第31話 シルバーランク

 コークスと二人で俺の索敵に引っ掛かった物の確認に行く事にした。

 今の場所をからだと60~70m先を横切る筈なので、静かに接近する。

 灌木の隙間を通して見える場所に潜み、通り過ぎるのを待つ態勢になったが風向きが変わった。

 俺達の方から未確認の奴の方に風が吹いているので、避難所に籠もろうとしたが相手が気付いた様で進路を変えた。


 〈ガサゴソ〉とした音に混じって〈フゥフゥ〉とか〈ゴワッ〉と聞こえてきて直ぐに姿が確認出来た。

 熊だ、チョコレート色の巨体を誇る熊「ブラウンベア」だとコークスが呟く。


 「勝てる?」


 「無茶を言うなよ。俺達四人ならハティーにドームを作って貰い、通り過ぎるのを静かに待つだけだな」


 「ハティーのドームは耐えられるの」


 「俺達四人が何とか収まる小さい奴ならな、本格的に攻撃された事がないので、確実とは言えないな」


 二人して覗き穴からブラウンベアを見ながらボソボソと話していると、避難所の周囲の匂いを嗅ぎ回っている。

 匂いは俺達が潜む避難所から来た方向にしかない、ブラウンベアは俺達が来た方向に匂いを辿って進み始めた。


 「不味いな」


 「しゃーないね。ちょっくら片付けてくるよ」


 「待てまて、フェルナン」


 「ユーゴだよ。大丈夫、アイスランスを2、3発射ち込んでやるよ。効き目が無けりゃ即座に避難所を作って籠もるから」


 「お前のなら耐えられるのか?」


 「強度は岩の如くってところかな。ブラウンベアには壊せないと思うよ」


 「よし! 俺も行くぞ。お前の本気を見せて貰おう・・・万が一の時は頼んだぞ」


 急いでブラウンベアの後を追いかけると、ハティーの避難所周辺をしきりに嗅ぎ回っている。

 コークスには避難所に入ってもらい、俺は魔力を込めた隠形で姿を隠すとアイスバレットを尻に射ち込み注意を引く。

 振り向いたブラウンベアの鼻面に再びアイスバレットを射ち込むと〈グオォォォォ〉と一声吠えて立ち上がる。


 俺の姿が見えず戸惑うブラウンベアは、射的の的のよろしく突っ立っている。

 こんな好条件は滅多に無いので、遠慮無く心臓目掛けてアイスランスを撃ち込む。

 胸に突き立つアイスランスを掻き毟りながら咆哮するが、倒れる様子がないので続けて二発射ち込むと後方に倒れて動かなくなった。

 確認の為にもう一発アイスランスを射ち込むが、ピクリとも動かないので一安心。


 コークスを避難所から出すと、呆れた顔で俺とブラウンベアを交互に見ている。

 やれやれである。

 ドームも避難所も有るし結界も使える、アイスランスにストーンランスも使える。

 駄目なら強力なジャベリンを一発射ち込むだけだ、負ける要素はない。

 ジャベリンって投げ槍の事だけど、俺のは爆発しない対戦車ミサイル気分の強力な奴。


 「ユーゴ、あんた凄いわねぇ」


 「ハティーも練習すれば、此くらいは楽勝だよ。もっと頑丈な避難所が作れたら、避難所の中から一発射てば良いだけだからね」


 ハリスン達も恐々近づいて来て、ブラウンベアを見ている。

 体高約2m体長約4.5m、鼻先まで5.5mちょいってところかな。


 「俺も練習すれば倒せるかな」


 俺とハティーの話を聞き、ホウルが聞いてくる。


 「練習すれば出来ない事はないけど、後が大変だぞ。お前を仲間にすれば大物狩りが出来るってな。ゴブリンの前に蹴り出された時の様にならなけりゃ良いけどな。それに、ファングドッグにだって負けるって事を忘れるなよ」


 「おれはオークで満足だから。それ以上は望まない事にするよ」


 ブランウベア出現で気になったので、ホウルとハティーに緊急避難所を作って貰い、その隣に俺も避難所を作る。


 「どうするの?」


 「まあ見てて」


 全員避難所から離れて貰い、少し離れた場所から人の頭大のストーンバレットを射ち込む。

 新幹線並みのスピードで射ち込んだストーンバレットは、ホウルの避難所を軽々と射ち抜いた。

 次いでハティーの避難所は〈バキーン〉と音を立てて穴が開き、俺の物は〈ガーン〉と音がして弾き返した。


 「えらい差があるな。お前のは岩の様に固いってのは本当だな」

 「岩に当たった様な音だったわ。私のは未だまだね」


 「俺の避難所を参考に作れば良いよ。ホウルも固い物を作る気持ちを忘れずにね。野営用のドームだって同じだよ。避難所の強度が心配なら、追加で固くなれと念じて魔力を込めれば強度を上げられる筈だよ」


