので、慎重に意識の変化を感じ取るが10分20分経っても異常なし。

 ウォーターに魔力を乗せて頭から被るが、水は目の前を流れていくだけで髪も顔も濡れない。


 俺って天才♪ 俺ってグレイト♪


 水を被りながら口を開けても水は口に入らないので、空気以外は通さないようだ。

 結界を張っていては飯が食えないと変な事が心配になり、結界を張ったまま口の周囲だけ穴を開けて飯を食う練習をしてしまった。


 魔力を張り巡らせて結界を張ったまま狩りをする練習だが、一度張った結界は解除するまで存在する事が判った。

 ドーム状の結界が24時間程度で消滅するので、何もしなければ丸一日安全と言う事になる。


 たった一つの誤算は、結界を張っていれば俺は怪我をしないが当たりが強ければ吹き飛ばされるって事。

 体の表面5cm程度の所に結界を張りオークと対峙して短槍で遣り合っていたが、オークの棍棒を短槍で受け止めたらそのまま後ろに飛ばされた。

 怪我はしなかったがビックリだよ。


 しかし結界は便利で、ドーム状の結界を張ると俺の姿は見えているので野獣が襲ってくるが、結界に阻まれて手前で見えない壁にぶち当たる。

 戸惑う野獣に小窓を開けて小弓で仕留めるのは簡単楽ちん。

 試しに穴を開けずに小弓で射てみたが矢は通らず、アイスランスは結界の外に射つイメージならそのまま射つ事が出来る。


 お陰で結界魔法の練習中に獲物がたっぷりと獲れたので、一度ギルドに売りへ行く事にした。

 一人で行動するとショートソード一本を下げ、オーク革製のバッグを斜めに提げた俺は目立つ様で何時もジロジロと見られる。

 ただ難癖を付けてくる奴はいないので不思議に思っていたが、街の出入り口で順番待ちをしている時に、ひそひそ声で理由が判った。


 模擬戦の時に俺が相手をした奴はシルバーの二級だった様で、それを手玉に取りタマタマを蹴り潰した非情な奴だと噂していた。

 迂闊に喧嘩を売って玉を潰されたらたまらんてのが、俺を避ける原因とはね。


 * * * * * * *


 グレイトバッファロー、1頭

 バッファロー、1頭

 オーク、8頭

 エルク、2頭

 ハウルドッグ17頭

 ホーンドッグ、12頭

 ホーンボア、5頭

 解体場に並べ終わると解体主任が呆れている。


 「本当に此を、お前一人で狩ったのか?」


 「ああ、今は一人でやっているからな」


 「土魔法が使えるって言ってたな。それで此れだけの物を狩れるのか?」


 「頑丈な楯を周囲に巡らせてからなら、さして苦労はしないよ」


 ギルドカードを預けて食堂で待っていると告げて解体場を後にする。


 雑味の多いエールにも慣れてきて一息ついていると、背後からの視線を感じるが敵意は無さそうだ。


 「ユーゴ殿か」


 「殿と呼ばれるほどじゃないが、ユーゴは俺だ」


 「主からの手紙だ。返事は不要と言われた」


 それだけを告げると、テーブルに手紙を置いてさっさと帰っていく。


 周囲の冒険者達が呆気にとられた顔で俺を見ている。

 冒険者の小僧に殿はないよな。


 男と入れ替わる様に解体主任が査定用紙を持って来たので確認する。


 グレイトバッファロー、140,000ダーラ

 バッファロー、80,000ダーラ

 オーク、80,000ダーラ×8=640,000ダーラ

 エルク、60,000ダーラ×2=120,000ダーラ

 ハウルドッグ、12,000ダーラ×17=204,000ダーラ

 ホーンドッグ、8,000ダーラ×12=96,000ダーラ

 ホーンボア、50,000ダーラ×5=250,000ダーラ

 合計1,530,000ダーラ


 了解して用紙をカウンターに持っていき、全額冒険者ギルドに預ける。

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