第32話 腕試し

 「何処にでも居る手合いだな」

 「見過ごす訳にはいかないか」

 「まぁ、一人頭15万ダーラ、四人会わせて60万ダーラ持っているんだものね」

 「金を抱えた新人の群れって事か」

 「だな、勝てそうなアイアンを狙うってのが気に入らねえな」

 「ちょいと脅すだけで一人当たり10万ダーラの稼ぎだぞ」


 「あっ、座っててよ。此処はアイアンの新人に見える俺の出番でしょう。頭を冷やしてやるには都合の良い魔法も有るし」


 「殺しちゃ駄目よ」


 「はーい。骨の1、2本で許すよ」


 * * * * * * *


 店に入られたら金を使ってしまうので、急ぎ足で追いかけている。

 前を歩く四人に追いつくと、真っ昼間から取り囲んで絡んでいる。

 隠形に魔力を乗せて姿を隠して近づく。


 「よう兄さん達、しっかり稼いでいる様だな」


 「はぁ~、何か用ですか?」


 「何か用って、用事がなけりゃ声を掛けちゃ駄目なのか」

 「俺達が声を掛けたのが迷惑なのかよ!」

 「生意気な餓鬼共だな」

 「ちーとそこの裏に行こうぜ」

 「ベテランに対する態度がなってないな。シエナラの作法を教えて遣るよ」


 ナイフをちらつかせて脅している。

 凄ぇぇ、世界は違うけどチンピラの所業は共通なのねと感心してしまった。

 ナイフをちらつかせている奴の後ろに回り、思いっきり股間を蹴り上げた。

 〈ウゴッ〉と言って股間を押さえて前のめりに倒れる男。

 激しい動きに、隠形が破れて姿を見られた。


 「誰だ! お前・・・何時からそこに居た?」


 「ん、『よう兄さん達、しっかり稼いでいる様だな』の時からだよ」


 「そんな馬鹿な!」

 「ふざけだ餓鬼だな」

 「あ~あ、白目を剥いているぞ。治療費は高く付くなぁ」


 「治療代が欲しけりゃ、俺達と模擬戦をやらないか。ナイフをちらつかせて金を巻き上げれば犯罪奴隷だが、模擬戦で金を掛けたら合法的に治療費が手に入るぞ」


 「面白ぇ小僧だな」

 「ランクアップして逆上せている様だが、模擬戦に魔法攻撃は使えねえぞ」

 「魔法使いの癖に、俺達に模擬戦を挑むのかよ」

 「薄汚い猫のくせに笑わせるぜ」


 「ほーん、お前の相手は俺な。皆、遊びの成果を見せろよ」


 「ユーゴって・・・」

 「でも、どれだけ通用するのか試してみたいよ」

 「まっ、逃げ出す訳にもいかないし」


 「ほほ~う、肝の据わった餓鬼共だな」

 「なーに、直ぐに泣きっ面に変えてやるよ」


 白目を剥いて気を失っている奴を助けようともせずに、金を巻き上げる為に模擬戦を遣る気とは酷い奴等だね


 * * * * * * *


 ギルドに引き返すとコークス達に手を振る。


 「おらっ、サブマスを呼んで来い! 小生意気な餓鬼共と模擬戦をやるぞ!」


 いきった男の怒鳴り声に、食堂の方からどっと歓声が上がる。


 〈模擬戦だと、誰と誰だ?〉

 〈餓鬼共って聞こえたぞ〉

 〈〔群狼〕の奴等と新人だな〉

 〈こりゃー、群狼一択だな〉

 〈新人って、あのにゃんこはさっきシルバーに昇級した奴じゃねえのか?〉

 〈あれつて魔法使いだぜ、模擬戦は接近戦だぞ〉


 「どうしたユーゴ」


 コークスがニヤニヤしながら尋ねてくる。


 「ナイフを出して集っていたので、股間を蹴り上げたら治療費を出せってさ。ハリスン達の日頃の成果も試したいので、模擬戦に誘ったの」


 説明をしていると不機嫌そうなサブマスがやって来て、俺達と群狼と呼ばれた奴等を見比べている。


 「受けたのか?」


 「連れの四人に集っていたので、一人の股間を蹴り上げたら治療費を払えってさ。模擬戦で俺達に勝てたら払らうと言ったら、喜んでいたよ」


 呆れた様な目で俺を見るサブマス。


 「まあ良い。お前達も異論はないな?」


 「ああ、駆け出しに模擬戦を挑まれては逃げる訳にはいかねぇからな」


 にやにや笑いながら返事をしているが、俺を『薄汚い猫』呼ばわりした奴はぶち殺す!