 「それよりも、此をどうするかだな」


 「首を落とせば、ランク5に入るでしょう」


 「あれで此を入れる物は作れないのか?」


 5-30の物を12-360に変更した物を持っているので、それに入れる事にした。

 見掛けは革製のバッグだから誤魔化せるだろう、と思う。


 「それが12-360だと話しは聞いていても、実際目にすると現実味がねえなぁ~」


 「必要なら、あげたマジックバッグを12-360に変更しようか」


 「それもなぁ~、今回の様な獲物はそうそう獲れないだろうから」

 「それなら町に帰った時に革製のお気に入りのバッグを買うわ。それを12-360にして頂戴。何時もは私のマジックポーチに入れておけばいざという時に使えるし」


 * * * * * * *


 冒険者ギルドに獲物を持ち込み解体場に並べる。


 ホーンラビット、17羽

 ヘッジホッグ、14匹

 エルク、3頭

 ホーンボア、3頭

 フォレストシープ、1頭

 グレイウルフ、6頭

 オーク、5頭

 ブラウンベア、1頭


 「ふむ、どれも傷が少なくて良いな。若い五人は新人か?」


 「王都での知り合いだな、アイアンだが腕は良いぞ」


 「オーク一頭とブラウンベアは誰が狩ったんだ」


 「此奴だよ。魔法の腕は確かだな」


 コークスに襟首を掴んで前に連れ出された。


 「お前もアイアンか?」


 「あー、俺はブロンズだよ」


 「それにしちゃ腕が良いな、しっかり大物を狩って持って来い。傷が少ないので高く買ってやるぞ」


 獲物を持って後から来た冒険者達が、獲物と俺達を見比べて何やらボソボソと言っているが無視する。

 食堂の大テーブルに陣取り、エールで乾杯。


 「ホウルの索敵も見事だが、ユーゴは一段と腕を上げたな」

 「だな、まさかブラウンベアを見つけるとはな」

 「それに、アイスランスを胸に三発であっさりと片付けたからな」


 「おれは避難所の中で震えていたのに・・・」


 「俺だって、頑丈な避難所がなけりゃあんな奴を攻撃なんてしないよ」


 「でもユーゴの言うとおり、避難所って便利だよね」

 「そそ、あれに籠もってグレイウルフが狩れるのだからね」

 「ホウルにはもっと頑丈な避難所が作れる様に頑張って貰わなくっちゃね」


 「ホウルは避難所やドームを作った時に、地面にしっかり固定する事も忘れない様にね」


 「私はユーゴの避難所くらい頑丈な物を作る練習ね」


 あれこれ言っている時に、解体主任が査定用紙を持った来たが後ろに目付きの鋭いおっさんが居る。

 コークスが用紙を受け取ると一瞥してニンマリしている。


 「ブラウンベアを仕留めた猫の仔って、お前か?」


 〈ブーッ〉

 〈ブォーッホン〉

 〈ケホッケホッ〉


 「失礼なおっさんだね。俺は猫人族の血は1/4しか入っていないので、猫の子じゃねえぞ」


 「そうか、サブマスのラグナスだ。ブロンズランクだそうだな」


 此のおっさん、人の話は無視する性格なのかな。

 何か用事が有りそうなので頷いておく。


 「シルバーランクに格上げだ。ギルドカードを出せ」


 「又なの。オーク三頭でブロンズになり、今度はシルバーかよ。ランクのバーゲンセールでもしているの?」


 「ばげーんせるが何か知らんが、ブラウンベアを一人で倒せる奴をブロンズなんかにしておけるか」


 渋々手渡したギルドカードを手に取ると「カウンターでカードを受け取っておけ」と言って背を向けた。


 「お前、ランクアップの新記録かもな」

 「ユーゴも一人前になったわねぇ」


 「俺は万年ブロンズで良いのに。それより幾らになったの?」


 コークスが査定用紙をテーブルの中央に滑らせると、全員が一斉に覗き込む。


 ホーンラビット、3,000×17=51,000ダーラ

 ヘッジホッグ、7,000×14=98,000ダーラ

 エルク、60,000×3=180,000ダーラ

 ホーンボア中、45,000ダーラ

 ホーンボア大、55,000×2=110,000ダーラ

 フォレストシープ、70,000ダーラ

 グレイウルフ、55,000×6=330,000ダーラ

 オーク、75,000×5=375,000

 ブラウンベア、270,000ダーラ

 合計1,529,000ダーラ


 「凄い金額だね」

 「ブラウンベアが270,000ダーラかぁ~」

 「思ったより安いな」

 「でも凄いよね」

 「グレイウルフって意外に安いのな。オークはやっぱり良い値が付くな」


「一人頭169,888ダーラだが、お前達はどうする?」


 「コークスさん達に任せます」


 ハリスンの返事に三人が頷く。

 一人頭150,000ダーラの分配、残金179,000は活動費に使うことを宣言して了解する。


 分け前を受け取ると、ハリスンが早速冒険者御用達の店で小弓を新調すると言い出し、残りの三人も同調して早速出掛けていった。


 「冒険者の鑑だねぇ」

 「指摘を受ければ即座に従うか」

 「今は自分達の能力を上げるのが楽しい時だろうからな」


 「その冒険者の鑑を汚す奴もいる様だね」


 俺の気配察知に引っ掛かるのは、食堂の奥から出てきた奴等で俺達には目もくれない。

 と言うか、敢えて無関心を装いギルドから出て行こうとしている。

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