 サブマスの「訓練場に行け」って言葉に、野次馬の冒険者達から歓声が上がる。


 〈よーし、群狼に銀貨一枚〉

 〈よせよせ。相手はアイアン四人に、ピッカピカのシルバーになりたてのチビ猫だぞ。賭けになるかよ〉


 〈おっ、なら俺がチビ猫に金貨1枚賭けてやるぞ〉

 〈私もユーゴに金貨一枚!〉


 〈よしっ受けた! 銀貨二枚!〉

 〈おいおい、気持ち良く受けたと思ったら銀貨二枚かよ〉

 〈群狼に賭けるぞ!〉

 〈あの金貨は貰った!〉

 〈その前に賭け金を出せ!〉


 あ~あ、お祭り騒ぎになっちゃったよ。


 「ユーゴ~、どうするのよ」


 「日頃の訓練通りやれよ。怪我をしても、ただで治してやるからさ」


 「勝てるかなぁ~。相手はベテランで強そうだし」

 「日頃の革袋の成果を試す良いチャンスだぞ」

 「お前は俺達を叩く方が多いからそんな事が言えるんだよ」


 「慣れた訓練用の木剣を使えよ。両手でしっかり打ち込めば負けないさ」


 訓練用の木剣を手に取り素振りをする群狼達だが、振りが甘いし短槍に見立てた棒を持つ者の動きも大した事がない。


 「見てみなよ、素振りの姿勢も振りも素人に毛が生えた程度だぞ。一番手はルッカスな、散々皆を殴った腕を披露しろよ」


 サブマスに呼ばれて訓練場で向かい合うと、注意事項を告げられて一番手の者を残して後ろに下がる。

 余裕綽々で薄ら笑いの男を、ルッカスが睨んでいるが肩に力が入っている。


 「ルッカス、頭以外なら遠慮無く殴り飛ばせ!」


 俺の声援と同時に〈始め!〉とサブマスの声が掛かる。


 〈おらっ群狼、負けたら承知しねえぞ〉

 〈おめえに全財産を賭けたんだからな、負けたら闇討ちだぞ!〉


 〈ルッカス、一人くらいは叩きのめせよ!〉

 〈負けないでね~、お小遣い賭けたのよ~♪〉


 〈姐さん、金貨は貰った済まねぇ~〉


 好き勝手な声援を受けながら、ジリッと摺り足で間合いを詰める二人。


 「ルッカス、何時も通り叩きのめせ!」


 俺の声援と同時に相手の男が踏み込んでいくが、手首を叩かれて踏み込みが止まった瞬間に横殴りの一撃を受けて崩れ落ちた。


 〈だー、何て弱いんだよ〉

 〈糞ッ、まともに打ち負う事も出来ないのか〉

 〈アイアンに軽くあしらわれるとは情けない〉

 〈ボケッ、金返せー!〉


 ルッカスが軽く叩きのめしたので、二番手は慎重と言う名の腰が引けた状態になり、ホウルに簡単に負けてしまった。

 三番手に待望の奴が出て来ると、ハリスンとグロスタが道を開けてくれる。

 見たところブロンズのベテランかシルバーランクが精一杯の腕の様で、顔が引き攣っている。


 「随分馬鹿にしてくれたよな。新人狙いの屑のくせに」


 「薄汚れた野良猫が偉そうに抜かすな! 魔法でブラウンベアを倒すのとは違うぞ」


 「御託は良いんだよ。お前も玉を蹴り潰してやるから覚悟しな」


 サブマスの〈始め!〉の声と共に一歩踏み込んでみせる。

 慌てて袈裟斬りに振り下ろしてくる木剣を斜めに受けて滑らせると、そのまま踏み込み肘打ちを軽く胸に打ち付ける。

 息を詰まらせて前屈みになった所で後ろに回り、サッカーボールキックを股間にお見舞いする。

 股間を押さえて崩れ落ちようとする男を、後ろから抱きかかえてバックドロップで大地に叩き付ける。


 〈完全に潰れたな。しかしえげつねえなぁ~〉

 〈男としても、冒険者としても終わったな〉

 〈あかん、股間がヒュウヒュウするわ〉

 〈俺は彼奴には絡まないと誓うよ〉


 「おい! 次の奴! さっさと出て来い!」


 次の奴が出て来ないので、サブマスが切れている。


 「あっ・・・逃げた」

 「サブマスに頭を下げるのなら、俺達に下げろよ」


 残り二人の謝罪を受け入れて食堂に戻ると、コークスとハティーが薬草袋に包んだ賭け金を持ってきて数え始めたが渋い顔である。


 「せっかく金貨を掛けたのに渋ちんばかりだな。」

 「銀貨が17枚に銅貨が多数・・・鉄貨もちらほらって」


 「折角大儲けするチャンスだったのに、残念だね」


 「それよ。私と亭主だけがあんた達に賭けたので総取りだと思ったのに・・・」


 * * * * * * *


 ハティーは、二週間もすると避難所とドームを瞬時に作れる様になった。

 流石は土魔法を使っているだけあり、魔力を小さな塊で使う方法も簡単に習得した。

 魔力が65なので、連続して魔法を使えば俺より早く魔力切れを起こすだろうが、それでも60回程連続して使えるのは大きい。


 魔力溜りから魔力を小さく切り取って使う方法なんて、思いつかなかったと感心していた。

 避難所とドームを自在に作れる様になったので、ストーンアローとストーンランスの作り方を教えておく。

 と言っても見本を作り、それぞれを思い浮かべれば即座に同じ大きさの物が作れる様に、練習をしろと言っておくだけ。


 射ち方も5・10・15・20mと近い的から100発100中になったら段々と遠くの的を狙えと教えるだけ。

 練習熱心なハティーは、毎夜ドームの外に作った的に向けてストーンアローを射ち続けている。


 それを羨ましそうに見ているホウルには、一呼吸で頑丈な避難所とドームが作れる様になったら教えてやると励ましておく。

 それ以来ホウルも毎夜熱心に避難所作りに励んでいる。


 固いストーンアローやストーンランスを作れなければ、獲物に打ち込んでもストーンバレットと変わらないからな。

 俺も何時までも面倒を見るつもりはないので、自分で考えて改良する事も大事だと言っておく。

 ホウルはその辺がよく判っていない様だが、それに気付かなければそこ迄だろう。

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